カメリルがスリム王国を攻撃したことが報じられても、日本政府は安全保障を結んでいる国ではないと、動こうとはしなかった。日本が指導的立場になるべきという新秩序を主張する保守系の議員たちは、日本の基地が攻撃されたのに何もしないのはおかしいと批判した。
日本の基地というのは名ばかりで、そこには日本のものは何もなかった。さっさと返還しておけば良かったんだと呟いた政府関係者もいた。
とにかく、日本人はすべて引き上げていたし、貨物船もその基地にから脱出していた。日本の被害は何もなかったのだ。
ところが、沖縄の基地から護衛艦あたごと護衛艦はぐろが出航していた。トメリアのアイロン港にいる護衛艦かがと合流する予定である。
保守系の議員たちの声で動いたのでもマスコミの批判を恐れたのでもない。貨物船をいつまでも停泊させたままにすることはできなかったのである。物流をストップさせることは、日本経済への打撃が大きい。経済界からの強い要望であった。
政府は、カメリルの艦隊を追っ払うことにした。スリム王国への支援ではなく、航路の安全確保のために動いたのである。
日本の護衛艦かがとあたごとはぐろは、ジュラス東基地で補給を済ますと、スリム王国に向かって出航した。ジュラス都市国家のチャコ総領は購入したかった日本の護衛艦を眺めて、サミー補佐官に言った。
「あの日本の船なら我が海軍も逃げ帰ったりしなかっただろう。今度は是非とも購入できるよう交渉するように。」
「はい、承知しております。あとをついて行って、よく見ておくようにと指示しています。」
「観戦武官の乗船は認めてもらえなかったのかね。」
「申し出たのですが、断られました。単なる貨物船の護衛だと。」
日本の艦隊の後をジュラス都市国家の1隻の軍艦が追っていた。
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カメリルのカーレンの港から出航した戦艦3隻、航空母艦1隻、輸送艦1隻の艦隊は、大海原を航行していた。戻ってきた戦艦の報告から、敵は反撃することもできない弱い国と勘違いをして、船員たちの士気は高かった。しかし、輸送艦に乗艦しているイマト中尉とその部隊は慣れない船旅、船酔いのためゲッソリしていた。
一方、スリム王国の沖で援軍を待っているユカル大佐は、どこで歯車が狂ったかを考えていた。
ササド艦長が北方で戦艦を失って帰って来てから、海軍の空気がおかしくなったと感じていた。自分の持ち場が変わったのはコンガの西の海に遠征を命じられてからだが、海軍の雰囲気が変わったのは戦艦が撃沈されてからだった。占領した町の反乱はよくあることだったし、陸軍が再度制圧していて、海軍には何の影響もなかった。
ユカルはシェラリベの独立もガーゴの基地の襲撃も知らなかった。まして、軍全体が揺れ動いていることなどを知る由もなかった。
ユカルが乗艦している戦艦のレーダーが、北からやってくる敵の艦隊と東からやってくる味方の艦隊を捕えていた。
「援軍は戦艦3隻、航空母艦1隻、輸送艦1隻です。戦闘機も上陸部隊もあるようです。街ぐらいは占領できそうです。敵の艦隊は3隻、2隻は何ですか巡視艇のようで、後ろの1隻は小さい空母ですか。離れて後ろに軍艦1隻。変な隊形です。援軍が来るのと、敵がミサイルの射程距離に入るのが同時ぐらいです。どうします?」とササド艦長。
「味方と挨拶をするのを、敵が待ってはくれまい。射程距離に入ればミサイル攻撃だ。」とユカル。
2人とも勘違いをしていた。最後尾の軍艦はミサイルで撃沈した艦と同じ外観であったから、同じように攻撃すれば撃沈が可能だと思ってしまったのだ。ミサイルが撃ち落とされたら逃げるという最初の予定が念頭から消え去っていた。
敵の最前列の艦2隻が、ミサイルの射程距離に入った。ササドは発射命令を出す。轟音を立ててミサイルが飛んでいく。100%命中、そう信じて双眼鏡を覗くユカルとササド。
2隻の護衛艦、あたごとはぐろは俗にいうイージス艦である。ミサイル迎撃はお手の物、あたごに向かって来たミサイルは難なく撃ち落とされた。はぐろから対艦ミサイルが発射される。
「マズい、ミサイルが撃ち落とされた。えっ、発射されたミサイルがとんでもない所へ飛んでいく。」とササド。
「あれは援軍の艦隊の方向だ。あんな遠くまで。」とユカルが言った時、ドカーンと爆音が響く。
航空母艦が爆発、戦闘機が飛び立つ間もなく、傾いた艦から海に滑り落ちる。日本は最初に航空母艦を狙ったのだ。
味方の戦艦からミサイルが発射されるが、すべて空中で爆発。相手が発射したミサイルは確実に命中。
