モニターの映像を観て呆然としているのは三木だけではなかった。日野は偵察機の安全を確認することも忘れて立ちすくんでいた。基地が騒然となる。
日野は隊員が偵察機が緊急帰路についたことを報告にきて、我に返った。
「偵察機の安全を確認せよ、至急」と報告にきた隊員に命じると、
「三木さん、人が亜人の奴隷ですよ、あの映像は。」と言った。
日野にはそう映ったのだ。
「そうかも知れません。銃をもった亜人、弓や剣などはありますが、銃ですか・・・」と三木は考え込んでいる。三木は「戦いには向かない種族のようです。」と言った熊耳のコリーの言葉を思い出していた。三木の知っていた亜人は、みんな、コリーの言葉通りであった。
古の民の言う通り、亜人が人工的なヒトならば、亜人と人の立場が逆転することが解せなかった。不可解、とにかく不可解であった。そして、冷静に考えてみようと思った。
(問いかければ何かが見えてくるかもしれない。)そう思った三木は、
「日野さん、奴隷は置いておいて、あの映像、何か変だと思いませんでした?」と尋ねた。
「変なこと、いっぱいある。発電所って電気をつくる場所、でも、電気を運ぶ電線がない。建物はあるのに。」と日野。
(理論的には、効率を無視すれば、空中を電磁波で送れば、電線なしでも可能。化石となった鉱石ラジオは電源なしでラジオ放送の受信ができた。電波がエネルギーだからだ。電波のエネルギーを音のエネルギーに変換すれば聴くことができる。送電も同じ理屈で電磁波で可能。効率の問題を解決し技術的にそうしているとしたら、今の日本の科学技術より50年、100年、あるいは1000年先。)と考えた三木は、(まさか、古の民。バカな滅亡したはず。)と思って天井を眺めた。
「いくらでもある。建物もだが、人も、動物も少ない。あれほどの時間、映像が写っていたのに。ロボット3体、亜人1人、人5人。それだけしか映っていない。ネズミ1匹映っていない。」と日野。
そこへまた隊員がやってきて、日野に報告。
「偵察機から連絡がありました。レーダー照射があったそうです。無事にこちらに帰ってきております。」それを聞いた日野の顔が明るくなった。
「レーダー照射ですか、どこからでしょう?写っていた人たちからではなさそうですね。多くの人たちがカメリル国の侵攻を防ぐために、そちらに行ってたとしても、残っている人たちが少なすぎる。日野さん、何万人もの人があの映像の地にいると仮定して、どこにいると思います?」と三木。
「もう、地下しかないですね。」
「そうですね。そう思います。地下都市ですよ。電線は地下にあるんですよ。そう考えれば、何も不自然ではない。」
「人が亜人の奴隷?どう思います?」今度は日野が尋ねた。
「分かりません、奴隷でないかも。亜人に引き立てられてるあの人たちは囚人とも考えられます。誰かに命じられた亜人が囚人を移動させていた。あの亜人は牢の番人。ロボットは発電所の番人。亜人もロボットも人が創った。地下都市に操っている人たちがいる。そう考えれば辻褄が合う。高度に科学技術の発達した国だ。カメリルが攻めあぐんでいるのも納得。」
「そうでしょうか、私には奴隷にしか見えませんでした。とにかく、これ以上の偵察は無理ですね。危険すぎる。あの映像を観た政府が何を言ってくるか、ちょっと心配です。」
(古の民も地下に潜っていた。滅亡すると言ってたのは彼らが知る範囲内でのこと、遠く離れたこの地、高度な科学技術をもったまま生き延びたのかもしれない。現にトメリア人やサンパル人は生き延びたわけだから)
三木は背筋が寒くなった。
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カメリル国ではアカサ少将のジャングルを焼き払う作戦が許可され、すでに属国になっているガボリ共和国に軍を派遣していた。バジル執政官は、もともとジャングルを焼き払う作戦に反対であったが、何年も戦っているのに、制圧できないどころか一歩も侵攻できない戦況に苛立っていた。侵攻の障害がジャングルだと説得されたのだ。
