カメリルのトスカ執政官は手を回すのが早かった。イカサス軍務大臣と側近の役人は、収賄とデマ流布の罪で逮捕、息子のトロル少将を軍務大臣に登用、敗れて帰ったカガト大佐を海軍大将にし海軍の敗戦の箝口令を実施して、トーベに攻撃を加えて続けていることにした。敗れて帰った海兵から漏れることを恐れて、彼らを上陸させなかった。
トスカは、大衆が理性で動くものではなく感情で動くものであることを、よく知っていた。カーレンの市民は、密かに囁かれる敗戦の真実よりも、公然と宣伝される勝利の報告の方が心地よい。人は心地よい情報、自分の都合のいい情報を信じるものだ。
正義院議員とて同様である。議会で敗れたのではないかという質問もあったが、カメリル軍が敗れると思っているのかという反論だけで、敗戦の主張を抑えることができた。皆、敗れることを信じたくないのである。
・・・・・・・・・・
ガーゴの特殊部隊の宿で、三木はメイキに言った。
「今後のことは私には分からない。私は日本人だが、日本の隊員でも職員でもない。」
「そういうことではなくて、我々が何をすればいいかということだ。セイルの警護が必要ないとしたら何もすることがない。」
「いや、日本がどう動くか分からないから、何をするかが分からないと、言っているのだ。セイルの警護は、セイルが護衛艦にいるから必要ないということだ。今日は必要ないが、明日は必要かもしれない。とにかく、警護が必要な時が来る、その時、動いてもらえればいい。それまでは遊んでいたらいいということだ。」
「ふっ、隊員たちは喜ぶだろうが、暇を持て余す無駄な遠征になる。」とメイキ。
「あははっ、遠征なんて、殆どが無駄な時間だよ。無駄な時間を積み重ねて何かが得られればそれでいい。自衛隊の動向は相原三佐が握っているから、彼と行動を共にすれば分かる。護衛艦いずもで指揮を執るようだから、明日はいずもに乗艦、皆が帰ってきたらそう伝えてくれ。」と三木。
「セイルはいずもにいるのか?」
「いいや、他の護衛艦だ。護衛艦にいる限りは安全、警護の必要はない。」
・・・・・・・・・・
ナクルの街で陸軍本部への連絡も終え、一息ついたイマト大尉とスマル中尉は、世話になった地方軍の司令に礼を言って、カーレンに帰ろうとした。
「イマト殿、申し訳ないが、この地に拘束するように指示されています。」と司令。
「どういうことだ?」とイマト。
「分かりません。この兵舎の敷地内から一歩も出すなと言われています。出るようなら射殺してもかまわないと。」
「敗れたことがバレるとマズいんだろう、この国は終わっているよ。」とスマル。
・・・・・・・・・・
護衛艦いずもに乗艦した三木とメイキと特殊部隊、隊員たちは目を輝かせて艦の甲板を眺めている。装備の20ミリ機関砲などはチラッと見ただけだ。一目でリベルテの戦艦の方が立派だと思い、見向きもしなかった。
彼らが見ていたのは戦闘機Fー35Bや改造Cー2爆撃機であった。リベルテには航空母艦があるが、あのような航空機は搭載していない。そもそも、これが航空母艦でないというのが解せない。
対艦ミサイル防御装置や魚雷防御装置、各種レーダーやソナーも装備されているのだが、リベルテの隊員が気付くはずもなかった。彼らは航空機だけで興奮しているのだ。
三木は相原の船室を訪れていた。
「とてもフランス語がお上手ですね、驚きました。」と三木。
「それほどでも、実は佐川上官がいた頃ですが、上官に勉強しろとハッパをかけられましてね。サンパル皇国のポルトガル語はサッパリでしたが。」と相原。
「そうですか、ガーゴとの交渉、見事なものでしたよ。佐川さんは英語もサッパリでしたよ。」
「そんなはずはないですよ、でないと幹部になれません。」
「ところで、この後、どうするのですか?」と三木。
「・・・・・」少し躊躇して相原。相原は佐川から三木が凄腕の調査官であったことを聞いていた。
「三木さんですから、教えましょう。カメリルを攻撃します。」
・・・・・・・・・・
カメリルの聖都カーレンでは、トーベ制圧の偽情報を喧伝し。警察機構はトスカ執政官が掌握、軍部はトロル軍務大臣が把握して、親子で国を支配する体制を整えようとしていた。しかし、敗戦の情報は、潰せば潰すほど、密かに広まっていった。
イマト大尉やスマル中尉たちをナクルに足止めしても、ナクルの街とカーレンの街は人の行き来が多くて、情報までも足止めすることはできなかった。ただ、表立ってそれを口にすると反逆罪という重い罪に問われるので口を閉ざしていた。
軍務刑務所にいたカイルは、イカサスが捕えられて、ここにやって来たと聞いて、イカサスの牢に案内するように看守に頼んだ。カイルは終身刑の模範囚で、ほとんどの頼みを看守はきいていた。
カイルはイカサスがなぜ投獄されたのか知りたかった。看守に聞いても知らないと言う。ならば、本人に聞く以外にない。元軍務大臣である、看守も知りたがっていた。
カイルは自分の牢から出て、イカサスの居る牢へ看守と共に向かう。
「記録はいないのかね。」とカイルは看守に言った。
「記録したら規則違反で私の身がヤバい。」と看守は笑った。
「そりゃあ、そうだ。悪いな。」とカイル。
軍務刑務所に投獄されたイカサスは何を語る?