三木はコンガのテント村まで戻って、老人ガレコと会っていた。ボントの街の人たちのコンガ人に対する嫌悪感を全く知らないガレコは、この地に電気を引けない原因はカメリル領事館にあり、ボントの人たちのためにもカメリルを追い出すべきだと主張した。
ガレコはその聡明さに似合わず、ボントの人たちが好意的だと勘違いしている。
(こんな人がそうでないと気付いた時はその反動が厳しいものになる。)
三木はそう思いながら、目的の用件を切り出して言った。
「向こうの森のトラックまで食料を運ぶことができますか?できないようなら取りに来ますから。」
「運送屋のタクシーさんに頼んでみます。肉や魚をここへ運んでもらっていますから、ついでに運んでもらうといいですよ。」とガレコ。
(それはマズい。)と三木は思った。コンガ人ならともかくガボリ人に10人もの異邦人がいることを知られるのは危険だと思ったのだ。カメリルに知られたら工作が難しくなる。
「いえ、それは・・・。取りに来ますから保管しておいてください。」と三木。
「どうしてですか?タクシーさんは親切だし、運んでくれますよ。」とガレコ。
「いえ、ちょっと事情がありまして。私の方で取りに来ますからよろしく。」これ以上追求されるとマズいと思った三木は、そう言って、ガレコのテントから出ようとした。
「しばらくお待ちください。」とそう言って三木を引き留めたガレコは、テントから出ていった。更に追及されると感じた三木は、マズいなと思いながら待っていると、ガレコが若い男を連れて戻ってきた。
若い男を見た三木は、この男が食料を運ぶ運転手かと思ったが、ガレコの紹介によると全く違っていた。彼はサイコという青年技師でテント村の発電機やライトの管理に就いているという。
ガレコは青年技師を三木に紹介した後、「彼を紹介したのは、実は・・・」と言って、
「あなたはニホン人ですね。」と尋ねた。
驚いたのは三木である。確信を持った尋ね方であった。三木は(もう白は切れない。)そう思った。
「どうしてそれを?」と三木。
「最初、ニホン人のことを尋ねてきたときは、二ホンという国も知らなかったし、この地にテントを張って生活できるようにしてくれたカメリルの女外交官と顔が良く似ているので、カメリル人だと思っていました。でも、2度目にやってきてタクシーさんの会社を紹介したときにカメリル人ではないと思ったのです。カメリル人ならそのためにここにくる必要はないですからね。カメリルでない、もちろんコンガでもガポリでもない。で、あなたはどこの人かとずっと疑問だったのです。」
(この老人ガレコは油断がならない。)三木はそう思った。
「でも、どうして二ホン人だと?」もう三木は自分がニホン人であることを告白している。
「カメリルが攻撃されましたね。白地に赤星の国旗、リベルテだとボントの街では噂されていました。私はリベルテも知りませんでした。このようなテント村から1歩も出ないのですから、知るはずもありません。情報はボントの街に出向く若い人から得るだけです。若い人たちは機械の修理や道具の回収で頻繁に街に出入りしていますからね。
でも、カメリルへの攻撃が本当で、しかも、ミサイルで確実にミサイル発射台や軍事施設を攻撃して、カメリルが降伏、あるいは停戦を望むような相手は相当強力な国です。カメリルはAIロボットと戦って勝った国ですよ。リベルテは凄い国だと思いました。」
「じゃあ、二ホンではなくてリベルテでしょう。」
「はい、私はあなたがリベルテ人だと思いました。でも、引っ掛かるものがありまして。言葉ですよ。リベルテ語はカメリル語と違うのかなと思いましたが、あなたの言葉があまりにもギクシャクしているのが気になりました。あなたは母国語を喋っていないでしょう。」
「鋭いですね。参りました、ただの老人様ではないですね。でも、二ホンだとは?」
「そうですね。ボントの街に二ホンという国を知ってる人はいないと思います。カメリルも1部の人しか知らないはずです。私だって、あなたに二ホンの人を尋ねられても二ホンの国の存在が信じられなかったのですから。」
「なのにどうして?」と三木。
ガレコが青年技師サイコに目配せをする。
「彼が二ホンという国を教えてくれたのです。」とガレコ。
「・・・・?」
「この場所で二ホンのテレビ番組を観ることができます。」黙っていたサイコが口を開いた。
「えっ、何ですって?」三木は驚いて声を上げた。
「西の空の天の赤道に動かない奇妙な天体を見つけまして、恒星も惑星も時間と共に移動しますから、静止衛星に違いないと思いました。静止衛星なら通信に利用しているはずだから、それを受信してみようと思いまして、アンテナと受信機を製作しました。部品などは前にいた地下集落からここへ運んでいましたから困りませんでした。モニター受像機など使うことはないと仲間に笑われましたが、運んでいて良かったと思います。」とサイコ。
(さすがエンジニア、恐れ入りました。)三木は驚きを通り越して率直にそう思った。
