続 時空を超えて   作:ぴょんぴょん店長

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ボンタの老女たちが帰還した日本では?


第6章 12話

 日本では、カメリルに拉致された日本人たちが救出されたというニュースに湧いていた。ボンタの老女たちは拉致された日本人になっている。カメリルという転移後の国が日本人を拉致するなんてことは誰が考えても不可能なことなのだが、転移のドサクサで拉致されたとどのメディアも報じていた。不可能なはずの転移が起こったのだから、あり得ることだと視聴者は疑わなかった。もともと日本人にはマスコミの報じることを疑わない性質があるのだ。全ての番組が創られたものであることを分かっていても。

 

 政府がそう報じたのではない。日本人救出を自衛隊派遣の口実に利用しようとしたのは間違いないが、政府はカメリルに救助を待っている日本人がいると発表しただけである。マスコミの忖度か、単なる間違いか分からない。日本では、カメリルは日本人を拉致した国になっている。

 

 日本がこの世界のリーダーシップをとるべきだと新秩序を唱える保守系の政治家たちは、この時とばかり、カメリルへの総攻撃を主張した。そして、声を潜めていたかつての日本の理想であった富国強兵のスローガンを声高々に唱えるようになった。

 

 冷静な政府の新地球事情調査室では、拉致されたなどと誰も信じていなかった。惑星歴の暦をカメリルのように太陽暦にすれば、日本独自の年号と月日の違いが避けられるので、そうに決定するついでに、ボンタの老女たちが乗っていた航空機が不時着した年代を、偵察衛星の映像と三木の撮影した写真とから、腐食具合を調べて熱帯雨林である事を考慮しても惑星歴486年と推定していた。そして、中川調査官は首を傾げていた。日本列島が転移した年より遥か以前に不時着していたことになる。どうしてこんなことになるのか、どこが間違っているのかと首を傾げていたのである。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 カメリルのトスカ執政官は、交渉に出向いたゴンタ外務大臣とトロル軍務大臣の報告を聞いて、日本の要求を受け入れることにした。心情的には、爆撃機で日本の首都に原爆を落としたいのだが、その爆撃機もないし、何より日本の位置も分かっていない。このままでは、攻撃されるだけであることが明らかであったからだ。降伏は一時、やがて反撃して勝利、それがトスカの腹の内であった。

 

 宣戦布告は要求通り撤回するが、また布告すればいい。核兵器を手放す気など毛頭なかった。保有している原子爆弾の数まで日本が把握しているはずがないから、1発か2発公開破棄でもして、後は隠しておけばいい。当然、調査団がやって来るだろう。現在の核の研究施設は閉鎖するが、研究者の頭脳までも閉鎖することはできない。いつまでも調査団がいるわけでもない。再開するか、新たな場所に研究施設を創ればよいことだ。しかも、原子力発電については何の要求もしていない。こちらには、属国ガボリ共和国に豊富なウラン鉱床を抱えているし、原子力発電のための濃縮ウラン施設も属国ガボリ共和国にあってそのままである。

 

 

 要求を全て受け入れるカメリルの返答を受け取った日本は、護衛艦もがみに乗艦しているセイルとアビル少尉たち捕虜をカメリルに上陸させ解放することを通達、新ギアナ湾にいる護衛艦を全てガーゴまで退却するよう指示した。

 

 日本からの通達を受け取ったカメリルは、ロマスク帝国で捕虜になっていたアビル少尉たちを日本が解放することに不思議さを感じていたが、何よりも驚いたのはセイル外交官が捕虜になっていたことだった。カメリル政府はセイルが日本人であることを知らない。出生を知っているのは、ユリネとカイルだけであり、2人は誰にも口外しなかった。

 

 護衛艦もがみから小艇が滑るように出航する。小艇には日野一尉とセイルとアビル他捕虜たちが乗船している。

 「アビル、解放された後、どうするのだ?」と日野。

 「セイル外交官の警護は無理ですね。陸軍基地に戻るのですから。」とアビル。

 「そうだろうな。セイルはそのままツール地方のツイクの街に帰ると言っているし。」

 「セイル外交官の身辺には気を配っておきますよ。でも、あなたがどうして、セイル外交官を気になさるのですか?」

 「あはは、それは娘のように可愛いからだよ。」

 

 セイルが日本人であることを、アビルが知らないように、日野もまた知らなかった。日野はどうしてセイルの警護を命じるのか疑問に感じながらも、任務に忠実であっただけである。

 

 アビルは二ホンという国に滞在して、この国と戦うことは祖国の滅亡につながると悟っていた。ロマスク帝国の捕虜になった時、死ねと言わんばかりの過酷な労役と極悪な環境から救ってくれたのは二ホンだった。訓練は厳しかったが、ロマスク帝国の兵と同じ訓練、衣食住も同じであり、捕虜であることを忘れるような待遇であった。そして、ロマスク帝国の兵さえ誰一人日本へ行った人がいないのに、アビルだけ特別に留学という形で日本へ行くことができたのである。

 アビルは目先の効く男であった。北方遠征で、今は軍務大臣になっているが評判の悪いトロル中尉に必要以上に取り入ったのは、トロルが名家の出であることを知っていたからである。もちろん、今、トロルが軍務大臣で、その父親が執政官になっていることをアビルは知らない。

 

 二ホンに対して祖国が滅ぶほどの恐れを抱いているアビルは、二ホンの軍人である日野に対して迂闊なことは言えないと警戒していた。しかし、その日野に対して、まるで部下であるかのように追及するセイルに驚愕していた。セイルが名家の出で外交官であることを知ってはいたが、この娘は只者ではないと思った。そして、祖国カメリルを救うのはセイルかもしれないと感じ始めていた。

 

 小艇がカーレンの港に入り桟橋に着く。日野はアビル他捕虜たちの盗聴発信機を次々と解除し外していく。桟橋にはゴンタ外務大臣が外務省の職員と共に待っていた。

 小艇からアビルたちが下船して最後にセイルが下りて行く。日野は小艇の昇降口で直立不動の敬礼をしている。セイルは桟橋に降り立つと振り返って日野に手を振る。

 

 待っていたゴンタがセイルに声をかける。

 「トスカ執政官が話を聞きたいと言っているが、どうする?」

 「家に帰りたいです。今は話す気がありません。後ほど報告に参ると伝えて下さい。ところで、二ホンに降伏したのですか?」とセイル。

 「降伏ではない、休戦だ。」とゴンタ。

 

 転移前の日本の降伏の時は、西暦1945年から1952年までの間、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領下にあって、表向きだけの降伏というわけにはいかなかった。7年もの長い間、敵国の支配下にあって、時の外務大臣が最高司令官に、知ってるくせにGHQは何の頭文字かと尋ね、「Go Home Quickly」(直ぐ帰れ)かと思っていたと言ったという都市伝説が残っているほどである。

 

 カメリルの事情は全く違う。占領もされていないのだから、占領軍も上陸していない。要求を受け入れたのだから、調査団はやって来るだろうが、7年間滞在するどころか1年も滞在するはずがない。トスカ執政官の思惑通り、原子爆弾の1発か2発の公開破棄で済ますことも可能なのである。

 

 「とにかくツイクに帰りますわ。車を手配してください。」とセイル。

 外務省の職員が車の手配をするのを見て、側で2人の会話を聞いていたアビルは、ますますセイルが只者ではないと思った。

  惑星歴504年、セイル17歳の冬であった。

 

                   第6章 (完)




惑星歴504年、カメリルと日本は停戦したが?新たな展開が始まる。
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