フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
郊外、という場所がある。その名前の通り新エリー都の外の総称だ。見渡す限りの荒野、生えてるサボテン、転がるタンブルウィード、点在する町……そう、映画で言うアメリカ西部の西部劇そのままの世界観と言えばいいのだろうか。とにかくものすごく広くて雄大で……どんな音をたてても許される場所である。
「イイイィィィエェェェェエェエエエエエ!!!!!!」
ブルルォォォォォン!!!とフルスロットルに入れたバイクががなり立てるように馬力マシマシエンジンの爆音が響き渡り、オフロードのすさまじい振動を腕力でねじ伏せ、暴れまくるバイクを全力で押さえつけて風と一体になったやつがいた。というか俺である。俺以外いねーだろこんなアホなことしてんの。
バイクにこれでもかと搭載した生鮮食品やら材料やらと背嚢の中にしまってあるカイバークリスタルを跳ねさせて郊外を進む。目的地は……工房だ。工房っつっても郊外の外れに建っている建物の中に工具やらなんやらを詰め込んでいるだけなんだがな。でもマンションでライトセーバー作るのは無理だよ。ホロウの中だと浸食されちゃうからこれしかない。
さてさて見えてきたぜ我が工房が……なーんかでっけぇトラック止まってないか?あとバイクが4台?あー、無法者が見つけたんかな。金目のものは特にないんだけど。あーでも郊外だとなんでもかんでも不足しているから売れるっちゃ売れるのか。定期的に来て掃除やら備蓄やらもしてるし。
「あー、やっちまったぜ。近くの町のガソリンが枯渇してやがるなんてよ」
「それでおまけにアイアンタスクもガス欠で、私たちのバイクもそろそろヤバめ~」
「民家があると一縷の望みを託してみたものの不在……お先真っ暗とはこのことですわ」
「待て、バイクが来た。家主じゃないか?」
話している内容は俺のバイクの音のせいで聞こえないが鍵をこじ開けて入ったりはしてないようだしどうやら困っているようだ。服装からすると暴走族のように思えるがおそらく走り屋連合に加盟しているある程度まともな無法者たちなのだろう。
警戒はするべきと鞘に納めたお師匠様から借りたままの剣を手に持った状態でバイクを留めて降りる。集団の中で唯一の男が前に出ようとするのを金髪のサイドテールの少女が止めて得物らしい金属バットを自分のバイクに立てかけた状態で俺に近寄って来た。
「警戒させたことを謝罪いたしますわ。この建物、あなたのものでして?」
「ああ、とある筋から譲り受けてね。作業場として使わせてもらっているんだ。それで、君たちは走り屋チームか?」
「ああ、俺様たちは『カリュドーンの子』だ!それでなんだが……その、だな」
「バイクとトラックがガス欠しちゃったから燃料を恵んでくれるとうれしいな~~!!って」
「バーニス!明け透けすぎですわ!交渉のこのじも見当たりませんわ!?まず私たちが差し出せるものを……」
「金もなんもないだろ今」
あー、なるほどね。郊外……正確にはここらは旧油田エリアと言われる化石燃料が採掘できるエリアだ。新エリー都のエネルギーはもっぱらエーテルなのだが郊外は化石燃料を主軸とした経済圏を築き上げている。特徴はとにかく義理と仁義と人情だ。助け合いをしながらじゃないと生きていけないからな、新エリー都以上に。
「……上がって行けよ。飯は食ったか?風呂は?とりあえず満たされてから話しは聞く」
「水道が出るんですの!?」
「近くのオアシスと地下水脈から浄水システムを挟んでこっちにパイプ引いてあるんだ。新エリー都よりは劣るけどきれいな水のはずだ」
「シャワーじゃなくて湯船に浸かれるってことかぃ?」
「服までは面倒見切れないけど。保存食しかないから我慢してよ?」
困ってるなら見捨てるなかれ、まあホロウ内での案内のアレソレと同じで俺の哲学みたいなものである。電気もライトセーバーのパワーセルでまかなってるので新エリー都の一般的なマンション程度の生活はできる。
この場所はとある資産家から報酬でもらったものなんだがその資産家曰く男のロマンを体現したくて建てた趣味の産物だ。ロマンというのはズバリ、秘密基地である。トラックの運転席から降りてきたくたびれた話し方をする女の子に頷いて俺は認証キーとパスコードを打ち込んで工房を開けた。
