フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
胡乱な顔で俺はプレハブながらも仰々しく飾り付けられた演説台を見る。あれから結局、パエトーンの二人からは連絡は来ていないし俺からも連絡をとってはいない。関係性が悪くなってしまったのは事実だがお互いに柔らかいところを突つきあったのだ。もう暫く合間を置いて熱が冷めるのを待つのがいいと俺は思う。
近くのスタンドで買ったジャンキーなホットドッグにたっぷりの生玉ねぎをかけてもらったものを齧る。ふっといソーセージのあふれる肉汁とケチャップとマスタード、そして玉ねぎの食感が暴力的に口の中を支配した。フレンチフライも買えばよかったかなと後悔したところで俺の横に見覚えのあるピンク色の兎が出現した。
今日ここでもうすぐ、治安局の総監に関する選挙の演説が行われる。ここでやるのはブリンガー、いまだにそれが事実かどうかはわからないけどヴィジョンのアレソレの裏にいた男としてパールマンが喚き散らしていた男だ。俺は選挙に参加できる人間じゃないがどんな男かは確認したい。俺だけが被害を被るだけなら俺がキレるだけで済むが、そうじゃないのは困るしな、みんなが。
「意外、こういうの興味あるタイプじゃないって照ちゃん思ってたよ」
「いやですねぇ、コレでも俺は善良かどうかはともかくとして新エリー都の市民の一人ですよ。市政に影響が出るなら聞いておきたいもんです」
「ウッソだぁ。知ってるんでしょ、ブリンガーの噂」
「まぁ当事者でしたからね。それで?何か御用で?」
「ウン、この前もらいすぎって話をしたでしょ?だから照ちゃんもらいすぎた分を返しに来たんだぁ」
肉食ピンク兎、クランプスの黒枝の照さん。彼女は路地裏に近い場所にあるベンチに座っていた俺を見つけて寄ってきたらしい。よいしょっとベンチに飛び乗って俺の隣に座る彼女、もう一度会えるとは思ってなかったがしかしこのタイミングとは。
「ただ、オーダー君とはもっといい関係を築きたいって照ちゃんは思ってるの。だから、もし知りたいなら……キミが仲良くしているビデオ屋をはじめとしてだぁれにも言わないって約束してほしいな。そうじゃないならもらった分だけ返すことにするよ」
「んー、まぁこれ以上かかわることはないと思いますけど真実という奴はいつでも魅力的に映るっていいますもんね。好奇心は猫を殺すそうですけど。いいですよ」
「ん、わかってるねぇ。じゃあまずなんだけど……キミ達が追ってるブリンガー、もうすぐここに来るだろうけど彼がビジョンを始めパールマンの上にいたポジションなのは事実だよ」
だろうな、というのが感想だった。照さんは何でもないことのように語るがブリンガーが黒だっていう疑いはパールマンの口から出て初めて俺たちが疑い出したもの。それをあっさりとこっちが嗅ぎまわってるのを知ったうえで肯定してきたのだ。市政側じゃないとはいえさすがはTOPsってわけか。
「それはまあ、そうなんでしょうけど。なぜ照さんたちはその情報と証拠を握ってなお市政側への告発へ動かないんですか?」
「へ?しないよ、する理由ないもん。市政は照ちゃんたちのお仕事の対象外。TOPsと市政は同盟関係ではあるけど本質的には敵対関係だよ。したところで照ちゃん達も得しないからね。正義感とかそういうの?特にないから」
「そうですか。ま、企業人でしたら正しい対応でしょうね。TOPsの上役なら全員ほっとけっていうでしょうし。逆に伝えに来てくれた分優しいまであります」
「等価交換、照ちゃんが一番大事にしてることだよぉ。あの時は照ちゃん何もしないで犯人の確保ができたし。それで……奴ら……ああ、組織名は『讃頌会』だよ。ここからはナイショね」
TOPsが動くわけないと思ってたけど予想道理の答えかな。しかし讃頌会……どっかできいたような……。ああ!俺がフォースに壊されて雲嶽山に行きつくまでの間に名前だけみたことある。ホロウの中にあった襤褸切れのポスターにホロウは素晴らしいだのなんだのっていう自殺願望めいた教義の一部が印刷された奴があった。
