カメリル軍の戦闘車両やトラックがトーベ共和国に向かって進行して行くのを、日本の偵察衛星が捕えていた。そのことを国交のないトーベ共和国には伝えられないが、最近交易を始めた隣国のガーゴ都市国家には伝えていた。
港湾の貿易事務局の局長室に市長のテーゴが来ていた。二ホンの護衛艦が沖に停泊しているので、それが眺められる局長室によく来るようになったのだ。
「テーゴ市長、またカメリルがトーベに侵攻しているという連絡が二ホンから入りました。どうなさいます?」とレンド貿易局長。
ガーゴ都市国家は軍事的内容であっても海外からの連絡はこの貿易事務局で受けるようになっている。陸軍基地にも市庁にも海外と繋がる通信施設はないのである。
「カメリルがトーベに侵攻している?どうして遠い二ホンに分かるのだ?」とテーゴ。
「それは二ホンが神の眼、宇宙の眼をもっているからですよ。」とレンド。
「神の眼?宇宙の眼?何だそれは?」
「二ホンは遥か宇宙から大地を偵察していて、こちらが丸見えだそうですよ。」
「とんでもない国だな、二ホンは。」
「で、市長、どうなさいます。」
「トーベは我が同盟国。トーベがやられるとこちらが危ない。知らせてやろう。援軍も送るように陸軍に連絡しよう。レンド、電話を借りるぞ!」
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ガーゴの港の沖に停泊していた護衛艦いずもにもカメリル軍の侵攻が伝えられていた。帰国の指示を受けていてその準備をしていた川本外交官の耳にもそのことが入ってきた。
「遠山艦長、私に対する指示は?」と尋ねる川本。
「何もありません。帰国の手配をしております。小艇を出しますからそれで港まで行って、職員の皆様と合流して帰国してください。空港にチャーター機が待機しています。」
「そうですか、あなた方は?」
「しばらく待機の予定です。それ以上は申し上げられません。」
川本を乗せた小艇がいずもから出ていくのを見届けた遠山は、艦長室に三木を呼んだ。
「何ですか?あなたが私を呼ぶなんて、珍しい。カメリル軍の侵攻の件ですか?」と三木。
「もう、お耳に入っているのですか、お早い。」
「早いですか、知らないのは日本語が分からないリベルテの人たちだけですよ。もう少しセキュリティを強化する必要がありますね。」
「あはは、艦内では全ての情報を共有することの方が大事です。その必要はありません。」
「そうですか。ところで、何でしょうか?カメリル軍の侵攻阻止なら相原さんでは?相原さんは?」
「相原三佐は先ほど川本外交官と一緒に小艇でガーゴの港に向かいました。あなたに来ていただいたのは、トーベに侵攻しているカメリル軍のことではありません。」
「でないとしたら、どういうことで?」
「実は、ガボリ共和国のカメリルからの独立工作のお願いなのです。」
「独立工作?意味が分かりませんね。」
「今、ガボリ共和国は共和国とは名ばかりで、カメリルの占領地です。ガボリ人は虐げられ搾取されています。」
「いえいえ、それは分かっています。でも、国益ではなくて人道のために国が動くなんてことはないはずですが・・・。そういうことではなくて、なぜ私がということです。私は日本の国民ですが、職員ではありません。」
「分かっています。でもあなたはリベルテ軍のアドバイザーです。そのためにリベルテの艦隊がこちらに向かっています。」
「リベルテの艦隊?ますます、意味が分からないですね。」
「あははは、私も意味が分かりません。本国からの指示をお伝えしているだけです。」
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ガーゴの港で下船した川本外交官と相原三佐はガーゴ市庁を訪れ、テーゴ市長の面会を求めた。川本は帰国の挨拶のため、相原はカメリル軍のトーベ侵攻の対策協議のためである。ところが、市長は港湾の貿易事務局に出向いて不在だという。川本と相原は再び港に引き返した。
貿易事務局の局長室には、トーベ共和国にカメリル軍の侵攻を知らせ、ガーゴ陸軍基地に援軍の手配を指示した市長のテーゴがまだ油を売っていた。
「二ホンの方がテーゴ市長にお会いしたいそうです。」そう言って職員が局長室のドアを開ける。
局長室に招かれた川本と相原は、テーゴとレンド貿易局長と互いに握手を交わす。
開口1番テーゴが「カメリル軍の侵攻の件、トーベに知らせましたよ。今日はその件で?」と川本に向かって言った。
「いえいえ、帰国のご挨拶に参りました。市庁へお伺いしたらここだと聞きましたもので。」と川本。
