コンガの民のテント村からボンタの街中にあるタクシー会社の事務所にやって来た三木は、所長という女性と会っていた。
「しばらく、待ってください。主人はまもなく帰ってきますから。」
そう言って、その女性はお茶を差し出した。
(どうも、この女性は社長の奥さんらしい。社長は自らタクシーの運転手をしていて、客を運んでいるようだ。)三木は勝手にそう思った。
三木を運んできた運転手は、事務所の奥で休んでいる。事務所の前に並んでいる車は、マイクロバスから軽トラまで様々である。全ての車に T a X i のロゴマークがついている。人から物品までいろいろなものを運ぶ業務をしているようだ。
しばらくすると、社長が戻ってきた。三木の顔を見て、ニッコリ微笑んで、
「やあ、お久しぶり。珍しいですね、こんなところに。」と握手を求めてきた。
「覚えていたのかね。1度会っただけなのに。」と言いながら三木も手を差し出した。
「覚えてますよ。砂金でタクシー料金を支払う客はいませんから。今日はどのような御用で?」
「実は、お願いがありまして。人を10人ほど運んでほしいのですが。ボントの北の外れから、ボント空港まで。」
「いいですよ。うちは運ぶのが商売ですから。支払いはまた砂金で?」
「はい、それでしか支払えませんから。」
「10人程度ならマイクロバス1台でいいですね。今すぐにでも用意できますよ。」
「いえ、いえ、申し訳ないが、タクシーで私をその場所まで運んでいただいて、そのタクシーがここに戻ってきたら、その運転手が場所を知っていますから案内してもらって、マイクロバスを出発させてください。」
「わかりました。あいにく、私は別の仕事がありますので、他の者に行ってもらいます。」
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ボンタの領事館では西の海に2隻の戦艦が停泊しているのを見つけて大騒ぎになっていた。カーレンが攻撃されたことの情報はすでに入っていて、次はこの街だと思ったのだ。駐留しているカメリル軍の視線は西の海の戦艦にばかり注がれていて、三木たち特殊部隊の南側の行動は全く目に入らなかった。
メイキ大尉と特殊部隊の隊員たちはカメリル軍に知られることなく、ボンタ空港の近くで待機していた。しかも、西の海にいる戦艦を警戒する為、空港の警備兵は少なくなっていた。
「どうする?連絡があるまで動けないぞ。」とメイキが声をかける。
「近くに、ほら、居酒屋があります。一杯やりながら待ちましょう。」と煙草をふかしながら、1人の隊員が答えた。
「何言ってるんだ。任務中だぞ。」とメイキ。
「お言葉ですが、こんなところにたむろしてたら、怪しまれます。あの店は大きいし、分かれて別々に入れば、それに、酔っぱらうほど飲まなければ、任務に何の支障もない。」と別の隊員。そうだとばかり隊員たちが頷いている。
メイキは「仕方がない。」と呟いて、4人ずつに分け、居酒屋で連絡を待つことにした。以前、カメリルに潜入した時、カーレンでアパート代を支払うため金をカメリルの通貨に換金していた残りがかなりある。この地もその通貨が使えるはずである。
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三木はタクシーでボントの街外れの花畑をつくっている日本人の家にやってきた。家の前にタクシーを待たせておいて、玄関の戸を叩く。奥から「はあーい。」と老女の声がして戸が開く。
「まあ、待ってましたのよ。もう、来ないのかと思ってました。」
三木の顔を見た老女は、満面に笑みを浮かべてそう言った。
「約束通り、迎えに来ました。持ち物は最小限度で、必要な物はそれぞれの場所で支給されます。日本での生活も心配いりません。この家に集まるように皆さんに連絡してください。」
三木は待たせていたタクシーに、事務所へ帰ってマイクロバスでここにまた来るようにお願いをして、老女たちが準備をし集まるのを待った。老女たちはこの地で18年もの長い歳月を過ごしたのである。辛いことが多くても名残惜しさもある。複雑な胸中で出発の準備をしていた。
三木が訪問した家の老女たちが知っている日本人が皆集まって来たので、三木は途中で不安にならないように日本への帰国の方法を説明した。
「マイクロバスが来ますので、それで空港へいきます。そこからヘリでリベルテと言う国の戦艦に移ります。それで、リベルテへいき、その空港から、西方大陸東岸空港へ、そこで乗り換えて羽田空港へ到着という予定です。長旅になりますが、必ず日本に帰れますので安心してください。」
そう言い終えると、マイクロバスがやってきた。それを見た三木はメイキ大尉に、スパン南基地から借り受けた無線機で空港占領の合図を送る。そして、待機しているリベルテの戦艦にヘリの要請をした。もう、無線が傍受されても構わない。脱出の戦いは始まったのだ。
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居酒屋で一杯やってたメイキに三木からの連絡が入る。メイキが「了解。」と答えると、それを合図に、隊員たちが一斉に店を出る。
「食い逃げだ!」と店員が叫ぶ。
「違う!全て私が払う。」とメイキ。
特殊部隊の隊員たちはあっという間に空港に潜入して管制塔に向かう。ボント空港は、もともとカメリル軍の空軍基地であったのだが、コンガとの戦いも終わり、空軍は全て引き払っていて、滑走路や待機場に機体はなく閑散としていた。
ブッシュ ブッシュ
装備をしている警護兵だけを片付ければよい。
ブッシュ ブッシュ
瞬く間に管制塔を占拠、後はリベルテのヘリと日本人を待てばいい。カメリル軍が気付いてやってくれば、それと戦わなくてはならないが。
リベルテの戦艦の警戒をしていたカメリル軍は、戦艦からヘリが飛び立ち、こちらに向かってくるのを察知すると、また大騒ぎになった。攻撃用ヘリで、領事館が攻撃されると思ったのだ。3台しかない対空砲車両を領事館に移動させ、迎撃の態勢をとる。
ところが街中にある領事館にヘリは向かわず、郊外にある空港へと向かっている。その意図が全く読み取れないカメリル軍は、領事館が攻撃されなかったことに胸をなでおろしているだけだった。無理もないことだった。カメリルはボントに日本人がいることを知らなかったのだ。
空港にマイクロバスが到着し、老女たちが降りる。メイキが出迎えに来て、一番後に降りた三木と握手をする。リベルテのヘリが2機到着して、老女たちがそれに乗り込む。
ヘリが舞い上がると同時に、カメリル軍がやってくる。カメリル軍とて遅くなったが空港の異変に気付く。対空砲車両と共にやってきた。
ドン ドン
対空砲でヘリが狙われる。誘導弾ではなく、当たらない。
ダダダダダダ
銃撃音が空港に響く。
ヘリが飛び立ったのを見届けた三木たちはマイクロバスに乗り込む。運転手を押しのけて、メイキがハンドルを握る。
三木たちはうまく逃げ切れるか?