ナーイ地方軍の基地はナクルの街の西側にある。その基地の側を、ナクルの街からトーベ共和国の首都トレツまで真っ直ぐに伸びている2車線の舗装された道路が通っている。ジャングルを抜けたトーベ側の道路は戦いの跡も生々しくアスファルトが剥がれ車両の残骸で寸断されているが。
その道路を5台の戦車と5台の自走砲と5台のトラックで進行する部隊があった。スマル中尉の部隊である。トラックの荷台に乗っているスマルにナーイ地方軍の基地から同乗したカマルという男が話しかける。カマルはナーイ地方軍の基地司令官の側近らしく、司令官に戦況を報告するために同乗したという怪しげな男であった。スマルは命の保障はしないということで同行を認めたのである。
「スマル殿、どうしてトーベ征伐などに?攻めても来ないのに?」とカマル。
「トロル軍務大臣の直々のご命令さ。よく分からないが命令とあらば動くのが使命だからね。」
スマルは馬鹿トロルと言葉が出かかったが止めた。ここはトロルの本拠地、ナーイ地方、しかも話し相手はその地方軍の司令の側近、どこで災いが身に降りかかるか分からない。
「おかしいですな、相手にしなければ何もしてこないのに?」とカマルは言って、しばらく考え込んで口を開いた。
「ははあん、カメゴリ大司祭に泣きつかれたのだな。」
「カメゴリ大司祭?」とスマルが尋ねる。もちろん、サンマル教の大司祭の名前は知っているが、それがどう関係するのか分からなかった。
「いえね、以前ナーイ地方軍だけでトーベを攻めた時に大司祭の強い要望だったと聞いていたから、確か、バハナミ神殿へのお布施が入らなくなったとか。」とカマル。
(そんなことのために)とスマルは思ったが黙っていた。
「それはそうと前はイマト大尉殿とご一緒だったのに、今回はどうしていないのですか?」とカマル。
「そんなこと聞かれても、答えられないよ。分からないのだから、答えようがない。」
スマルはまた、馬鹿トロルのやることは分からない、と言いかけたが止めた。
スマルの部隊はジャングルのあった場所を通過する。焼き払われてジャングルはもうない。燻ってはいないが黒い大地のままである。所々緑の草が生えていて大地が蘇る兆しが見えている。
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イマトは軍務省の調査室にいた。西方の海を越えたところがどうなっているか説明をするためである。
イマトは遠征の間、船酔いでほとんど横になっていて外など眺めていなかった。だから、説明しろと言われても無理だと思いながら、調査室にやってきた。
調査室のテーブルには手書きの地図が広げられていた。すでに、海軍の兵から聞き取りを済ませて作成していたのだ。
聞き取りから描かれた地図
その地図を見たイマトは、さすが海軍だと思った。イマトは遠征を思いだすのも嫌だったし、全く覚えてもいなかった。
軍務省の調査官は、地図上の陸地の東端にある小さなマークを指さして、「ここが軍港のあったところで間違いないかね。」と尋ねた。
「ええ。」とイマトは分からないのだから、お茶を濁す以外にすべがなかった。
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アビル少尉は軍務省ではなく外務省に呼ばれていた。アビルはセイル以外に二ホンに行ったことがあることを話していなかったし、それを知っている捕虜だった部下たちも口外していない。アビルが呼び出されたのは、一緒にいたセイルのことを聞くためであった。セイルはツイクに帰ったままでずっと登庁していないのだ。
アビルが係員に、セイルと出会った場所、そのときのセイルの様子、セイルと話したことなどを尋ねられ、それに答えていると、ゴンタ外務大臣が入室してきた。
係員は慌てて椅子から立ち上がり、アビルの回答のメモ書きをゴンタに渡すと、礼をして部屋から出ていった。ゴンタはメモ書きを見ながら、係員が座っていた椅子に腰かけると、口を開いた。
「ゴンタと申します。失礼かと存じますが、いくつか質問をさせてください。セイル外交官は捕虜だったのですか?」
アビルには分からなかった。囚われていなければ二ホンの軍用艦にいるはずがないし、捕虜ならば自分たちと同じように印のバンドを付け監視がいるはずなのにそれがなかった。最初は外交官だから印も監視もないのかと思っていたが、振る舞いを見るにつけてセイルが捕虜だとは思えなくなっていた。
アビルは「分かりません。」と答えて、そのことを正直に伝えた。
「そうですか。セイル外交官は、囚われても卑下しないところがありますからね。ところで、どこで囚われたと言っていましたか?」
「何も言っていませんでした。囚われたとも聞いていません。」
「二ホンのことについて何か言ってましたか?」
アビルは躊躇した。二ホンについてセイルに話したのは自分なのだ。アビルが二ホンに行ったことは秘密にしている。喋ればややこしいことになるから黙っていたのだ、アビルは誤魔化すことに決めた。
「二ホンは強い国だと言ってました。そのくらいです。」
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ツイクの街のセイルの自宅にバジルが訪れていた。セイルがツイクに戻ってきていることはツイクの街だけでなくツルゴの街にも伝わっており、カーレン郊外に住んでいるバジルの耳にも入ってきた。バジルは直ぐにツイクの街にやってきたのだ。
「セイルちゃん、二ホンに行ってたって、本当か?」とバジル。
「行ってましたわ、どうして知ってるの?おじ様。」とセイル。
「以前、セイルちゃんがいないのでここに来た時、ユリネがそう言ってたから。」
「お母様が・・・どうして?」
「二ホンに行ってると思うと言ってた。勘のいい妹とだから。それより、政府は二ホンの位置を躍起になって探っている。二ホンに行ってたことは言わないほうがいい。」
「それは無理ですわ。登庁すれば報告しなければなりませんから。一部始終を話すつもりですわ。その為の報告書をつくっているところですの。」
「ダメだ!二ホンに行ったことと二ホン人であることは絶対言うな。報告はしなければならないが、そのことは伏せて報告しなさい。」
「・・・・・」
「停戦はしているが二ホンが敵国であることは変わりがない。セイルちゃんの身のためだ。」
セイルはその夜、報告書を書き直した。
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スマルの部隊は、ジャングルの焼け跡を通過すると、戦車など破壊された車両の残骸がそのまま残っている草原についた。スマルは車両の残骸を利用して砦の様な陣地をつくることを指示して、双眼鏡を眺めた。見渡す限り草原と農地、そして点在する森、どこにも敵の軍隊は見当たらなかった。
すでに敵の領地に侵入している。いつ攻撃されてもおかしくない。敵がいないからといって侵攻するわけにはいかない。食料と燃料の補給が必要なのだ。
スマルの部隊は食料と燃料の補給を待つ、そして・・・