「えっ、帰られるのですか?カメリル軍が侵攻しているというのに。」とテーゴ。
「はい、私の役目は終わりましたから。職員と一緒に帰国します。カメリル軍の件はこの相原と打ち合わせてください。いろいろとご配慮いただきありがとうごさいました。職員も待っていますのでここで失礼いたします。」川本はそう言って、相原に目配せをして出ていった。
「市長さんはこちらによく来るのですか?」と相原がテーゴに尋ねる。
「ええ、ここが気に入りましてね。市長室を移転しようかと思うほどです。」とテーゴ。
それを隣で聞いたレンドが嫌そうな顔をする。
「冗談だよ、レンド。そんな渋い顔をするな。」とテーゴ。
「私がここに来た訳は、日本の部隊を援軍に出せないことを説明するためです。」と相原。
「えっ、どういうことです?」とテーゴ。
「実は、日本とカメリルは停戦の約束をしてまして、カメリル軍と戦えないのです。でも、燃料や食料の調達にご協力いただいているので、非公式に援助しようかと。」
「といいますと?」
「我が国の武器をたくさんご購入いただいていますが、その取り扱いの指導員を5名ほど派遣しようかと。で、貴国の軍服を5着ほどお借りしたいのですが。実践での指導になるので、我が国の服ではちょっとマズいものですから。」
以前はリベルテから購入していた陸軍の設備や武器を、日本から調達するようになっていた。
転移前の日本は、武器の輸出に関して物議を醸すことはあっても、輸出をしていなかった。だから、最も最先端の技術が使われる軍事設備や武器は常に新しいものに更新されるので、古い設備や武器は廃棄処分にしてスクラップにするしかなかった。でも、そのまま捨てるわけにはいかないから、処分の費用もバカにならない。それが、捨てることなく売れるのである。日本のお古といえども他国にとっては最新である。単に引き金を引けば弾が飛び出すものとは違う。システム化された設備や武器なのである。
日本の軍事設備や武器を他国に持たせて、それで日本を攻撃してきたらどうするのだという意見もあった。でも、心配ない。その時はシステムを無効化すればいいだけのこと。日本は抜かりなく武器を輸出しているのだ。
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ガーゴ都市国家のテーゴ市長からカメリル軍侵攻の連絡を受けたハルル大統領はすぐに息子のユカル海軍大将を呼んだ。大統領府のあるトレツの街にカンドという軍務大臣がいるのだが、カンドは元トーベ地方軍の司令官で戦闘には疎かった。というのは、地方軍は火災や地震などの災害救助が主な仕事であったので、国防の経験もその指揮の経験もなかったのである。そして陸軍基地にいる兵も同じであった。カメリル軍にいた兵が少しはいたが。ハルルは、国防についてはドレキの海軍基地にいるユカルを呼びつけて相談し、軍務大臣カンドに指示するのが常であった。
「軍務省があるでしょう。いちいち呼びつけないでください。」とユカル。
「それが嫌ならササドを軍務省によこしなさい。」とハルル。
「嫌です。ササドは海軍の貴重な指揮官です。何を馬鹿なことを。」
「馬鹿とはなんですか、馬鹿とは。」
大統領と海軍大将との会話ではない。親子喧嘩である。
「で、ガーゴが侵攻に気付いたのに、陸軍は気付かなかったのですか?基地を東側に移したのに?」
「だから、ササドをよこしてと言ってるのだよ。」
もともとトーベ地方軍の基地はトレツの街の西側にあった。国が守れるような軍ではないのだが、カメリル国に属していたときは東を守る必要がなかった。独立をすると脅威が東側にできたから、移動させたのだ。
「何度言われてもダメです。でも不思議ですよね。なぜ、ガーゴが気付いたのか。ともかく、誰が指揮しても、カメリルを我が軍では防ぎきれません。同盟国に、援軍の要請をしたのですか?」とユカル。
「ガーゴが送ってくれるそうだ。」とハルル。
「そうですか。それまで、持ちこたえるしかないですね。我慢をして、被害を最小限にして。」
ユカルは、以前、カメリル軍を追っ払って颯爽と帰って行った戦闘車両がガーゴ都市国家の軍隊であるとは思っていない。しかし、あの時もやって来たのだから、また来るかも知れないと期待した。そして、その時は白地に赤丸(日の丸)の国旗がどこの国か確かめようと思った。ユカルはかつて二ホンの艦に掲げられていたのを見た旭日旗が二ホンの国旗だと思い込んでいるのだ。
トーベだけではカメリルの侵攻を防ぎきれない。援軍は?