続 時空を超えて   作:ぴょんぴょん店長

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セイルは二ホンを知ろうとするが?


第1章 9話

 セイルはサンマル教の総本殿、バハナミ神殿に来ていた。大理石の建物は、古代ギリシアのエレクテイオン神殿によく似ている。6体の女性像が柱として屋根を支えるカリアティートまでそっくりである。

 「これはこれは、セイルお嬢様、お珍しい。よくいらっしゃいました。お母様はお元気ですか。」と歪んだ笑いを浮かべて言ったのは、サンマル教の大司祭カメゴリであった。

 

 セイルはカメゴリが嫌いであった。ぶくぶく太った女性で、強欲な金の亡者、敬虔な司祭には不釣り合いの人だと思っていた。祈り,内省、他者への奉仕というサンマル教の教義から一番外れた人だと感じていた。セイルの母親が多額の寄付をしているのも気に入らなかった。

 

 「はい、おかげさまで。古文書倉庫で、ちょっと調べたいことがありまして。」

 「古文書?よくわかりませんが、いいですよ。」

 

 セイルは全く知らない二ホンという国が気になって調べていたのだ。議会図書館、学術図書館、国立図書館などカメリル国の首都カーレンにあるすべての図書館、国立博物館まで手を伸ばして調べたが、どこにも二ホンという記述のある書物、物品はなかった。古い記述にと考えて、古文書まで探したが無駄だった。そもそも、紙は虫が食べるし朽ちる。永遠に記録を保存することはできない。

 

 セイルは、(正義院議会の記録はデジタルデータで記録されているが、磁気媒体も永久に保存できるわけではない。だから、定期的にバックアップが・・・)と考えて思い至った。

 (紙は朽ちるから、教会は聖典を写経する人たちがいるのだ。聖典だけではない、歴史書も写して残している。占領したガボリの東の蛮国コンガの1000年前の歴史書が残っていて、コンガの地理と歴史を知った。それで、コンガを攻めようとしているのだ。)

 

 1000年前のコンガの歴史書には、金、銀、銅、鉄などの鉱物資源が豊富で、ダイヤモンド、コバルト、アエン、ウラン等々いろいろな資源に恵まれているとあった。それがために紛争の絶えなかった国と記述されていた。特に、金やコルタンは紛争鉱物とさえ書いてあった。

 カメリル国はコルタンの利用価値は分からなかったが、その記述にある豊富な資源を求めてコンガを攻めているのだ。ジャングルの密林に遮られて侵攻はままならないが。

 

 (だから、教会には二ホンのことを書いてあるものが残っているかもしれない。)セイルはそう思って、バハナミ神殿に来たのだ。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ガーゴの軍港では大騒ぎになっていた。ロマスク帝国を征服するために出航した輸送船が戻ってきたのだ。しかも、戦艦2隻を失って。

 「1隻の艦にやられたというわけかね。」カメリル国海軍基地司令ユカル大佐が沈んだ戦艦の艦長ササドに尋ねていた。

 「はい、こちらが攻撃をしたミサイルを空中で撃ち落とし、反対にミサイルで攻撃されて。」

 「ミサイルを撃ち落としただと?どうやって?」

 「分かりません。余程腕のいい砲撃手がいたとしか。」

 「どんな戦艦だ?」

 「戦艦には見えませんでした。砲も設備も貧弱で、巡視艦かと。」

 「そんなのに沈められたのか。」

 「はい、なぜだか分かりませんが。艦に白地に真っ赤な朝日が描かれた国旗がありました。」

 ササドはまやの旭日旗を国旗と勘違いしている。

 

 「ヘリがやってきて、スパン王国と言ってましたから、その国の国旗だと。」

 「ロマスク帝国ではなかったのかね。」

 「はい、聞いていた国とは違ってました。艦隊を組みなおして、再度出航するのですか?」

 「無理。陸軍がシェラリベの制圧に手こずっているようなので、海からの攻撃要請があるかもしれないからな。」

 

 カーゴの陸軍基地も騒動。占領した町にいるはずの兵が逃げ帰ってきたからだ。

 「馬鹿者が行く町を間違えたのでは?占領して防衛もしている町のはず。」とトロル中尉。

 「それはない。我が国の戦車が攻撃したというのだから、間違いないだろう。奪還されたのだ。」とカイル大佐。

 「それならば、もう一度隊を率いて、取り返しに行きます。」とトロル。

 「無理だ。君にはシェラリベの方に行ってもらう。手を焼いているんだ。」

 

 北方で敗れたという情報は、バジル執政官にも届いていた。

 (北方にロマスク帝国、スパン王国などの国家があるということが分かっただけでも、北方遠征の成果だ。いずれ軍を派遣するにせよ、今は無理だろう。)報告を受けたバジルはそう思った。

 カメリル国は西でシュラリべ共和国、東でコンガ共和国と戦っていたのだ。北方へ兵を出す余裕はなかった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 バハナミ神殿の古文書倉庫で、二ホンの記述がある歴史書を探していたセイルは、昼過ぎになってやっとそれを見つけることができた。空腹も忘れて、古びたそれをむさぼり読んだ。

 

