フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
ツール・ド・インフェルノ……聞いたことないな。つまりこれは郊外特有のイベントか何かということだろうか。俺が無言で先を促したのを見たシーザーさんはこほん、と小さく咳ばらいを挟んで意気揚々と語りだした。
「ツール・ド・インフェルノっつーのはな、郊外の覇者を決めるイベントだ。覇者ってのは走り屋連盟のトップ。つまり、郊外のすべてを握る存在になれるってわけだわな」
「つまり、カリュドーンの子の現状を打破できる絶好のチャンス、と」
「おうともさ。こいつに参加するには資格がいるんだが……手に入れちまうのが俺様の実力ってわけよ!」
左の義手で取り出して、弄んでいる四角い物体。それがなんだかわからないが資格というのはどうやらそれのことらしい。誉めろ、と見るからに書いてあるドヤ顔が可愛らしいシーザーさんに一通り拍手をして見せるとふふん、と得意げになったシーザーさんは資格とやらをしまい込んでまた話を再開する。
「それで、そのツール・ド・インフェルノってのはどういうイベントなんだ?」
「郊外でも最強と謡われる2チームがホロウに突っ込んで競い合う一大イベントだぜ!」
「もっと具体的に」
「あ?あー、こういうのはルーシーに任せんのが楽なんだけどなあ。えーっとな、ホロウをバイクで突っ切ってシンダーグロー・レイクに資格の火打石を先に投げ入れたほうの勝ち。ルールはそんだけ」
「それ以外は?」
「なんでもあり」
じゃあつまり最悪殺し合いに発展しかねないクソイベントでは……?という言葉は飲み込むことにする。その場所の伝統文化に聞きかじった知識で口をはさむのイクナイ。しかし、つまりは妨害在りでゴールまで突っ走れっていうレース形式のイベントなのか。
「シンダーグロー・レイクってあの火の海のこと?」
「お、知ってんのか?」
「たしかこんな逸話があったよね。シンダーグロー・レイクのエーテル結晶が折り重なり、火が消えようとしたときに唯一残った火口に勇敢な若者が飛び込んだ。するとシンダーグロー・レイクは爆発するように息を吹き返して、さらに若者は帰還したことで英雄となった」
「お、それだそれ。ツール・ド・インフェルノの始まりの伝説。ちっと端折りすぎだが俺様達郊外の人間はガキのころからその伝説を聞かされて育ってる」
「で、がっつり憧れてると」
「わかるか?」
照れ臭そうににへへ、と笑うシーザーさんは心からこの伝説が好きな様子だ。少年のような笑顔をする彼女につられて笑ってしまった。ということは、今回のツール・ド・インフェルノではカリュドーンの子と今の覇者がぶつかり合うことになるわけね。
シンダーグロー・レイク、燃える湖があるとして有名なホロウの名所だ。ここには石油を掘削する大規模な基地、というか旧油田エリアの命ともいえる原油の産出ポイントだった。だが、そこで発生したホロウのおかげで石油は枯渇しかけたものの、ここで奇跡が起こった。
爆発した掘削機が生成した石油とガスに引火。さらにそれが侵食したエーテルの根源である地下に向かいエーテルを焼き尽くすと同時に天然ガスに引火し続け今もなお燃え盛る火の湖となると同時に石油資源をエーテルから守る防波堤になった。
火打石という単語を聞くにシンダーグロー・レイクの手入れが大目的のイベントなんだろうな。伝説にある通りに堆積したエーテル物質を湖を活性化させることで根こそぎ吹き飛ばし石油資源の安定化を狙う祭りってわけね。
「せっかく知り合ったんだしよぉ。俺様達が郊外の覇者になるところも見てけよ!ぜってえ退屈しねえから」
「いいね、折角だ。何か協力させてくれると嬉しいね。チケット代くらいは稼がせてほしい」
「アホ。
えー、なにかさせてよ~。楽しいってわかったら首突っ込みたくなるじゃ~ん?最近のアレソレ考えるとこんな平和っぽいイベントなんかなかなかないんだぜ~?んー、まあシーザーさんは小細工とか性に合わないって感じするからルーシーさんとはあんまり気は合うけど話が合わないみたいな感じかな?ただ、信頼はしてそうだね。
