新地球事情調査室の中川調査官たちは地名や国名を決定して、世界地図をつくる作業をしていたが、赤道付近に新しい国や集落があることが判明して、それらを調査して国名や地名を決定しないと作業が進まなくなり、作業を中断した。そして、その調査のための費用を予算化したところ、ストップをかけられた。理由はそれらの地域が紛争の真っ只中にあり危険であるからということであった。そして、新たに、暦について検討するように指示された。
かつて日本は、平成、令和という国内独自の年号と世界基準の西暦の両方をつかっていた。どちらを使おうと年数が違うだけで、別に問題はなかった。今は、日本独自の年号と惑星歴の両方を使っている。2つの暦の日付が違うのだ。これを何とかしなければ、不便極まりない。
日本独自の年号の暦は明治の時代に採用した太陽暦で、惑星歴は江戸時代まで使われていた太陰太陽暦、すなわち明治大正昭和の時代に旧暦と呼ばれた暦だ。太陽暦が単純で合理的だから、他の国もそうしろというわけにはいかない。他の国は惑星歴なのだ。
惑星歴510年、新地球事情調査室の検討課題は、簡単に統合できない難問なのである。
新地球事情調査室の有識者メンバーの中に、反惑星説の高瀬教授の名前はなかった。
この惑星が反地球ではなく、地球であると多くの人が認識するようになっていたが、高瀬教授は相変わらず反地球を主張していた。地球とそっくりの反地球、反地球ではないという証拠もないのである。
彼は自ら主張していた反太陽系説を拡張して、反宇宙説を唱えていた。光までも引力で引きつけるという高質量のブラックホールの向こうに反宇宙があるという考えである。反宇宙を仮定しないと、引き付けられ続ける物質はどこへいくのか、日本列島が時空を超えた現象がどうしておこるのか、それらの説明ができないというのだ。
高瀬教授はどんな議論の時もその理論をもちだすので、新地球調査室の仕事には邪魔でしかなかった。相変わらず報道番組の出番は多かったが。
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トロル中尉はアビル少尉に占領した町の防衛を任せ、武装警護車でセイル外交官、マーヤ曹長と共にカメリル国に戻っていた。
トロルは鼻高々で、軍に、ロマスク帝国の1つの町を占領している兵のための物資の供給と、海を隔てたロマスク国も降伏直前なので海軍の派遣を要請していた。
セイルはバジル執政官の別邸で外交の報告をしていた。別邸というのは、バジルの執務室のある高層ビルは、10階から15階までが官庁の部屋になっており、1階が駐車場、2階から9階までが官僚たちの宿泊施設になっていた。その施設であるバジル執政官の別邸は9階にあった。
「で、ナポトラ皇帝が治めているというロマスク帝国というのは、どんな国かね。」とバジル。
「海の向こうで、見ることはできませんでしたが、占領した町は、今まで見た町では1番しっかりした町でした。この国の町にはかないませんが。港湾の土台がコンクリートなのにも驚きましたし、コンクリートブロックも至る所に見受けられました。蛮族と侮れません。」
「そうか。兵力、軍事力は?」
「わかりません。町はもぬけの殻で、戦わなかったのですから。ただ、気になった男が、確か二ホンとか言っていましたが・・・。」
「二ホン?」と言ってバジルの顔が曇った。
「御存じで?」
「いや、知らぬが・・・その男がどうした?」
「いえ、失礼な男で、気になっただけです。」
そこへ年配の女性が入って来て、
「あなた、難しい話はそのくらいにして、スープが冷めますよ。」とステーキをテーブルに置いた。
「おば様、ごちそうになっています。」とセイル。
「セイルちゃんが来たのだから、張り切りますよ。お母様は元気?」
「はい、家政婦さんと看護士さんが住み込みで来てくださっているので、助かります。バドー君とガリー君は?」
セイルが尋ねた2人はバジル夫婦の息子である。