「こちらに来るぞ。」とユカル。
ドカーン。なすすべもなく艦が傾いてゆく。「退艦。」「退艦。」怒号が飛び交う。
戦艦や輸送艦から白旗が上がる。護衛艦かがからヘリが飛び立ち、カメリル語、すなわちフランス語で大音量の警告が放送される。
「ここはスリム王国の領海である。海中にいる乗組員を救助して、すぐに立ち去れ。繰り返す・・・」
海中の浮遊物にすがっているユカルは初めてこの場所が日本ではなくスリム王国という国であると知った。輸送艦に乗艦していたイマト中尉とその部隊は、やっと上陸できると思ったのに、再び引き返すことになりうんざりしていた。戦艦1隻、輸送艦1隻の退却である。
スリム港湾基地は、カメリルの砲撃により破壊されており、護衛艦が停泊することができない状態だったので、護衛艦あたごだけを港湾沖に残し、帰還することになった。
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ガーゴの元カメリル軍港は、カメリル国の報復もなく、リベルテの貨物船が停泊し、商品の積み下ろしで、活気に満ちていた。 海軍基地は交易のための湾岸事務所となり、役人や商社の社員などの出入りが多くなっていた。陸軍基地には、リベルテから購入した戦車やロケット砲などがあり、反乱軍の民兵や警官などで再編された兵がいた。これらの兵の指揮権は庁舎で市政を担当しているテーゴ市長にあった。
メイキ大尉はリベルテに帰国し、バーダン国家主席にシェラリベ共和国とガーゴ都市国家の同盟について説明をしていた。
「それにしても、ミキという人は凄いですね。特殊部隊が見違えるように逞しくなった。実戦訓練なんて誰も思いつかないですよ。只者ではない。」とメイキ。
「敵国の我が国に1人で忍び込んで、二ホンを勝利に導く工作をしていたんだ。只者でないことは最初から分かっている。それはそうと、ミキさんは?」
「ガーゴに残って特殊部隊の実践訓練だそうです。カメリアに潜入するそうですよ。それから、訓練を終えて帰ったら、隊員たちの特別昇級と報酬をお願いしますと言ってました。」
「わかった。ところで、お前、レアルと懇意だよな。大統領選に出馬するよう説得してくれないか。お前の部下も引き連れて。」
「海軍で研修の時にお世話になっただけです。その後、お付き合いはしてますが。」
「それでもいい、説得してくれ。この国を任せるのはあいつしかいない。」
バーダンは三木に言われたことを思い出していた。
(人材はそこにあるのではなく育てるものですよ。今まで何をやってたのですか。)
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二ホンを攻撃するつもりで送り出した艦隊が、航空母艦と戦艦3隻を失って、しかも1矢も報いず帰還したことを知ったイカサス軍務大臣は頭を抱えていた。海軍出身のイカサスは戦艦のミサイルは無敵だと思っていた。それが、まったく通用しない艦があるのだ。二ホン、それからスリム王国。
イカサスはユカル大佐の報告から航空母艦と戦艦3隻を沈めたのはスリム王国の艦だと思っていた。二ホンと勘違いをしてスリム王国を攻撃して反撃されたからである。
ユカルは、ガーゴの海軍基地に戻るつもりでいたが、カメリルに帰国してその基地が奪われたことを知った。ユカルはガーゴの基地の奪還を強く主張したが、受け入れてもらえなかった。
ガーゴはユカルの出身地に近い街である。ユカルのフルネームは、ユカル・ラ・トーベ、トーベ地方の名家の出で、母ハルル・ラ・トーベが正義院議員である。父も健在であるが、父は養子で名家の長女であった母が家督を継いでいた。
ユカルは、ガーゴの基地を奪還できないことも不満であったが、それ以上にトロル少佐の若造が海軍基地までやってきて幅を利かすのが気に入らなかった。目ざとい海軍の幹部たちは、やがて自分たちの上になる若造にゴマをすっている。ユカルはトロルの陸軍での評判を知っていた。自分勝手で臆病で卑怯な奴だと。
トロルのフルネームはトロル・ラ・ナーイ、出身地のナーイ地方はトーベ地方の東側に隣接している。もともとナーイ家とト-べ家は隣同士で仲が悪かった。トロルの父トスカ・ラ・ナーイが執政官になってからは、反対することもできなくなったが、それまでは正義院議会でもよくトスカとハルルは対立していた。執政官は意見を言うのではなく、議員の意見を参考に政治をする役職だから、不信任以外に対立はできないのだ。
セイルの父を殺害したのは?次回明らかになる