フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
本当に、強く大きくなったと目の前で魅せられる光景に思わず微笑みが漏れそうになるのを努めて制する。あの最年少の虚狩り、星見雅を相手にして生きのこった私の愛弟子は今己を殺しかけた相手に合わせて、同じ速度で、同じ剣速で駆け抜けエーテリアスを滅多切りにして見せた。
いくら星見雅本人が本気でやってないにせよエーテリアスを切り刻むために培われたその速度に追いついて拮抗して見せたのは事実。これがどれだけ得難い、あるいは驚異的もしくは規格外かを語るのは聊か頭の中では難しい。
ザイン・スカイウォーカー。初めて会ったのはホロウの中だった。当時の私はやっとしっちゃかめっちゃかになった雲嶽山をある程度整理し終えてようやく外の世界に意識を向けることが許されるようになったくらいだったか。
メイフラワーから頼まれたホロウ調査員の仕事の最中に、厄でもなく邪でもない、それでいて吉兆でもない不可思議なものを感じ取った私はキャロットの案内を無視してそこへはばたく青溟鳥に捕まって向かった。
そこにあったのは群がるエーテリアスの中心にいた子供だった。子供がホロウに落ちてしまったのか、とすぐさま助けようとしたものの、巨大なエーテリアスが勝手に持ち上がって地面に叩きつけられたのを見て思わず手が止まった。
高さ2mはくだらないエーテリアスが持ち上げられて吹き飛ぶ。取り巻きのエーテリアスなんてまるで風に流される落ち葉のように真横に突き飛ばされたようになってエーテルの塵になって消えていった。まるで大きな子供がエーテリアスたちを掴んで玩具のように振り回して飽きて捨てるような光景に未熟ながらゾっとしたものだ。
気づけばエーテルの塵の中で一人たたずんでいた男の子はじぃっと私を見つめていた。そこにあったのは喜びでもなく悲しみでもなく、無。虚無という言葉をそのままにしたような無表情、私のことを見ているはずなのに何も映してない伽藍洞のガラス玉の瞳だった。
「なにを、している?」
「……あっち」
問いかけに帰って来たのは答えじゃなくて、方向。男の子は指を一本真横に向けるともう何も言うことはないとばかりにくるっと踵を返して去ろうとした。慌ててそれを止めて、キャロットを確認する。そして彼が指し示した方向がぴったりと出口に向かっていたことに驚いたものだ。
「迷ったなら、あっち」
「迷ってはいない、仕事中だがホロウの中に子供を置いて去るほど薄情じゃないさ。さあ、抜けるぞ」
「欲しいもの、ある。だからいけない」
まるで搾りカス、あるいはめちゃめちゃに壊されて残った人間性の残骸をかき集めて言葉を紡いでいるようなたどたどしい話し方。そして、改めて相対して感じたのは……なんて底なしの「空」の器なのだろうということ。
何もないのだ、何も。莫大な才気を感じるのにそれでいて器は溢れず空っぽのまま。仮に勉学に励めば世紀の大天才に、武術に励めば史上最強の武闘家になるであろうというのが容易に想像できた。人間性を悉く粉々にして空いたスペースに才能を詰めるだけ詰めた、そう形容できた。
歩き去ろうとする少年の両脇に手を差し込んで持ち上げる。あの不可視の力で吹き飛ばされるかと思ったがそんなことはないし、少年自体も抵抗せずにぶらんとされるがまま。名前を聞けばザイン・スカイウォーカーと返ってきてマンションで一人で暮らしているときた。孤児か、という言葉はかろうじて飲み込めた。
なら雲嶽山にくるといい、と言葉をつづけようとしてはたととまった。当たり前のように口にしかけたが雲嶽山は来るものを拒んでいないが積極的に勧誘してもいない。孤児を保護していたこともあるが当時TOPSに孤児院の運営は移されていたし子供を新しく引き受ける余裕なんてこれっぽっちもなかった。だから「雲嶽山に来い」という勧誘の言葉は宗主である私からは特に出てはいけない言葉のはずだった。
直感的に理解したのだ。のちにザインから「フォース」と教えてもらったその力、存在が子供の中身を消し飛ばして今自分の好みに作り替えようとしていたのだと分かったからだ。そうはさせるものかと子供を抱きしめて術法で羽根を作り上げて私は飛び立った。
