護衛艦いずもにやって来たのは、カメリルのヘリ2機、多くの武装兵を警護につけたゴンタ外務大臣とトロル軍務大臣であった。会議室の船室には2人しか入れない。多くの警護兵は船室の外で待機することになった。
カメリル側はゴンタ外務大臣とトロル軍務大臣、日本側は川本外交官と相原三佐、楕円形のテーブルを挟んで向かい合って座っている。
互いの自己紹介の後、川本が交渉の口火をきった。
「先だって要求した通り、宣戦布告の撤回と核兵器の放棄、了承してもらえるのですね。」とストレートに尋ねた。
「宣戦布告については検討の余地がありますが、核兵器の放棄は承服しかねる。」と答えたのはゴンタであった。
「この2つの要求は要望ではありません。要求です。攻撃を停止する条件は、2つの要求を受け入れることです。」と川本が強く言い寄る。
「要求とおっしゃられても、核兵器の放棄はできません。それは内政干渉です。」とゴンタ。
「内政干渉?そうですよ。今は攻撃を止めていますが、街にミサイルをぶち込んで占領しましょうか。お望みとあらば、いつでもできますよ。」と相原。
ドンドン ドンドン
その時、船室のドアを叩く音がする。川本がドアを開けるとカメリルのヘリの操縦士が顔を出して、
「トロル殿、ヘリに政府から連絡が入っています。至急とのことです。」と伝えた。
それを聞いたゴンタは「交渉の途中ですが、緊急の連絡のようです。しばらく、休憩ということでお願いします。」と言って、トロルに目配せをする。
川本が頷くや否や、トロルは船室から出て行った。
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三木たちの乗ったマイクロバスはボントの街を疾走し、コンガのテント村を抜けて、トラックのあるところまで戻ってきた。メイキは、マイクロバスのハンドルを運転手に返し、持っていた金の粒を全て渡して、トラックに乗り込んだ。三木たちもトラックに乗り込む。追ってはもう来ない。今度はロボットの残骸を避けながら、慎重に走る。一度走った草原である。車の跡を辿れば、ロボットの残骸と衝突することもない。復路は往路よりも短時間で目的地に着く。
エアクッション艇までたどり着いた三木たちは、トラックのまま艇に乗り込む。
三木は、遠ざかる陸地を眺めながら、転移前に地質調査の研究団と同行したことを思い出していた。三木は転移前にこの地に来たことがあったのだ。
三木の仕事は地質調査ではなく、この地の治安状況と政治体制の調査の為であった。地質調査の研究団に同行したのは、その目的がウラン鉱をどの程度輸入するかの政治判断の為であったからである。この地はオクロの天然原子炉と呼ばれていたように、20億年前に自然に核分裂反応が起こっていたと知られていた地である。それほど豊富なウラン鉱床がある土地であった。
もちろん、転移前のことであり、国交も交易も以前からあって互いの国に大使館もあった。しかし、扱う商品がウラン鉱であり、世情不安の噂もあって、内調の調査となったわけである。
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護衛艦いずもでは、日本とカメリルの交渉の場である船室にトロル軍務大臣が戻って来て、交渉が再開された。
「それでは続きですが。」と川本外交官が言うと、それを遮るようにヘリでカメリル政府から連絡を受けたトロルが言った。
「我が軍が攻撃を受けたそうです。交渉中なのにどういうことですか?」
それを聞いて、驚いたのはカメリルのゴンタ外務大臣であった。川本と相原三佐は平然としている。
「ど、どういうことですか?説明してください。」とゴンタ。
「我が国は攻撃などしていません。日本ではないのでしょう。」と相原。
「リベルテだそうだが、同盟国が攻撃したのだから、日本の攻撃と同じでしょう。」とトロル。
「それはおかしいでしょう。リベルテと同盟などを結んでいません。」と相原。
「でも、日本の艦隊と一緒にやって来たと聞いている。」とトロル。
「勝手についてきただけです。他国がすることを止めることもできませんので。それに、交渉はカメリルと日本の交渉であって、リベルテは無関係です。リベルテ政府から交渉の打診でもあったのですか?抗議はリベルテにしてください。とにかく、宣戦布告の撤回と核兵器の放棄、了承してもらえるのですか、もらえないのですか?」と川本が交渉の本論にもどす。
結局、ゴンタが核兵器の放棄を承諾できるはずもなく、持ち帰って検討することで交渉は終了した。日本側は時間稼ぎをされると物資の供給ができないという弱点があり、明日まで待つがそれ以上は待てないと念を押した。
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ボンタにいた日本人の老女たちは無事リベルテの戦艦に到着し、リベルテへ向かった。老女たちにとっては、全く知らない国の戦艦であったが、リベルテ語というのがボンタのガボリ語と同じフランス語で、言葉の壁もなかったし、何よりも18年もの間、未知の土地で生活してきたことは老女たちを逞しくしていた。日本人9人が寄り添って交わす会話は、これからの不安ではなく、残してきた参る者がいなくなった墓の心配であった。
護衛艦もがみではセイルが日野一尉を追及していた。日野はセイルの追及を逃れる為にセイルたちの船室から出ていっても、それは一時的な脱出に過ぎない。彼の任務はセイルの警護とアビル少尉たちの監視であるのだから。
「いつになったら上陸できるの?」とセイル。
「分かりません。何度も言いましたが、私は作戦に参加していません。」と日野。
「でも、日本の軍人でしょう。」
「軍人ではありません。自衛官です。」
「どう違うのよ。」
「・・・・・」
日野は説明するのも面倒で疎ましかった。階級も他国の軍隊と呼称が違っていて、日野は日本の階級で一尉、他国では大尉である。他国と合同で活動することは、転移後はないのであるが、転移前は他国と合同訓練が実施されていて、呼称の違いの不便さを感じていた。だから、何度も他国と同じ呼称にする案が出ていたのだが、軍隊でなく自衛隊なのだからと不便なままであった。
この遠征はリベルテ国の兵も非公式に参加していて、階級の呼称について他国と同じにするということが現実になる動きが出てきている。それで、自衛隊が軍隊になるわけではないが、それを心配する国民がいることも確かなのである。
ともかく、自衛隊を説明するのは面倒であった。しかし、セイルは許してはくれなかった。
「どう違うのよ、説明しなさいよ!」
「戦争をするためではなく、自衛、自らの国を守るために働いているんだ。」
「何を言っているの?軍人だって国を守るために働いているのよ。カメリルは国を守るためにしか戦っていない!」
「・・・・・・」
日野は次に返す言葉が出てこなかった。黙るしかなかった。
過去も現在も戦争は必ず「国を守るため」という大義名分がついている。この言葉が曲者なのだが、多くの国民がこの言葉に踊らされていることも現実なのである。
セイルの鋭い追及から、日野が解放されるのはいつなのか?