「失礼します。」と言ってスマルは、返事も聞かず扉を開ける。
スマルの顔を見たトロル中尉は、驚きの表情を隠さず、「生きておったか。」と言った。側にいたイマト少尉は幽霊にでも出会ったような顔をしている。
「詳しいことは後で説明します。50人ほどの避難民を保護して下さい。」
「避難民?コンガ人だろう、捕虜だ。」
「捕虜ではありません、保護です。彼らはコンガから逃げているのです。」
「コンガ人、50人、飯を食わす余裕はない。40人射殺して10人捕虜。そんな当たり前のことが分からないのか、スマル少尉!」
「コンガはとんでもない国です。普通に侵攻したら痛い目に会います。保護して、彼らの話を聞いて下さい。」
「話は捕虜から聞ける、くどいぞ、スマル!」
「全員保護しなさい。」
突然割り込んできた声の方を、スマルとトロルが見た。セイルであった。
スマルは(なんだ、この娘は?)と思った。そして、トロルの顔を見る。トロルは怒りの表情から困惑の顔になっている。
「全員、手厚く保護です。で、どこにいるのですか、その難民は?」とセイル。
困惑はトロルだけでなく、スマルも困惑に陥った。
「スマル殿、外交官殿です。」とマーヤが説明する。
(何、この娘が?)とスマルは怪しんだが、気を取り直し、「この下です、地面の下。」と答えた。
それを聞いて驚いたのはセイルだけではない。スマル以外のその場にいた全員が驚いた。
驚いても対応がはやいのがセイルである。
「こちらに連れて来なさい。トロル中尉殿、その人たちを乗せるトラックを3台用意して、足らなければもう1台、ガボリのボントの街まで運ぶよう手配してください。」
一瞬唖然としたスマルであったが、「はっ。」とセイルに敬礼をして車から出て行った。
セイルは呆然と立っているイマト少尉に向かって、「あなたはすぐに馬でボントの街まで走り、領事官に連絡しなさい。郊外に50人ほどの難民キャンプを設置するように。すぐに走りなさい!」
「はっ。」と敬礼してイマトが出ていく。
(さすが外交官殿、15の娘とは思えない。)マーヤはそう感じた。
車外に出たスマルは、射殺だ、捕虜だと言ったトロルの言葉がカメリルの兵の気持ちを代弁していると思い、足を止めてついてくる部下たちに言った。
「我々は、これから連れてくるコンガ人に命を助けられた。絶対に攻撃しないで、彼らを守れ。ついてこい!」
そして、足早に地下に降りる入り口まで来ると、「ここで待て!」と言って、地下に降りて行った。
地下への階段を降りると部下が4人待っていた。話を聞いた老人もいる。天井のライトは暗くなっている。スマルは老人に尋ねた。
「準備はできている?」
「はい、どうでした?」と老人。
「OKだ。子供連れの家族と老人はこちら。他の人はあと2か所の出口に振り分けてくれ。それと、家畜はかわいそうだが無理だと伝えてくれ。すぐ、脱出だ。」
すぐに老人が立ち去ると、今度は部下に、「こちらの出口は、外の部隊が守っている。後の出口が5人ずつになるように分かれて、この集落の人たちを警護しながら武装警護車のところまで連れていけ。危害を加えようとする者がいたら、カメリルの兵でもかまわぬ、射殺しろ。行け!」と指示した。
しばらくすると、老人が戻ってきた。後ろに財産を持てるだけ持ってきたというような大きな袋をかかえてた家族連れなどがいた。赤ちゃんを抱いている女性もいる。
「あなたは、残っている人がいないか確認をして、最後に出てきてください。」と老人に言った。
「ダメじゃあないの、連れてきて。」と母親が子供を叱っている。女の子が猫を抱えている。
「いいよ、放さないようにしてね。」とスマルは泣きそうな顔をしている女の子の頭を撫でた。母親がすまなさそうに頭を下げる。出口の階段に多くの人が集まって来たので、スマルは大きな声で言った。
「私の後にゆっくり続いてきて下さい。急がなくていいですから。」
スマルは階段を上り、地上へ出ると、2人の兵に、「銃を構えて、ゆっくりと歩いて、出てくる人たちの先頭に立って、武装警護車のところまで連れていけ。」と命じた。
出てきた人たちの行列ができ始めると、また2人の兵に銃を構えて警護するように指示した。
