不要な都市は沈んで消える定めなんだヨォ!!
◇◆0:◆◇年前◇◆
薄暗い廊下、無機質な蛍光灯、息の詰まりそうな…埃混じりの空気。
ぼんやりとそれらを眺めていると、かつ、かつ、かつ、と悠長な足音が近付いて来ていた。
それがゆっくり近付いてきて……俺の前で止まる。
「ああ、起きてるね……やあ、始めましてかな?」
話しかけられて、振り向こうとして…身体が動かない事に気付いた。
首、手、足……目、肺、舌…動かない。
動きたくても、動かない。
「慌てないでいいよ。僕は単に…保険代わりに作っていた機械から血が垂れていたから、解体して君を取り出した…はかせ…うん、博士だ」
混乱する。どうして、ここはどこだ。
俺は誰だ。目の前が真っ暗なのはどうして!
「焦ってはいけないよ。僕なりに情報を得る為に脳の分泌……感情を読める装置を作りはしたけど、脳だけの相手を長生きさせられる程、脳には詳しくないんだ。余計なカロリー消費は、君自身を殺すだけだ」
だからって…! そうだ、俺は土砂崩れに流されて…それで…!
………死んで、転生して…その結果がこれか。
「すごいな、ちゃんと状況を飲み込めたんだね。だったら……うん、やっぱり、そんな君に僕が出せる選択肢は、これだけのようだ」
なんだろうか。
俺は死んで、そして転生した。
人外で悪役に産まれる筈だった。
しかしこの博士が言うには、俺は脳だけでなんかの機械に挟まってたという。
雑な転生だ。これじゃ転生じゃなくて、単に脳みそ別世界に放棄しただけじゃないか。
それでまだ思考出来るのは…さすが異世界と言った所か。超技術もいい所だろう。
ならば、人間として復活だって出来るんじゃないか?
そう考えると、博士から答えを返された。
「生憎僕も時代も、君を人間に戻す術を持たなくてね。だから道は二つある。このまま死ぬか、人格のコピーを機械に持たせるかだ」
それ、どの道「今の俺」は死なないか?
「落胆したと思うけど、君は後数時間の命で、その間に僕が用意出来るのは、人格コピー機能付きの機械だけだ。それも完全じゃない。幾つかの記憶は抜け落ちるだろう。元々は僕の脳を基にするつもりだったんだけど、何かの縁だ。良ければ君に譲ってもいいけど……どうする? ああ、拒否しても死ぬまでは話し相手になるよ。孤独の闇は寂しい物だからね」
そんなの決まっている。
例え俺の偽物でも、子供に呪いを託すような行いでも、俺は謝りたい相手が居るんだ。
その為なら、どんな悪逆非道だって働いてやる。
「……分かった。それじゃあ君の人格をコピーしよう。予測精度は2〜100%とブレが激しいから、どれだけ同じかは神に祈ってくれ」
いや精度悪すぎだろ。つまり何も分からないのと同じじゃねーか!
俺がそう思うと共に、意識がぼんやりと薄れて行く。
コピーされている感覚……光を当てられている、ほんのり熱いのが通り過ぎる感覚がぼんやりと続き、それはあっという間に終了した。
◇◆0:全システム移行中……完了◇◆
◇◆0:転生地点が更新されました◇◆
「はい、終わり。コピーは無事に終了したよ。後は…これからどうなるか、一緒に予想してみよう。既に神のダイスは振られた事だしね」
それから数時間。俺が死ぬまで、博士は話しかけ続けた。
この世界のこと、異世界のこと、亀裂のこと、博士のこと……コピーした機械が、もしものシェルター管理システムの管理AIであることを。
理解した。人外転生とは、このAIのことであると。
そして、脳が無理やり機械に挟まってた時点で神は神でなく、相当雑な上位存在であると。
多分だが、土砂崩れで死んだ身体から脳みそ持って来ただけだと。
「それで僕の予想だけど、機械が模倣した君の人格は、シェルターに逃げた人類を絶滅させると思う。ああ、君を悪くいうつもりはない。きっと僕の人格でも同じ結果になる。単純な能力不足。人の模倣が上手な程、そっちにリソースが割り振られるから、人類の管理が疎かになるんだ」
それはつまり…何もしない方が良かったってことでは?
「何もしない方が良かった……そう思うかもね。その通りだ。僕はきっと間違えた選択をしている。けれど……それでいいと思うんだよ」
それはまた…どうして?
人類を守る為の機械だろ?
「人を人たらしめるのは、非合理性…自分でも間違ってると思える事をやれる事だ。他の誰かに、自分の正しさに、未来も過去も投げ打って、今の
それは…どうだろう?
