トーベ共和国の首都トレツでは、東部の戦況が思わしくなく、カメリル軍に防衛軍が押されて後退していることは伏せられていた。海戦の戦果だけが報じられて、都合の悪いことは隠すという戦争中の国にありがちなこと、地方軍がいても援軍を出さなかったのは東部の戦況を隠すためだった。地方軍が出向いても、役に立たないことも確かではあるが。
ガーゴ都市国家では、トーベ共和国からの同盟依頼と援軍要請がひっきりなしにきていたが、昨日まで攻めてきていた軍が、今日は味方になろうと言われても、はいそうですかと言うわけにはいかなかった。
ただ、リベルテから購入した戦闘車両や武器、特に10基も購入した必ず命中するという魔法のロケット砲を試してみたくてウズウズしていた。魔法のロケット砲というのは、ガーゴには誘導弾というものがなく、必ず命中する魔法のようなロケット砲と呼ぶ以外に言葉がなかったのである。それは製造元のリベルテでも同じであった。リベルテの特殊部隊もロケット砲と呼んでいる。正確には携帯用誘導弾発射装置であり、ロケット砲とは異なるものであった。
リベルテの特殊部隊の隊員による指導も終わり、同盟はさておいて、援軍を少し送ってみることになった。トラック2台にロケット砲10基とその部隊10人、戦車5台、自走砲5台がトレツに向かって出発した。
カメリル軍は次々と集落や村を占領しトレツへと迫っていた。そして、トレツの街が攻撃できる位置に陣を張って、砲弾や弾薬などの物資が届くのを待っていた。
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バーダン国家主席に挨拶を終えた三木は、セイルを連れてリベルテ国際空港に戻っていた。そして、日本の民間機西方大陸東岸空港行きに乗り込む。セイルはその民間機の大きさに驚き、プロペラがないことに首を傾げていた。カメリルのジェット機は戦闘機だけで、民間機はジェットエンジンではない。しかも、それが翼に付いていることは驚愕でしかなかった。
航空機の離陸の様子が座席のモニターに映し出される。三木は何の興味も無さそうに、目を瞑って寝ている。ガーゴからリベルテへの飛行との違いは甚だしい。
窓のない航空機であったが、セイルには、モニターの映像やイヤホンの音声に興味を抱いた。言語は日本語とフランス語が使われていて、セイルは意味の分からない言語が日本語だろうと思った。セイルは分かるカメリル語(フランス語)と分からない日本語とを対比させて、日本語を記憶していた。
セイルは航空機の乗り心地の良さにも驚いていた。離陸のときは緊張もしていたのか、圧迫感を感じたが、シートベルトを外した後は、動いているものに乗っている感じが全くしなかった。このような航空機を運航している日本がどのような国か、しっかり見てやろうとセイルは思った。拉致されたと意識していても、モニターとイヤホンで日本語を習得しようとするセイルは只者ではない少女であった。
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コンガのカメリル陸軍陣地のスマルのもとへ、イマト中尉の部隊はトーベ征伐に遠征している旨の連絡があった。イマト部隊の要請は諦めたが、再三再四、ロケット弾と戦車の砲弾を補給するように、本国の陸軍本部に連絡をしていた。しかし、暫く待ての返事ばかりであった。
コンガの亜人兵がまた陣地を襲撃してくる。いつものように塹壕に伏せて待ち、近づくと銃撃すればいい。戦車の砲撃はもったいない。砲弾も無尽蔵にあるわけではない、ロボット対策に置いておく必要がある。ロケット弾の少ない現状では、頼りは砲弾だけだ。
亜人の銃撃はただ前方に射撃しているだけ、簡単に撃退できる。そう、思っていたのだが、今回は様子がおかしい。届きもしない位置から闇雲に撃ってくるのに、撃ってこない。しかも、人数も少ない。
おかしいと思いながら眺めていると、後方からロボットがやって来る。しかも、大量に。今まで、ロボットが陣地に攻めてくることはなかった。こちらが侵攻した時に攻撃してきただけである。一体、何が起こったのだろうか。
スマルはロボットに対して、戦車の砲撃と残り少ないロケット弾の攻撃を指示した。
今まで、コンガのカメリル陸軍陣地にロボットが侵攻してこなかったのは、ロボットのエネルギー、つまり蓄電池の問題であろうと考えられていた。
