陣地に戻ったスマル少尉はイマト中尉に報告していた。
「調べた建物の地下への入口はエレベータでした。どの建物にも地下への入口があるとみて間違いなさそうです。でも、ロボットへの対処が難しくて地下への潜入は無理のようです。」
「無理でも潜入して調べないと、対策の立てようがない。戦っているのは、地下にいるロボットと亜人なのだから。」とイマト。
「そうですね。見つけたエレベータからだと戻れなくなる恐れがあるから、壊れた建物の階段からもう1度潜ってみましょう。夜でないと地下へは行けません。亜人以外、人は囚われの身のようですから、見つかると敵と分かってしまう。」
地下都市については、まだ何も分かっていない。最初の限られた場所の侵入で、広大な地下都市があり亜人が住んでいて、人は囚われているとしか判明していない。ロボットや亜人との戦いを有利にするためには、地下都市国家の様子をもっと探る必要がある。そうでないと、対策の立てようもないのだ。
・・・・・・・・・・
カメリル国の聖都カーレンでは、イカサス軍務大臣が陸軍基地の本部に出向いて、トロル少佐と会っていた。イカサスはかつて部下であったユカル大佐を呼びつけることができるが、トスカ執政官の息子であるトロルを呼びつけるのは躊躇したのだ。そんな過剰な配慮が、名家出身でもないイカサスを大臣まで押し上げたのだ。
「どのような御用でしょうか。」とトロル。
「まあ、おかけ下さい。」とイカサス。「かけたまえ」ではない。
「実は、ご相談がありまして。ご承知の通り、西の属国は逆らうし、東のコンガも手強いし、戦況は思わしくなく、何とかしなければ政権も危うい。そこで、トスカ執政官殿がおっしゃるには、ここで宣戦布告をしている二ホンか、コンガか、両方は無理でも、どちらかを征服する必要があると。トロル殿のご意見を伺いたくて。」
軍務大臣が意見を聞きに来たのである。トロルは悪い気はしなかった。
「二ホンを攻める方がいいと思います。コンガはロボットで手強い。」とトロルは答えた。
トロルはコンガで痛い目にあっていたが、二ホンに痛い目にはあっていない。遠いところにある事は知っていたが、コンガよりはるかに攻撃しやすいと思ったのだ。
イカサスは海軍出身だから、海軍から入ってくる情報で、二ホンが非常に手強いということを聞いていた。気持ちはコンガ攻めであったが、トロルの意見を尊重して、二ホン攻めを決心した。
そして、ユカル大佐を軍務省の大臣室に呼びつけた。
「何ですか、今度は?地方軍はダメだと言ったでしょう。」と、ユカルはガーゴ攻めを責めている。
「違う、今度は遠征だ。航空母艦も空軍も陸軍もつける。指揮官として行ってくれ。」
「どこへ遠征ですか。」
「二ホンだ。」
「二ホン?無茶です。以前行った所は、二ホンではなかった。場所も分からないのに。」
「前は間違っていたんだ。ここから西へ行ったから、別の場所に辿り着いた。スパンの捕虜は西から来ると言った、スパンの西だ。前に行ったところに陸があった、それより北に行けば二ホンに辿り着く。」
「辿り着いたとして、攻撃はできません。二ホンは強い。」
「やられたのは、二ホンではなくてスリム王国だろう。そこと戦うのを避けて二ホンに向かえばいい。スリム王国は強かったが、二ホンが強いとは限らない。ユカル、お前はまだ二ホンと戦ってはいないんだろう。」とイカサスはユカルを説得しようとする。
「命令であれば仕方がないですが、大臣、誰の案ですか。こんなバカなことを考えたのは?」
イカサスはトロルだとは言えなかった。ユカルがトロルを嫌っていることを知っていたからだ。イカサスは軍部の人間関係の把握にも長けていた。
「トスカ執政官だ。」ユカルがトスカも嫌っていることも知っていたが、この方がいいと思った。
「しょうもない執政官ですね。この国はどうなることやら。」
・・・・・・・・・・
