スマルは目覚めた。ロボットの破裂音は途絶えて、静寂に包まれていた。
「スマル殿、スマル殿」テントの外で呼ぶ声がする。
テントから出てみると、イマト中尉であった。
「ついに、勝ったのです。」喜びを満面に浮かべて、イマトはそう言った。
「そうですね。」とスマルは答えたが、喜ぶ気にはなれなかった。部下に戦いの犠牲者があったわけではない。コンガの老人から、地下都市ルマナに人の奴隷が10万か20万人いると聞いていた。その人たちを救えなかったことの無念さがあった。
スマルは冷静に勝因を見抜いていた。ロボットが守ることを学習していても攻撃することを学んでいなかったことだと。ロボットは、攻撃されても攻撃されても、攻撃してくる相手に向かって進んできた。もし、それを避けて大量のロボットが広がって街になだれ込んでいたら、街も電力も占領されていたはずだと。
スマルの部隊もイマトの部隊も難敵を倒した英雄たちの部隊として、カーレンに凱旋し、スマルは中尉に、イマトは大尉に昇進した。
元々コンガとの戦いは、金、銀、銅などの豊富な地下資源に目を付けた侵略戦争であった。偵察機で敵の全滅を確認した軍部は、それを政府に報告し、それを受けて政府は地下資源の調査隊を派遣した。
そして、その調査隊の全員が体の不調を訴え、帰国後死亡したことで、ウランの核分裂による放射線や放射性物質の恐ろしさを悟ることになり、地下資源の宝庫は立ち入りのできない場所になったことを知ることになった。
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品川で電車から降りた三木たちはホテルに向かった。3人の尾行者は、まるでストーカーのように後をついて来る。セイルまでそれに気が付いた。
「何ですの、後ろの怪しい人たち?」と小声で三木に尋ねる。
「日本では触らぬ神に祟りなしという諺がある。無視、無視。」三木はそう答えた。
ホテルのフロントで宿泊名簿に三木が未来託也、未来聖瑠と書く。もう職を退いたのだから本名を隠す必要もない。フロント係の女性が不審がっている。どうみても、親子なのに、シングルの部屋を2部屋とは。
ストーカーのような尾行者はホテルのロビーで足止め、どこかに電話している。さすがに、エレベータまではついてこない。しかし、三木は、(部屋番号は尋ねるのだろう。)と思った。
三木はセイルに、部屋のカードをセットする位置とオートロックの仕組みを説明し、部屋を出るときはカードを持って出るように話した。そして、部屋では靴をスリッパに履き替えることと、日本の家ではほとんど靴を脱ぐ習慣があることも話した。念のため、部屋を出るときは連絡するように言って、三木は自分の部屋に戻った。
セイルは三木の去った後、日本という国の不思議さを思い出していた。
(最初、話に聞いた地下都市ルマナのような空のない所かと思うほど地下を歩いたが、電車に乗って車窓を眺めたら、ちゃんと空があって、地上に立ち並ぶビルが見えた。カメリルにも電車はあるが、地上を走るだけで空の見えないところを走ったりしない。日本の電車は空のない所を走る。地下の通路に人があるれていたが皆、不愛想に黙って足早に歩いていた。何よりも驚いたのは、電車に乗るとき、誰も指揮を執らないのに、整然と並んで乗っていた。}
そんなことを思い出して、ベッドに横になり、しばらくボーとしていると、部屋の電話が鳴る。
三木が部屋で休んでいると、フロントから、新地球事情調査室の中川という人がセイルという人にお話があるから2人でロビーまで来て欲しいと言っていると電話連絡があった。
新地球事情調査室の中川と聞いて、かつて油田調査に便乗した時の小生意気な役人、バーキー王国の遺跡調査も一緒だったと思い当たった。
ハリーが日本政府にセイルのことを話したから、早速お出まし、尾行の3人も政府の回し者、そう思った。尾行の3人はあまりにも尾行が下手だし、3人も調査官はいないから、自分がいた内閣情報調査室の者ではないと察していた。三木は内閣情報調査室が情勢に対応するため内閣情報調査局になっていることを知らなかったのだ。
三木はセイルの部屋に電話をかけ、日本政府の人が来て、聞きたいことがあるそうだから、部屋を出て一緒にロビーへ行こうと伝えた。
セイルがホテルの部屋を出ると三木が待っていた。
「部屋のカードは持ったかね。」と三木。
「はい、持ってます。」とセイルはカードを見せた。
