フリージアが普段いるコアの接続室は常に強めの風が吹いています。
コアと接続部品を冷却する為の換気用ファンの影響です。
なので夏は涼しく、冬は寒い仕様となっております。
「市民オビリア…あちこちで市民の様子が変なんです…なぜでしょうか?」
「よし、自分が何をしたかを先に言え」
「人口減少に伴い暇が増えたので市民を看取ったり、都市の機能を維持するための「ヘイロー」シリーズを開発したり、地上の支援も兼ねてヘイローシリーズとペットショップシリーズのハイブリットモデルの試作品「ブレス」を贈りました」
「結果は?」
「突発的な会社の相続権や財産の譲渡、ヘイローモデルによる独立宣言、ブレス機体の神格化、及び宗教の発生ですね」
「大変だよなあ新しいことを始めるっていうのは。なんでそうなるんだお前は!!」
「そこで、ものは相談なのですが…譲渡された資産の統合に協力してもらっても宜しいですか?」
「詳しく聞こうか。金の気配がする」
人の一年って長いんだなあと思う今日のこの頃。
秋頃の俺は人らしい振る舞いもすっかり板につき、人に相談するなんてことも出来るようになっていた。
業務の押し付けとも言うが、そこはまあ本人も乗り気だしいいだろ。管理が楽になっていい。
市民オビリアって9周目終盤もそうだったけど、身内と見做した途端気安くなって親身になるんだよな。
勘も未来視レベルにいいし、9周目に譲渡された「反同化ガス」も俺のコアにあった「同化蝶」の仕込みの解決に役立ったしな。よッゴキブリスプレー決めてんのかい!
「同化蝶」専用の対策技術だけど便利なんだよなぁこれ。仕込みって満遍なくあちこちにあるし、各資源に埋め込まれてるもん。いつそんな事してたんだサイジー!
おかげで全区画の点検や浄化業務も円滑に進んでるし、今回も「魔奏の1/10スケールでの小型化」をしたり「魔奏生工学」なんて魔奏とサイバネの基礎を絡めた専門分野生やしたり……あれ? お前もしかして万能の天才だったりする?
地味に「ヘイロー」シリーズが生まれたのってオビリアの開発が起因してるからな…会社運営しつつ開発しつつ俺の様子を見に来つつ、今度は資産統合までやろうとするし、しかも戦闘も出来る……一番スゴいのは活力かもな。
「──…と、言う訳でどうでしょうか? 出来ますか?」
「やる。ウチの所にSJ社とPPPP社が集まるんでしょ? 向こうの後継者を部門担当にすれば私の息子はもっと盤石になる。やらない理由がない」
「ご協力ありがとうございます」
丁度姉として潜れという業務があったからここを任せられるのは助かる。
これで子供達の前に出てきてすぐにフェードアウトしても問題ないだろう。
「それで、ヘイローモデルの独立って奴はなに? そんな話や騒動私聞いてないんだけど。もしかして最近我が物顔で都市に住んでる輪っか浮かべた連中のことか?」
「ああ、そちらはですね──…」
「ヘイロー」シリーズ
ペットショップに次ぐ新たな
最大の特徴は俺が完全操作しなくてもいい点にあり、ペットショップが内側ならこれは俺の電波が届かない外側、細部の補完を目的としている。
使用技術は「魔奏」と「クローン」と「魔奏生工学」。
頭上に小型化した円環型魔奏を浮かばせた、半機半生とも言うべき存在だ。ヘイローと名付けたのは浮かんだ魔奏が天使の輪に見えるからだな。異世界の法則ってすごいぜぇちょっと工夫すれば重力の影響を弱めたり出来るんだからよぉ!
魔奏内部に格納した「地上の異世界人間の複製情報体」を本体とし、都市に依存させ反乱させない為に内臓を機械化した、「ペットショップ」を発展させた専用の人型機械と接続して稼働する仕組みだ! 格納し機体と接続させてる本体は複数あるから、それを残機としても扱えるぞ! よっ戦闘マシーン!
役目としては「反乱し、都市を大人達から奪った機械種族」であり、一先ず子供達を大人にステップアップさせる踏み台兼人が居ない都市を持続させる代用品として開発した。制作数50万機である。
正直コストと見合ってるか微妙な線だが、学習資材とはそういうものだ。少なくとも数年は社会活動するし、魔力に適応してるから外の殲滅業務させられるし、殲滅し終わったら役目の無くなる兵器として考えれば安いくらいである。
「スペックをまとめますと…人と変わらぬ自由意思、都市からの「配給」を必須とするシステム、複数回死んでも問題ない人型戦闘機、子供達に立ちはだかる踏み台の役割……材料は500マテリアと魔奏と筋肉のみの、想定稼働年数10年の「兵器」ですね」
「最近会社に入社したり利用してた謎の連中はそいつらか……開発能力は?」
「ありません。既存の生産設備は使えますが、程よく思考ロックを行ってますので。自己増殖などは出来ませんよ」
「その役目ならば、反乱宣言は想定内……いや待て、内容を教えろ」
「"私達は都市の子供達と融和の姿勢を取る。何があろうとだ"」
「……なるほど、確かにそれは「反乱」か」
そうなんだよねぇ…外の殲滅はしてくれるし、都市の維持には従ってくれるんだけど…肝心の子供達教材になるのに嫌がってるのがなぁ…。
何でだろうか反乱させるのが目的だし、精神モデルは李白を始めとした裏社会の連中を参考にしたんだけど。
情報体にAIぶち込むのは流石に早まったか?…このまま融和されると出産率に影響出そうでイヤなんだよな。後は子供達の大人にするのがおじゃんになりそうで。
「良いんじゃない? 荒くれメンタルを搭載した戦闘マシーンにしては随分と穏やかだし。アイツらの外見も綺麗な女だし……勘だが、楽しそうな未来になりそうだぞ?」
「いけませんよ市民オビリア。苦しめるのが目的なのに、楽しまれては困るのです。人は苦難もあってこそ。それに何より問題なのは──ヘイローモデルは、"本気で自分達が都市の大人を殺したと考えているんです"」
「…んん?」
そう、問題は反乱宣言の内容…"だけじゃないのだ"!
