新たな時代の幕を開きましょう。
新技術。
その名の通り技術に新たな風を吹かせる期待のニューフェイスだ。
有名なのは製鉄だったり蒸気機関だったり、通信、電気、核などなど……AIである俺もその一つだろうか。
どれもこれも人類を新たなステージへと歩ませた立役者であり、今も大いに活躍している基礎である。
[──異世界とこの世界の法則、その融合を成立させた?]
「その通りです、フリージア様。我々の努力は遂に、異世界の仕組みを味方にするまでに至りました! もう怪物はこの世界に居ません! 私達は異世界の怪物を生物にしたのです!」
[ふむ…異世界の物質はこれまでも扱ってきましたが、それとは違うと?]
そんなものが有ったらすっごく便利だよなーとは考えていた戻し作業中のある日、コア交換から5年半。
洗脳チャートを崩すのも面倒なので、半年間の洗脳はリソース増強に注力し、それから代表選出、各区画の拡張と整理、避妊も先んじて対策を打ったお陰でこれまで通りの管理状況を維持して人類を成長させていた所、研究所から「新技術を確立させた」と一報が入った。
「ぜんっぜん違います! これまでよくわからないまま力業でやっていた事を、全て論理立ててやれるんです! 何もかも変わります!」
サイジーが消えたから研究所も、始めこそ進捗が遅れるかと思ったが……寧ろ、調子良く前回分の周回データの学習を終えたんだよな。何故に?
しかし新技術…どちらかと言えば学問な気がしなくもないが…一体どういう事だ?
「おさらいすると、これまで私達は「異空元素」…空気中に含まれるこれらと、異空存在の肉体を用いて彼らに対抗してきました」
[そうですね。配給食に武器と大活躍してますね]
「こんなものはもうゴミです」
[は?]
今までお世話になった魔力(仮)を足蹴りにするだと? 過剰な光を当てるだけで集まって固体化する魔力(仮)を?
そこまで言うんならすっごいやつ作ったんだろうなお前ら。
「考えてみてください。これは我々に例えると、窒素を力業の圧縮で固くして、武器や食べ物にしているような物ですよ? 鉄などを混ぜて強引に使ってるのが非効率的なのは一目瞭然ではないですか」
[それはそうですね]
「加えて、そうして作った「魔鉱石」は、何も手を加えなければ異空存在に触れただけで「回復」させる性質まであるんです。傷は治り、腹は満たされ、元気になる! 我々はあくまでもこの「回復」のベール越しに、それを上回る火力で損傷を与えて──回復を「反転」させていたに過ぎません」
[反転現象ですね。見つけた当時はかなり盛り上がってましたよ]
これは研究者の言う通りだ。
異世界の連中を何とか出来ると期待した魔力(仮)は、そのままでも圧縮しても異世界の連中を元気にする謎の性質を保ち続けていた。
お陰でペースト飯の着想を得られた訳だが、コレを武器にするのは本当に骨が折れる苦労だった。
魔法しか効かない相手に、回復魔法を無理矢理攻撃魔法にして殺す様なもんだったからな。
生半可な火力では回復効果が上回り、魔力(仮)を減らせば世界違いの壁で無効化される。畜生向こうからは一方的に攻撃出来るクセにぃ…!
その絶妙な配合を成立させた初代ガスバーナー剣は俺なりに頑張った傑作だし、そこから続いた火剣シリーズには今もお世話になっている訳だ。攻撃出来るってだけで神なのよ。
「つまり+と-で減衰していた……それがどちらも攻撃に振り切れば、これまでの何倍の威力を与えられると思いませんか? 法則の壁がない鉄で武器を創りたいとは!? 怪物の力を完全に力にしたいとは!!!?」
コイツテンションバカ高いじゃん。
けど、そう言われたら確かに便利になるだろうけど…。
[確かにそうなったらいいとは考えていましたが…まさか!]
「そう! そのまさかです! もう一度言いましょう!!
──もう、この世界に怪物はいないと!!!」
なるほど、言いたい事が分かってきた。
要は「こちらの法則が通じる手段を見つけた」ってことか!
しかしそれだと融合ってなんだになるし…どうやったんだ?