2人はエレベーターで1回まで降りる。ロビーのソファーに座っていた中川調査官が立ち上がって手を振る。尾行をしていた3人も一緒にいる。
中川は三木と握手をした後、一緒にいる3人を紹介した。
「SPの方々です。セイルさんの警護を担当しているそうです。」
SP、セキュリティポリスの略、警視庁警備部警護課員である。かつては、目立たないように要人に寄り添う形の警護であったが、国葬の儀式で首相が襲撃されることがあってから、その存在を明らかにして襲撃の抑止を図るようになっていた。
(道理で尾行が下手なはずだ。)と三木は思ったが、「ご苦労様です。よろしく。」と言って、3人と握手をした。セイルは、三木の隣でキョトンとしている。
「小会議室を借りています。話はそちらで。」と中川が歩き出した。三木とセイルがついて行く。離れて、まるで尾行のように3人の警護課員がついていく。
会議室に入ったのは中川と三木とセイルの3人だけで、3人の警護課員は入り口のドアの前で止まっていた。
小会議室には真ん中に丸いテーブルがあり、椅子が3つ、3人はテーブルを囲んで座った。
「実は、セイルさんに尋ねたいことが2つ、最初は。」と中川が流暢なフランス語で言って、地図を2枚テーブルに広げた。中川は文部科学省の官僚、フランス語は達者であった。
テーブルの地図を見てセイルは驚いた。カメリル周辺の地形が正確に描かれていたのである。それだけではない。カーレンの街の地図では、道路や建物まで正確に描かれていたのである。
(日本人でカメリルに来たのはミキだけ、どうして日本にこんな地図が?)
セイルが驚いているのを見て、中川が説明した。
「これは人工衛星の映像や写真をもとにして描いたものです。地名や国名が正しいかどうか、教えて欲しいのです。」
人工衛星と聞いてセイルはまた驚いた。カメリルでは人工衛星は1部の人たちの話題であり、あくまで議論だけで実用にはなっていない。
「行ってもないのに、どうして国名や地名が分かったのだ?」そう尋ねたのは三木だった。三木は現地で知っていたが、日本に報告した覚えはない。
「何を言ってるんですか、三木さんらしくもない。通信は傍聴できるのですよ。言語はフランス語で解析はそれほど難しくない。」と中川が日本語で答えた。中川は三木がかつて内閣情報調査官であったことを知っていた。
セイルは日本語が少し分かるようになっていたが、文字は全く分からなかった。中川が
「この海は何と呼ぶのですか?」と中川。
「海、名前はないですわ。海は1つですから。そういえば西海と書いてあったわ。」とセイル。
(西海か、日本からみると東、東方大海だ。ここは新ギニア湾でいいか。)中川はそう思った。
地図上を指で押さえ、口頭で国名や地名などを言う。セイルはそれ見て聞いて頷く。それが繰り返された。
中川の持参した地図は国名も地名も正確であった。セイルは頷きながら、驚きよりも恐れを抱いた。カメリルは日本の位置さえまだつかんでいないのに。
「ありがとうございました。セイルさん。ところで、今日は何年の何月、何日ですか?」
「えっ、・・・・・504年10月・・・・・の終わり頃、日までは。」
セイルは突拍子もない質問に面食らってしまった。それに、この1週間、思いもかけない現実に戸惑うばかりで、日付のことを振り返る余裕もなかった。因みに日本では10月30日であった。
「504年、惑星歴ですか?」と中川。実は、中川の所属する新地球事情調査室では、世界地図の作成と同時に日本の年号と惑星歴の暦の月日の違いの解消に取り組んでいた。だから、カメリルの暦が知りたかったのだ。
「いえ、カメリル歴です。」とセイル。
「カメリル歴ですか、その最初の年、カメリル歴元年はどこから?」
「サンマル教の聖典にありますわ。世界の空が真っ白になって、それから真っ黒になって、やがて、元に戻った時から、それが新しい世界の始まりだと記されています。」
サンマル教の聖典には、1000年程の前の世界戦争のこと、近隣の諸国が合併してカメリル国となり世界戦争に備えたこと、戦後紫外線の降り注ぐ世界になったことなどの歴史も記されている。
中川はカメリル歴の元年が惑星歴の元年と同じで、時空移転装置の発動の年である事、そしてカメリル歴が惑星歴と違って、太陽暦であることに気が付いた。
「ありがとうございました。私の質問は以上です。ご協力感謝いたします。」
日本はセイルに何を求めているのか?