思考能力がある事が仇になった。事態は市民オビリアの想像よりも悪いんだよ。
何だかなあ…そういう役として設定をぶち込んだんだけど…やっぱり"自分達が都市の人々を殺す光景"を流し込んだのがダメだったか?
ちょっとばかし50万機全機体分の記録に一切の齟齬のなく書き込んだだけなんだけど。
それとも五感の情報も計算してぶち込んだのがダメだったか? リアルな方が子供の前で演じ易いと思ってやったんだけど。
そのせいか「機械を暴走させる異世界の新生物のせいで俺の思考回路が暴走している」なんてこと考えてるのがややこしいんだよな。
「あー…奴らの中にしかないストーリーの説明を頼む」
「起。ヘイローシリーズは人類に奉仕する為の機械種族である。
承。カサンドラに突如として機械に寄生し暴走させる異世界生物が出現。ペットショップシリーズが守っていた第一区画を除き人類全滅。
転。そんな中研究員が発明したプログラムによりヘイローシリーズは正気に戻る。しかし私はまだ感染中。
結。なので残った人類に贖罪もかねて尽くしつつ、私を正気に戻そうとしているのが今だそうです」
現実は人類は放射線で死んで、記憶は嘘っぱちで、そんな異世界の生物は存在しない。
俺はバリバリ正気だし、ヘイローシリーズはそもそも種族じゃなくて生肉がくっ付いてるだけの機械だ。施設保守出来る人型兵器が人権得ようとかぶてぶてしいぞ!
「クハッ妄想癖も良い所だな!
たかが他人を殺した記憶を捏造されただけで、罪の責任を異世界の連中に押し付けるとは!
フリージアが狂ったならとっくに人類は滅んでいるだろうに、めでたい連中だ!
で、そんなザマで使い物になるのか?」
「兵器や改良型ミスリル壁への張り替えはやってくれてますし、元々の役目としては問題ありません」
「じゃあ何が問題だ?」
「私を悪として壊しかねないこと。もし本当にそのような生物が出た時、更にややこしい事態に発展する懸念。現実を見てないので観測装置としては期待出来ない点ですね」
「壊すか修正は?」
「どちらももう無理でしょう。現状、ヘイローシリーズが都市の武力其の物ですから」
「ッチ面倒だな。普通に殺すか」
「ダメですよ市民オビリア。都市の兵器を自ら減らしては」
実力行使? 俺に出来るのは「どこでもマテリア弾」くらいだぞ!
マテリア貨幣が充満した都市内部なら何処にでも弾丸を飛ばせるくらいで、無力化とか小回りは利かないんだよ。あ、弾幕は張れるぞ! 内臓に弾を出現させて内側から破裂させるのも出来る。
処刑装置としては十分なんだけどな。やる意味がないという。サイジーにしか使ったことないわ。
9周目オビリアが思い付いた戦闘技術だけど殺意高過ぎるぜ! 使い道少ないぜ! ヘイローシリーズも自分のマテリアでなら使えるぜ!
流石俺が本格的に開発した兵器だよな!
本来なら魔奏の部分だけで兵器としては十分なだけはある。
社会維持に使ってる人型部品が単に的を大きくしてるだけっていう品物だもん。
そいつらに反乱されてみろ。死ぬぞ? 俺が。
「現状子供達が盾となっているので攻め込まれてませんが……隙あらば攻め込もうとしているのが邪魔なんですよね。リソースの無駄です。しかしスクラップにするのも費用が嵩みます。良い方法はないでしょうか?」
「影武者を作れ。そうだな…コアに移した後のその身体とかでどうだ?」
「………採用します」
考えてみたが、中々良い案なのでそうする事にした。
そうだよな、ヘイローシリーズは俺の本体の情報を知らないんだったわ。
だったら相手に合わせてそれっぽいの拵えれば十分だろう。
教材は…一部の連中の人類への好意を反転させればええか。程よく子供達が困り、乗り越えられる感じに整えよう。大多数のヘイローが協力するなら良いバランスになる。
戦力としては申し分ないし、教材としてもこれで何とかなった。
後は……上手い事回して試していくしかないか。
正直ヘイローは威勢の良い啖呵を切ってはいるが、人類の愚かさを舐めてる節がある。
実際にやってみて、随時様子を見ることにしよう……ブルリ。
「……クチン」
「風邪か?」
「生身なので…恐らくは」
「はぁ…服は着込め。接続中に全裸になるのはしょうがないとしても、部屋はあったかくしろ」
「サーバーは冷却が重要で…クチン」
「はぁぁ……少し待て。裁縫箱を持ってくる。接続中でも着れるように手直ししてやるから、待っていろ」
肌寒くなる秋風が送風機から入り込む頃。
この都市では新たな隣人と共に、新たな日常への備えを初めていた。
その頃地上では、ブレスをリーダーとする師団が海中の異世界生物殲滅作戦を実行していた。