フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
「助かりました……アトリウムのシャッターを手動で開ける装置はB棟の先にしかありませんでしたので……」
「オーダー様がいてくださって助かりましたわ~」
「そもそも閉まる前にこっちに来れたのはプロキシが座標の計算を俺より早くやってくれたからですよ。サンキュな」
『んー、正直いつもの仕事と比べたら何もできてないんだけど、どういたしまして?』
アトリウムに滑り込んだ俺たち、支えてたフォースを霧散させると勢いよくシャッターが地面にぶつかった。壊れてないよね、と軽い恐怖に駆られるがそれはそれ、これはこれ。とりあえずB棟に行ってパエトーンの二人の友人だという人を探して帰り際にメンテを行えばいいだろう。
「B棟もB棟で暗いのか~~~」
『どっちにしろ制御室に行かないといけないね。ライカンさん、それでいい?』
「勿論です。実のところA棟B棟の電源は独立させることができるのですが、今はつながっております。もしもB棟を立ち上げることができればA棟も復旧するかと」
「ですが、一度独立させておくのが最善ですわ。A棟の影響を受けてB棟も落ちかねませんもの」
『えーと、つまり電源を起こしてB棟だけに供給するってことでいい?あれ?なんかあるね』
「そうだな、バッグか?」
もはや自分の足で歩くということを忘れているイアスの中のリンさんは俺に抱っこ状態で空輸されているんだがこれはしょうがない話だと思う。ボンプってのは大体俺の膝くらいまでの高さのマスコット機械なんだけど、足裏からジェットだしたり空気吐き出して飛んだりとかはしないのだ。フォースなんてもってのほかである。機械だもの。
Q じゃあ移動手段はなんなんですか A 当たり前ですが自分で歩いてください
こういうことである。短い手足を必死で動かしてついてくるボンプは確かに可愛らしいがさすがに歩幅が違いすぎるしパエトーンの二人はボンプと感覚を同期しているらしいので、精神的に疲れてしまったりするのだそう。なので暇人の俺が空輸係となったわけさ。
そんで見つかったのが、バッグである。拾って拾って~~と指をさすリンさんに苦笑しながら明らかに真新しい上に怪しいバッグを拾い上げる。リンさんの前でバッグの口を広げてやると彼女は全身をバッグに突っ込んで調べ始めた。まず出てきたのは……カセットテープ?
「タイマー仕掛けてあるな、だいぶ先だけど」
『ほんとだー。それはそれとしてこれはレインのバッグだよ!やっぱりここにいるんだ!』
「知り合いのなのか?……ダメだ、俺が見える範囲にはいないってことは上だな」
「でしたらやはり電気を復旧させるのが最善かと。二手に分かれましょう。プロキシ様と私とリナで制御室へ。オーダー様はエレンとカリンと共に発電室へお願いいたします」
『はーい!とりあえずこのカセットテープどうしようか?捨てちゃうのは悪いし』
「見たところ爆弾の類ではなさそうです。お持ちいただいても問題ありません」
「……中身再生したらどう?ほら、よくあるじゃん?映画でさ、メッセージ仕込んであるやつ」
エレンさんがちょいちょい、と尻尾でカセットテープが入ったポータブル再生機を差す。見つけた時に怪しいからとライカンさんが見分したけど特に何かあるわけではないのですぐ返された。リンさんが再生するよーとタイマーを止めた瞬間に俺はライカンさんにハンドサインを送る、それを見たライカンさんは顔を険しくして周囲を見る、俺はさりげなく方向だけ足を鳴らして示してからリンさんが再生機のボタンを押すのを見守った。
ぽちっとな、とどこかで聞いたことある古いフレーズと共にボタンが押されると同時にライカンさんとリナさんが俺が示した方向に突っ込む。慌てた様子と共に現れた武装した覆面集団が銃撃を開始するも動き出しが速かったライカンさんを止めることはできず漏れ出た流れ弾は前に出たエレンさんとカリンさんが止めてくれる。
え!?なになに!?と慌てふためくリンさんを置いてきぼりにして話は進んでいくが、なぜかいる部外者はヴィクトリア家政に任せて俺とリンさんは再生される音声を確認しようじゃないか。カリンさんとエレンさんも突っ込んでいった後に再生されたのは、おどろおどろしくて悲し気なメロディだった。