「讃頌会の実際の目的は照ちゃんたちにもわかんない。だけどブリンガーが手にしたいものはおおよそ予想がついてるよ。それは妖刀・無尾。虚刈る戎具の一つだね」
「無尾って星見さんが持ってる刀か。じゃあどう頑張っても目的は果たされないわけですね。あの人が振るう刀を奪うなんてできやしない」
「物理的ならね。だけど忘れてなぁい?星見雅は貴方たちと違って立場のある人物だよ。その権力はブリンガーよりちょっと低いね。たとえ彼女が虚狩りだろうと、ね」
「権力で取りに来るってわけですか。アレを欲しがるだなんて酔狂なことですね。あんなもん普通なら触りたくないでしょうに」
「照ちゃんからしたらアナタも相当イカレてる部類だけどなー?ま、とにかくそんなとこだよ。これでぴったり貸し借りなーし!等価交換終了!ここからは雑談ね、付き合ってくれる?」
「もちろん」
まぁ、もらった情報は答え合わせとしたらかなりもらいすぎな部類だ。仕事として俺といい関係を作り上げたいという照さんの狙いは隠しているものじゃないしどうせブリンガーを見る以外にはとても暇なので付き合った方が俺にとってはいいだろう。
「不思議なんだけど、オーダー君って損ばっかりとってる気がするんだよね。この前の件とかもそうなんだけど、徳はないし相手に利があっても無視したりとか。どうしてかなーって」
「照さんの等価交換っていう奴の話?そうだね、対外的に見ればそうかも。照さん風に言うなら俺の中で天秤は釣り合ってるんだよ」
「えー?だって、お金にしても情報にしても働きにしても、キミは利潤よりも道徳とか、正義感とかそういう曖昧なのを重視してるように見えるよ?」
「そう、それだよ。照さん、等価交換で天秤が水平に釣り合っているって照さんはどう判断してるの?」
「んー、まず物理的な価値があるならそれ優先、次に重要度、その次はって感じで段階踏むかなあ」
「でもそれは照さんの中の価値の天秤が釣り合っただけだよね?」
俺のその指摘に照さんは鼻をつままれたかのように呆気にとられたような顔をする。そう、この等価交換の取引の重要な点は一つ。その取引の中で自分の価値と相手の価値が同じでなければならないという事。ディニーは分かりやすい価値だけど、命を天秤にかけるとしていったいどれほど出すか、という話だ。その価値は人それぞれだろう。
「例えば命の話をすると、俺にとって俺の命はさほど価値はない。他人の方がよっぽど重い。逆に言うけど照さんの中じゃあ自分の命は最も重い価値があるんじゃないかな?」
「そうだね、その通り。照ちゃんの命は照ちゃんの中で一番重い価値があると思ってるよ。でもそれじゃあ余計にわからなくなっちゃう。なんでオーダー君はそう考えるようになったのかな」
「それはきっと、俺が周りに助けられて今を生きてこれたからってことじゃないかな。自分自身でもわかんないけどね。他人に助けられたから、他人を自分より大事にしよう。言葉にすればこれだけなんだ」
「そっか、照ちゃんはね。勝ち残ってきたの、自分が大事だから。他人を蹴落として、他人を食い物にしてひたすら自分の価値を高めてきた。逆なんだね、照ちゃんと君は」
目線の先ではいつの間にか演説が始まっていてブリンガーが耳心地のいい言葉を唾を飛ばす勢いで並べ立てていた。照さんは理解の外側のものを見るような目からそれとは別のものを見るような目になっていたけど。
俺にとって俺の命はさほど価値あるものじゃない、全くの事実だ。そりゃあ俺だってうまいもん食ったりとかそういう人並みの欲望はあるんだろさ。だけど結局の優先度はフォースの導きがトップに躍り出る。フォースの導きは絶対だ、それだけは疑っちゃあいけない。
例えそれが俺の死をもたらすものであろうと天秤は必ず世界に俺の死を帳消しにする福音をもたらすだろう。なら、それでいいじゃないか。この思考はフォースに一度壊されてからのものだ。まあつまり俺はもう変われないという事でもある。自分を大切にできなくなったのならせめて他人を大切にしようってだけの話さ。
景気よく演説を続けていたブリンガーだったけど、外から走ってきた治安局の車が演説台の近くに泊まる。ざわ、と周りのフォースが俺に危機を知らせている。この感じはあの無尾の蒼い炎……!やられたのか……!少し遠めに治安局のパトカーが止まり、見覚えのあるボンプが転がり出てきた。
