三木は近くに来た特殊部隊の隊員に、森のトラックに引き返して、隊員全員に無線でトラックに引き返すよう連絡し、戻った隊員に人知れずこの倉庫に集まるように指示した。そして、メイキ大尉には武器と弾薬を積んだトラックをこの運送会社の裏門まで運転してくるよう伝えよと指示した。隊員は三木に敬礼をすると、唖然と見送るタクシーやマイキーたちをしり目に走り去っていった。
「やはりあなたは只者ではないですね。」とタクシー。
「あなたこそ、若いのにタヌキですね。騙されるところでした。」と三木は言って笑った。
理由は分からないが、ボントの街のカメリル兵が極端に減っている。蜂起のチャンスなのである。タクシーは武器さえあればと思っていた。三木は反カメリル組織を見つけさえすればと願っていた。
「ボントの街の市長と連絡がとれますか?」と三木。
「大丈夫です。マイキー、頼んだよ。」とタクシー。
「あいよ。」と言ってマイキーが倉庫から出ていった。以前からマイキーがボントの街の市長とコンタクトをとっていたのだ。蜂起をしてカメリルを追い出しても、ボントの街を敵にまわして犯罪者になったのでは何にもならない。警察、消防、商工会とあらゆる街の組織との連絡役が、業務不明の幹部社員の仕事だったのである。そして、カメリルの反撃に備え、ボントの街外れのツール地方との境界近くの広大な土地を購入し、タクシー運送会社という名の基地を造っていたのである。
それを知った三木は、(只者ではないのはタクシーではないか)と思った。
しばらくするとメイキのトラックが到着する。裏門から社内の広場に入って停車すると、運送会社の社員たちが集まってきて、武器と弾薬を倉庫に運び込む。メイキがトラックを降りて倉庫に入ると、三木が待っていた。
「今日、カメリル軍をボントから追い出すそうですよ。」と三木。
「えっ、何ですって!どういうことです?」とメイキ。
「詳しいことは後で、とにかくカメリル軍も領事も領事館の職員も逃げ帰ってもらう作戦を立てているようですから、そちらへ。」と三木。
「逃がす?ぶち殺せばいいものを。」とメイキ。
「 あははは、ボントの街の人、ガボリ人は優しいですからね。どうするのか、楽しみですね。」
「楽しみ?ミキさんにはついていけません。生きるか死ぬかの戦いですよ。」
三木とメイキが話していると、1人2人と特殊部隊の隊員たちが集まってきた。
運送会社の社員たちだけでなく、外から集まってきた若者たちが、武器と弾薬を運び込んだ倉庫で装備を整えると、次々と隣の建物に移っていく。三木たちも特殊部隊の隊員たちが8人揃うと、隣の建物へ移動した。
100人以上いるようだが、それを2つの班に分けている。陸軍基地と領事館の2つを同時に襲撃するつもりらしい。
「ダメだな、こりゃあ。全くの素人、武器を持ったグレた若者集団だ。」とメイキ。
「あはは、そうですね。」と三木。
「笑い事ではないですよ。」とムスッとした顔のメイキが言った。
「念のため、こちらも2つに分けましょうか。私が陸軍基地で、メイキ殿が領事館。隊員も4人ずつで集団について行きましょう。様子を見て援護すればいい。」と三木。
「援護?我々が襲撃する方が確実ではないでしょうか。武装兵が何人いるか分からないが、確実に彼らを射殺できますよ。」とメイキ。
「あはは、ダメですよ、メイキ殿。カメリル軍を追い出すのは、ボントの街の人たちでないと。心配ないですよ、きっと上手くいく。」
三木はタクシーが入念に準備をしていることを知っていた。どうやってカメリルを追い出すのか分からないが、そんな男が失敗するはずがないと思っていた。
拡声器を備えた車両が2台、運送会社の裏門から出ていく。近くの陸軍基地へ向かう車両には、もどってきたマイキーと武器を持った若者たちが何人か乗っていて、残りは車両の後をついていく。車両は人の歩く速度でゆっくりと進んでいた。三木と特殊部隊の4人もその後を歩いていった。