なんで俺にくれたかっていうのはまあ、彼の孫を偶然とはいえホロウの中で助けて届けたから惜しくはないそうだ。当時まだ小さかった俺に対して足元を見なかったあのタイムフィールドの御当主はすごかったって話さ。
「なあ、疑わねえのか?頼んでるのはこっちだけどよぉ……」
「俺は新エリー都の人間だが郊外が義理と人情を大事にするっていうのは知っている。困ってるならとりあえず助けるのが信条でね」
「そっか……じゃあ、世話になることにするぜ」
くすんだ緑髪で左手が義手の女性の疑問に答えておく。ただ燃料を渡すだけでもいいかと思ったんだけどこの大荒野の中でガス欠まで移動していたとなればくたびれているだろう、補給に寄れはしたみたいだがそこで燃料を確保できなかったみたいだしな。それになんていうかな……彼女たちとは仲良くなれそうな、そんな気がする。
「わぁ!お風呂ひろーい!」
「あぁ、まあ前の持ち主が資産家だからね。どうもこだわりがあるらしい」
「ライト、あなたは後ですわ」
「ああ、わかってる。安心しろ」
資産家の秘密基地、というだけありこの工房というかほぼ別荘はぶっちゃけ俺が住んでるマンションより設備がいい。クソ広い風呂に俺に引き渡すときに新調したキッチン、ゲストルームが二部屋ある。地上部分はほとんどガレージだ。さすがにあのトラックは無理だが俺のバイクとカリュドーンの子4人のバイクを難なく駐車できるわけだし。
ライトと呼ばれた青年が見張り役として残るらしく、バイクから荷物を下ろしている俺を手伝ってくれた。何か食べたいものはあるか、と聞いてみるが食わせてもらえるのにリクエストまで言えない、とのこと。気にしないでいいんだがなあ。
中華系でいくか。とせこせこ材料を運び込んできた折にエーテル冷凍庫に詰め込んで置いた材料を見て判断する。まあ、潘さん直伝だから人に食わせても問題ない料理が作れるのがそれだけっていう話なんだが。学校の長期休みに合わせてこっちに来たので一月半籠れるように準備してきたわけだし。一食分くらいなら問題ないし足りなければ補給に行けばいいや。
冷凍エビを流水で解凍し、夜食の楽しみにととっておいた潘さん特性チャーシューを小麦粉を練って作った生地で閉じ込めて蒸篭に入れておく。チャーシューまんである、これ大好きなんだわ俺。エビチリ、カニ玉の下準備を済ませてすべて冷蔵庫に納める。
どっかの漫画で読んだ話だが中華の料理は9割が下準備で残り1割でチャイニーズマジックが起こるとかなんとか。実際潘さんも下準備にとても手間と時間をかけていたし。最近はヴィクトリア家政のおかげで資産がとても潤沢なので新エリー都ではクソ高い生鮮食品をヴィクトリア家政のルートで仕入れることができる。品質が良くて尚且つ割安。素晴らしい。
「コーヒーでいいか?俺はザイン・スカイウォーカー、好きなように呼んでほしい。一応学生。お察しかもしれんがホロウレイダーでもある」
「ありがたくもらおう。俺はライト、カリュドーンの子のチャンピオン……武力交渉や用心棒に近いポジションをやっている」
「そういうのがあるんだ。へー、郊外にはホロウとここメインでたまに燃料補給に町に行くくらいだから走り屋関係には疎いんだ」
「寧ろ町の人間にしたらわかってるほうだと思うけどな。別荘持ちとは羽振りがいい。是非とも運送業の顧客になってほしいくらいだね」
郊外の走り屋連合に所属している走り屋たちは無法者としての顔のほかに運送業者としての顔も持っている。ライトさんが言っているのはそういうことだろう、惜しむらくは俺自身大量運送をお願いするようなことはなかなかないという残念な人間ということなんだけど。
「俺自身には仕事はないだろうけど仕事につながりそうなコネは紹介できるよ。どうかそれで勘弁してほしいな」
「やめてくれ、冗談だ。これ以上世話になっても通せる仁義がないさ。にしても、エリー都の人間が何でこんなところに?」
「ここは工房だって話したよね。とある依頼で武器が木っ端微塵になってさ。ようやく素材がそろったから作り直しに来たわけ。ちなみに機械工としての依頼も受付中、ここにいるときだけね」
「へぇ。見たこともないバイクだと思ったらお前のオリジナルってわけか。でかい排気音にパワーもありそうだしバーニスが喜びそうだな」
