リベルテ艦隊の旗艦トスリン号に乗艦したメイキ大尉は直ぐに艦長室に出向いた。そしてマイト艦長の顔を見るなり。「マイト、ガボリ共和国の独立工作とは、どういうことなんだ?」と嚙みついた。
「私も分かりません。上司のゲイン大佐に理由を尋ねたら、上からの命令だとしか答えてくれませんでした。私が教えて欲しいぐらいです。」とマイト。
そこへ、特別船室をあてがわれた三木が挨拶に艦長室にやってくる。三木が艦長室に入ると、挨拶もしないうちにいきなり「三木さん、どういうことなんです?我々の変な任務は?」とメイキ。
「私も詳しくは分かりませんが、だいたいの想像はつきます。それより、マイト殿、良い船室をありがとうございます。大臣か貴賓用の船室ですね。」と三木。
「いえ、いえ、貴賓扱いをせよと上の指示ですから。私も今度の任務、合点がいきません。想像でもいいですから教えていただければ。」とマイト。
「多分ですが、これは二ホンの策略だと思いますよ。」と言って三木は自分の予想を述べ始めた。
転移前の地球では、本命の国を攻撃するためにその周辺で反乱を起こさせ、それを鎮圧するために武力を用いるように仕向けて人道支援という口実で軍隊を派遣するようなことが行われていた。今度の場合はそれと全く同じではないが、三木はそれと似たようなものだろうと感じ取っていた。
「二ホンはカメリルと停戦に同意しています。でも、停戦の条件、特に核兵器の放棄をカメリルがするとも思っていません。だからといって、カメリルを攻めるわけにもいかない。カメリルが領事館を置いて植民地のような支配をしているガボリ共和国には良質で豊富なウラン鉱床があり、濃縮ウラン工場もあります。カメリルを攻撃する口実にするかどうかは別にして、とりあえずはガボリをカメリルから引き離すことを二ホンは考えたのではないかと思います。そのためには、ガボリ人が実質的な独立を目指して立ち上がるのが一番良い、そのためには武器の供給もするつもりでしょう。そんなところだと思いますよ。」
「やっと分かりました。輸送船に自動小銃と弾薬が大量に積み込まれているわけが。」とマイト。
「でも、それをやるのがなぜリベルテなのだ。リベルテに何の利もない。」とメイキ。
「それがあるのですよね。ウランですよ。リベルテ国は原子力発電所の建設を進めているのでしょう。」と三木。
「そうだけど・・・でも納得がいかない。」とメイキ。
「納得がいかなくても任務ですから、メイキ殿。」とマイト。
「私もこき使われているようで納得がいきませんが、とりあえずは特別船室のお礼まで。また後程。船室に戻ります。失礼しました。」そう言って三木は艦長室から出ていった。
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ガボリ共和国のボントの街で運送会社を経営しているタクシーは街角のレストランで店主の老婆メルンと話をしていた。
「いつも野菜の仕入れを手伝っていただいてすまないね。」と老婆メルン。
「いえいえ、こちらは商売ですから。贔屓にしていただいて、ありがとうございます。ところで、カーレンの軍事施設が攻撃されたというのは本当ですか?」とコーヒーを飲みながら、タクシーが尋ねる。
「カメリルの兵が店で話をしていたから、間違いないと思いますわ。いい気味ですね。」とメルン。
「無敵のカメリルの首都を攻撃するなんて、そんな無謀なことをする国はどこですか?」とタクシー。
「どこの国かは知りませんが、カメリルを降伏させたみたいですよ。」とメルン。
降伏ではなく停戦なのだが噂は誇張されて都合のいいように伝わる。ガボリ人は表面上はカメリルに従順であるが内心では嫌っている。メルンは17年前の戦争で夫と息子を亡くしていて、カメリルに対する恨みは強い。カメリルの兵もレストランの上客なので、思いを表には出さないが。
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リベルテの輸送艦から日本製のエアクッション艇がトラックを1台積載して出航し、旗艦トスリン号に横付けしていた。そのエアクッション艇にリュックを背負った三木とメイキ大尉以下特殊部隊の隊員たちが乗り込んでいる。どの隊員も作業員のような格好でカモフラージュをしており、三木などは背広に赤いネクタイ姿になっている。
「上陸してどうするのですかね?私にはよく分かりませんが。」とメイキ。
「以前に訓練でやったでしょう。まずは情報収集。」と三木。
「泊まるところ、宿、拠点はどこにするのですか?」とメイキ。
「当面はトラックでしょうね。しかも目立たない街外れの森かどこかで。」と三木が答える。
「食料はどうするのです。トラックに積んでいるのは1日か2日分しかないですよ。」とメイキ。
「何を言ってるんですか。現地調達、あなたも砂金を持っているでしょう。」と三木。
エアクッション艇は静かな海を滑るように航行して、以前やって来た同じ場所に着岸した。もっとボントの街に近い場所にしたかったのだが、トラックを上陸させエアクッション艇を隠せる海岸は他には見いだせなかった。
トラックの運転席はメイキ、助手席に三木、荷台に特殊部隊の隊員8人。トラックは草原を慎重に走る。ロボットの残骸が伸びた草丈に隠れて見えなくなっている。微かに残っている以前走ったトラックの轍を頼りに、メイキはハンドルを操作した。
コンガの人たちのテントが目視できる位置にトラックを隠せる森がある。その森の中にトラックを止め、三木が隊員たちに帰還の時刻を示して偵察を指示する。隊員たちがボントの街を目指して散っていく。三木はメイキにトラックに残るように言って、コンガのテントに向かって歩いていった。
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老婆メルンは17年前を思い出していた。戦後の荒れ果てたボントの街を立て直したのはゴメスというカメリルの総司令であった。街のあちこちにあった死体を敵味方なく埋葬させ、溢れる戦災孤児を収容して食べ物を与えた。
カレンは目の前でコーヒーを飲んでいるタクシーがそのことを覚えているだろうかと思った。17年前、メルンは夫と息子を亡くし途方に暮れていたが、ゴメスに励まされて、家業の飲食店を再開し、戦災孤児の収容所に食べ物を提供していた。戦後で品不足、資金不足ではあったが、材料も対価もカメリル軍から提供され、街でも有数の飲食店に成長していた。だから、身内を殺害したカメリル軍に恨みを抱いていたが、総司令のゴメスには奇妙な好意を抱いていた。そのまま、ボントの街の治政をしていれば、もっと住みよい街になっていたと思うほどに。
メルンは収容所にいたタクシーを5歳の時から知っていた。収容所ではタクシーが年長でガキ大将であった。タクシーはその頃のガキを寄せ集めて運送会社を設立していた。人も荷物も何でも運ぶ運送会社であった。
タクシーが店を出るとき、メルンが言った。
「カーレンを攻撃した国が、ここのカメリルの兵を追っ払ってくれればいいのにね。」
「誰も追っ払ってはくれません。私たちが追い出すしかない。」そう言ってタクシーは店を出た。
とりあえずは偵察、三木たちは何か分かるのか?