ボントの街に二ホン人がいるはずと考えて、レストランの老婆に尋ねたら、知らないと言う。ただ、草原のテントにどこの国か分からない人たちがいると言うので、三木は行ってみることにした。
老婆が言った通り、街にはカメリルの兵が溢れている。どうも、街の治安のためではなさそうである。戦闘車両やトラックが街の南の方へ向かって走っている。三木はそれを見て、南の方角で戦いがあるのだろうと思った。
老婆に教えてもらった通り、領事館を通り過ぎて、街はずれまで来るとカメリルの兵がいる。向こうの草原にテントがいくつもある。まるで、難民キャンプである。
兵に呼び止められる。消音銃で撃てばいいのだが、騒ぎは起こしたくない。
「どこへ何しに行くのか。」と尋ねられたので、「商売でテントにいる人たちの必要な物の注文を取りに来た。」と答える。袖の下の砂金を渡して。
嘘を1度つくと、嘘を何度も重ねないとならなくなるので、嘘はつくなというのがサンマル教の教えなのだが、三木はそれが嘘だと思っていた。何度も嘘をついて生きてきたが、重ねる必要なんかなかった。
草原のテントへ向かう。兵が何人もいる。難民キャンプというよりも捕虜収容所だ。見回りの兵からこのテントの民には代表がいると聞いて、その兵に代表がいるテントを案内してもらった。もちろん、たんまり袖の下を渡して。
テントには老人がいた。二ホン人ではなかった。コンガ共和国の民であった。でも、その老人にコンガはロボットの支配する国であることを教えてもらって、三木は、スパン南基地で見たロボットの写真や映像を思い出した。ロボットが支配するまで、地下都市ルマナには50万人もの人々が住んでいたが、今はどれだけ生きているか分からない、ほとんど亜人と変わっていると言った。少なくとも亜人が30万はいる、地下都市ルマナには、水も食料も充分あるという。
「どうして、ロボットが反乱したのですか。人の為にロボットを造ったのでしょう。」と三木。
「人工知能によるロボットの学習もあるが、人がロボットを壊そうとしたからだ。」と老人
「ロボットを壊そうとした、なぜ?」
「怖くなったのですよ、あまりにも人に似てきたから。」
三木はかつてロボット工学の学者が「不気味の谷」という論を展開していたことを思い出した。
人間は命のないはずのものが動くことに対し、本能的な死の恐怖を覚えるもので、ロボットが人に近づくとその一線があるというものだ。
老人の話に三木は興味が湧いたが、今は二ホン人探しだ。
「二ホン人を知っていますか?」と三木。
「二ホン?聞いたことがない。」
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カーレンに向かったセイルは、トラックの荷台で考えていた。自分が嫌うミキという男と同じ二ホン人であるという衝撃的なことと、その詳細を知っているカイルの今までの過剰な親切を繋ぎ合わせようとしていた。
ミキの部下と思われる男二人は、運転席と助手席にいて、荷台に1人というのも、考え事をするには好都合であった。繋がりそうで繋がらない2つの事柄にイラついていると、急にトラックが停まった。
ツイクの街を出る直前で、この不審なトラックは警察に停められたのだ。ツイクの街に警察もいない、検問もないと思ったのは誤りであった。来るときにいなかったのは、夜間だったからだ。
「何事ですの?」とホロを開けて、セイルが顔を出す。それを見た警官が敬礼をする。
「ご苦労様です。急いでいますの、通してもらいますよ。」
運転席と助手席の男2人は顔を見合せた。
ツイク街を出てツルゴの街に向かっていると、荷台の方からドンドンと叩く音が運転席の背でする。トラックを止めて、助手席の男が降りて荷台を覗くと、セイルがにっこり笑って言った。
「朝から何も食べてなくて、おなかが空きました。ツルゴの街に入ったら、レストラン、どこでもいいわ、食べ物屋で停めて下さい。」
ツルゴの街に入った。すぐに、道路わきに広い駐車場のあるレストランを見つけた。トラックを駐車場に入れる。トラックから降りた3人はレストランの入口まで歩いて行く。
セイルが、「ちょっと、ここで待ってて。」と言って、レストランに入って行った。しばらくすると、店員が来て、隊員2人を案内する。テーブルで何人かの客が食事をしているが、空いているテーブルも幾つかある。セイルはいない。
隊員たちは奥の個室に案内される。セイルが座っていて、隊員たちが席に着くと、店長らしき男がメニューを持ってきた。
「セイル様、本日はご来店ありがとうございました。」と頭を深々と下げ、メニューを渡した。そして、隊員たちにもメニューが配られる。