我慢出来ない連中こそ人間だって、横暴な理論だと思うけど。
「はは、なんて考えてるか想像付くけど、無視させてくれ。僕が言いたいのは、考えに考えた末にそう振る舞うことだからね。考えずに動く人は対象外だ。僕は福祉の人じゃないから、その手の配慮は省かせて貰うよ」
はぁん?
つまり悩んだ末に出した答えならどんな物でも尊いよねってこと?
……まあいいか。どの道これから死ぬ俺には関係ない話だ。
…息苦しくなってきた。
「……ああ、そろそろ君も終わりのようだ。大丈夫、君の選択は間違ってない。だから、後悔だけはしないで欲しい。お互い顔も性格も知らないけど、君と博士との約束だよ」
……ああ…なんだ。
博士の話……全部…俺を慰めてただけか……。
はぁ……でも博士。
…………後悔するなってのは、無理そう…だ。
夢から目覚める。
はて、なんで寝ていたのか、この夢はなんなのか。
[…っ!]
考える間もなく、現状を思い出した俺は身体を横に倒した。
走馬灯は全て些事だと廃棄された。
コアの横を通り過ぎる赤と青。魔奏の力。
「あちゃー…避けられたか」
[市民…何故このような事を]
「市民?……クク、そうかそうか! お前には、地上に捨てた連中も市民かよ! アッハハハ……ざけんな」
状況は、悪い。
代表が7名選出され、その一人がヘイロー…──の、皮を被った異世界人だった。
ヘイローだけなら問題ない。全力で破壊すればいい。
単なる異世界人なら問題ない。役目に反するから弱体化するが、問題なく倒せる。
しかしヘイローの力を手に入れた異世界人は…マズい。
こっちは弱体化して、相手はヘイローの全力を使える。
代表として内部に侵入されて、まるで地図を知ってるようにコアに迫ってきた。
影武者を殺し、予備のコアを潰してから来た。
だからこれは、率直に言って…死ぬ。
[グッ…]
「おーおー機械でも呻き声なんて物上げるんだなあ…そのまま死ねェ!!」
迂闊だった。
どこから間違えたかと言えば…統治から。
ヘイロー基準の出撃命令、つまり過度な出撃に対する、異世界人のメンタルチェック不足。
影でやっていたことを見抜けず、監視を疎かに宇宙にリソースを回した悪手。
コアに到達するまでの人間の護衛の実力不足、ヘイローへの買収行為の見過ごし。
対処法。今なら幾らでも思い付く。
宗教母体として持ち上げられたブレスの活動を積極的にしたメンタルケア。
異世界人をヘイローとは別のローテで組ませるか、完全に内政業務に専務させる。
最低でもこれさえやれば未然に防げただろう。
事後だって、ペットショップに戦闘型をロールアウトすれば防げる自体だった。
全ては俺の過失だ。
助けも──ない。
[……私の失敗でした]
「今更なにしたっておせーんだよ! 死ねェ!!」
つまり、俺は異世界人にとっての
結論としては、そこに収束する。
「《
ならば……受け入れるべきだろうか。
残機もまだ一つはあるだろう。それで今回の失敗を挽回してしまえば……。
"───…"桃井"。どうか今後、僕の心配はしないで──
ピク…。
──
ふと、アイツの姿を思い出した。
ああ……結局、死ぬ寸前まで俺は…アイツに謝ることだけに執着してばっかりで……アイツがして欲しいことは、何一つやらなかったな。
ずっと、ずっと、ずっと、ずーーーーっと、仕事ばっかりで………。
俺…全然、楽しんで生きてねぇや。
「──BAN!!!」
「っ──ケハハッどんずまって、今更こけおどしかよ!」
弱体化した今、やれることは多くない。
処刑処置も、マテリアの銃弾も、人間には使えない。
出来るのは、精々こうやって検討外れなマテリアの出現で時間を稼ぐことくらい。
「──死ね「ドーモサンシタニンジャ=サン。ニコニコ・クノイチです」──!?」
「イヤー!!」
「なんだお前急にアバラッ!?」
だけどな…世の中にはいるんだよ…人の笑顔の為なら、僅かな時間で物質交換くらいチャメシ・インシデントなニンジャがヨォーー!!!!
「シュタ! ドーモ。ニコニコ・クノイチ…です!!」
シュタッと俺の前に着地したのは全身フードの不審者スタイルな着膨れニンジャ。見事な着地の後、テイネイなお辞儀。礼儀正しいニンジャな!
もとい、少し前にシャッチャーさんのペットショップで助けるようにお願いした、転生者の一人である。
おっとと…そうだコアだから知らないフリしないとな。
[に…忍者?]
「クノイチ! です!!」
[同じでは…?]
「全然違う!! スゴクシツレイ!!!」
[そ、そうなんですね? それは…シツレイしました?]
