ガーゴの港の桟橋に降り立ったユカル海軍大将は、ベルン外交官たちを見送ると、辺りを見渡した。軍人の眼から見ると隙だらけの港、でも、人が多くて活気がある。ベルン外交官たちが入っていた建物は、かつてユカルがいた海軍本部の建物、今はガーゴ市貿易事務局の看板、様変わりをしている。
隣の腹心の部下、ササド少将に声をかける。
「どう思う、この港?」
「隙だらけですね、半時で占領できる。」とササド。思いは同じであった。
「大統領はカメリル軍を簡単に追っ払ったガーゴ軍の軍備をよく見てこいと言った。港に大砲の1つもない。どうなっているんだ。」とユカル。
「そうですね。ガーゴは交易で栄えた港町が大きくなった都市、港の守りは大事なはずですが。」
そんな話をしていると、ベルン外交官たちが貿易事務局の建物から出てくる。
「どうしたのですか?はやいですね。」とユカル。
「話になりません。条件も何もない、とにかくNOの一点張り。」とベルン。
「そうですか。交渉相手は?」
「貿易局長で、レンドとか。」
「レンド・・・ちょっと艦で待っててください。」
そう言ってユカルは貿易事務局の建物に向かって歩いて行った。
ユカルが建物の中に入るとすぐに警備員に止められる。
「レンド殿に会いたい。ユカルが来たと言ってもらえれば分かる。」とユカル。
レンドは、カメリル占領時代にカメリルとの折衝係で海軍基地のユカルとの交渉相手だったのである。
そこへ顔見知りの職員がやって来て、「ユカル大佐、どうしたのですか?こんなところに。」と声をかけた。この職員はいつもレンドの側にいて記録をとっていた男であった。
「いいところに。レンド殿に聞きたいことがあるのだ。悪いが、取り次いでくれないか。」
「待ってて下さい。」そう言って職員は去って行った。
しばらくして職員が戻り、ユカルを局長室に案内した。
「お久しぶりです、ユカル大佐。」とレンド。レンドにとってユカルは大佐のままである。そして、レンドはカメリルとの折衝係として働いていた時、ユカルに対して好印象を持っていた。
握手を交わした後、ユカルが言った。
「レンド殿に尋ねたいことがあって、いいですかな。」
「いいですよ、答えられることなら。」
「港の警備のことだ。手薄のようだが、大丈夫なのか。」
「あはは、さすが、海軍の軍人さん。気が付きましたか。でも、大丈夫です。警備員も警官もちゃんといます。表立って警戒していないだけです。」
「いや、そうではなくて、外から攻められると。」
「分かっています、そういうことだと。沖に軍艦が居たでしょう、あの軍艦が守ってくれます。」
「あの軍艦は他国のでは?」
「そうですよ、よその国が守ってくれるのです。実は、リベルテ軍アドバイザーのミキという方の提案で、人口の少ない都市国家は軍隊をいくつも持つのは無理があるから、海軍を解体して陸軍だけにしたのです。特にガーゴは郊外の領地が広いから陸軍を強化する必要があり、海まで手が回らないから、他国の助けを借りているのです。経済的にも助かっています。」
「リベルテ軍アドバイザー?何ですか、どこの国?」
「リベルテはずっと北にある国と聞いています。」
ユカルは察した。貨物船には警護の軍艦がついて来る。ひっきりなしに多くの貨物船が来るということは軍艦もやって来るということだと。
「話は変わるが、カメリルがトーベを攻めてきたとき、援軍を派遣してくれたのに、同盟を拒否するのはなぜ?」
「それは分かりませんが、去年攻撃してきたところが、今年は仲良くしましょうと言っても、ということではないでしょうか。私は、上の方針を伝えているだけですから。ユカル大佐だから言いますけど、同盟はトップ会談以外には成立しないと思います。」
「ありがとうございました。局長になられたのですか。頑張ってください。」
・・・・・・・・・・
銃撃と砲撃の音が鳴り止まないボント郊外の農地では、スマル少尉の部隊に待っていた砲弾とロケット弾の補充が届いた。それらをイマト中尉の部隊にも分配したときには、夕闇が訪れていた。爆撃機の爆撃音も近づいてくることなく途絶えてしまった。やっと爆撃機の運用が始まったばかり、目視できないで攻撃することはできないのだ。
スマルは休んでいた隊員を攻撃に参加させ、攻撃していた隊員を休ませた。ロボットの数は一向に減らないが、スマルには勝算があった。なぜなら、ロボットの侵攻を止めているからだ。もう、10時間も侵攻してきているのに、1歩も退いていない。止めているのである。
動けなくなったロボットを払いのけてロボットがやってくる。それを砲撃する。それの繰り返しが延々と続いている。暗闇は何台ものトラックのライトで照らしだす。的は大きいし、射撃も慣れてきた。砲弾の無駄なく命中させている。
銃撃と砲撃の音が闇夜に響く。いつの間にか空が明るくなってきた。夜が明けてきたのだ。スマルは攻撃をしている兵を休んでいた兵と交代させる。ロボットは疲れないが兵は疲れる。長時間の戦闘ならなおさらである。 残っている砲弾とロケット弾の数をチェックして、さらに追加するよう領事館に、休んでいた部下を走らせる。砲弾とロケット弾さえ尽きなければ勝てる、尽きれば負ける、スマルはそう考えていた。ここで止めておけば、ロボットはエネルギーの補給ができない。エネルギーが切れれば、ただの鉄クズである。
朝の太陽が昇り、荒らされた農地の作物の緑が硝煙の中で鮮やかに煌めく。
・・・・・・・・・・
ガーゴの貿易局長レンドと別れたユカル海軍大将は、桟橋に停泊している巡視艦へと向かう。途中、停泊している貨物船はどこの国の船か、荷を降ろしている作業員に尋ねる。リベルテ国と聞いて、何度も聞き直す。レンド貿易局長が言った国と同じ、ユカルは、ここに来るまで隣のシェラリベ共和国を知っていたが、リベルテ国を知らなかったのである。
ちょうど、ガーゴ国際空港に着陸する飛行機がやって来て頭上を通過する。ユカルはそれを見て戦闘機ではなく、輸送機であることを見抜く。そして、首を傾げる。
(レンドは海軍がないと言った。航空母艦もないはずだ。なのに、輸送機とは。)と思ったが、すぐに気が付く。ガーゴに空港ができていることに。
貨物船からクレーンが荷を降ろす、その荷をフォークリフトが倉庫に運ぶ。そんな作業を眺めながら、自国の巡視艦に戻ったユカルは、トップ会談を実現させて国交、同盟を結ばなければと思った。
ユカルが海軍基地にいた頃のガーゴとは全く違う街の様子であった。レンドの態度も自信と余裕があった。ユカルは、帰路の巡視艦内でそれを思い出しながら、陸軍基地と空港を見なかったことを後悔していた。
トーベ共和国に戻ったユカルは、ドレキの港からすぐに軍の車で首都トレツの街まで走り、ハルル大統領に報告していた。ガーゴの港は他国の軍艦によって守られていること、未知の国リベルテとの交易が盛んなこと、空港があり航空機の運行が行われていることなど、見聞きしたことを細かく報告し、最後に、訪問してガーゴ市の市長と会うべきだと大統領を説得した。
カメリルとロボットとの戦い、どうなる?