熱気、炎、そして金属。工房の中にあるエーテル炉に火を入れた俺は作業ズボンにタンクトップ姿になって汗にまみれながらひたすらに炉の中にある金属を見つめていた。真っ赤に熱せられたエーテル合金3種の板を接合する作業だ。エアコンをかけると板金の温度が狂うのでタンクトップを絞れば水たまりができそうなほど汗をかいても空調はオフになっている。
取り出して、叩く。叩く。金床の上で鉄の棒に溶接した板金を甲高い音をたてて叩きまくる。火花が飛び散って床下に落ちる。十分に粘りを持ったのを確認して折り曲げて層を作っていく。ダマスカス鋼と前世ではいう奴だろうか。フォースはどうやら飛び切り難しい課題を俺に投げつけてきているらしい。
フォースに導かれて書いた設計図を読み解いて理解することによると、この3種の金属はどれもこれもエーテル侵食に強く尚且つ頑丈という特徴があるらしい。これでダマスカスを作ることで3種の金属をより強くできる、らしい。わからん。フォースの言うことに間違いないや(思考放棄)
「ただいま戻りましたわ。ってあつっ!?ザインさん?あなた何を……なんて格好してらっしゃるの!?」
「ふおおおお炎だ炎!あれ?ザイン、それなぁに?ルーシーちゃんってば大袈裟じゃない?ライトだってジャケット脱いだらこんなんじゃん」
「あら、速かったね。わざわざここに来なくていいのに……そんなに見苦しい?」
「いえ……あの、その、ライトは私達にそういう姿を見せないようにしてくれていますし、あのその」
ああ、そうか。お嬢様だから男に意外と免疫がないのか?ルーシーさんは。バーニスさんなんか4つ折り目を済ませて炉に戻した金属をものすごく楽しそうに見つめていた。珍しいのかしらね。ルーシーさんががっつり顔を隠した指の間から俺を見ているのはばればれだが気づかなかったこととする。
「ガソリンは手に入った?」
「こ、こほんこほん!ええ、もちろんですわ。いただいた分も倍にして返します。アイアンタスクにバイクを積めて出発となりますわ」
「そっか、まあ楽しかったよ。暫くここにいるから休憩したかったりしたら遠慮なく遊びにきてくれ」
「……ザインさん、いえ……オーダー。貴方、ツール・ド・インフェルノはご存知?」
5度目の加熱を終えてまた金床に引っ張り出した俺が板金を叩きながらルーシーさんと興味津々瞳ランランでそれを見ているバーニスさんに軽い別れの挨拶をすますとルーシーさんたちは退室することなく二人で顔を見合わせたり目を合わせたりあたふたしてみたりと愉快な動作を繰り広げだした。
それで別に俺の集中力が途切れるわけじゃないしなんだか見てて面白いのでそのままにしておき、6度目の加熱を終えて叩き、そして油の中へ突っ込んで焼き入れをした俺の作業がひと段落してセーバーの外装の一部ができたタイミングで話しかけてきた。
ツール・ド・インフェルノ、またその話か。ただ、ルーシーさんはどうやらシーザーさんとは別の考えがあって俺にその話をするらしい。もう火は使わないのでエーテル炉の火を落として空調を入れてタオルで汗を拭いて向き直る。首掛けタオルは行儀が悪いけど許してほしい。
「シーザーさんから大体の話は聞いてるよ。手伝おうかって言ったら黙って見てろなんて言われちゃったや。ルーシーさんは逆かな?」
「シーザー、折角大物自ら助力を申し出てくださっているのになんてことを……こほん。ええ、その通りですわ。ツール・ド・インフェルノへの助力、是非ともお願いしたいのです。なにせ、もう後がない」
「後がない。君たちが走り屋連盟から冷遇されているから?」
「シーザーったらそんなことまで……ええ、このままではじわじわと飼い殺しにされるか衰弱して分解されるかですわ。運送業もホロウレイダー業も今のところ黒字ですがトライアンフがこのまま何もしないとは思えません」
トライアンフっていうのがカリュドーンの子とツール・ド・インフェルノで対戦するチームの名前で現覇者か。どーも二人そろって嫌ってるみたいだが勝てば何とかなるに決まってるだろと若干楽観気味なシーザーさんと違ってルーシーさんは勝たなければ終わりだと考えてるようだ。
