カメリルの軍務刑務所で、カイルはイカサスの牢の前にいた。
看守が牢を開ける。カイルと看守が牢に入る。カイルの目の前にイカサスがいる。
イカサスはカイルがやって来たので、驚いたようであった。
「イカサス殿、お久しぶりです。」とカイル。
「カイルか、何の用だ。」とイカサス。
「いえ、用と言うほどでもないのですが、ご挨拶がてらに。何でこんなところにと、気になったものでして。」
「やられたんだ、収賄だとよ、トスカの野郎、ハメやがって。テメエだってやってるくせに、汚い手を使いやがって。」
(あなたもそれで大臣までのし上がったんでしょう。)とカイルは思ったが言わなかった。
「で、刑は何年?」とカイル。
「20年だとよ。出るときは、よぼくれてるよ。皆、トスカの顔色を伺ってやがる。」
「トスカ執政官の息子、名はトロルですか、彼とうまくやっていたと聞いていましたよ。なのに、どうして?」
「トロルは確かに可愛がってやった。でも、どうしてか分からない。」
(人間関係ほど脆弱なものはない。だからこそ、私は義理を果たしたのだ。)カイルはそう思った。
「ところで・・・セイルちゃん、いや、セイル外交官はどうしてました?」とカイル。
「お嬢様は見かけていない、郷里に帰省しているのだろう。トスカと肌が合わないみたいだった。」
「バジル殿は?」
「分からない、正義院には出席しているのだろうが、わしは正義院議員でないから。出れないから分からない。」
「正義院議会は大臣でも出れないのですか?貧民の出の私には分かりませんね。」
「名家でないと政策の決定はできない。大臣は案を出すだけだ。名家の大臣は別だが。カイル、何でそんなこと聞くんだ?」
「いえね、こんなところに長くいると、外のことを知りたくてね。皮肉なことに、質素な食事と運動で身体だけは元気になって、持て余しているのですよ。」
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バジルはツール地方のユリネの家にいた。セイルが正義院議会に出ていないし、カーレンの官舎にもいないので、心配になって様子を見に来たのだ。
カーレンでセイルの上司であるゴンタ外務大臣にも、セイルの所在を尋ねたが、知らないと答えた。イカサス軍務大臣更迭投獄など政界に不穏な動きを察知したバジルは、セイルの身にも、もしやと思って確認にきたのだ。
病気のユリネにそのことを言うわけにもいかない。セイルが元気に働いているとユリネは思っているに違いないと、バジルは思い込んでいた。2か月や3か月帰れないことは、よくあったからだ。
「セイルがいないのですね。」とユリネ。
「えっ、どうしてそれが?」とバジル。
「兄さんの顔に書いてありますわ。そうでなければ、青い顔をしてここへ来るはずがない。あの子は二ホンですわ。」
「二ホン?」
ユリネはセイルに二ホン人であると告げた時から、セイルは二ホンへ帰るであろうことを予測し覚悟していた。まして、その時二ホン人がいたのだから、なおさらであった。
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トスカ執政官は、トーベ戦に勝利していると宣伝しているはずなのに非常事態宣言をして、あらゆる企業が軍の要求する製品を造ることを強要する法律を正義院議会で成立させた。徴兵の期間は名家以外は18歳から25歳までであったが、15歳から30歳までの男女となった。生活も経済も犠牲にする法案に正義院議会が反対できないのは、トスカ政権に対する国民の圧倒的な支持率、表向きの支持率であった。表向きのとわざわざ断ったのは、支持率も操作できるからである。押さえつけられた不支持は表に出ないものだ。
トスカ政権の軍拡政策は、サンマル教信者である多くの国民の支持を得る。全ての国、人種、信条、階級の繁栄を保証する統一された世界秩序がサンマル教の目標である。それを達成するための軍備、キーワードは一体性、神の一体性、宗教の一体性、人類の一体性、道徳の一体性、崇高な目標を神から授かっている選ばれた民カメリル人、何と心地よい響きか、軍備に反対するものなどいなかった。
そして、それに拍車をかけたのが、バハナミ神殿にいる司祭カメゴリであった。彼は崇高な宗教的心情で軍拡に拍車をかけたのではない。彼は神など信じていないのだ。
トーベ共和国の独立で、トーベ地方のお布施と言う名の強制献金がストップしたからだ。トーベ地方は他の地方よりも熱心な信者が多くいた。しかも、リン鉱石や海底油田、綿花などで豊かな人たちが多く、カメゴリの懐に入るお金は莫大であった。それが入らなくなったのである。
行政のトップと軍部のトップ、そして国教のトップが声をそろえて富国強兵を唱えるのである。街の至る所に、ブルーの生地に火口がレッドのブラウンの火山、カメリルの国旗が翻るようになっていた。
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トーベ共和国のドレキ港の沖からガーゴの沖に戻ってきた護衛艦はぐろ、あたご、たかなみは燃料の補給を終え、再び東へ航行し始めた。ガーゴの沖に停泊していた護衛艦いずも、もがみと輸送艦しもきたもその後を航行していく。
スパン王国とロマスク帝国の戦艦はドレキ港沖の日本の護衛艦とカメリルの戦艦との戦いを観戦しただけで、西へ帰って行った。この2か国はガーゴとの国交もなく、燃料の懸念があるのであろう。
すでに交易をしているリベルテは、燃料補給の心配もなく、日本の艦隊の後を2隻の戦艦が観戦しようと航行していった。
カメリル周辺
日本の艦隊はドレキ港沖を越えると、カメリルのレーダーを避けるために進路を南東に変えていた。
護衛艦いずもの指令室に遠山艦長と相原三佐、そして三木がいた。相原は三木の過去をかつての上司佐川から聞いていて、同行を願い出た三木を承諾したのだ。
指令室のモニターにカメリルのミサイル発射台が映し出される。いずもの遠山艦長が説明をする。
「カメリルのミサイル発射台は6基、全て海岸沿いに設置されています。海からの攻撃に備えていて、北からの脅威は想定していないようです。」
モニターの画面が切り替わる。遠山の説明が続く。
「港にはいろいろな船舶が停泊しています。戦艦は3隻です。ソナーで潜水艦を警戒していますが、なぜか、いないようです。」
「それははっきりしてます。必要なかったのです。」と三木。
「どうして分かるんですか、そんなことが?」と相原。
三木はカメリルの国内に潜入していたこと、カメリルの周辺地域がそれほど脅威でなかったことなどを話した。相原も遠山も三木がカメリルの国内にいたことに驚いていた。
(この男は、佐川さんが言った通り只者ではない。)相原はそう思った。
日本はどう攻撃する?