 それには平安時代の平家から源平の戦い、鎌倉時代、南北朝時代、室町時代、戦国時代、安土桃山時代、関ケ原の戦いまでしか書かれていなかった。そして、記述内容は庶民や武士の生活や宗教、戦の様子とその勝敗であった。

 

 (何?この国?戦争ごっこの国なの?ニホン人って戦闘民族みたい。それに何?八百万の神?節操のない民だ。我が国はこんな国とは違う、我が国の民は敬虔なサンマル教の信者だ。)

 セイルは無礼で挑戦的なミキの顔を思い浮かべていた。

 

 (我が国の1000年前といえば、列強に占領され植民地となり、奴隷と象牙の売買の中心地という暗い時代であったが、その後独立と分断の歴史を経て、サンマル教の理想を目指す統一国家になった。カメリルは神に選ばれた民の平和国家で、二ホンのような戦闘国家ではない。)

 

 セイルは、サンマル教の聖典にあるように、全ての国、人種、信条、階級の繁栄を保証する統一国家を目指すカメリル国に身を捧げることを、バハナミ神殿で誓ったのであった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 マーヤ曹長はトロル中尉が率いる部隊の中に配属され、シュラリべ共和国の首都ハイツが目視できる所にきていた。マーヤは自分勝手な采配で部下を動かすトロルを嫌っていたが、配属に私心をはさむことはできず、見て見ぬふりをしようと諦めていた。

 ハイツの街は大陸の西の端に位置していた。西に大海、南にジャングル、街は北と東に広がっている。

 

 街の直前まで進むと、街を侵攻していたカメリル国の部隊と合流した。

 「こんな蛮族の街、なにを手間取っているのだ。」とトロル中尉。

 「そうはおっしゃいましても、敵はなかなか手強くて。市民を盾にとってます。」とスマル少尉。

 スマルはたたき上げの軍人で、上官の戦死後の部隊の指揮をとっていた。

 

 「市民?蛮族は市民に値しない。そんなもので躊躇してどうする。」 とトロル。

 「我が部隊は、敵のロケット弾で全ての戦車と自走砲を失いました。この場所を防衛するのが精一杯です。援軍が来なければ撤退する予定でした。」とスマル。

 

 「撤退?情けない、わが軍は前進あるのみ、そんな軍規も知らないのか。」とトロル。

 そして塹壕を掘った跡を見て、

 「こんな守りの作業をしているから、攻撃できないのだ。」とスマルを睨む。

 (攻撃されるから、守っているのだ。)とスマルは言いたかったが、黙っていた。

 城壁も土塁もない無防備なハイツの街、簡単に堕とせるとトロルは思っていたのだ。

 

 二人のやり取りを聞いていたマーヤ曹長は、立派な塹壕に感心していた。

 カメリルの陸軍はハイツの街の東側の草原に陣取っている。塹壕は街のある方、軍のいる西側と、ジャングルのある方、南側に造られていた。

 

 攻めあぐんでいることを理解しないトロルは、自分の部隊の戦闘車両、戦車5台と自走砲5台、トラックに乗っていた兵50人に出撃を命じた。総攻撃で、一気に街を征服するつもりであった。

 

 街に近づくと、ドン、ドカーン。ドン、ドカーン。射程距離の長い戦車2台が爆破される。

 射程距離の短い砲では届かない。敵は、砲身の長い戦車から破壊すべきだというセオリーを知っている。

 次々とロケット弾で戦闘車両が破壊され、味方の兵が倒れていくのを、トロルは双眼鏡で眺めて青くなっている。

 

 スマルは自分の指揮下にある部下に命令して、南側の塹壕に兵を配置した。スマルは知っていたのだ。南のジャングルから兵が出てきて、挟み撃ちで殲滅を企てる敵の意図を。

 

 街からの攻撃でカメリルの兵が逃げ帰ってくるようになると、ジャンゲルから兵が出てくる。

 ダダダダダ。塹壕から銃を出して伏せていた兵が攻撃する。

 ジャングルから出てきた兵が次々と倒れる。

 

 やがて、銃砲の音が止み、あたりに静寂がもどってくる。トロルの部下50人の兵は30人に減っていた。スマルの部隊が防衛しなければ、確実に殲滅していた。

 

 戦いが終わったわけではない。攻撃したのはカメリルだが、反撃するのはシェラリベである。街から戦車が3台出てくる。それに続いて歩兵が数えきれないほど出てきて、カメリルの陣に向かってくる。

 それを見たトロルはトラックで一目散に逃げだした。

 

 「5人組、残れ。他はトラックで退却。1台残しておけばいい。すぐに退却。」とスマル。

 「あなたは?」とマーヤ。

 「最後に退却。早く逃げろ。」とスマル。

 スマルは、戦場では退却こそが難しいことを知っていた。

 

 そして、5人組に命じて塹壕に弾薬を仕掛けていく。

 「トラックに戻ってエンジンをかけておけ。すぐに発進できるように。お前だけ残れ。他の者はトラックに乗っておれ。」

 そういってスマルは残した兵に手榴弾を渡す。そして2人で塹壕から離れて、戦車が塹壕の所まで来るのを待つ。

 ドン、ドン。2人が投げ入れた手榴弾が爆発。ドカーン、塹壕全体が爆発。

 

 スマルらはトラックでハイツの街を後にした。

 

 




カメリル国は周辺の国を制圧できるのか?
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