カメリルが侵攻してもジャングルでゲリラ戦になる。銃同士の戦いはカメリルは苦手、戦車で一気に踏みつぶしたかった。当初、戦闘機で攻撃しようとしたが、すべて撃墜された。コンガ共和国には対空ミサイルがあるのだ。でも、不思議な国であった。倒したコンガの兵はみんな貧弱な体で、どう見ても軍人ではなかった。このような兵に手こずるのはジャングルのせいだと思っていた。
ガボリ共和国にはセイル外交官も来ていた。ジャングルを焼き払い、一気に攻撃して降伏させれば、交渉の外交官が必要だからである。
セイルはガボリ共和国が嫌いであった。その国の民も全員大嫌いであった。というのは、セイルの父が指揮官としてガボリを攻撃し制圧したのだが、その2年後にガボリを父が視察に訪れたときに、殺害されたのだ。犯人はガポリ人だというが、誰だか分からなかった。セイルは父の顔を知らない。でも、母やおじからそう聞かされていた。
ガボリ共和国とコンガ共和国との国境と言っても、何かがあるわけでもない、ジャングルになっているだけである。この二つの国は交流もなければ争いもなかった。少なくとも、ガボリ共和国は、カメリル国が侵攻してくるまで平和で穏やかな国であった。 平和な暮らしに安住してたために、瞬く間にカメリルに占領されたのだ。
そのジャングルに火炎放射器で手当たり次第に火をつける。熱帯雨林の湿気の多い場所とは言え、燃える樹木ばかりである。銃声ではなくいろいろな獣や鳥の鳴き声が響き、それらが炎と煙に包まれたジャングルから飛び出してくる。
やがて、獣や鳥の鳴き声が止み、あたりに静寂が戻ってきたときには、焼き払われた黒い大地になっていた。
ジャングルが焼き払われた黒い大地を、カメリルの戦車が進む。1台、2台、3台・・・・合計8台の戦車。その後を兵を乗せたトラックが1台、2台、3台・・・合計5台。敵からの攻撃もなく、まるで勝ち誇ったようにように進む。見渡す限り焼け焦げた樹木しかない。
視界に焼き払われていない緑の草原が見えたとき、ドカーンと戦車が爆発する。敵のロケット弾による攻撃であった。
ロケット弾発射装置を操作している敵兵が見える。カメリル自慢の長砲身の戦車が攻撃する。
ドン、ドン。ロケット弾発射装置を破壊する。
ロケット弾と戦車の砲弾が飛び交う中を、トラックからカメリルの兵が降りて、突進していく。戦車の攻撃の方が圧倒的に有利、次々とロケット弾発射装置が破壊されていく。
そして、砲撃、銃撃の音が止み、あたりはカメリル兵の声だけになる。守っていたコンガの兵は全滅した。倒れている敵兵の姿を見た兵は、驚愕した。亜人を知らないカメリル人には、化け物としか思えなかったのだ。
カメリルの被害は戦車3台が破壊、死者20人。最後尾で、この戦いの指揮を執っていたのはトロル中尉であった。補佐のイマト少尉はこのままの勢いで侵攻すべきだと主張したが、別部隊のスマル少尉が反対し、補充を待つべきだと言った。二人の言い分を聞いていたトロルは、自分が疲れているというだけの理由で、侵攻せずに休むことにした。
死者をその場に埋葬し、草原に陣地をつくり野営テントを張った。化け物のような敵兵の遺体を1体積み込んだトラックが、戦況報告のため、黒い大地を走る。
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スパン南基地の指令室では、日野が三木に尋ねていた。
「ここにいてもいいのですか?部隊の訓練があるのでは?」
「大丈夫です。訓練はメイキ大尉がやっています。ご存じでしょう、メイキ大尉?」
「はい、知っています。リベルテ戦の時、最初に戦った相手です。」