「ボスはシーザーさんなんだろ?彼女の意思を汲まなくていいのかい」
「協力者を入れること自体は既にカリュドーンの子全体としての意思疎通は終わってますの。問題は
「それはカリュドーンの子として勝ったわけじゃない、つまりは少数精鋭が望ましいってわけね」
「いかにも、ですわ。やはり話が早いとありがたいですわね、うちの連中ときたら頭サラダばっかりですのに」
「ねえ、それ私のことも入ってたりしないルーシーちゃん?」
「入ってねえわけねえですわ頭ニトロフューエル」
「ひどい!?」
よっぽど普段のカリュドーンの子はルーシーさんに手を焼かせているらしい。うわーん、とわざとらしい泣き声をあげるバーニスさんをはいはいと適当にいなしているルーシーさんには明らかな慣れがあった。
「そういうってことは目星はついてたんだ?」
「ええ、パエトーン、伝説のプロキシにお願いできればと。最近アカウントが静からしいのですが邪兎屋に繋ぎをお願いしたんですの。もうすぐビリーが連れてくる予定ですわ」
「ああ、パエトーンね。ビリーさんたちとも知り合いだったんだ」
「知り合いも何もビリーはもともとカリュドーンの子の所属でしたのよ?ご存じなくって?」
あの二人もいろいろ売れっ子なんだなあとうんうん感心していた俺に叩きつけられたビリーさんがもともとカリュドーンの子だったという情報にはかなり驚いたが、似合うと思ったのも事実だ。というかジャケットの背中とかもろカリュドーンの子じゃないか?
「そして、あなたですわ」
「評価してくれて嬉しい。だけどまず第一に手伝うこと自体は構わない。どうせ暫く郊外にいるからね。だが、プロキシとしてなら断然パエトーンの方が腕は上だ。人格面も俺が保証する。俺にできて彼らにできないのはホロウ内でのドンパチくらいだ。ツール・ド・インフェルノのルール上ボンプがセーフだっていうなら彼らを雇うべきだよ」
「どこまでも紳士ですこと。ますますお願いしたいくらいですわ。正式に依頼させていただきます。もちろんパエトーンにも。末永く、いい関係で居たいのです。私の手をとってくださる?」
そっと、ルーシーさんが手を差し出してくる。握手の形ではなく淑女が男性にエスコートを求めるように手の甲を上にして。タイムフィールドのお孫さんに教わったのは確かこうだったっけと思い出しながら彼女の手をとって、手の甲にキスをおとす。うっわきざったらしー、俺。
「喜んで、フロイライン?なーんて。似合わないか」
「ふぇ、ふぁ……け、契約成立ですわ……?」
「ルーシーちゃん、ルーシーちゃん、お嬢様でてるでてる」
ルーシーさんはおそらくなんだけどタイムフィールドの御令嬢と知り合いってことは本人もかなりのお嬢様のはずだ。それが何でこんな郊外なんかで無法者をしてるかなんて知らないけどそこまでの事情は知らないし知る必要もない。今の彼女は自由な走り屋、それでいいじゃないか。
しかし、手袋越しとはいえ唇を落とせとかほんとにこれマナーなのか?嘘教えられたんじゃないだろうな俺。大体同い年ってことは一応前がある俺はともかくとして彼女は子供かそうか、レディの手をとるときのマナーですわ!って言われたんだけど。
「で、もう行くわけ?」
「え、ええ!近いうちにまたお邪魔させていただきますわ!詰めたいお話が山とありますもの!」
「ばいばーい!今度私のスペシャルドリンクごちそうするからね!あでゅー!」
絶対熱のせいじゃないとみるだけでわかるほど真っ赤になったルーシーさんとにひひ、と面白そうに笑うバーニスさんは来た時よりも騒がしく俺の作業部屋を後にしていく。次に会ったときは謝罪から入るべきかなあと苦笑いしながら俺は今度はエーテルバッテリーを改造してパワーセルを作る作業に入るのだった。
ルーシーお嬢様「バッチクソに顔と中身が好みですわ。絶対にモノにしますわ」
あまりにザイン君がルーシーお嬢様の好みすぎて素でお嬢様みたいになってしまうルーシー嬢。まあ仮にモノにできなくてもアキラがかっさらっていくでしょう。ああ、ビデオ屋のゴミ系アキラじゃないから違うか。じゃあザイン君は何ゴミなんですかね。宇宙ゴミか?