ところどころ歪みやひずみがある音は意図的にデザインされたように聞こえる。なんだこの音楽……?そんなことを思っていると唐突にエーテリアスのようなフォースがわいて出たのを気取って周囲を確認する。
「オーダー様!後ろです!」
「はぁっ!」
バレエダンサー、そう形容すべきエーテリアスがいつの間にか出現していた。そんな馬鹿な、これじゃ空間を跳躍して現れたようじゃないか。確かにこの周りに空間の裂け目はあるが俺の知覚より早くここに到達できるようなほど近くはない。どういうことだと考えると同時に俺の体は動いていた。
ナイフのように鋭くとがった五指による貫手、その狙いは……イアス?俺の頭とかじゃなくて?足を振り上げてほぼ垂直に真上を蹴り上げる。フォースによる強化を受けた蹴りの一撃はようやく気付いたリンさんが慌てふためいたせいで震えるイアスに届くことなく防がれて、手首を跳ね上げられたエーテリアスが大きく後ろにバランスを崩した。
普通ならここで後ろにバックステップか逃げるのが普通のプロキシなんだろうが俺はぶっちゃけ戦闘員である。道案内よりぶっ壊す方が得意なので染みついたその性質が流れるように次の動きにつながる。エーテリアスの顔面に飛びついた俺はそのまま足で奴の顔を挟んでロックした後に思いっきり後ろに倒れる。
そのままフォースで勢いを加速した俺はエーテリアスごと回転して、奴の顔を地面に叩きつけてやった。フランケンシュタイナーという奴である。両手がイアスでふさがってるので今初めてやったがこれ人間相手なら死んでるわ。
地面に顔面が刺さってめり込んだエーテリアスからくたりと力が抜けるものの終わってない、こいつはデカ物……バレエ・ツインズにおけるデッドエンドブッチャーみたいなものだろう。さすがに素手でやり合うには心もとないので俺は大きく下がってその間にライカンさんたちが割り込んだ。
「部外者は?」
「不測の事態が発生しましたので気絶させました。ここからはお任せを」
『いや、たぶんこれだよ!』
臨戦態勢をとるみんなに対してリンさんがまだ音を垂れ流している再生機を高く掲げてそれを投げた。意外にもコントロールがよく投げられたそれはまっすぐにホロウの裂け目に向かって行く。ガバッと首を地面から抜いたエーテリアスが一目散にそれを追いかけて、裂け目の中に消えていった。
「よく気づいたね」
『うん、あのエーテリアスが手を伸ばしたのって攻撃じゃなくて私からアレをとろうとしてたんだ。音楽に引き寄せられてたんじゃないかな。ねえオーダー』
「どうしたプロキシ」
『私!バック宙なんて初めて体験した~~~!吹き飛ばされてぐるぐるするのとはまた違うね~~!』
きゃいきゃいと嬉しそうに両手をあげるイアスとその中身であるリンさんに思わず笑顔になってしまった。見えないがビデオ屋でリンさんの隣にいるであろうアキラさんがうちの妹はかわいいだろうそうだろうとドヤ顔してるのが浮かぶ。事実だがなんか腹立つのは置いておいて、俺は倒れ伏した傭兵たちにフォースによるサイコメトリーを行う。
「うーん。使い捨てっぽいですね多分。……傭兵じゃなくて反乱軍か。任務内容自体はB棟に人を近づけるなってことみたいですけど……プロキシ?」
『ちょっとここまでくると隠すのは難しいと思うから言うよ、えっとね……』
頭を掻きながら申し訳なさそうにリンさんが言うことには探しているレインという人物は知人ではあるものの友人と呼べる間柄ではなく依頼をしようとして邪兎屋につないでもらった凄腕のハッカーなのだそうだ。ただ、消息不明となり救助信号のようなものを発しているから探しにきた、となるほど。
「バッグが見つかってありがたいな。一点に絞れば……見つかった。ライカンさん、電気系統はいったん全部後回しにできない?先にレインさんを救出したほうがいいんじゃないかな」
「たしかにそうですね……ハッカーが反乱軍に捕まっている、それだけで最悪な想像がいくつも膨らみます。幸い連絡が取られる前に気づけたのは僥倖です。エレン、行けますか」