「コーンスープにサンドウィッチ、後でコーヒーをお願いしますね。皆さんは、好きなものを注文してください。」
また、隊員たちは顔を見合せた。しばらく、碌なものを食べていない。2人が注文したのは、ビーフステーキのフルコース。
隣街のレストランの人がセイルの名前を知っているだけでも驚きだったのに、食事を終えてレストランを出るときに、隊員たちはセイルという少女の信用の高さを目にする。
レジで請求書を渡された時、セイルはサインをしただけであった。金額を明記したレシートをバッグに入れると、「ごちそう様、おいしかったですわ。」と言って、レストランを出た。
メニューを持ってきた店長らしき男が外で見送っている。トラックの運転席と助手席に戻った隊員たちは、三木がこの少女を恐れた理由が少し分かったような気がした。
レストランの駐車場を出たトラックは、ツルゴの街で停止を求められることもなく街中を走り、やがて街を出る。来た道を走って、回り道の砂利道に入ると、また、荷台の方からドンドンと叩く音。
「どうして、真っ直ぐ行かないのですか?」とセイル。
「渡しではトラックは乗せれない。」と助手席を降りた隊員。
「置いておけばいいでしょう。向こう岸に着いたら、車を手配しますよ。」
セイルが手配する車に隊員は興味を持ったが、トラックを置いて帰ったら特殊部隊が移動できなくなり国に帰れなくなる。
「このトラックでカーレンに戻る必要があるのです。道が悪いが、我慢をしてください。」と言って、助手席に戻った。
トラックは砂利道を進む。そして、悪路の回り道を長時間走って、舗装された道路に戻り、カーレンに辿り着いた。
2人の隊員はセイルをアジトであるアパートに連れて行き、メイキ大尉に三木からの指示を伝えた。メイキとセイルは初対面ではない。シェラリベ共和国で会っている。セイルはすぐにリベルテの軍人だと悟ったが初対面の振り。メイキも覚えていたが、忘れている振りをしていた。
セイルの顔をまじまじと眺めながら隊員の説明を聞いていたメイキは、説明が終わると、セイルに手を差し出して、「セイルさんとやら、メイキです。よろしく。」と握手を求めた。セイルはそれを無視して、「あなたがここのボスですか?」と尋ねた。
「ボス?まあ、そんなところだが、セイルさん、部屋を1つ確保しているから、ここに泊まってもらうぜ。」とメイキ。
「その必要はありませんわ。カーレンには自分の部屋があります。」とセイル。
「勘違いをしては困る。あなたは自由に動けるが、我々の目の届くところでだ。今夜は、ここに泊まってもらう。明日は、一緒にカイルとかいう人に会いに行こう。」
セイルはメイキを睨みつけたが、従うしかないことを悟っていた。
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ボントの街の三木は、二ホン人の手がかりを1つも掴めず、失意のまま老婆の経営するレストランの一室に泊まり、翌朝、気を取り直して聞き込みでもしようと、レストランで朝食をとっていた。
そこへリュックを背負った小さな女の子を連れた女性客が入って来て、食事を注文していた。三木は何気なくそれを見ていたが、はっとしたように1点を凝視した。女の子のリュックに付いているキーホルダーのような飾りに目が留まった。どうみても日本の城の形をしたキーホルダーだ。
三木は食べるのをやめて、その女の子の所へ歩み寄り、「お嬢ちゃん、そのリュックの飾り、どこで手に入れたの?」と尋ねた。母親なのだろう、女性客が警戒をする。
「急にすみません、リュックの飾りが気になったもので、どこで買ったのか教えていただければ。」
何と言おうと突然声をかけてきた見知らぬ男、しかも女の子に、変質者としか見えなかった。
女性は目で店の人に助けを求めた。
奥から老婆が出てきて、女性に男が二ホン人を探していること、女の子のリュックの飾りが二ホンのものであることなどを説明した。
やっと警戒を解いた女性が答えた。
「買ったのではありません。いただいたのです。」
「どこで?」と三木。
(どうみてもあの飾りは日本の城、白鷺城。日本のものだ。)
「是非、教えて下さい。」
三木の異様な懇願に呆れながら、女性が言った。
「食事が終われば、いただいた花屋に案内しますから。」
「すみません、失礼しました。」そういって三木は自分のテーブルに戻った。
待つ時間は長い。三木は朝食を終えて、チラチラ女の子の方を見るがまだ食べている。やっと終わったと思ったら、今度は女の子がトイレ、ホンの数分だが長く感じる。女の子が戻ってくると、女性がこちらを見た。三木は席を立って、女性と女の子の後をついて行く。
三木の二ホン人探し、見つかるのか?