『なんと!星見雅さんが私の演説の応援に駆けつけてくれるとは!!皆さん盛大な拍手を!』
「……あーあ、いっちゃった。もうちょっと話してたかったのになー」
『雅さんっ!あっ!?オーダー……!?』
「星見さん……斬れっ!!!」
ゆらり、と幽鬼のような足取りで護送車から降りてきた星見さん、その瞳は血のように赫く染まり剣気と殺気が渦巻いていた。俺はパーカーのフードを深くかぶり顔を隠しながらわざと星見さんの注意を引くようにフォースを開放した。いつの間にか抜いていた無尾を手に持った星見さんはそれに敏感に反応して俺に飛び掛かってくる。
背にしたデッドエンドホロウに向かって星見さんの斬撃の勢いを利用し飛び込んでいく。ビリビリとライトセーバー越しに伝わる衝撃が意識がもうろうとしていてもこの人は天才なのだということを如実に伝えてくる。飛び掛かってくる星見さんをジャルカイのフォームである二刀流で防ぎながら俺たちはホロウの内部へもぐりこんでいく。
「意図しないでリベンジマッチか……さて、戻ってくるまでどれだけかかるかな」
「…………」
「妖刀っていうだけあるね、お師匠様が呪物なんていうわけだ。星見さんを呑み込めるとは」
赫い瞳が俺を捉えて離さない。その瞳の中にあるのは憎しみと斬り伏せたいという欲望のみ。ノーモーションで跳んでくる斬撃の数々を弾き飛ばしながらお互いに接近する。この人相手に手加減の3文字は俺の死を意味する。死ぬなら死ぬにせよこの人の問題を解決してからだ。呪物ごときに命はやれないな。
お互いが踏み込みを加速させる。ひらめく剣閃はお互いをかすりすらせず斬撃の嵐となって周囲の物体を粉みじんにしていく。両手に握るライトセーバーを必死に振るう、もう6本を操る余裕は全くない、全力でフォースによる身体強化をしなければ追いつけない。零号ホロウの時より腕をあげたつもりだったけどこの人もそうなのだろう。惜しむらくはその腕を引き出しているのが呪物だってことだ。
出し惜しみは無しだと俺はフォース・ライトニングをセーバーにまとわせる。それとほとんど同時に無尾から噴出していた炎が刀身に固定された。息を吐き、切り結ぶ。エーテルとフォースがお互いを押し合い空間が耐えきれないかのように鳴動していくのを感じる。
『雅さんっ!オーダーっ!』
「店長さん、近づいてはいけません!まるでこれでは……天変地異です。雅と互角に渡り合える人間がほんとにいたなんて……!」
潜ってきたのか、イアスに入ったリンさんと知らない顔の治安官……!気にする対象が増えた、この人たちに被害が行かないように応戦しないと……!大丈夫だ、時間さえ稼げば星見さんは戻ってくる。この人がくだらない妖刀ごときに呑まれるわけがない。フォースに呑まれるのに比べたらちっぽけなもんさ。俺が保証する。
「治安官の人!さすがにあなた達の安全を担保する余裕はない!エーテリアスは自分で何とかしてくれ!代わりにこの人は俺が抑える!」
「わかりました!雅のことを頼みます!」
頼まれた、と返事をする余裕すらなく烈閃の踏み込みと地面ごと切り裂く斬撃を伴って星見さんが踏み込んでくる。応えつつも俺は何か今の彼女の斬撃にある程度の余力を持って受けられることに気づく。技の冴えが落ちているわけでもなく踏み込みの速度は変わらず、そして武器の差もない。只ないのはこの人の堅牢な意思のみ。
「やっぱりさぁ……!妖刀ごときが操るには上等すぎるんだよ。ええっ!?」
「かっ……!?」
両手で持った無尾による一閃を右手のセーバーで受け、左手のセーバーを捨てる。切り返して反対側から攻めようとする彼女の手をフォース・グリップで押さえた。瞬間、星見さんがつんのめるように動きを止める。やっぱり星見さんじゃないや、一回やった手にこんな簡単に引っかかるわけないからな。
振りかぶった左こぶしを思いっきり振りぬく。いつだか顔を蹴られた時のお返しだなんて意地の悪いことを言うつもりはない。吹き飛んだ彼女はコンテナに叩きつけられる。そこで、炎の噴出がとまる。顔を振ってあげた彼女の目は……いつもの紅玉にもどっていた。