コンガの人たちのテントの周りにもうカメリルの兵はいない。警戒の必要も警護の必要もないことを悟ったカメリルの領事館は兵を引き揚げさせたのだ。三木は老人ガレコのテントを訪ねた。目的はカメリルの抵抗勢力を探るためである。特殊部隊もそのための偵察でボントの街に散っている。
「カメリルを憎んでいる人は多いけど、逆らうものはいないと思うよ。我々も、この地に家を建てて定住しようと思うのだが、カメリル領事館の許可がおりない。ボントの街の人は賛成してくれるのに。一番、カメリルを追い出したいのは我々さ。助けてくれたのもカメリルだけど。あははは。」そう言って老人ガレコは笑った。
「 定住?帰らないのですか?」と三木。
「何を馬鹿なことを言っているのですか。ロボットは全滅したけど、原子力発電所を原爆で破壊したのですよ。ルマナの街は壊滅、しばらくは人の住める場所ではない。我々はカメリルのように放射能を甘く見ていませんよ。」と老人ガレコは苦々しく言った。
「この場所の電気やガスはどうなっているのですか?外に電線もないのに、このテントにライトがあるようですが?」
三木はこのテントのライトが気になっていた。どう見てもLED、発光ダイオードのライトにしか見えない。AIロボットの国の民である。LEDが不思議なわけではなく、それをどうやってつけるのかが気になっていた。
「電気は何度もこの地に繋いでくださいとお願いしているのですが、やってくれません。ガスは各テントでガス器具が使えるようにプロパンのボンベを用意しています。」とガレコは答えた。
「電気が来ていないのにこのライトは?」
「ああ、それですか。別のテントに重油用の小型発電機を設置していて、夜になると動かしています。明かりだけは確保していますが、とにかく不便です。」
「ボントの街から電気がひけるといいですのに、どうして許可されないのですか。」
「分かりませんが、多分、まだ捕虜だと思っているのでしょう。ルマナの街は全滅したのに。」
「そうですか、ところで今日来たのは、お願いがありまして。実は10人程の食料を調達する必要がありまして、支払いは砂金で致しますが、何とかならないかと。」
「いいですよ、ここも肉や魚はボントの街から購入していますから、多めに注文しておきましょう。野菜や果物、そしてパンなどはここで作って売っていますからお分けしましょう。10人ですか?多いですね。明日からでよろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます。それに滞在が長引きそうなので、よろしくお願いします。」
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スマルの部隊はナクルの街へ向かってただ歩いていた。疲労困憊していても歩く以外の手段はない。通信機もなく連絡の取りようがなかった。
「また、野宿ですか?」とナーイ地方軍のカマルが疲れ果てた顔をしてスマル中尉に愚痴を言う。
「夜通し歩き続けるわけにも行きませんからね。そのうちナクルに辿り着きますよ。」とスマル。
スマルの部下たちは誰も愚痴をこぼさない。食料の調達で兎狩りをしたり、薪を拾ったりして動き回っている部下たちの方が、カマルよりも疲れているはずなのに。
太陽が西に傾き、部隊が舗装道路から寝床を求めて草原に移動し始めた時、東から車がやって来た。ナーイ地方軍の物資の輸送車である。それを見たスマルの部下たちの歓声が上がる。
スマルはその輸送車の兵に敗退していることを説明し、兵の輸送用のトラックを地方軍の基地にあるだけ回すように頼んだ。輸送車には無線が設置されていて、すぐにナーイ地方軍の基地に連絡ができた。
連絡を受けたナーイ地方軍は、正規のカメリル軍が敗れたことを知り、カーレンの陸軍本部に報告をする。カーレンの陸軍本部はトーベごときに敗れたことを恥ずべき失態と捉え、軍務省に報告しないで密かに援護部隊を派遣する。
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トラックに戻った三木は、荷台で寝ていたメイキ大尉を起こして言った。
「他の人たちは?」
「まだ、誰も戻っていません。」と目をこすりながらメイキが答えた。
「そうですか、成果は期待できそうにないですね。」と三木。
隊員たちはボントの街の抵抗組織の有無を調査に出向いているのである。誰も戻っていないということは見つかっていないということである。時間をかければ見つけることができるものではないことを三木が一番承知していた。
一人、二人と隊員たちが戻って来る。案の定、成果なしと顔に書いてある。全員が戻ったところで、荷台に集まり、報告会を開いた。隊員たちの報告は、三木がコンガの人たちのテントで得た情報と同じであった。カメリルに反感は持っているが、反抗する気はない。そもそも、ボントの人たちは、かつて不時着した日本人たちを受け入れたように、人が良いのである。
「最後に、ボントの街にスラムのような場所はありませんでしたか。」と三木が尋ねた。リベルテでは反政府組織が潜んでいたことを思い出したのである。
「私の動いた範囲内ではそのような場所はありませんでした。」と一人の隊員が答える。
どの隊員もそのような場所はなかったと答えた。
三木はトラックの荷台の床に日野から預かったボントの街の地図を広げ、隊員たちに調査した地域にマークをするよう指示した。衛星写真をもとにボントの街の地図が精密にできていた。メイキも隊員たちも初めて地図を見たのであるが、三木から提供される情報の斬新さに慣れてしまっていて別に驚きもしなかった。
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ナーイ地方軍の輸送トラックがスマル中尉の部隊のところに到着した。全員を乗せるにはトラックの台数が足りなくて満杯に詰め込んでも、10人程は乗れない。
スマルが残ると言ったものだから、部下の隊員は誰も乗ろうとはしない。ナーイ地方軍のカマルだけが助手席に乗り込んで、「さっさと乗らんかい!」と怒鳴っている。
「ここから向こう、全員乗車!これは命令だ!」業を煮やしたスマルが叫んだ。
隊員たちが渋々トラックの荷台に乗り込み、輸送トラックはナクルの街に向かってやっと出発した。
残ったスマルたちは、集めた薪を燃やし、狩りで得た兎をナイフでさばき、運ばれてきた食料で夕食をとっていた。あたりは薄暗くなり、戻ってくるトラックの為にも焚火は欠かせない。雨は降っていないが、曇り空で月明かりも星明りもない。暗くなれば通り過ぎる可能性がある。
食事を終えた頃、東の方向に車のライトが見えた。部下の1人が道路に走っていく。トラックを止めるためである。
スマルは焚火の後始末を部下に命じて、ゆっくりと道路に歩いて行った。
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カメリル陸軍のメンツのために派遣されたのはイマト大尉の部隊であった、ナーイ地方軍の基地に到着すると、スマルの部隊の最初の帰還組が到着していた。イマトは地方軍の司令のところに挨拶にいく前に、帰還している隊員たちのところに出向いた。
イマトは休んでいる1人の兵に声をかける。
「スマル殿は?」
「はっ!」イマトに声をかけられた兵だけでなく、周りにいた兵たちが立ち上がって敬礼をする。
「中尉はまだ戻っていません。折り返し輸送トラックが出発しましたから、まもなく戻ってくると思います。」
「そうですか、戻って来られたら、イマトが来たと伝えてください。疲れているのでしょう、楽にしてください。」そう言ってイマトは司令室に向かった。
イマトが司令室に入ると、ナンド指令とカマルがいた。カマルはスマル部隊の敗戦の様子をナンド指令に伝えたように、イマトにも正確に伝えた。カマルはスマルの撤退の速さを臆病だと感じていたが、報告は私情を交えず客観的な事実だけを伝えていた。
ナーイ地方軍の基地にイマト大尉の部隊が到着、トーベを攻撃するのか?