フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
ありえない、その鞘走りを見た俺が二重に考えた刹那の思考。その思考に囚われる間もなく本能的に体が動く。刹那の思考が体を遅らせたか手に持ったライトセーバーを起動させたら間に合わないことに気づき躊躇なく手放した。リンさんと星見さんの間に体を滑らせて一か八かの賭けにでる。
バチィ!と音が鳴り響いてぎゅっと目を瞑ったリンさんが恐る恐る目を見開いて青ざめる。目の前一センチに迫った鋭すぎる刃と星見さんの懐に潜り込んで刀を握る手首を両手で押さえて薙ぎ払いを止めた俺。冷や汗が星見さんと俺の両方の顔から流れる。刀から流れる凍てついたエーテルが俺の腕を侵食しようとしていた。
「少年、プロキシ!離れろ!刀が抗っている!」
「離れろっつったってこの状況で置いてけないでしょうよ!」
「な、なに!?何が起こってるの!?」
「しらないけど虚狩りの武器は大体呪われてるって師匠が言ってたから星見さんの刀も妖刀だったってオチ!」
二撃目を防ぐために刀を持つ手を握り続ける俺と星見さん。俺じゃなかったら切り捨てられてるか凍ってるな。フォースで蒼炎を押し返す。なんちゅう刀だ、フォースを押し返そうとしてるぞ。
まさか、星見さんが辻斬りのごとく理由もなしに誰かを切り捨てようとするとは、そして当代の虚狩りの傑物である彼女が自らの得物を御しきれないことがあるとは。二重のありえないにどうすればいいと思考を回し続ける。
リンさんも思考を高速で回し続けているのが振り返らなくてもわかるっていうか振り返る余裕がねえ!ねえ何で所有者本人と一応それなりの強さ一人の二人がかりで耐えてるのに押し切られそうになってるのおかしいでしょなんだよこの武器!?フォース集中して蒼炎除去してんのにこれだよ!
「ねえ!さっき刀を封じてるのは鞘だって言ったよね!?つっこめる!?」
「っ!!持っていろ!少年!」
「わかってますよ!気張ってください!」
ドタバタとリンさんが走って持ってきたのは刀の鞘。さっき雅さん本人が鞘が封印の機能を担っているという話をリンさんは思い出して吹き飛んだ鞘を持ってきた。ナイス判断と言う余裕はないけど鞘に突っ込めれば何とかなるかもしれないという希望ができた。
ぐい、とフォースで強化した腕力にものを言わせて強引に刀を動かす。どうやら星見さん自身の素の力は俺よりも低いようだ。逆を返せばこの刀の力を引き出して扱っていたという事なんだけど触ってて分かるよ、これ例え封印されてても触りたくないやつだ。
何というか、フォースへの感受性に特化した俺には聞こえづらいがこの刀からは人を斬れという思念のようなものが聞こえてくる。今ここで触っただけの俺にすら聞こえるのだ、普段これを扱っている星見さんならもっとはっきりちゃんと聞こえてしまっているのではないか?
誘惑じみた悪魔の囁き、最早呪いとか呪詛の類に近いだろう。フォースで言うなら真っ黒暗黒面だ。二面性という話じゃなくてシスが信奉しているような邪悪なフォースみたいな感じ。鞘に刀が突き刺さる。途端に抵抗が強まるがここを逃せば後がない、俺は躊躇なく刀身を握り締めて刀の震えを無理やり納める。
掌に鋭い痛みと腕を伝う紅い液体、凍り付いていくそれを無視し無理やり一息に妖刀を鞘に納めた。鞘の封印の機能はそれはそれは強力らしくさっきまであんなにやかましかった刀を完全に黙らせることに成功する。どさり、と全員が膝から崩れ落ちる。
「……少年、手は?無事か?プロキシも」
「こっちは大丈夫、それよりもザ、じゃなくてオーダーは!?」
「あー、平気平気。触っただけで骨まで行くとはさすがは妖刀って感じだわ。指が落ちなかっただけ御の字だね。それよりも今日はもう抜かないでくださいよそれ」
「……承知した。治療費については私が全て支払う。少年、厚かましいがお前の刃を一振り貸してはもらえないか」
刀の刀身をほとんど全力で握りしめた結果、俺の手のひらには深い切り傷が生じていた。青ざめるリンさんとものすごく責任を感じている顔をしている星見さんに一応の無事を伝える。フォース・ヒーリングでもここを出るまで暫くは手は使えなさそうだ。かといって刀を抜くわけにもいかないので星見さんが出した折衷案に俺は素直に頷いておくことにする。