両手を顔の横でひらひらさせて降参だと言っているライトさんではあるが、強いなこの人。さすがは荒野で腕っぷしに生きる人間ってかんじだ。当たり障りのない探り合いを繰り広げていると女性陣がお風呂から上がってきたらしくほこほこと湯気をあげた髪でこっちに入ってきた。
「お風呂、いただきましたわ。ライトもどうぞ?久しぶりに生き返った気分ですわ」
「あー、まー……どこの町行っても基本的にシャワーで水が出るだけマシ、お湯が出たら最高だもんなぁ。足を延ばして風呂に入れるなんてどんだけゼイタクか」
「気持ちよかった~!あ!あたしバーニス・ホワイト!バーニスって呼んでね!こっちがルーシーにシーザー、そんでパイパー!」
「ザイン・スカイウォーカーだ、よろしく」
「キング・シーザーだ。シーザーでいい、カリュドーンの子の首領が俺様ってわけだ」
あれま、交渉だのなんだのと知性的な突っ込みを見せていた金髪サイドテールのルーシーさんじゃなくて義手の彼女がリーダーだったのか。握手を交わした後でコーヒーでいいか、と聞いたらニトロフューエルで!となぜかバーニスさんから返ってくる。あるにはあるけどそれエナジードリンクやんけ。
「ご飯はライトさんが出たら仕上げるからそれまで待ってくれ。それで、燃料の話なんだけど」
「ええ、おもてなしには感謝しますわ。その、近くの町では今パイプラインが死んでしまったらしくてガソリンがありませんの。幸いある街まで戻れば問題ありませんが……」
「そこまで行くガソリンはない、と。別に提供するのはいいけどね……ただ、あのでかいトラックの燃費に対応した備蓄はね、俺のバイク用でしかないから」
「それはそうですわね……距離的には私たちのバイクでも満タンからカラッケツになる距離ですわ」
「……難しいことは飯食った後に考えるか。食えないものはないよね?」
「そんな贅沢言えるほど厚顔無恥ではありませんことよ」
ライトさんは10分で戻る、と言っていたのでそろそろ準備してもいい頃合いだ。事情は聴いたのでまあ手助けすることはできるだろう。蒸篭でチャーシューまんを蒸しあげ、刻んだネギと卵でチャーハンを作りさらに人数分盛り合わせてエビチリを作りその上に回しかけていく。
換気扇じゃ処理しきれない匂いが充満しぐぅっとお腹が鳴ったシーザーさんが真っ赤になってお腹を押さえているのをニトロフューエルの缶を咥えたバーニスさんが笑っていた。ルーシーさんのお付きらしい真っ赤な猪3匹にも同じものを用意して、あとはカニ玉というところでライトさんが戻って来た。
「旨そうな匂いだな」
「衛非地区でよく食べられてる料理だよ。ちょうどいいから運んで行って、あと少しでできるから」
カニ玉を纏めて大皿に移し餡掛けを回しかけて蒸篭を引き上げる。さてさて完成、とテーブルの上に運べば歓声があがる。恐縮して無言でいられるよりは断然こっちの方が好みだね。どうぞ、と声をかければわっと勢いよく食事がはじまる。潘さんが料理番する気持ちがわかるなあ。
「んまいなあ!まともなメシ屋なんてでっけー町じゃねえとありつけねえがお前のはそれより美味いぜ!」
「ええ、ほんとですわ。地獄に仏とはまさにこのことですわね……最悪パイパーとアイアンタスクにバイクをすべておいて徒歩で町まで行く覚悟でしたもの」
「それはさすがにゾッとするなあ。まあそんなことをする前に会えてよかった。とりあえず今日はゲストルームに泊まってくれ。洗濯したければ洗濯機も使ってくれていい。俺は工房にこもるけどまあある程度自由に使ってくれていいよ」
「何から何まで……さすがにお返しできなくなりそうですわ。ご厚意には甘えさせていただきます。バーニス、決してここでは燃やさないことですわ」
「ルーシーちゃん、さすがのあたしでもそんな放火魔みたいなことは」
「するから言ってんですわ!まあその燃料もないでしょうけど……」
「ザイン、礼は礼で後でさせてもらうが何か手伝えることがあれば言ってくれ。是非とも手伝わせてほしい」
気にしなくていいのに、とチャーシューまんを頬張るライトさんの言葉をありがたく受け取りながら俺はチャーハンを頬張る。生鮮食品を結構消費したが全く後悔はない、寧ろ清々しいくらいだ。さて、郊外の生活が始まるぞ。
どっかのシンメトリー兎と面識があるようなないような、そんな関係。やはりコイツシリオンホイホイか何かか?ちなみにザイン君の秘密基地はブレイズウッドなんかよりもさらに外れにあります。資産家のお遊びなのでね。