ボントの領事館長に本国へロボット対策を依頼するよう直接お願いに行ったスマルは、戦場となったテントの集落に来ていた。そこにはロボットの破壊された残骸と穴だらけのテントがあるだけで、ロボットは1体もいなかった。やはり、充電の必要があり、引き返したと思われる。
戦いで荒らされた農地もあるが、ほとんどのコンガ人の耕した広大な農地は何事もなかったかのように作物が育っていた。スマルは、このまま農地が荒らされずに済むとは思っていなかった。ロボットは必ずまた来る。ここを戦場にしてロボットの侵攻を止めなければ、ボントの街の電気を使用されて手がつけられなくなると考えていた。
ボントの領事館長から、ロボットの侵攻でボントの街が危ういとの連絡を受けたカメリルの政府は、イカサス軍務大臣の提案を実行に移すことにした。イカサスはイマト中尉やスマル少尉の報告からロボットの弱点は電気だと見抜いていた。元陸軍陣地とボントの中間地点に並べられた箱型の充電器を爆撃することはもちろん、電気の大元、原子力発電所の爆撃を提案していたのだ。そして、トスカ執政官の許可が必要なこと、原子爆弾の使用を求めていたのだ。
カメリル空軍の爆撃機が2機、1機は元陸軍陣地とボントの中間地点へ、もう1機は地下都市ルマナの東の端にある原子力発電所へ向かっていた。
天気は晴天、視界良好、眼下に箱型の充電器で充電しているロボットや充電器を運んでいるロボットが多数見える。爆撃機は大きく旋回して大量の爆弾をばら撒いていく。爆発音と共に土煙が一面に舞い上がる。爆弾の威力は凄まじい。並んでいた充電器は飛び散り、ロボットは手だけが動いている。
原子力発電所に向かった爆撃機は、5基の原子炉が並んでいる発電所を見つけると、その位置から遠く離れて旋回し、飛行速度と高度を調整して、1個の大きな爆弾を落とした。ウランの核分裂を利用した原子爆弾である。
発電所に落下した爆弾は凄まじい轟音と目も眩むような閃光を伴って大爆発をした。爆撃機は振り返ることなく飛行して、ボントの空港に帰っていった。立ち上った巨大なきのこ雲がボントの街からも見えるほどだった。
発電所の機能が止まった地下都市ルマナは、単にライトが消えて暗闇の世界になるだけではない。空調も気温も全て電気で調整していたのだから、人も亜人も住めなくなる。奴隷収容所の人たちも亜人も生き延びるために地上へ出る。待っていたのは、焼け野原になって何もない放射線の降り注ぐ世界だった。紫外線の耐性があるように造られた亜人も、ウランの核分裂による放射線の耐性はない。かつて、人だけで50万都市と呼ばれたルマナは死の都市になろうとしていた。
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カメリル国の原爆投下の様子は、日本の偵察衛星がその一部始終をJAXAの筑波宇宙センターに送っていた。それはすぐに日本政府の危機管理局に転送されて、政府は閣僚会議、防衛会議、各国への連絡など大騒ぎになっていた。
古の民からの手紙、ビデオメッセージは政府の研究機関で細かく分析されて、10万基以上あった人工衛星が全て破壊されるほどの世界大戦があったことは周知のことであった。そんな世界大戦でも、どの国も核兵器を使用しなかったし、原子力発電所を攻撃しなかった。世界の批判を恐れるという事よりも、自らが滅びることを知っていたのだ。
そんな核兵器をカメリルが使用した。しかも原子力発電所に向けて。日本はカメリルが核兵器を持っていることは想定内であった。だけど、使用しないだろうと勝手に思っていたのだ。
1度使うということは2度目、3度目もある。宣戦布告を受けている日本としては、このまま静観するわけにはいかなくなった。
その情報は、西方大陸東岸地区集落のハリーの家で、昼食をご馳走になっている三木にも届いた。
ハリーの軽自動車で定期的に交易の契約にコリーが公事館へ出向いていたのだが、今日もそのために出向いていた。日本政府はカメリルの原爆使用の情報を日本大使館を通じて各国に知らせていた。当然、この公事館にも集落の代表に伝えるように指示があった。コリーはハリーの代理人として全ての契約を任されている。公事館はハリーへの政府の伝達はコリーを通じて行っていた。
コリーは、大きな2枚の写真と日本語の文書を受け取ったが、事の重大さに気付いてはいなかった。日本の文字は読めるのだが、核兵器も原子力発電所もそれが何であるか知らなかったのである。
昼食中のハリーの家にやって来たコリーは、「緊急の連絡だそうです。」と言って、大きな封筒をハリーに渡す。この集落では、相手が今何をしているかなどと考えて遠慮したりはしない。集落全員が家族なのである。一緒に食事をしているセイルは眉をしかめたが、三木は慣れていた。
ハリーは、封筒の文書を取り出し、目を通して、「何てことを。」と呟き顔をしかめた。
「どうしたのですか。」と三木。
「カメリルがコンガに原子爆弾を落とした。」
「何ですって。」三木は口の中のパンを吐き出しそうになった。
「見せてください。」そう言って、ハリーから封筒を受け取り文書を読んで、写真を見る。
「何てことを。」三木はハリーと同じ言葉を発した。
写真には巨大なきのこ雲と真っ黒に焼け爛れた大地が写っていた。
「どうしたのですか。」とあまり日本語の会話に馴染めないセイルが尋ねた。
「カメリルがコンガの原発に原爆を落とした。地下都市ルマナは全滅だ。人も亜人も。」
「ロボットもでしょう、いいではないですか。化け物のような亜人も全滅して。神の思し召しです。」とセイル。
「何を言ってんだ、お前も俺も亜人の血を引いているんだぞ。30万人は亜人が住んでいると聞いた、人も10万か20万はいるという、それらが全滅、みんな死ぬんだ。何が神だ、サンマル教だ。ふざけるな。」
三木はかつて日本の広島に原爆が投下されて亡くなった人が、西暦1945年12月までで約14万人と歴史で学んでいた。その2倍以上の惨劇を想像して怒りに震えた。
隣で三木とセイルのカメリル語(フランス語)の会話を聞いていたハリーは、会話の内容は分からないが、怒りに震える三木の様子と理解ができなくてキョトンとしているセイルの表情から、三木に声をかけた。
「何を話しているのか分かりませんが、そんなに興奮しても、ダメですよ。落ち着いて、丁寧に説明しないと、相手に分かってもらえませんよ。」
「そうですね、ありかとうございます。何も分かっていないようですね。」そう言って三木は笑った。
ついにカメリル、原爆投下、このあと、どうなる?