遠くの草原に人の姿が見えると、2人の兵に、その場所へ行って武装警護車のところまで先導するように指示した。そして、もう1つの出口に人が見えると同様の指示をして、周りにいる部下たちを3か所のコンガ人の行列の警護にあたらせた。
他のカメリルの兵たちは何事かとそれらの行列を眺めるが、コンガ人だと気付いても警護の異様さに手出しをするものはいなかった。
武装警護車の近くでは、セイルの指示でトラックが4台待機していた。セイルたちも車外で、避難民が来るのを待っていた。
・・・・・・・・・・
スパン南基地の指令室で三木はまた、日野三佐に消音銃のおねだりをしている。
「なぜダメなのですか、銃は消耗品でしょう?」と三木。
「違う、備品だ。」と日野。
「壊れるでしょう?廃棄処分にしたらいい。」
「何を馬鹿なことを、武器は管理が厳しいのだ。俺は責任を取りたくない。」
「そうだ、盗まれたことにすればいい。責任を管理している隊員に押し付ければいい。」
「部下に責任を押し付けたりできるか、いい加減に諦めてリベルテへ帰れ。」
そこへ隊員が入って来て、リベルテのメイキ大尉が来ていることを告げた。
メイキが司令室に入ってくるとすぐに三木が尋ねた。
「どうでした。訓練の成果は?」
「10人は無理です。残ったのは8人。でも、2000人の陸軍の中から残ったのですから、8人は凄いですよ。」とメイキ。
「いいでしょう、あなたと私を入れて10人になります。」
「私を入れる?とんでもない。8人から見れば赤子ですよ。私が勝てるのは口だけ。」
「あはは、私も同じです。でも、その口が必要なのです、この部隊には。」
「・・・・」
二人のやり取りを聞いていた日野に三木が言った。
「今日中にこの基地から消えます、お世話になりました。」
数時間後にメイキが乗ってきたリベルテの航空機が、三木を乗せて飛び立った。
日野がそれを司令室の窓から眺めていると、武器庫の事務職員がやって来た。手に、リベルテ国の武器借用書を持って。
「許可していない。」と日野。
「でも、国の正式な借用書まで提出されたし、それに、三佐の許可をもらったと言ってましたよ。」
「・・・・・・・盗まれた。」
「えっ?」
「いや、何でもない、・・・・。」
・・・・・・・・・・
コンガの難民たちがトラックの荷台に全て乗り込むと、セイル外交官がスマル少尉に言った。
「私はこの人たちの安全のため、一緒にボントに帰ります。コンガがとんでもない国だと言いましたね。その話を聞きたい。あなたも一緒に来なさい。」
「お言葉ですが、私は軍人です。攻撃と防衛が仕事で、説明が仕事ではありません。この地は危険で、やらねばならぬことがあります。だから、残ります。私に説明をしてくれた老人を連れて来ますから、その人から聞いてください。」
スマルはそう言ってトラックの所へ走っていった。
「失礼な奴ですね、外交官殿の指示を聞かないなんて。」とマーヤ曹長。
「いえ、立派な軍人です。」(トロルとは違う。)セイルはそう思った。
スマルが老人を連れてくると、武装警護車にセイルとマーヤとその老人が乗り込んで、ボントの街に向かって草原を走り出した。その後をコンガの難民を乗せたトラックが続いて行く。
それを見送ったスマルは、部下に塹壕を掘るように命じた。
前方からの敵は戦車の残骸の壁から防衛できるが、後方からの敵は防げない。先日の戦いでは少人数だったのでトラックが壁になったが、今度攻めて来たら守り切れない。
地下の集落を見たスマルは、敵が後方から来たのは、敵の地下からの出口がこの陣地の後方にあるからだと確信していた。もしかすると、我々の行動は見張られているのかも知れないとさえ思っていた。
塹壕を掘っている兵を見たトロル中尉は、(また穴を掘ってる、穴掘りの好きな部隊だ。)と思ったが、スマルの部隊は苦手で、声もかけなかった。
それより敵を蹴散らした戦車が10台もあるのだ。侵攻して攻撃の成果を挙げてから、アカサ少将を陣地に招こうと思っていた。
スマルはあてにならないので、連絡に走っているイマト少将が帰ってくるのを待っていた。
何よりも戦果が欲しい、トロル中尉。果たして?