「触れたら真っ二つですよ。間違っても居合だとかやらないでくださいね」
「わかっている。しかし、こんなことは初めてだ。父上が鞘を封にしてからこんな風に無尾が逆らってくることなんてなかった」
「ちょっと見せてもらっても……うわ、知能体なんだこの鞘、ん?……えーと、雅さんでいい?この鞘ちゃんと修理に出したほうがいいかも……なんか、ロジックが狂ってる感じがする。応急処置だけしてもいい?ホロウの迷路ロジックが元だと思うから私なら直せそう!」
「鞘だけなら触れるのを許そう。だが、刀には触れるな。少年が看破した通り無尾は妖刀だ、星見家の当主以外が触れた試しがない」
ライトセーバーを一つ渡した後に星見さんは納めた刀ごとリンさんに渡してしまった。ライトセーバーを起動し2、3回素振りすると一つ頷いてスイッチを切る星見さん。スッゴ、デキることは疑いようもなかったけど3回振っただけで違和感と太刀筋の修正を終えたぞ。
「少年、手を。包帯の常備くらいはある」
「すんません、リンさんそっちは?」
「抜かないほうがいいけど応急修理は終わったよ!いこ!座標計算もばっちり!」
なんというか、慣れてるな星見さん、包帯巻くの。俺の手はかなりざっくりいっているので病院に行けば医者は真顔で「縫います」か「手術です」のどちらかを言うのだろうという傷だ。まぁ、フォース・ヒーリングで治すんですけど。でもさぁ、その耳ペタンってやってすっげー申し訳なさそうな雰囲気出すのやめていただける?気持ちわかるけど、フォース暴発させたときとか俺お師匠様相手にそんな顔しとったわ。
まぁいいか、と俺はガーゼを当てられ綺麗に巻かれた包帯をした手を適当にロープで体に括り付け動かさないようにする。右手にライトセーバーをもってリンさんの先導に従い名もなきホロウを進み……程なくして脱出に成功するのだった。
『リン!?無事か!?何もなってないか!?』
「う、うん!大丈夫だよお兄ちゃん!雅さんとオーダーが助けてくれたから!」
『それにしても……侵食症状の一つもないのかい?fairy、チェックを』
『マスターの状態、極めて軽微な侵食。及びインプラントの不調。イアスを介して是正作業を行います』
『そんなバカな……僕たちはエーテルに極めて弱いはずだ……なのに』
「課長、無事でよかったです。オーダーさん、あなたも……概ね無事のようですね。よかったです」
「少年の傷は私の不手際が招いたことだ。少年とプロキシが居なければ私とて戻れたかはわからない。それよりも何かわかったことは?」
すっ、と俺にライトセーバーを返しながら割とまだ俺にトゲトゲしている副課長の月城さんにやんわりと自分のせいだと告げる星見さん、状況を聞かれるとまさかという顔を引き締めて星見さんに状況報告している。んー……?んん?んんん?
「パールマンいなくね?」
「お、流石鋭いねぇオーダー君は。そ、彼女が乗ってるトラックが横転した時敵さんにさらわれたのさ。手は無事かい?」
「痛そう……おにーさんおやつ食べる?蒼角はねぇ、ご飯食べたらケガしてもすぐ直るから!だからおにーさんもきっと治るよ!」
「おー、上手いこと逃げたもんですね。蒼角ちゃんありがとう、お返しにこれあげるね。で、どうなるんですそれ。証人逃げちゃいましたけど」
なんていい子なのだろうか蒼角ちゃんは。齧りかけのクッキーをありがたくもらいつつ俺は懐からいつでも常備のカロリーバーを残ってる分全部彼女に渡した。とりあえず夢中になってもらってる隙にいろいろ話し合っている塊に合流することにした。蒼角ちゃんはともかく寄ってきた浅羽さんは俺が逃げないようにするためだろうしね。
「じゃ、俺は帰るよ。またなんかあったら連絡くださいな。とりあえず静養するから、エレンさんに会う前に治さないとね」
「待ってほしい、オーダー……いや、ザイン」
「どうしたんだそんな真剣な顔して。依頼は失敗だっつーならディニーは返すぜ」
「違う、君はちゃんと全力で依頼を遂行してくれた。そこに関しては文句のつけようもないし僕もそんな恩知らずじゃない。ただ……君に聞きたいことがある」
