カメリル国の陸上部隊は北方の山脈を眺めながら、草原を西へ西へと進んでいた。
進めど進めど同じ景色、出会うのは動物ばかりで、町や村はおろか集落もない。単調な毎日で、隊員たちの口数も少なくなり、士気も極限まで落ちていたが、ガソリンエンジンは休むこともなく、車両は草原を走っていた。
やがて、山がだんだん低くなり、海は見えないが北へ進行できるようになった。
部隊は進行方向を北に変え、行く手を阻んでた山脈が右手後方に見えるようになると、北東に進路をかえた。
そして、カーゴの街を出発してから8日目、トロル中尉がマーヤ曹長の提言を受け入れ、失意の表情でセイル外交官に引き返すことを告げようとした時、「町がある。」と誰かが叫んだ。
北東の方向に建物が見えてきたのだ。
トロルだけではない、みんなの士気が上がった。砲弾などの確認をして攻撃の準備をし、町に砲弾が届くところまで進行して行く。そこで、部隊は進行を停止する。戦車5台、自走砲3台が横並びに前列、その後ろをトラック3台、最後尾を武装警護車。三角形の隊形に配置して、敵の様子を伺っている。
「気付いているはずなのに、攻撃してきませんね。」とアビル少尉。
「もっと近づくのを待っているのかも。敵の砲はここまで届かないのだ。」とトロル中尉。
「なら、攻撃しましょうか。」とアビル。
「戦いに来たのではない。交渉に来たのだ。」とセイル外交官。
(また、余計なことを、小娘が)とトロルは思ったが、
「誰かを様子見に行かせましょう。もし、攻撃されれば反撃しますよ。」と言って、偵察隊を出すようアビルに指示した。
3人の偵察隊員が銃を構えて町に向かって歩いて行く。それをトロルは双眼鏡で追っていく。1人でも倒れたら、砲撃を開始するつもりだ。
3人の姿が家陰に消えた。緊張の時が流れる。しばらくして3人が姿を現し、戻ってくる。
「誰もいません。もぬけの殻です。」
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実は、1週間ほど前のこと。アコリ中尉がスパン南基地にやってきて、「港町セルルで迎え撃つ」と言った時、日野は思った。
(ロマスクにはロケット砲があるから、戦車や自走砲の何台かは破壊できるかもしれない。しかし、ミサイルのある国、戦車や自走砲の破壊力は計り知れない。セルル全滅もありうる。)
そして、「参戦はできないがアドバイスはできます。港町セルルで迎え撃つのはよくない。」と言って、注目するアコリとネントに説明した。
「撃退できるかもしれないが、被害が大きいはず。ここは退いて、セルルの人たち全員が避難して、町を空っぽにして迎えることです。時間はたっぷりあるし、幸い、陸上部隊だけのようなので、それ以上は侵攻できない。こちらには船があるから、それで交渉なり攻撃なりをすればいい。」
アコリはセルルを明け渡すことに不満であったが、以前日野の指示に従ってうまくいったことを思い出し、日野の案を受け入れたのだった。
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カメリル国の陸上部隊は、無人の町に入り、港湾の近くにある町の一番大きな建物を本部として、その建物に国旗をたてた。スカイブルーの生地に火口が赤で茶色の山が中央に配してある国旗である。中央の火山は、標高4100mの最高峰で国名にもなってるカメリル火山を象徴している。
「臆病な連中ですね。戦いもせず逃げ出すなんて。」とアビル。
「我が国の戦車を見たら、敵わないと思ったのだろう。賢明な選択だ。」とトロル。
二人は占拠し本部にした建物の1室で、集落で略奪したワインを飲みながら話していた。
「で、これからどうします?」とアビル。
「この町はカメリルのものだ。儂は国に帰って占領の報告と、ここへ物資と兵を運ぶように指示する。
お前はここに残り防衛の指揮をとれ。取り返しに来るかもしれないからな。攻撃車両と砲弾、弾薬は残しておくから、すぐ逃げる臆病者は撃退できるだろう。」とトロル。
トロルは上機嫌であった。1つの町を占領したのである。無人であるかないかは関係ない。記録には「トロル中尉指揮のもと1つの町を占領」と残るだけである。確実に実績になる。トロルはすぐにでもセイルを連れて帰国したかった。
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三木はマイト大尉と一緒にスパン南基地に来ていた。
「三木さんは退職なさったと伺っていたのですが?」と日野。
「辞めたよ。で、今はリベルテの手伝い。そうそう、紹介しよう。リベルテのマイト大尉。日野さんは知らないんでしょう?」
「知ってますよ。武装艇で宮殿に侵攻してきた人、あのときお会いしました。こちらも紹介します。スパン王国のネント中尉です。・・こちらは二ホンの三木さん。・・・・・で、今日は何の御用で?」
「得体のしれない奴がやってきてるそうだが、日本はどうするのかと思ってね。」と三木。
「どうもできませんよ。静観。」
「そうだろうと思ったよ。でも状況はつかんでいるのだろう。それを教えて欲しい。」
日野は三木が只者ではない男だと思っていて、何かを企んでいると感じていた。
「部外者に情報は出せません。それに日本はノータッチです。三木さんは日本人ですから、この件に手を出しては、問題になります。」
「何を言ってんだ。あなたは自衛官で背中に日の丸をつけているが、俺は退職して何もつけていない。単に民間の日本人で取引先のリベルテの仕事をしているだけだ。あなたが出て行けば問題になるかもしれないが、俺が出て行っても何の問題にもならない。」
「あなたという人は・・・。状況だけ教えましょう。」
日野の提言で港町セルルから住民も漁船も避難して町を空っぽにしたこと、その町を陸上部隊が占拠して国旗のようなものを掲げていることなどを伝えた。
「さすが日野さんですね 。海を渡ることは不可能だ。で、偵察ドローンを出してくれませんか?」
「できない。」
「なぜ?」
日野はにっこり笑って、「日の丸を背負っている我々は動けない。」と言った。
「そうですか。俺が動くのは問題ないですね?」
「問題ない。」
「ドローンと操作盤、それから携帯モニターを借りて、俺が、私が操作する。問題ないですね。」
「・・・・負けましたよ。貸します、ではなくて、譲ります。ちょうど、新しいのと入れ替えで、廃棄になる偵察ドローン一式がありますから。」
「ありがとうございます。ロマスクの人と誰1人面識がありません。日野さんは軍の人と面識があり、影響力もあるようなので、ついでに、三木という日本人がいくまで動かないように、三木という男の指示に従うと必ず勝つと連絡してください。すぐに出発します。偵察ドローン一式、やってきたリベルテの飛行機に積み込んでください。」
そう言って三木はマイト大尉を促すと、スパン南基地の指令室から出て行った。
呆気に取られていたスパン王国のネント中尉は、「何ですか、あの男は?」と言った。
「只者ではない男ですよ。」と日野が答えた。日野はやがて日本がセルルを占領している国と衝突すると感じていた。そして、三木もそう感じているのだろうと思っていた。
三木はどうする?