悪役人外TS転生「ディストピアAI」   作:何処にでもある

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[人類の価値は保証しなければなりません]




対立が発生します #28

 

 

「‭─‬‭─‬!」

「‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬!?‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬…!」

「‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬!!!!」

 

 それは、いつもと変わらない日の事でした。

 

「…? なんだかあっちの方が騒がしくない?」

「え、か、関わる気ですか?」

「…ちょっと行ってみる! 先行ってて!」

「あ、ちょっと!」

 

 ヘイローの施術には幾つかあって、こっちが出向いてやるような軽い物と、向こうから本店に来て貰う重い物があります。

 その日は、私は遠い地区の仕事をする為にアンクションちゃんと一緒に出向いている時の事でした。

 

「すみまーせん! ちょーっと通らせて貰いますねー!」

 

 普段は見られないような人々の争い声が聞こえた私は丁度仕事帰りだった事もあって、好奇心の赴くまま観衆の一人として争いを見物することにしたんです。

 

「ぷは…! みんな私より大きいんだから!」

 

 深い理由はなく、本当にそれだけの軽い気持ち。

 ことの始まりは、そういうものでした。

 

「だから! 地上をアンタらに合わせると私達が死んじゃうんだって!」

「だったらなんだ!

 お前達が戦って来たのは俺達の為だろうが!

 それを今更、「死にたくないので戦いたくない」などというふざけた理由で止める気か!?」

「黙れガキが! 私らが死ぬまで地下で生きてろよ! 私達は今日まで、善意で戦って来たんだ!」

 

見ろ! 天使の輪を騙る反乱分子が正体を表したぞ!

 貴様らの本質は兵器であり生物ではない!

 兵器ならば兵器らしく、我々人類の最大幸福の為に殉じて消えろ!

 武器よさらば という格言の通りにな!!

 

「テメェ!!!」

「待て!」「落ち着け!」

「これが殴らずに居られるかよ! 誰に守られてるかその身に分からせてやる!」

「ダメだ!」「気持ちは分かるがやったら私らが犯罪者だぞ!」

 

 あ、前世のSNSで見たよくわかんないけど関わっちゃダメな口論だ。

 深い事情は分からずとも、そこまで察しが付く程度にはその争いは醜悪なものでした。

 

「あのー…通らせて貰えたりは…あのう…あの…邪魔しないで貰えると…あっ! 私の荷物!」

 

 察しがついた私は、そのまま立ち去ろうしますが…なんという事でしょう。

 積極的に阻まれて、持っていた物を取られてしまいました。

 よく見れば周囲を囲っていたのはヘイロー達。

 慌てて確認すると、中心でヘイローと言い争いをしている男子と、その後ろで怯えている子供達は人間ですが、それ以外は全員ヘイローです。

 

 嫌でも分かりました。あ、これ囲んでるヘイローも話題に参加している一人だって。

 

「ハハ、ならば今貴様らがやってる下賤な行いを省みたらどうだ!?

 何十人で人間を取り囲み! 出さないようにして! 俺が止めるまで暴行を加えていただろう!

 何故か!? 簡単な話だ。そうして心配した子供を輪の中に入らせ、"人質にしようとした"!!

 これが悪と言わずしてなんと言う!! 人の善意を踏み躙る悪魔が!!

 なのに、今更犯罪者になりたくないだと? ハッ…殺しの覚悟もない奴がざまあないな!!

 

 マズい。

 何がマズいって、ヘイローがこんな事をする何かがあるという事です。

 ヘイローに悪い人は居ません。全員勇敢に戦う兵士であり、仕事で会ったヘイローはいつだって優しい人達ばかりでした。

 只事ではない。なので私は一先ず、男子の後ろに居る集団に紛れることにしました。

 孤立するほど恐ろしいものはないですからね。

 

「……まあ、何故こんな事をしたのかは理解してやるさ。

 今朝に放送された異世界の生物全滅宣言、及び「魔力排除による不都合、その具体例」2番!

 「魔力を動力にしているヘイローシリーズの一括死亡」!!

 ああ同情してやるよ。キサマらは自らの戦いの末に与えられるのが、僅かな名誉と死!!

 それに耐えられる程、強く在れなかった。そういう事だろう? だからこうして人質なんて物を使って都市管理AI「フリージア」に要求を通そうとしている…。

 哀れだな! 共感してやる! だが、それは今!! 我々に与えられた痛みと恐怖とはなんら関係がない! 故に貴様らは悪に堕ちた悪魔なのだ!!