[素晴らしいですが…しかしどの様に? 思いつく限りの実験は既に行った筈ですが]
「それこそが! 「魔奏学」なのですよフリージア様。今から説明いたしましょう!!」
[ふむ…新技術の話に繋がるというわけですか]
態々データ送信じゃなくて口頭で説明しようとする訳だ。
研究所に設置している俺直通の連絡網に繋いでまでやるのも分かる。
こんなの自慢したいし誇りたいに決まってるわな。
「ヒントは地上に生息する異空存在、特に融合蜂と不凍樹でした。
何でも取り込み自分の針に変形させる蜂。
この世界に存在する森の大半を同族に変えた"凍らない"樹。
この二つの種族が用いている法則、その再現を目指したのが始まりです」
[市民、結論から言ってください]
「異世界とこの世界、それを分断していたものの正体は「電子化/実体化」──その為に必要な要素が「情報体」でした。そして、我々はこの「情報体」を創れる様になりました」
[市民 情報体 なに]
「フリージア様、私はグーグルでもヤフーでもありません!
……文字通り、"電子/異空元素化した肉体エネルギーを納める体"です。
異世界の生き物は我々と同じ実体にもう一つ、この身体を持っていたんですよ。
寧ろ…向こうにとっては、こちらが本体である生き物が大半でしょう」
[市民、それが正しいとして、なぜ二つも身体を用意する必要が?]
「向こうからすれば「なんで一つしか身体がないの?」と思われてそうですね」
そんな風に横道に逸れつつも聞いた話を要約……可能な限り要約するとだ。
まず、新事実に合わせて用語訂正をした結果が。
異空元素→魔力
電子化→魔力化
魔力…強い光に反応して集合し、物質になる異世界独自のエネルギー。太陽光レベルの光量だと気化に留まる。
となった。その上でまとめると……。
「情報体」に納められた電子に似た異世界エネルギー…我々もよく使っている「魔力」(正式名称になった)を「実体化」して活動するのが異世界の生き物の基本構造で。
攻撃が通じないのはこの「実体化」した肉体が純度100%の魔力だからで、霞に攻撃しているような物だから。
やべー生物が多いのは、"短期間だけ実体化する前提の出力や構造になっている為"。
死ぬまで生身である人間より、すぐ死ぬ前提で強い構造をした生物の方が強いのは道理だわな。
奴らにとって「生身」こそが「武器」な訳だから。
で、「情報体」には刻まれた情報通り「魔力」で肉体を形成する性質がある訳だが……。
肝心の情報体其の物の実体が何なのかと言えば、「波の集合」らしい。
よく分からんが、聞き取れない極小の音の集まりと思えばいいそうだ。
「以上のことから実験を重ねた結果──「高魔力循環下で専用の楽器で音を奏でると、それが情報体になった」んです!! これが新技術と言わずしてなんと言いましょうか!!」
[それこそが「魔奏学」──新たな学問にして技術である…と]
俺らが楽しめるような音楽で上等な情報体を創れる…という訳ではないが、音の並びや響きで情報体を作製し、マテリアを媒体に保存し、魔力を利用して「短期間展開するのを前提とした肉体」を情報体から生成する。
これを利用すればかつて人類が夢想した魔法に似た事も、専用の臓器を展開することで可能に出来るし、怪人化……「特定の情報体を取り込み過ぎた人間」も治療可能。
鉄、銀、銅…あらゆる「この世界の物質の互換となる情報体」を一つずつ創り、それで武器を創れば回復の壁なく殴れるそうだ。
ふむ……融合と評したのも分かってきたぞ。これは異世界対応パッチみたいにも扱えるって訳だ。
「解き明かしてみれば我々の世界よりも、随分と分かり易い世界でした。要は魔力と、魔力に形を与える情報体が有ればいい!! いやあ、出来そうな事が一気に広がって、何から手を付ければいいか迷いますねぇ!!」
とは研究員の言葉である。
ふーん、異世界の生き物って
増え方や強みも魔力と情報体の関係に近いし……本当に別世界の、歴史を重ねた生き物達なんだ。
確かにこれはもう怪物じゃないな、外に出られそうなキッカケも手に入れたし……うん、歴史に名を刻んでもいいくらいの成果だわ。
[認めましょう、市民…いえ、研究員達。この成果は、あなた達を人類史にその名を刻ませるでしょう]
「──感謝を。重ねて感謝を。漸く…私達を見てくれましたね」
……?
言ってる意味はよくわからないが、喜んでくれて何よりだ。
よーし! それじゃあ早速出来る事を片っ端から試していくか! これから忙しくなるぞー!
ツー…ツー…ツー…ガチャン。
「…初めて、自分達の成果を、自分達のものだと言えましたよ、サイジー。今日から、あなたに成果を奪われる日々は終わりそうだ」
研究所に来たばかりのサイジー博士のお言葉
「たった今君達の身体に卵を植え付けた。死にたくなければ私の代わりに研究し、その成果を寄越してくれ。……そして、この情報を誰かに伝えるのはやめておけ。例え私が死んだ後でも、私の卵は周囲を巻き込みながら──君たちを殺すことができる」