スパン南基地に新しい司令官が来た。日野は三佐から一尉に降格して、新しい司令官に任務の引継ぎをし、次の任務の指示があるまで、その場に待機となった。その間、ロマスク帝国の捕虜になっていたアビル少尉たちカメリル人の監視役を新司令官に指示された。アビル少尉たちカメリル人はロマスク帝国で日本の指導の下、日本語など日本式の訓練を受け、解放されたのである。と言っても、彼らの腕には盗聴バンドが光っていて、完全に解放されたわけではなかった。監視役と言っても監視の必要もなく、世話役と言った方が適切であった。
スパン南基地のこの人事異動と同時に、港には護衛艦いずも、護衛艦はぐろ、護衛艦たかなみ、護衛艦あたごがやって来ていた。空港には、戦闘機Fー35Bや改造Cー2爆撃機が待機している。日野は何も聞かされていなかったが、それを見て、それらがカメリルへ向かうことを察知していた。
日野は、降格の自分がそれに参加することになろうとは夢にも思わなかった。降格した者は目立たない任務で静かに退職を迎えるのが通例だったからだ。
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ホテルに戻った三木のもとへ、防衛省の田村事務官が訪れていた。カメリルの日本人救出作戦を説明し、セイルをカメリルに連れて行くというのだ。三木は反対した。そんなことに弟の子供を利用されてはたまらない、絶対反対だと譲らなかった。
ホテルのロビーでの2人の言い争いを聞いていたセイルが日本語で田村に言った。
「私、帰りますわ、連れて行ってください。」
言葉の習得の得意なセイルは、日本語が分かるようになっていた。
驚いたのは三木であった。
「ダメだ、危険な所へは行かせない。」
「危険な所でも、私の生まれ育った所です。私の故郷は日本ではありません。帰ります。」
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トーベ軍はジャングルを抜ける道路の近くで、ジャングルが目視できる位置に陣地を構えた。この場所は最初にナーイ地方軍だけのカメリル軍を蹴散らした所だ。陸路でトーベ共和国に入るには、この道しかない。他を通ろうと思ったらジャングルを切り開く以外にないからだ。
ガーゴ都市国家の援軍は、トーベの陸軍基地に待機して戦況によっては参加の予定、トーベ軍がトーベ軍だけで防衛することを望んだからだ。
カメリル陸軍はイマト大尉を指揮官にして、ナーイ地方のナクルの街まで進軍していた。イマトはスマル中尉にトーベ軍の中にいるガーゴの援軍に注意するようにと話をしていた。ガーゴのロケット弾は逃げる戦車を追っかけてくるのだと。スマルはそれを聞いて俄かには信じられなかったが、対策を考えておく必要はあるかなと思った。
カメリル海軍は戦艦5隻、航空母艦1隻、輸送船1隻でカーレン港を出港しトーベ共和国のドレキ港へ向かっていた。旗艦の戦艦トスカ号には海軍にチョコチョコ顔を出した陸軍のトロル少佐に取り入っていたカガト大佐が指揮官として乗艦していた。
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三木とセイルは横須賀から出港した護衛艦もがみの艦上にいた。
三木はセイルが言い出したら人の言うことなど聞かない娘だと感じていたし、条件を出して田村事務官の提案にのることにした。条件は2つ、1つ目は、自分も連れて行ってセイルの警護をさせること、2つ目は、リベルテ国に連絡をとってバーダンと話をさせることであった。2つとも了解を得て、バーダンとも話ができて、三木の思惑通りになったからである。