「ですから、いつまでもおります。消音銃をいただくまで。」と三木は笑いながら言った。
「また、そんなことを、無理です。」
そんなやり取りをしていると、隊員が写真を持ってきた。
それを受け取った日野は、写真を見て、
「ジャングルを焼き払ったようです。」と言って、ジャングルが燃えている写真と黒い大地になっている写真を三木に渡した。
「これは草原にカメリアの陣地ですね。港町セルルが占領されたときと同じ、モニターでみた旗が立っている。」そう言って、また写真を渡した。
三木は3枚の写真を見ながら、「政府は何と?静観ですか?」と言った。
以前は政府の方針や情報は、日野よりも先に知ることができたのだが、今は日野に聞く以外に知ることができない。
日野が笑いながら言った。「静観です。指示があるまで動くなと上から。」
「ここはいいですね。偵察衛星からの映像も見える。その装置、リベルテに貸してくださいよ。」
「何を馬鹿なことを。リベルテにもTV放送あるのでしょう。受信機の周波数を調整すれば盗み見できるでしょう。盗み見、得意でしょう。」と日野が笑いながら言う。
「あはは、得意ですよ。でも、無理です。リベルテにデジタル通信の受信機はありません。だから、その装置が欲しいのです。消音銃も。」
「ダメです。しつこいですね。」そう言って、日野は鍵を取り出し、「泊まるのでしょう、3階の部屋の鍵です。」と三木に渡した。
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カメリル国はコンガ制圧にほとんどの陸軍をつぎ込んでいた。シュラリべ共和国は反逆しているが、制圧しても、労力の割にあまり利益がない。それに、シュラリべは守るだけで攻めてはこない。宣戦布告をした二ホンは場所も分からないし、北方にある基地も遠い。ジャングルを焼き払ったことで進攻することができたコンガ共和国は資源も豊富で利権が大きい。コンガ制圧に力を注ぐのは当然であった。
コンガの亜人の遺体を積んだトラックが、ガボリ共和国の首都ボントに到着し、カメリル領事館の前で止まった。ガボリ共和国は政体を保っているが、カメリルの領土なのである。
領事館からアカサ少将と参謀の将校たちがでてきて、トラックから降りてきた兵から報告を受け、荷台を覗いている。
それを領事館の窓から眺めていたセイル外交官は、部屋から出ようとしていた。
「外交官殿、行かない方が。」とマーヤ曹長が止める。今度もカイル大佐がマーヤに護衛を指示していたので、マーヤは片時もセイルから離れない。
「何事も見て、何事も聞く、それが私の務めです。」セイルはそう言って、部屋から出て行く。慌ててマーヤがその後を追う。
「何事ですか?」とセイルがアカサ少将に尋ねた。
「敵の兵の死骸だ、まるで化け物。見ない方がいい。」とアカサ。
アカサの言葉を無視して、セイルはトラックの荷台を覗き込む。そして、冷静に観察。
(確かに化け物、首から上は獣、下は人間。この獣はラサール?動物化石図鑑に、害獣駆除でこの地から大昔に絶滅したと載っていた。こんな兵と戦っているのか。)
セイルはこの戦いが容易ではないと予感していた。
セイルが覗き込んだので、自分もと死骸を見たマーヤは吐きそうになり、
「外交官殿、戻りましょう。」とセイルをせかした。
「外交官殿はやめてくれない。」
「はい、やめません、外交官殿、帰りましょう。」
マーヤはこの地に来た時、セイルを外交官殿と呼ぶことに決めていた。セイルは可愛い少女である。外見では威厳も何もない。邪まな男の格好の餌である。カメリル国の外交官は、この地においては最も高位になる。指揮官のアカサ少将よりも領事官よりも位が上なのである。だから、この少女が外交官であることをガボリ人にもカメリル人の兵にも知らせることが、彼女を守ることになると思っていた。
コンガ制圧を目指すカメリル、この戦いは?