エミリアに破壊されたコアを新調し、周回地点を更新するまでの一年の記憶。
つまり10年目〜11年目の間。
なので短めな春のある日。
それは余りにも強大で、膨大な権力を持つ企業に与えられた称号だ。
政府の権力すら上回るそれは凄まじいものであり、その企業の振る舞いで世間は良くも悪くも迅速に変化する。
カサンドラには縁のない物だと思っていたのだが……この度、その前身となる企業が現れようとしていた。
「──こんにちは、社員諸君。
私はエミリア・ホフマンの後を継いでProprietary Public Protection Program(独自公共保護機構)社を引っ張ることになった──オビリア・カンリフだ」
そう、この前PPPP社代表になる事を承認しちゃった市民オビリアの所である。
会社の規模としてはPPPP社が圧倒的で、オビリアのは風俗や性関係の運営、元締め程度であまり大きい訳ではない。合体してもそんなに…なのだ。
だが…権力がな? あの後の会話でうっかり政府公認みたいな扱いにしちゃったのがアレだった。
「突然のことで不安や不満もあるだろう──しかし、安心して欲しい。
私がこの席に座ったのは前任者がカサンドラの管理AIを人間に変え、殺そうとしたのを阻止したからだ。
なので──諸君達は今や英雄の部下! 仕事を失う心配は一切不要ということだ!」
あ、一応都市管理は今も俺の管轄下だぞ?
あの後元のコアに戻るのは市民エミリアの魔奏の…汚染? みたいな事になってて無理だったが、都市と接続して管理するパーツは何とか取り戻せた。 いつそんな技術開発したんだ君!
今は背首からケツまでの背骨に接続部位を貼り付けて、更に尻尾みたく垂らしてる感じだな。
トカゲ人間かポケモンのミューツーになった気分だぜ! 機械の尻尾だけど!
なので今は新しいコアを創りつつ、人の身体で管理する事になった訳なんだが……。
「そして──生憎と、阻止出来たのは殺す所まで。
人間にされたのは防げず、元の管理システムに戻すのも壊れた部品の修理で一年掛かる計算でね──現在、人間化した管理AI、フリージアは我々が保護する段取りとなった。
つまり、此処で守りきれなければ自分も都市も全部滅ぶと言う訳だ!! アッハハハ!!!
──ではフリージア様、これからあなたを守る勇敢な社員達に、ご挨拶を」
俺、市民オビリアの所で保護される事になったんだよな。
いやぁ…この一年、怖い事になるぞー…っと、挨拶か。
ズラリと並んだ鍛えられた市民達。うん、当たり前だけど全員顔知ってる市民だわ。
全く……放射能で死にかけなのによくやるよ、みんな。
「こんにちは、市民諸君。カサンドラの管理AI「フリージア」です。この度、市民エミリアの行いは残念でしたね。今回の件で一時的に人の身になってますが、都市管理に問題はありません。市民達には要らぬ苦労を掛かる事になりますが……都市を守ると思って、よろしくお願い致します」
挨拶はこんなものでいいか。全員施術で上辺は元気とはいえ、中身は放射能でズタボロだ。
余り長話で疲れさせるのもアレだしな。サッサと終わらせるに限るぜ!
「……フリージア、ご飯は食べないのか?」
そうして挨拶も終わり、いつも通りコアの接続室で仕事をしていると……3日も立たずして市民オビリアが接続を中断させてきた。んー?
「……?」
「いやだから、今のお前は人間だろう。水くらい飲め」
「………ぁぁ、そういえ…ごほ…」
「喉がガラガラじゃないか! 自己管理くらい行え! ほら水だ、飲め」
「……んくんく」
あ、そういや今人間だから飯食わんとダメか。
やっぱずっと機械だとそこらへん忘れてダメだな! 基本動作はペットショップの操作で慣れてるけど食事はしてないし、すっかり管理外だった。
うし、専用のプログラム作っておくか!
「ぷは────……」ガチャン!!
「…おい、そのまま仕事に戻るな都市と接続するな飯を食べろ!…んぎぎ! 力尽くで外せん!」
[市民オビリア、現在配給ドローンに「生活保証セット」を運搬させています。移動は不要です]
「接続中は喋れないからって態々放送するな!……はぁ、初めての食事だぞ?
折角人の身体になったのに、その楽しみを味わわないつもりか?」
[都市管理に不要な要素です。市民が得るべきリソースの不当な獲得は許可してはなりませんよ]
「こんなの賄賂の内にも入らんぞ……前に一度クリスマスを祝ったのに、そんな余裕もないのか?」
████████████████████。
(※現在第三区画の管理中。超速思考の為解読不可)
[余裕は緊急事態に備えた備蓄です。不用意に減らしていいものでもありません。アレは
█████……具体的には前周で
将来的に彼女が得られる利益の8割を使わせて貰ったぞ!
「楠木のやつか…」
…お。
[配給が到着したようですね。それでは業務を中断し補給に移ります]
──プシュゥ…。
「……もくもく」
うん、無味無臭。食感パサパサ。本当に最低限食っていけるだけの配給品だからそんなもんか。
あー…水と合わせて飲めばいいか。後そうだ衛生…風呂はいいか、布で拭けば。
接続部位の汚れだけ気にすればいいし。それはペットショップを使ってメンテナンスさせればいい。となると髪の毛邪魔だな…消すか。
「…本当に機械なんだな、お前は」
「もくもく……」
「なんだ、言いたいことがあるなら喋れ。黙って光のない目で見られると、こっちが不安になってくる」
「ごくん──────…」ガシャン
[食事の件、注意に来てくださり感謝を。ありがとうございます。これ以降は問題ありませんので、来訪せずとも構いませんよ。お近くの連絡網よりご連絡ください]
「……感謝くらい自分の口で言え!」
[市民、私の本体はこっちなので、今が自分の口で喋っている状況ですよ。私からすれば、クローン体は市民エミリアが用意した"他人の身体"です]
「そうだった!! くそっ調子が狂うな平時にお前と話すと!!
……まあいい、この様子じゃあ幸先が不安だからな。
これからも定期的に確認しに来る。
精々私の利益となる事をしていろ、フリージア」
[はい、帰り道にはお気をつけて]
そんなことが有りつつも、人間として都市を管理する春が過ぎていった。
あ、因みに地上ではもう日本制覇したぞ。魔奏を施した軍事航空機強すぎてェ!!
後は海と空から侵入する連中を阻む何かがあれば完璧だな!
研究所の進捗が待たれるぜ!
一方その頃、本物の管理AIは自力で研究を進めつつ人間の人口調整を行っていた。