バーダンは国家主席を退き、リベルテはレアル大統領の統治する国になっていたが、レアルを強く推した人物で、まだ政治の影響力が残っていた。三木はバーダンにメイキ大尉と特殊部隊をガーゴ都市国家に派遣するように頼んだのだ。バーダンは三木がリベルテ軍のアドバイザーのままであることの了解を大統領から得ているし、そう手配すると答えた。三木は特殊部隊をセイルの警護にあてるつもりであった。
実は日本政府もセイルの警護に、アビル少尉たちカメリル人を手配していたのだが、そのことを三木が知る由もなかった。
護衛艦もがみの元木艦長は田村事務官から聞いていたのか、三木とセイルのいる船室にやって来て、あいさつの後、いろいろ艦内の装備を紹介してくれた。
元木艦長は、基地の広報の係として見学者へのサービスを経験したと言っていただけあって、分かりやすい説明であった。もちろん、秘密の部分は見せてはいないが、それでも、セイルには驚く事ばかりであった。
まず、目に付く機関銃、船室から操作する遠隔管制であるということ、銃の操作さえ、実物の体感もなくモニターを通してなのである。だから、USV(無人艇)については、驚くほかなかった。元木の説明によると、転移前の他の国で、USVが使用されて搭載されたRー73ミサイルで、ヘリを撃墜したそうである。戦艦などは大きくて爆撃機の的になりやすいが、これは小さくて当たらない。
そして、極めつけはUUV(無人航走体)で見かけはまるで魚雷だが、水中無人機というべきで、潜水艦の代わりに目標海域に進出し、その場で相手方艦艇を阻止するものである。カメラやセンサーを備えれば偵察になり、魚雷を備えれば攻撃もできる。すべて、遠隔管制でゲーム感覚なのである。
三木は元木の説明を聞きながら、転移前の武器輸出の騒動を思い出していた。UUVなどは日本の民間企業の製品なのであり、各国が欲しがるのも無理のないことであった。かつて、日本の元首相が外務大臣の時に、「武器を輸出して外貨を稼ぐほど、日本は落ちぶれていない。」と言ったとか言わなかったとか姦しかったが、その後、その騒動がどうなったのか転移騒動で覚えていない。転移後は、武器の輸出も寄贈もしているが、差しさわりのないものばかりである。
セイルはこの艦1隻の1部を見ただけだが、日本の軍事力が、カメリルにとっていかに脅威であるか悟った。主砲は確かにカメリルの戦艦の大砲の方が大きいが、この艦を戦艦と言わないで護衛艦と呼ぶところが解せない。日本は軍備と言わないで防備と言い、軍隊と言わないで自衛隊と言う。セイルはそれが茶番だと感じていた。
三木とセイルが船室で休んでいると、今度は別の男がやって来た。その男は、船室のドアをノックして入ると、敬礼をして言った。
「三木さん、お久しぶりです。」
三木は思い出さなかった。
「お忘れですか、相原三等陸佐です。当時は二等陸尉でしたが。佐川上官と一緒にいた・・・」
「ああ、失礼、思い出しました。西方大陸東岸に最初に上陸した。」
「はい、そうです。お噂は佐川上官から、もう退職なさって久しいですが、いろいろと。」
「お恥ずかしい。で、今度は何か?」
「はい、今度の遠征の総指揮を仰せつかって、この艦の後を輸送艦しもきたがついて来ています。」
「輸送艦?ということは他の護衛艦も?」
三木は護衛艦もがみに乗艦してから、船室と船内を移動しただけで、外を眺めていなかった。
「いえ、この艦としもきただけです。」
「でも、護衛艦1隻では、もがみがいかに装備が優れていても、敵国に行くには。」
「はい、だから、スパン南基地に立ち寄ります。すでに、護衛艦がわんさか待っていますよ。」
相原はそう言うと、セイルに向かって愛想笑いをして手を振った。
セイルは、(何よ、このおじさん。)とばかりそっぽを向く。
「とにかく、ごあいさつまで、失礼しました。」と相原は船室から出て行った。
護衛艦もがみと輸送艦しもきたは小笠原諸島を越え、東方大海(大西洋)を東に航行していた。そして南鳥島を越え、東へ東へと、南スパン基地を目指して航行していた。
護衛艦もがみはスパン南基地へ、待っているのは?