ゴンガのカメリル陸軍基地にカーレンの陸軍本部から使いが来た。イマト中尉とその部隊にまた帰国命令だ。スマルはその使いに「私は?」と尋ねたが「何もでていない。」と言う。イマトは「帰国の理由は?」と聞いたが「知らない。」と答えた。
陸軍基地からイマトとその部隊がいなくなると、兵の数が激減する。イマトは中尉でその部隊の数は100人、スマルは少尉で部隊は50人、半減ではなく、3分の1になるのだ。
スマルはそれでも地下都市に潜入することを諦めていなかった。攻撃に特化した人型ロボットが自らを創ることを覚えたら、手の打ちようがなくなし、そうなると人類の危機だと思っていたのだ。
潜入は少人数、多くの人を必要としない。だから、イマトの部隊の撤退は問題ないと考えていた。建物への侵入から1か月後に潜入するつもり、闇夜の必要があるからだ。
スマルはまた闇夜に10人の部下を連れて、壊れた建物にある地下への出入口に来ていた。闇夜を選んだのは、地上の様子がロボットや亜人に知れていることから、地上の監視カメラがある事を察知していたからである。
スマルたちは階段を下りて通路を見る。左が西、森の出入口に通じる。右が東、東へ進む。突き当たると左右への分かれ道。左へ進んだことはあるが、ロボットと出会い、その先がどうなっているか知らない。念のため、前回と同様に3人残す。
スマルたちは右へ進む。そして左に曲がって東へ進む。通路に監視カメラがないことは、通路の移動で警戒されていないことや目視から推定できた。次に通路は左に曲がる。ここに外に出る階段があり、3人残す。
さらに進むと、以前爆破した地下都市への入口がある。外に出る階段もあるので3人残す。前回と同様の配置をして、スマルは部下1人を連れて、地下都市へ。
壊れた扉はそのままであった。慎重に覗く。誰もいない。真っ直ぐ北に進めば、以前と同じ道、1番目の交差点を右に東へ進む。実は以前に入った時に、東側に気になる光が見えたので、それが何か確かめたかったのだ。そして、この道路の右側の溝にきれいな水が流れていることも気になっていた。
以前潜入した経路を思い出して地図をつくろうとしたが、忘れているも多くてできなかったので、今度はメモをとる用意をしている。
やはり、道路は碁盤の目のようである。1つ、2つ、3つと交差点を数えていく。右手の壁は近いから良く見えるが、前方、後方、左手は全く見えない。監視カメラの位置は以前に侵入した道路と同じ配置になっている。今度は監視カメラの眼を逃れるように動くつもりだ。
7つ目の交差点を越えたところが異常に明るい。しかも通常の光ではない。ピンクともパープルとも言える不思議な色だ。光源はガラス張りの建物の中にあり、外に大量の光が漏れている。7つ目の交差点から11番目の交差点までの道路の右側の広い区画がすべて同じガラス張りの建物だ。
スマルは道路脇の溝の水が建物に引き入れられるようになっている場所で首を傾げていた。水は高い所から低いところに流れるものだ。高低の差がないのに水が流れている。溝の水は東から西へ、建物への水路は建物の中へ、水の流れる方向は変わらない。しかも、流れは緩やかだが水量が多い。スマルには、どんな仕組みになっているか理解できなかった。
透明ガラスの部分から建物の中を覗く。なんと、農地なのだ。果樹も植えている。スマルは不思議な光を理解した。植物の光合成に必要な光は赤と青、それだけの光を人工的につくり浴びせている。きわめて合理的な地下の農園なのだ。建物によっては、光の全くない建物もある。多分、この街の様に夜を作りだしているのだろう。植物の開花の条件に夜の長さも関係しているから、調整をしていると思われた。
とにかく、作物を得るために、地上に上がる必要がないことが伺える。スマルは今さらながらとんでもない国と戦っていると思った。
恐るべき地下都市、スマルは戦えるのか?