私に抱かれて、空に放り出されてようやく少年は目をぱちくりとさせてぎゅっと私に掴まった。やっと見えた人間性の欠片にまだ間に合うと安堵の息を吐いて私は本山ではなく適当観に向かった。
誘導されているという確信があった。この少年の中に巣くう大いなる力はエーテルをしのぐ根源的な力の波動だ。その気になれば私に気づかれないように存在を消すこともできたはずなのにここに在るぞとあからさまに存在を主張しているのだ。引き合わせたのが私というのも引っかかる。目的の心当たりなんて当時の雲嶽山には一つしかなかった。
ザインの中にいる何かあるいはザインを監視している存在はザインと私を引き合わせることが目的で雲嶽山にザインを入れることをさりげなく誘導してきた。目的はおそらく青溟剣と呼ばれる雲嶽山の秘宝だろう。この少年なら青溟剣は認める、認めてしまう。たとえ契約者がいようとも魅力的な剣主になるからだ。
使用するごとに使用者の五感を奪い、記憶を収奪し、果ては命まで奪う呪剣……姉様もこれに命を吸われてしまった。そして当時事故とはいえ青溟剣に触れて剣主になった子供がいた。もしも、もしもこの少年が青溟剣に触れて青溟剣が剣主を乗り換えた場合……残った方がどうなるかわからない。
放っておいたらどんなふうにこちらにたどり着いて目的を遂げるかわかったものではなかった。それくらい必死に頭を振り絞って考えたのがこの少年を私の監視下に置くことだった。なにせ余裕がなかったというのは言い訳だ。ザイン自体は何もしていない、中にいる奴が悪いのだ。うん。
ただ、救いと言えばザインが壊されてからまだ日が浅く、福福に預けても問題ないと思える状態まですぐに回復したのと、フォースとやらが自我を取り戻したザインに従順に従ったことだ。要は好みにしたかっただけでザインという存在そのものが重要であり、そこまでして青溟剣も欲しくはなかったか、似た力に惹かれたのかどちらかなのか。どちらにしろはた迷惑極まりなかったが。
適当観はほとんど放置していたに等しい拠点であったが、ザインと青溟剣の剣主である瞬光を引き合わせるわけにはいかなかったので適当観にザインをとどめて瞬光には山を下りないように厳命して全体としてザインに青溟剣のことを教えることを禁じた。
福福にザインの面倒を見るように修行を申し付けて一月後にはなぜか、瞬光とザインが一緒に剣を素振りしていて卒倒しかけたが。とりあえず犯人には茶トラ猫の刑と算術のプリント増量の修行をくれてやった。ただ、剣棺は正常に機能しており、
フォースと呼ばれるザインに従う力はザインが人らしくなっていくうちにコントロールが繊細になっていくのと引き換えかのように出力を落としていった。最近その力の上限が引きあがっているように思えてならないのが不安なところだが。
幸いなことにザインが青溟剣のことを知った様子はまだない。それだけは心からほっとしている。なにせ、間違いなく瞬光が青溟剣の剣主なこととその代償の内容をこいつが知ればまず真っ先に自分を犠牲にしてことを収めようとするのが目に見えている。
最近のこれの修行の目標は専ら何とかしてザインの中にある己の価値を高めようというのが主題である。なにせこいつは誉めたとしても「いやいや誰それの方がすごいですよ」なんて言って素直に喜ばないのだ。何て誉め甲斐のない弟子だろう。どこかの虎のシリオンを見習うべきだ。爪の垢でも煎じてやろうか、割とマジで。
「っ!?ゲホッ!?ゴホッ!?」
「悠真、どうした?しっかりしろ!少年、なにをっ!?」
私が思考の海に沈んでいる間にも探索は進んでいたが浅羽悠真とか言う青年が突然口を押さえて咳き込みだした。エーテル濃度が濃いのかと術法で散らしてみるものの間に合わない。ザインに目配せする前に既にヤツは動き出して浅羽の胸の中央に掌底を突っ込んだ。星見雅が目の色を変えるもののザインは全く気にも留めない。
「咳き込み始めたんで無理やり治しました。完璧と自負していますが」
「ああ、完璧に散っている。ずいぶんと息しづらかっただろう、すまなかったな」
「……浅羽隊員。体調は?」
ザインの足元では6課の隊員だという青年がうずくまっていた。うずくまっているものの苦しいからではなくむしろ楽になりすぎて驚いている感じであるが。あと星見雅が鯉口を切りそうになっている。
「……何、したんだよ……!?これどうなってるんだ!?」