 

 あ、大体の理由を先頭で演説を続ける彼が言いました。

 そういう訳ですか……え、人類地上取り戻したんですか? めでたいですね。

 しかしそうですか…確かに、こんな凶行を行うのも無理もない。

 私だってずっと戦った末がこの結末だと、ひどく苦しむと思います。

 けど…紛れた集団の、中心で泣いている子供達を観ます。

 

「ひっく…」

「痛い…痛いよぉ…」

「うぇぇ……」

「ッ………っ………」

 

 心配そうにしている子供達と、泣いている子供達。

 酷い子だと骨があらぬ方向に伸びて、白いものが見えている。

 声も出せない程に痛みに苦しんでいる。

 

 だからといって、こんな事をしていい資格はない。

 

 始めはやばい人だと思った演説をする彼も、これを見て正義の人だと分かりました。

 演説も、彼なりに出来る事をしているだけなんです。

 

「カヒュ……どうだ! なにか言い返せるような言葉があるなら言い返してみろ!

 

 よく聞けば張り上げられた声には粘ついた破裂音もします。

 喉が枯れ、血を吐くほど声を上げている。必死に、相手の注目と行動を一身に集めているんです。

 だったら……首を突っ込んでしまった以上、私も出来る事をしなければ。

 

「ふぅ…ふぅ…!」

「お疲れ様。その役目、交代させてよ」

「……俺が手繰り寄せたのは藁か杖か…ふぅ…縋っても大丈夫なんだな?

「任せて、私は結構頼りになるから」

 

 転生者ならこのくらいの難題、なんとか出来なければ恥でしょう。

 ここまで子供が頑張ったのなら、例え中身だけだとしても、後は大人が頑張るべきです。

 疲れていたのか素直に引いてくれた彼の代わりに私はヘイローの前に立ちました。

 

「なんだ選手交代か?」

「まあね。こんなどっちの為にもならない事は、さっさとやめるに限るから」

「はは、変わった所でお前に何ができる!」

「うーん、そうだなあ…"もう終わった"所かな!」

「…はあ?」

 

 事前に言ってしまうと、私の特典はどれもこれも大したことは出来ません。

 棚ぼたで手に入れた魔奏こそ強力ですが、アレが出来る事と言えば鉄を動かす程度。

 暴力として強力でも、守るべき子供達が居る場所で使うには物騒なんです。

 

「上を見てご覧! あなた達が呼び出したがってた話し相手が居るから!」

「私らのって…まさか!」

 

 だから使ったのは順当な手段。人の縁。

 もしもの備えとして社長が用意していた、制服のボタンとして縫われた防犯ベル。

 

 バラバラと、プロペラの回る音が降りて来た。

 

[‭─‬‭─こちら、カサンドラ第7区画自動治安維持システムです。通報に従い駆けつけました。本日はどのような被害を受けましたか?]

「ヘイローの暴徒に取り囲まれて出られなくなっちゃった! 救助と、彼女達とフリージア様との話し合いの席をお願い!」

[受理。被害予想レベル9(軍隊規模)として議題提出します]

 

「この…! 金持ちのボンボンが舐めるな! 地上の戦場を知らない奴に私らが負けるかよ!!」

 

 上と話し合う為に取り囲んだのに、いざ向こうからやって来ると動揺する。

 不思議な反応ではあります。私は向こうのお望み通りの相手を連れて来ただけ。

 このままヘイローは退いて、私達は解放される。十分理解できる状況だと思うのですが…?

 

「魔奏‭─‬‭─‬《展開(セット)》!」

 

「えっちょっと…本気!?」

 

「‬《展開(セット)》」「‬《展開(セット)》!」「‬…《展開(セット)》!」「手を出したのは其方が先だよな!? ‬《展開(セット)》!」

 

「うわっうわうわうわ! なんで戦う流れになってるの!?」

 

 私達の前に居るヘイローが都市に居る間は禁止されている筈の魔奏の展開を行うと、それを皮切りに周囲のヘイロー達も其々の武器を構えました。

 アレェこんなことになる筈じゃ…そのまま連れて行かれれば話し合いの席に立てるのに!

 

[魔奏の展開を確認。人的被害を考慮し、処刑処理を議題提出。対象ヘイローの対人弱体コードを強制起動。市民の皆様におかれましては、裁決結果が降りるまで、支援物資を利用して自身を守ってください。怪我した場合は、ドローンの側に寄れば応急手当てを行いますので‭─‬‭─‬…]

 

「ちょ…そんなのアリ!? 相手軍人だよ!?」

「交代して貰ってなんだがお前が招いた事態だ。お前が1番に受け入れないでどうする。

 総員! 落ちた武器を取れ! 死にたくなければまとまり、戦え!!