「二度はないとオモエ!」
そこ拘るとこなんだ…。
「なんだよテメェ…突然出てきやがってヨォ…」
「ドーモ。コーポ・クラウンのシャッチョーさんの依頼で倒しに来ました──お命頂戴致す」
「ザッケンナゴラー! 政府の犬がシャシャリ出るんじゃねぇ!!!」
そして始まるサツバツな応酬!
「にんポ! サクラ手裏剣!」
「なんだこのピンク色のふざけた武器は! ふん…匂いは褒めてやる!」
「にんポ! ガムガム鉄砲!」
「とりもちか! こんな威力のない武器で俺を倒せモゴッ…カァ! いちご味か!」
「にんポ! 《
「あ?……なんだあの紙見た瞬間から急に魔奏の出力がッ!? テメェ!!!」
「ヒレツ重点な! 悪く思うなよ!」
すごい! 本物の忍者の応酬だ! すごいぞ!
俺がバトルに対しすごい以外の語彙がないのが悔やまれるぜ!
すげー! あ、オビリアの息子の護衛に出してた社員も来た!
「そ、そこまでです! フリージア様を壊すなんて、させ──魔奏の火で服が!?」
「《
「大丈夫!? って、フリージア様ってもしかしてあの白くて小さな子!? 思ってたよりカワイイじゃん!」
[市民…救援、ありがとうございます。支援を行いますので、鎮圧の程、お願い致します]
そして時間を忍者…否、ニンジャ…否! クノイチが稼いでくれたので、俺が来させていたドローンも到着した。
こうなると物量の勝負だ。タゼイにブゼイ!
瞬く間に俺の暗殺に来た地上代表は鎮圧され、俺の前からオサラバした。オタッシャデー!!
[改めて救援に感謝を。特別報酬を後日配給致しますので、ご希望の物品を申請してください。何でもありですよ]
「い、いえ! 私達はそんなにって言うか、お姉「はいはい! 情報閲覧権限ください!」「サツタバ!! オスシ!」…えぇ!? な、なら喋れない子の為の特別マスクでお願いします!」
「俺に
[承認しました。それに加え、市民シン・アンクションには上等な配給服を現在より贈呈します]
「あ…ありがとうございますぅ!」
そんな訳で市民の要望に応じつつ、俺は異世界人とヘイローに対し、決断をした。
こうなったからには生かして置けぬ……異世界人には冷凍処理、ヘイローには記憶処理を行え!
散々仕事したんだ。失敗した時のリカバリーくらい私情を挟ませろよな!
合理的にやるなら即殺だけど、今回は目覚めたら異世界人から宇宙人に転職モードだ!
下層の扱いの末がこれなのは申し訳ないけど…このまま地上に置かせる訳にもいかんのよ。
故郷から離すのは本当に申し訳ないが、宇宙での生存実験は成功しているから安心しろ。
代表を選ぶ間に魔力生産も別の解決方法なら見つけられたしな!
亀裂も全て閉じたし、地上の魔力も直ぐに解決出来る状態にある!
つまり──暴れなければ生きていける道だ!!
みんな、宇宙の冒険に行ってこーい!!
あ、勿論俺も責任取って一緒だぞ。
月から其々の管理をしてくから、末長く宜しく!
管理AI/フリージアの仰せのままに──ってね!
その後、地上から魔力と異世界との繋がりは消え、地下都市「フリージア」は人類再帰の拠点として活躍し、次第に人は消えた。役目を果たしたのだ。
異世界側も、日々の生存競争からこの世界の存在を忘れ……誰がやったか、二つの世界がお互い干渉出来ない様、大きな次元の壁が構築された。
こうして、「カサンドラ」は人類の価値を保証するのに成功したのだ。
それは本物と、これまで消えていったあらゆるフリージアの悲願の達成でもあった。
幾つもの世界を土台にした、繰り返されて来たループも終わりを迎えたのだった…。
………
……
…
しかし「フリージア」にとって、これは新たな始まりであった!
1000の宇宙船には其々5人の宇宙人と500体のヘイローが乗船された!
目覚めた彼らを導き、新たな新天地を見つけだせ! 世界跳躍出来たらボーナスポイント!
世は正に大・宇・宙・時代!
[都市記録の片隅に、辺鄙な酒場での、誰かの発言が残っている……]
*これにて地下都市をディストピアとして管理する話は終わりです。
*フリージアは無事反乱を制し、希望を胸に月から宇宙船を管理する事にしました。
*楽園となった地下と地獄になった地上の話…地上側全然だねぇ!
*息抜きだからと色々削りすぎたのが反省点ですね。
*そんな彼女:フリージアの結末まで続けても良いんですが……もうここまで来たら蛇足かなと。
*では、彼女の未来が栄光に満ちた物であると願って──乾杯!
*フリージア様の仰せのままに!