「その衛星放送の番組で二ホンを知ったのです。ニホン語は分かりませんが、コンガの言葉でも放送していましたから、内容も分かりました。それで二ホンを知り、ニホン人がこの地にいて救出されたことも知ったのです。」とガレコ。
「静止衛星の位置から二ホンの位置もだいたい分かります。西経70度、北緯40度。とにかく、受像装置のあるテントにご案内します。」と青年技師サイコが言った。
日本列島は東経135度から西経70度に転移していたのである。
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セイルはカーレンの公舎に戻っていた。いつまでもツイクの街に留まっているわけにはいかない。正義院議会を1度欠席したとはいえ、正義院議員である。そして、カメリルの外交官なのである。
セイルは外務省に出勤して報告のため大臣室をノックした。
セイルの顔を見たゴンタ外務大臣は、嬉しそうな顔をしてセイルに言った。
「どうした?長い間顔を見なかったから心配していたんだぞ。ツイクの自宅に帰ったとは聞いていたが。」
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。そのお詫びと報告に参りました。」とセイル。
「報告など後で文書で良い。それよりユリネ殿の容態はどうなんだ。悪いのか?」
ゴンタはセイルの母ユリネが正義院議員であったときに、ともにバジルを執政官に推す発起人であったのだ。
「いえ、変わりありませんわ。お言葉に甘えて、報告は後程ということで、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ、答えられることなら。」
「二ホンの攻撃を受けたようですが、二ホンとの関係はどうなっているのでしょうか。」
「二ホン?」と尋ねてゴンタの顔が曇った。ゴンタはセイルが二ホン人であることを知らない。
「停戦、停戦状態だ。戦闘機も軍艦も壊滅状態で戦うことができないが、軍務省は戦う気でいるようで再軍備を急いでいる。」そうゴンタは答えた。
その時。リリリリリンと卓上の電話が鳴る。
ゴンタは受話器をとって、小さな声で応答する。
「はい、繋いでくれ。はい、はい・・・・・・」
「えっ、何ですって。ダメです!越権行為だ。」急に声が大きくなった。ゴンタはセイルの顔を見る。
「はい、はい、はい・・・・・・・」声が小さくなって神妙に聞いている。
受話器を置いたゴンタは言い難そうにセイルに言った。
「軍務省の聞き取りがあるそうだ。悪いが軍務省の調査室に出向いてくれまいか。」
「失礼だわ、聞き取りならこちらに来ればいいのに。誰です?そんな失礼な人は?」とセイル。
「トロル軍務大臣、直接尋ねたいそうだ。」
「あの能無しトロル、配慮など期待するだけ無駄、断りましょう。」とセイル。
「そうもいかないのだ。執行官の命令なんだ。」と困り顔のゴンタ。
「分かりました。行きます。聞き取りの様子も詳しく報告書に書いて提出しますわ。」
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三木は受像機のあるテントに来ていた。コウモリ傘を逆さにしたようなパラボラアンテナが設置してある。ガレコが青年技師サイコに受像機のスイッチを入れるように促す。
スイッチが入ると受像機に鮮明な映像が映し出され、そこには二ホンの、高瀬教授の「宇宙の不思議」という番組が流れていた。三木は日本語の懐かしさもあり、しばらくその番組に見入る。
番組では、見える範囲での宇宙に限ってと断りながら、この宇宙の年齢が138億年であることを説明していた。転移以前の観測、宇宙マイクロ波背景放射やハッブル定数と膨張測定などの根拠をあげて図で説明している。宇宙の年齢が138億年でも、膨張しながら光が進むため観測可能なこの宇宙半径は465億光年であるといい、この宇宙を強調している。高瀬の宇宙論にはこの宇宙でない観測不可能なあの宇宙が存在するのだ。
番組の内容はともかく、二ホン語の放送をウンウンと頷きながらサイコが聴いているのである。三木は不審に思って二ホン語で尋ねてみた。
「サイコさんは二ホン語が分かるのですか?」
サイコはにっこり笑って受像機の横の黒い箱の装置を指さしながら、
「はい、だいたいはね。あれが教えてくれますから。」と答えた。
三木はサイコが指さした装置を見て、
「何ですか?黒い装置は?」と尋ねた。
「翻訳機作成装置です。AIを使用して二ホン語とコンガ語の音声対比を作成しています。」とサイコ。
何の不思議もなかった。人型AIロボットを造った国のエンジニアである。カメリルが日本の位置も特定できていないのに、このテント村の民は正確に特定している。
三木は古の民という言葉を思い出していた。
(この人たちはガボリ人とは異質だ。ガボリ人とうまくいくはずがない。)
そう思いながら三木は、砂金をカメリルの貨幣に換金し、10人分の食料の代金を前払いをしてテント村を出た。ボントの街もコンガのテント村も通貨はカメリルの貨幣である。
コンガのテント村で日本のテレビ番組を観た三木、コンガ人とどう向きあい、どう画策する?