とりあえず証人もバチクソ怪しいし六課側としても襲撃を加味して信憑性が深まったということで邪兎屋とパエトーンとついでに俺の逮捕が現場判断で保留になった。んで、次の反撃の目を探すために一旦解散って話になった。無理やり押し付けられた六課のノックノックのアドレスが眩しいぜ……蒼角ちゃんはそんなに俺とご飯行きたいの?もう既にお誘いが来てるよ3回も。
で、流石にこの手でバイク乗って帰るのはむりっつーことになったのでめちゃくちゃぷんすこしていたパイパーさんのアイアンタスクに積ませてもらって後日宅配してくれることになった。怪我したあははのはっつったらルーシーさんが無表情になってお礼参りですわってつぶやいたのものすごい怖かった。あのシーザーさんが敬語使ってたぜ。
そのあと急いで現場に来たアキラさんの車に乗って帰り、現在に至る。アキラさんに引き留められたのはまあ大方聞きたいことはわからんでもない。どうせフォースのことだろ?見た感じリンさんが傷つけられて焦ってもいるだろうし。侵食を防ぐ手段としてフォースが使えないかってことだろな。
「僕とリンは……とある事情でエーテルに侵食されやすいんだ。リンを無事に戻してくれたことには本当に感謝している。だけど、あれだけの時間ホロウに潜っていたのにリンの浸食が薬もいらないほど軽微なのはどう考えてもおかしい、教えてくれ。君の力は……なんなんだ?」
「知ってどうしたいんだ。アキラさん、君には使えないぞ。バッサリ言うが素養がない、リンさんも同じだ。俺の力は先天的な素養が半分以上を占める。そして……例え才能があったとしてもエーテルに触れ続ければその才能は無くなる」
「なら、なぜ君はそれを使えるんだ。この新エリー都でエーテルに触れないなんて不可能じゃないか!」
「そりゃ、その才能って奴がエーテルの浸食をなくすくらいヤバかったってだけだぜ?あとはまぁ、環境が良かったって感じか。しかし卑怯だなアキラさん、自分の事情は明かしたくないが俺の事情は明かせって言ってるようなもんだぞそれ。お互い言いたくないことはあるんだ、ならちょうどいい距離感を保とう。別に協力しないって言ってるわけじゃないんだからさ」
「……そうだよ、お兄ちゃん。ザインは今日私を助けるために刀を振りかぶる雅さんの前に躊躇なく割り込んだり、雅さんを助けるために刀を素手で握ったりして危険を顧みず私たちを助けてくれたの。私が心配になったんだよね?だけど、大丈夫だからいったん落ち着こ?」
「す、すまない。責めるつもりは一切なかったんだ。確かにザイン、君の言う通り失礼なことをした。謝らせてほしい。何かわかったら連絡する、その時はまたお願いしたい」
「気にすんな、秘密が多いし怪しいのは俺だってそうだしな。ま、俺は依頼してもらってもしなくてもどっちでも構わんから、命だけは大事にしてくれよ~。プロキシが前線出るのはおかしいからな」
やり取りを黙って聞いていたリンさんが割り込んでようやくアキラさんはハッとして興奮していた自分を落ち着けてくれた。少し悪い空気になってしまったビデオ屋の中の気まずい空気を流すように大きくドアを開けて手を振るイアスと所在なさげな二人に見送られて六分街を後にする。
「ははっ、意外と疲れてるのかもな俺」
何となく家に帰る気分じゃないからぶらつこう、とルミナスクエアに出た俺は特に何も考えずに歩いて、暗くなった空を見上げて正面に視線を下げると……そこはなぜか通いなれつつあるヴィクトリア家政のメイド喫茶だった。自分に自重するように笑って踵を返して帰ろうとすると、グイっと腰を掴まれる。下を見れば見慣れたサメの尾っぽだった。いつの間にか俺の近くに立っていたエレンさんが俺の腰に尻尾を回していたのだ。
「どこ行くの、客としてきたんでしょ?」
「いやー、散歩してたら気づいたらここいてさ。脳みそに糖分が足りてないかも知らんね」
「そ。なら入っていきなよ。ちょうど私のシフト時間だし、私今フリーだし。サービスくらいならしてあげる……その手のことも気になるしね」
アッヤバ、と包帯ぐるぐるの手を見られたことに気づいた俺だがいつもの尻尾ビンタが来ることもなく先にすたすた歩いてくエレンさんが早く来なよと顔だけでこっちに振り向く。まあ、こういう日もいいかと俺は店の中に吸い込まれていくのだった