スマルは侵攻してくるロボットの姿を見て、その問題が解決されたことを悟った。ロボットが箱型の荷物を背負っているのである。それが蓄電池であることは紛れもなかった。
スマルはすぐに勝算が閃いた。
(地下であれば数少ないロケット弾しか使えないが、地上であれば戦車の砲撃ができる。幸い、砲弾はまだ十分ある。蓄電池を背負っていても動けなくすれば同じ、破壊までの時間が長くなるだけだ。)
スマルは戦車を前進させ、ロボットの足を砲撃させる。そして、次々とロボットの動きを止める。動けなくなったロボットも戦車を銃撃してくる。
ババババ カキン カキン
戦車に命中するが、戦車は微動だにしない。さらに東へ侵攻すれば、亜人の操作するロケット弾の脅威にさらされるが、この位置に届く発射装置は破壊済みである。
ドン ドン ドン
戦車の砲撃が続く。移動できないロボットが増えていく。
その様子を眺めていたスマルは、奇妙なことに気が付き、すぐに、隣にいた部下に指示した。
「全軍、退却。特に発電機など、電源装置は全てトラックに積み込め。急げ。」
そして、残しておいた1台の戦車に乗り込み、砲撃している戦車の列に加わる。
「全車、砲撃しながら、後退。全軍退却の時間稼ぎだ。」
指示を受けた部下たちは、快調に敵を攻撃しているのに、まだ砲弾も残っているのに、退却の意味が理解できなかった。しかし、スマルへの部下の信頼は厚い。指示された通り行動する。
スマルは気が付いた。動けなくなったロボットを回収していない。最も恐れていたことが起きた。回収しないということは、その必要がない、いくらでも造れるということ。人に偶然があるようにロボットにも偶然がある。カメリル人が及ばない発明をロボットが成し遂げたのだ。
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西方大陸東岸空港に着いた三木とセイルは、空港前のバス停からバスに乗って日本の公事館に向かった。ハリーの住んでいる集落へは集落以外の者は自由に出入りできない。
三木は、集落の人たちには集落の者と認められて家までもあるが、検閲する側は認めていない。セイルがいるから、以前、集落を訪問した時の様に、森から密かに侵入するわけにもいかないので、公事館で許可を得る必要があるのだ。
公事館は通産省の管轄になっていて、三木の知り合いは一人もいない。職も退いているから、権限も何もない。通常では許可は下りないのだが、三木には当てがある。ハリーである。
ハリーは単なる集落の長ではなく、日本にとっては西方大陸東岸地区集落の代表、日本の食糧危機を救った国賓級の代表なのである。電気もガスもない集落であるが、ハリーの家には公事館と繋がる携帯電話機があり、定期的に取り換えられている。
公事館に入ると、職員にジロジロ見られる。場違いの親子連れに見えるのだろう。受付で、「東岸地区集落のハリーさんと連絡が取りたいのですが。」と三木。
ハリーの名前を出しただけで、職員の態度が変わる。
「あなたはどなたですか?どのような御用ですか?」
「三木と申します。そう伝えてくれれば分かります。」
事務室の奥で連絡している様子が見える。連絡を終えた職員がやって来て、
「コリーという方が迎えに来るそうです。こちらへ。」と言って別室に案内される。
ソファがある、応接室のようだ。座って待っているとお茶まで出てきた。
コリーがやって来て、「帰ったか!」と言って、セイルを見て黙った。セイルをジロジロ見ている。
「誰だ、この娘?」とコリー。
「いやあ、ちょっと。」とお茶を濁す三木。
怪訝な顔をして、コリーは三木たちを車に案内する。
驚いたのはセイルである。熊耳の男、どう見ても普通の人間ではない。気味の悪い男が案内人である。(言語は日本人と会話をしているのだから、日本語のよう。蛮人というよりも亜人と言った方が適切。顔は、以前死骸で見たラーテルのような顔とは違って、人間とよく似ているが。)
セイルはそう思った。
コリーの案内した車は日本製の軽自動車、ワンボックスカーである。コリーの運転で三木とセイルは後部座席。集落の人たちは誰も運転免許を持っていないし、なくても罰せられない。
「この車は?」と三木が声をかける。
「長のものです。日本の公事館との連絡に使っている。」とコリー。
東岸地区の湾岸からコリーたちの集落まで舗装された直線道路。途中の検問所もコリーの顔パスのようだ。すぐに、集落に着いた。
三木はどうしてハリーの集落へ、単なる帰宅ではない?