「……ん、あと1時間くらいなら行けると思う」
遺留品に残されたフォースから、持ち主の居場所を特定する。これは俺の感知どうこうじゃなく遺留品のフォースに持ち主へ導いてもらうというやり方だ。当然だが欠点だらけ、まず道の指定が効かない。最短ルートというか普通に壁の向こうとかもあるので道を熟知してる必要がある。
もう一つの欠点は、精度があまりよくないことだ。なにせ遺留品についてる残り香を頼って探すみたいなもんだからな。直接本人のフォースを探すよりも当然精度は落ちる。零号ホロウでやったときは成功したけどこんな複雑な場所でできるかねえ、俺にできない部分は頼んだぜパエトーン。
ライカンさんはエレンさんに確認をとる。彼女は運動をすると眠気を誘われる、これは彼女が運動をするときに消費するエネルギー量がとんでもないことに由来する体質なので本人の調子を見るしかない。幸い戦闘を避けつつ進んだので少し眠そうではあるものの問題なさそうだ。
「はい」
「いつも思うけどそれどっから出てくるわけ?しかもいつものと違うし……」
「エレンさんの好みがわかってきたからね。多分こっちの方が好きなんじゃないかな」
『わ~~それ!確か結構高いけど美味しいってインターノットで話題になってるやつじゃん!いいな~~!』
「プロキシも欲しかったら帰った後であげるよ……のこってたらねっていった!?」
「一言余計なの、いつもいつも。素直にありがとうっていいづらいじゃん……」
べちこん、と背中に2週間ぶりの尻尾の衝撃が迸る。さすがのというか当たり前だが俺がギプスと親友としてよろしくやっている間はエレンさんの尻尾によるシバキは鳴りを潜めていたのだ。まあ追い打ちをするような人じゃないのはわかり切ってるのだがなつかしさと安心感を覚えるのはなぜだろう。俺にマゾの気質はないはずなんだが。
話を戻そう、何度もホロウに一緒に潜ってわかったんだがエレンさんは眠る前にエネルギーを補給すれば活動時間を延ばすことができる。要は脳に回る栄養が不足するから眠くなるわけで強烈な糖分やら脂質やらを入れてやればエンジンを回し続けることができるのだ。ちなみに余ったのはお肉になっちゃうらしいので計算してあげないと後でまたシバかれることになる。理不尽。
というわけで取り出したるはプロテイン60g含有脂質控えめ糖分それなりのプロテインバーである。脂質控えめ糖分それなりっていうのが微妙に探しづらいのだがそこは妥協してはいけない、命綱みたいなもんなので。
ラズベリーチーズケーキ味という美味しそうなプロテインバーを執事服の内ポケから取り出した俺。エレンさんに渡そうとするも彼女は武器に寄りかかって気だるげなまま。あーそういうこと、と包装紙を剝くと彼女はんあ、と口を開けるのでその中にバーを入れてあげるともぐもぐと食べだした。
「……ん、美味し。やるじゃん」
「最近こういうのに詳しくなってきたんだ。俺が作ったわけじゃないけど美味しくてよかったよ。カリンさんも食べる?はいあーん」
「ふぇ!?あ、あーん……あ、ほんとにおいふぃいれふう」
『うわー、何となくわかってたけどお兄ちゃんと気が合うわけだよ』
『リン?確かに彼とは毎日ノックノックで連絡を取り合う仲にはなったけどそれはどういう意味だい?』
『自分で考えれば~?最近ニコがお兄ちゃんにお熱なこととかヒントたくさんあるよ』
エレンさんが口に運ぶのもダルくて俺食べさせるなんてことは割とよくあることだし気にも留めてなかったがそれはリンさんにとってアキラさんと俺が仲良くなる理由になるということらしいが全くもってよくわからないのだ。とりあえず5本をエレンさんに補給したのちに俺は端末をイアスと同期させてキャロットを共有、方向だけ示して行動を再開することにする。
本当にケーキみたいな味がするプロテインバーが口に合ったのかほっぺを抑えて美味しそうにもぐもぐやってるカリンさんに癒されつつも俺はフォースがいざなう方角へ案内を再開するのだった。
リン「お兄ちゃんみたいな空気を感じる……。鋭いのにいろんなところが鈍感なところとか」
素手でもそれなり系主人公。まあ雲嶽山に通ってて素手が弱いなんてこたーない。