「ええ…!?」

「《生きろ虎蜂よ(ビー・バトラー)》!!」

 

 ぽんと彼は私の肩を叩いて言うと、そのまま支援物資という名の高そうな兵器を手に取ってそう言いました。

 どうしてこんな事に! 私はただ、平和に済ませようと…!?

 

「わっあぶな!」

 

「《抉る(ピアース)》《(スカー)》!」

 

「容赦無いなぁ!…えっなんで戦えてるの私!? 急な覚醒!?」

 

 襲い掛かった火の粉に、反射的に拾った剣で衝撃を受け流し、やってから自分の動きに驚きました。

 

「俺の魔奏の恩恵だ馬鹿女!」

「馬鹿って言うなし!」

「宥めも心構えもさせずに呼び出した奴がなんだって!? 呼べる機器があるならそれで脅して引かせれば良かっただろうが!」

「ごめん私バカで合ってた!」

 

 それから次々迫る攻撃を避け、彼の尤もな言葉に謝罪を返します。

 言われてみれば確かにその通り、段階を幾つか飛ばしてしまっていたようです。

 

「‭─‬‭─‬《遅延衝撃(レディ・ゴー)》」

 

「あっしま‭─‬‭─!」

 

 そして、案外攻撃の手が緩く弱いと油断した瞬間、手にしていた武器に急な衝撃が走り手放してしまいました。

 武器の内側に衝撃を蓄積し、後に纏めて放つ魔奏。

 取り付ける施術で取り扱った事もあったのに、忘れていた。

 気付いた時にはもう遅く、私の目前にはヘイローの槍が‭─‬‭─。

 

「ま、魔奏(コード)実行…! 《咆哮の知恵(ライブラリー・ロア)》!!」

 

 突き刺さる‭─‬‭─その瞬間、ヘイローは横殴りの爆音波に吹き飛ばされました。

 これは…!

 

「シン! 帰ってなかったんだ!」

「お、置いていける訳無いじゃないですか! 報告もあるのに!」

「ごーめん!」

「もう! なんて面倒な…! か、会社の物を使った分の、支払いはあなたがやってください!」

「ごめんそれは洒落にならない!」

「じ、自業自得です! それで…ち、鎮圧には…これ! 魔奏(コード)実行! 《封鎖の知恵(ライブラリー・ロック)》!」

 

 シンが魔奏効果の試し撃ちの為に持って来た魔奏を使い、CD媒体に保管していた魔奏のコードを実体化させると、魔奏から鎖と鋼鉄ネットが飛び出て、ヘイロー達を次々と押さえつけていきます。

 普段のヘイローなら直ぐに破けるようなものでも、弱体化したヘイローなら効果的です。

 

 破いても直ぐに新しい物が重なり、一つ破る間に次々と重なり、拘束する。

 そうなれば生きる為に必死な無我夢中の子供達が突き刺して、無力化する。

 それを繰り返せば、あっという間に私達は勝利することが出来ました。

 

[‭─‬‭─鎮圧を確認。処刑処理の議題を取り下げ、連行を実行します。市民の皆様、お疲れ様でした。支援物資の回収を行いますので、コチラの箱に入れて行ってください。怪我をした市民は、救急車が来るまでの間、コチラで安静にしてください]

 

 そうして後処理を呼び出したドローンに任せ、私達は解放されたのです。

 私は演説していた彼や子供達に不手際を謝罪し、帰った後もこっぴどく叱られましたが…私の関心は今やそんな所には有りませんでした。

 

 確かに不注意が過ぎた反省はしていますが……事の発端は地上の戦場が消え、ヘイローに遠回しな殺処分が下されたからです。

 今回はヘイロー達がカッとなって行った事なのでしょうが……きっと、これからこの都市は荒れることになるでしょう。

 

「私達が都市から出られるようになる日が近い……それがいい事ばかりじゃないって、残酷だね」

 

 生物は死を前にした時、出来る事を最大限行う性質を持ちます。

 これまで兵器として扱われて来たヘイローが、こんな時どうするのか……きっと、1日足りとも油断の出来ない日々が来ると、この日、私の中で確信が芽生えたのです。

 

 






 一方研究の末に強くなった本物は単独で異世界に乗り込んで、

「異世界に居た72種の上位種族と、更に上の種族と、更に更に上の3個体と、その周辺に居た数多の生物、情報体」

 の絶滅、殺害、滅尽滅相を絶えず進化しながら達成し、異世界の27%に値する領地を「生き物一匹として存在しない大地」に変えて獲得し、何体かに死んだふりを始めにあらゆる手段を用いられて逃げられ、カサンドラや遥か遠い地に潜伏されていた。
 カサンドラ歴350年目、たった一機による人類の存続保証を賭けた一年戦争の顛末である。
 その結果、異世界側で人類になる事の価値が暴騰する事となった。

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