「2人とも軍隊に入隊していて、世話のかかるのは前にいる人だけですわ。」
セイルは部隊が途中の集落で略奪行為をしたことを言い出せなかった。軍のあのような行動が、一度占領した国に反逆の意を生じさせるのだと考えていたが。
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巡視船が港町セルルの沖に停泊している。
三木は甲板で偵察ドローンを操作している。
「うまいもんですね。」とリベルテのマイト大尉。
「以前、嫌というほど研修を受けましたからね。実践は初めてですけど。」と三木。
三木は、モニターに映る戦車や自走砲を見ながら、ロマスクからもらった町の地図に、それらの位置を書き込んでいる。
「戦車5台、砲が長いのが3台、短いのが2台。自走砲の砲は短いですね。3台。これらを奪えば、簡単に町を奪還できますね。」と三木。
「そうでしょうが、どうやって奪うのですか?」とマイト。
「そのために、群青色に塗ったボートとロマスクの陸軍の先鋭をお願いしたんですよ。まあ、マイトさんはここで見ていてください。」
港湾ではカメリル国のアビル少尉が沖に停泊している船を眺めている。砲撃の射程外に停泊しているために、沈めることもできない。時折、小型の無人偵察機(ドローン)が飛んできては帰っていくが、攻撃もないので見ているだけである。カメリルにも偵察用と攻撃用の無人機がある。
(臆病者のロマスク人、町が気になって見ているのだろう。)アビルはそう思っていた。
今宵は新月。月明かりのない闇夜。草木も眠る丑三つ時、人工的な明かりの全くないこの地方は、数えきれないほどの星々が輝いて、天空だけが明るい。
巡視船から群青色の4隻のボートが静かに滑り出していく。ボートには三木、そして群青色のスーツに身をまとったロマスクのアコリ中尉率いる特殊部隊が潜んでいる。
手漕ぎのボートは音もなく桟橋に到着すると、群青色の人影が戦闘車両のある場所へと散っていく。
ブスッ。武器は鋭利なナイフ。無防備な見張りの急所を刺す。
すべての戦車と自走砲を制圧したロマスクの特殊部隊は、砲弾が装填されているのを確認して、車両の中で夜が明けるのを待つ。
夜が明けた。三木とアコリの乗っている戦車が、大きなエンジン音を響かせる。ブオーン、ブオーン。
それを合図に、あちらこちらで車両のエンジン音が響く。ロマスクが奪った戦車と自走砲が町を出て行く。気付いたカメリルの兵たちが追ってくるが、車両の方が速い。車両は町を出て草原を走り、町から離れて停止する。
「砲弾の数は限られているから、効率的に使うのですよ。」と三木。
「分かっています。隊員にもそう伝えています。近づけば自動小銃ですね。」とアコリ。
「そうです。戦車で来ているから、ロケット砲などは持参していないと思います。」
「でしょうね。町を破壊しない配慮に感謝します。」
ドーン、ドーン。追って来た兵たちを砲撃すると、兵たちは逃げ出し、誰一人近づいてこなくなった。
戦車と自走砲はゆっくりと町に向かって前進する。
ドバーン、港に水柱が上がる。ロマスク海軍の戦艦隊の威嚇砲撃である。
反撃のすべのないカメリル兵は白旗をあげる以外になかった。
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ガーゴの街には、カメリルの陸軍基地の他に、海軍の軍港もあった。シェラリベ共和国の反逆を抑えるために軍艦や航空母艦、輸送艦などが停泊していた。
カメリルの軍部はトロル中尉の提言を受け入れ、簡単に征服できるということを真に受けて、戦艦2隻、輸送艦1隻でロマスク目指してガーゴの軍港から出航させていた。陸軍基地からもトラック3台が、食料などの物資、そして兵の増員10人を乗せて、出発していた。
海軍も陸軍も、シェラリベ共和国の反逆への対応でそんなに多くの戦力を北方へ割けないのだ。
北方へカメリルの戦艦が出航、さてどうなる?