もう1つの車両にはタクシーが乗り込んで、武器を持った若者たちがゆっくり進む車両の後をついていった。その後をメイキと特殊部隊の4人がついていく。
奇襲でも襲撃でもない。堂々と行進しているのだ。
三木は武器を手にした若者たちの後をついていく。陸軍基地までに1kmもない。最初50人程の集団だったのが100人、1000人と増えていく。後から加わった人たちは何ももっていない。まるでデモ行進のようだ。陸軍基地に着いた時には、1万人以上に膨れ上がっていた。警官もいる、警備員もいる、消防団員もいる、男も女も子供までいる。
ダダダダダ バババババ
武装した若者とカメリル兵との銃撃が始まる。
車両の拡声器からマイキーの声が響く。
「我々はカメリル軍のボントからの撤退を要求する。撤退する車両は攻撃しない。繰り返す。」
基地にわずかしか残っていないカメリル兵は群衆の多さに圧倒される。武装した若者と同様に武器をもっていると勘違いをしたのか、トラックに乗り込んで逃げ出す兵も出てくる。1台基地から逃げて行くトラックがでると、あとは我も我もと脱出し始める。数人の犠牲者で陸軍基地からカメリル兵たちがいなくなった。
領事館に向かった集団も同じであった。領事館までの道のりが長いだけに集まる群衆も多かった。1万、2万、3万と群衆が膨れ上がっていたのだ。警備兵だけではどうにもならないことは誰の眼にも明らかだった。タクシーの警告通りに領事も職員も警備兵も車で逃げだしたのである。無血の勝利であった。
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ボントの街の反逆を知ったカメリル軍務大臣トロルは頭を抱えていた。トーベ侵攻がままならないので、ボントの街の警備兵のほとんどをトーベの方にまわしたのはトロルであった。温厚なガポリ人が蜂起するとは思わなかったのだ。トーベの反抗はカーレンの人たちのほとんどが知っている。ガボリ共和国の反逆はまだ誰も知らない。逃げ帰ってきた領事館の領事や職員を基地に保護して兵に箝口令を出している。トーベの方は侵攻に手こずっているがイマト大尉の部隊でナーイ地方は守れる。ボントの陸軍基地の戦闘車両や武器や弾薬をそのままにして、兵たちは街から逃げ帰っていた。それらが反逆集団の手にあることは確実である。反逆集団がツール地方に侵攻してきたら大変な事になる。ツール地方には地方軍もないのだ。
トロルはナーイ地方軍基地へ向かっている部隊に、引き返してボント奪還に向かわせる指示をした。そして、その部隊が戻るのに時間がかかるから、カーレンの防衛に当たっていたアビル少尉に20人の小部隊を連れてツール地方の防衛に当たるように命じた。
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トーベ侵攻をせかすナーイ地方軍のカマルは、イマト大尉の部隊が動こうともしないしナクルの街のナーイ地方軍基地へ帰る車両も出そうともしないのに業を煮やしていたが、援護部隊がやって来ているという情報に新たな部隊さえやってくればと希望をもっていた。ところが通信兵がイマトにその部隊が援護を断念しカーレンに引き返したという報告をしていたのを聞きつけ、1台のトラックを自ら運転して陣を脱出しナクルへ帰る決心をした。
だが、問題は気付かれずにトラックのキーをどう手に入れるかであった。それを持っているのは、トラックの運転手、看護兵だから簡単に倒すことはできる。でも、その周りにいる兵はそうはいかない。強引に奪うと後はどうなるか目に見えていた。簡単には奪えないのである。
トーベ侵攻の援軍はガボリ共和国の反逆で引き返してしまった。トーベ侵攻はどうなる?