「お前さん、今日は体調が優れなかったんだろう?あー、プライバシーだのなんだのは安心しろ。見てわかる程度のことを言っているにすぎん」
「何も言わずにごめん。だけど君が咳き込み始めた瞬間からよくないサインが見えたんだ。だから、止めることを優先させてもらった」
「……スゴいな。さすがは音に聞こえし雲嶽山ってワケ?こんなことなら医者じゃなくてそっちを頼っておけばよかったよ」
「エーテルを散らす程度なら私たちでもできるが治癒そのものはそこの馬鹿弟子にしかできん。そもそも楽にしただけで治ったわけじゃないぞ」
「バカバカってひどくないお師匠様?そんなに言うと俺ほんとにバカになるよ?いいの?」
拗ねたように口を尖らせるザイン。誉め甲斐はないがこういう可愛らしいところはあるのがニクい弟子だ。治療行為だったというのがわかり柄から手を離した星見雅と他意はなかったということを理解した浅羽が起き上がる。うむ、基地であった時よりも幾分顔色もよくなったな、よしよし。
「ねえ、仮になんだけど……またやってくれって言ったら受けてくれるのかい?」
「それは構わないけど……誤魔化す手段にしかならないからホロウに潜るのをやめることを勧めるよ」
「残念だけどそれはできない相談でね、僕の目的のためにも」
「部下の体調を見ることも課長である私の責任だ。悠真、すまなかった」
「やめてくださいよ課長!そもそも突然キただけなんでこういうのオフィスでもあるでしょう!?」
ふむ、この浅羽という青年は取り繕う、あるいは悟らせないようにするのが非常に上手いな。どこか浮世離れしている星見雅も見抜けないのも無理はない。私もエーテルの流れが見えなんだらわからなかっただろう。気づいていそうなのはあの残った月城という副課長あたりだが、まあ関係ない話だ。なにもいうまい。
どういう症状なのかは誤魔化すことには成功したが疑惑の種は植え付けてしまったのだろう、それは申し訳ないことをしたが、大病を患っておいて誤魔化せるという考えそのものはあまり好きな考え方ではないな。見る限り星見雅は浅羽を大事にしているようだし、あとで質問攻めにする光景もそれをのらりくらりとかわす光景もすぐに見えるのは少々あれだが。
「あ、みっけ」
「ん、おお。みつかったか」
「軽っ!?探してたもんなんだからもうちょいリアクションとかないんです?」
「なんだ、これは?エーテル結晶にしてはずいぶんと……」
「いやだってあるって知ってたんだから驚きなんてないですよ。そんでこれはカイバークリスタル、何の変哲もない綺麗な結晶ですよ。これを通すとエネルギーの収束率が飛躍的に上がるという性質を除けばね」
崩れたビルの瓦礫が散乱している中に紛れてそれはあった。人の頭の大きさほどもある白紫の結晶が無造作に転がっていた。伝説の剣のように荘厳な雰囲気もなく巨大な鉱脈から採取するような盛大さもなくただそこにあるのが当たり前のように。
ただ、フォースとは親密になれなかったとザインが評する私でもそれには異様なほどフォースが集まりエーテルすらも巻き込んで収束しているのが理解できる。こんなものを扱わせて大丈夫なのかと取り上げることも検討に入れるべきかもしれないのだが……。
ただ、フォースの真意を理解できるのはザイン一人なのもまた事実だ。浅羽とノックノックのアドレスを交換している弟子を見ながらため息をつくしかない。これはもう帰ったらマッサージでもしてもらわんと割に合わんな。
フォース君「はわわ、張り切ったら壊れちゃった。どうしよう。あ!ものすごく優しそうな人いる!青溟剣?なにそれおいしいの?ボクがあったらそれでいいでしょ?」
お師匠様「なんて壊れ方を……。ゆるさん、ゆるさんぞフォース!それはそれとして瞬光に接触させるのはまずい」
茶トラ猫「弟弟子ができました!青溟剣のこと言わなければ会わせてもいいですよね!瞬光ちゃん、剣棺は本山においてきてくださいね!」
幼き日の姉弟子「兄弟弟子!?会いたい!あそぼ!修行しよ!」
ピタゴラスイッチ()それはともかくとして壊れていた時のザイン君の方がフォースで出せる出力は高いです。中身にフォースしかないし暗黒面も光明面も関係ない完全なるフラットの状態ですからね。なおフォース君的には壊れていても壊れてなくてもザイン君であることが大事なのでどっちでもいいそうです。