聖剣の守護乙女~死体をアイテム化する能力を得た転生者の話~   作:きなかぼちゃん

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2.勇者

 次の日、シオンが勇者になった。

 

 何言ってんだって感じだけど、本当にそうなった。

 シオンが儀式で与えられたのは《勇者》の祝福。

 

 前に《勇者》の祝福持ちが現われたのは300年も前の話らしい。そしてその正体はこの田舎暮らしのわたしが知ってるくらい有名で、吟遊詩人に詠われるほどはるか昔の伝説的英雄だった。

 

 《勇者》は数ある祝福の中でも特に強力なものの1つであり、あらゆる身体能力が永続的に向上し、祝福を鍛えていけば、歴史に名を残す英雄になることも夢ではないとされる。

 

 その剛力は竜の顎を砕き、放たれる一太刀は雲をも切り裂く。

 

 なぜそんなことを知っているかって、《勇者》の英雄譚はたまに村を訪れる吟遊詩人が一席やる際の定番だからだ。

 

 (うた)になる際に《勇者》の活躍は派手に盛られているのかもしれないけれど、それでも強力な力だということくらいはわかる。詩を聴いた男の子たちが毎年のように《勇者》の祝福が欲しいと憧れるほどだ。

 

 直接口には出さなかったけれど、シオンも内心そうだったんだろうなと思う。

 

 目の前ではシオンが礼拝堂に集まった村人たちからメチャクチャな歓声を受けている。

 儀式を担当していたお母さん───マザー・クラリエッタは未だに信じられないような顔で、祭壇に置かれた藍色の水晶玉(マルグレーテの瞳という名のアイテムらしい。女神様の瞳の色にあやかって命名されたんだとか)に触れて祝福の情報を読み取っていた。

 

 当のシオンは「僕、なんかやっちゃいました?」みたいなぽかんとした顔で突っ立っている。

 あーもう、あんなに楽しみにしてたくせに想定外のことが起こりすぎて完全に脳がフリーズしてるよ……。大丈夫?

 

 ちなみにわたしは水晶玉に手を触れてみたけれど何も起きなかった。

 どうやら何の祝福も得られなかったらしい。ざんねん。

 

 その日から数日間は村もお祭り騒ぎ。当然シオンはいつも祭りの主役であり、色んな人からこの村の誇りだの、村も栄えるかもしれないだのと言われていた。

 

 ただそんな熱もいつかは冷めるもので、1週間も経てばみんないつも通りの暮らしに戻っていった。

 

 お母さんとわたしも、教会の奥に併設された生活スペースで久しぶりに向い合って普段通りの時間に夕食を摂っていた。

 太陽は落ちている時間で、燭台に火はつけているけどやや薄暗い。

 

 このファンタジー異世界には電球はない。さらにこの教会は木造なので冬は隙間風でとてつもなく寒い。

 産まれてからずっとこの教会で暮らしているから流石に慣れたけど、最初はすごく戸惑ったなあ。

 

「……ユーリア、その、たとえ瞳が反応しなくても、いまだ発見されていない新たな祝福を下賜されている可能性もあります。気を落とさぬようになさい」

「えっ、そうなの?」

 

 お母さんは静かに頷いた。

 いたく真面目な顔で言うので、わたしもシチューをスプーンで掬う手を止めた。

 

「ええ、《マルグレーテの瞳》には今まで下賜された祝福の情報が全て記録されていますが、そうでない祝福を受け取った場合には反応を示しません。もちろん、本当に祝福を得ていないことが大半ではありますが」

「ふうん。でも、そういう時ってどうするんだろ。だって新種の祝福を得ていたって、それを調べることができないなら結局無いのと同じじゃない? もらったものが何なのかわからなければ使えないわけだしさ」

 

 わたしは素直に疑問を口にした。

 まさか一からあらゆる可能性を想定して祝福の発動条件をテストするわけじゃないでしょ。瞳が反応しなければ祝福が与えられていない人が大半だというなら、そこまでの手間をかける理由がないような気がする。

 

「貴女は知らないでしょうが、聖都ラピスラズリの教皇庁に祝福審査機関という組織があります。詳しい方法は私も知りませんが、彼らは未発見の祝福ですらその力の正体を正確に読み取ることができるそうです」

 

 聖都ラピスラズリはこのエル=ラピス輝教国の首都にあたる。

 女神マルグレーテの代理人たる教皇が座す壮麗な都……らしいけれど、この辺境の村からはるか南の海沿いにあり、とても遠い。もちろんわたしは行ったことないよ。

 

「うーん、でもわたしは別に祝福無しでも気にしてないからいいかな。まさか、こんなド田舎に聖都から人が来てくれると思えないし」

「そのまさか、です。近いうちにシオン君に与えられた祝福が正確かどうか、その祝福審査機関がこの村を訪れることになっています。その際に貴女も改めて祝福の有無を検査していただくようお願いしておきましたので、そのつもりでいてくださいね」

「ええ? お母さん、そこまでしなくてもいいのに」

「貴女がそう言うと思ったから今まで言わなかったのですよ。ユーリア」

 

 お母さんはふう、と小さく息を吐くと、

 

「貴女が聡いのは私も分かっているつもりですが、物分かりが良すぎるのも考えものです。子供らしい我が儘を言わない貴女に対する私の……そうですね、お節介とでも思いなさい」

 

 お母さんはコップに注いだ白湯をゆっくりと啜った。そして、柔らかい笑みを浮かべた。

 

 聡いというか、前世の記憶があるからインチキしてるだけともいう。

 あと、ワガママはいつも言ってるけどね。意地でもマザー・クラリエッタって呼ばないのが既にワガママみたいなもんだし。

 でも、たぶんそういうことじゃないのだろう。

 

 きっとお母さんはわたしが祝福を得られなかった事をひどく落ち込んでいて、強がっていると思っているのだ。本当にそんなことないんだけどね。

 

 ただお母さんの思いやりを無下にするのもどうかと思うし、受けるだけ受けてみようかな。シオンのついでだからね。

 

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