フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
「……うっ……少、年……か……?」
「そうですよ、いい気つけになりましたか?」
「そうか……抗えず振り下ろした刀が全て弾かれたのは、お前だったんだな……」
我ながらいい一撃をかましてしまったと後になって思った。というか冷や汗ヤバい。思いっきりかましてしまったので星見さんの顔、腫れちゃってるよ。かぶりを振って正気を取り戻した星見さんが俺を見てふっと微笑んだ。ああ、やっぱりこの人は殺気と剣気に満ちたあの赫い瞳よりも少し天然気味なコッチの顔の方がよく似合う。
『雅さんっ!オーダー!無事!?』
「雅っ!」
「プロキシ、朱鳶……お前たちも……私は市民を傷つけたのか……?」
「いいえ、星見。貴方が現れた瞬間彼が注意を引いてホロウにもろとも飛び込んだの。彼は貴方を押さえ続けて……一撃を入れたのよ」
「そうか……よかった、よかった……本当に……」
自らの内側を食い荒らそうとするナニかに全霊をもって抗っていた星見さんは憔悴しきったように脱力してコンテナにもたれ掛かっていた。もう必要ないだろうとライトセーバーを仕舞った俺に対して安全を確認したらしく物陰から飛び出てきた治安官の人とリンさんが星見さんの近くに膝を立てて手当を始めた。
星見さんの目がふっと俺の方を向く、その口が言葉を発する前に俺は首を振った。出てくる言葉は感謝か謝罪か、そのどちらも必要ない。俺は単純に星見さんが星見さんでないものに乗っ取られるのが我慢できなかったし、そのうえで彼女の手を使って罪のない人を傷つけるところを視たくなかっただけに過ぎない。便利な言葉にすればフォースの導きだ、うん。
星見さんは自分の刀が市民を傷つけなかったことに心底安堵しつつも、俺が止めなければそうなってたかもしれないという事実に酷く怯えているように見える。この人はいつも毅然として凛とした面ばかりを俺に見せていたのでこの弱った姿を見てしまったのには少々罪悪感を覚えてしまう。それよりも、だ。
「ブリンガーはどうなってるんです?アレ、黒幕だってさっき情報を掴んだんだけど」
『リン、緊急事態だ!対ホロウ六課の皆が演説会場に到着した。だけど市民が大混乱で当のブリンガーは混乱に乗じて逃げようとしている!止めないと!』
「いか、ねば……くっ」
「その状態じゃ無理よ雅!せめて治療してエーテルを除去しないと!」
鞘を杖にしつつ立ち上がろうとした星見さんだったけど、流石に憔悴しきっているらしく膝から崩れ落ちて尻餅をついてしまった。この状態じゃ無理だ、いくらこの人でも戦えはしない。俺は再度立ち上がろうとする星見さんの肩に手を置いて彼女を座らせ、その手にライトセーバーを一つ握らせた。
「そのままじゃ無理です、とりあえず食い止めますんで治療受けてきてください。プロキシ、案内してくれる?」
『う、うん!いいの?オーダー、だってこの前……』
「少年、これはお前の……」
「この前?なんかあったっけ?星見さん、それはまあ約束みたいなもんです。俺が食い止めている間に復帰して返しに来てください。貴方ならそれができるはずです」
この前、というのはアキラさんの一件についてだろう。ぶっちゃけどうでもいい、俺の能力が気になるのは仕方がないしもし自分も使えるならリンさんや自分の浸食もどうにかできてホロウに潜れるかもっていう希望が見えたなら余計にだ。ただ、聞きたいならフェアでいてくれっていうのが俺の要望だ、まったく怒ってはいない。
星見さんは渡されたライトセーバーに視線を落として……鞘を握り締めていた手の力を緩めた。深く深呼吸をして目を閉じ、開く。その姿にさっきまでの焦燥も憔悴も消えていた。手渡したバトンを返してもらうまでは俺がブリンガーを止めよう、フォースへの誓いだ。これはたがえない。
「承知した。すぐにこの刃は返させてもらう。それまでは……頼む」
「雅は私がすぐ近くの医療施設に連れていきます!店長さん、オーダーさん……黒幕の方はお願いします」
「あー……全部終わったらタイホとかないよね?」
「……ふふっ、それはどうでしょうね?ですけど私には……貴方が悪い人には見えませんよ。悪い子、かもしれませんけど」
「そりゃどうも。プロキシ、掴まってくれ」
『うん!』
治安官の人に星見さんを任せてイアスに手を差し出す。中身のリンさんは差し出した手にしっかりと掴まってくれた。俺は警戒のため右手にセーバーを持ち左手でイアスを抱えてホロウの出口に向かって走る。かなり深部まで入っていってしまったものの雅さんの大暴れに巻き込まれてエーテリアスはほとんどいなくなっている、あっさりと脱出することができた。
「出れたね、リンさん。リンさん?」
「ンナ?ンナナ?」
「イアス?通信が途切れたのか?どっか壊れてないよな?」
「あーーっ!?お兄さんいたーーっ!!!ナギねぇ!お兄さんいたよ!」
「ご無事でしたか!?雅は!?一緒じゃないんですか?」
会場は、なんじゃこりゃ。という状態だった。治安官とH.A.N.Dの職員がもみくちゃになっているし車両は炎上していた。しかもイアスとリンさんのリンクは切れてしまっているし。どっか壊れてないかとイアスを隅々まで観察して振ってみたりもしたがどうやら問題はないらしい、接続できないだけか。
さかさまにしたイアスの抗議を受けていると大剣を振り回して職員をなぎ倒していた蒼角ちゃんが俺を見つけて大声をあげる。その声に気づいた月城さんが俺の方に寄ってくる。月城さんに簡単に事情を説明すると彼女は朱鳶というらしい治安官が一緒なら問題ないとほっと一息ついた。
「ブリンガーは?」
「……あなたと課長がホロウに飛び込んですぐ、上がブリンガーとヴィジョンの癒着の証拠を認めて逮捕状を発行したのです。彼はそれに感づいて部下に会場で騒ぎを起こさせて逃走しました。今どこに向かっているのか……」
「なるほど、しまったな……イアスとプロキシ達の接続切れちゃってるんですよ今、何処へ行ったんだ全く」
「いえ、既に手は打ってあります。治安官の一人に私への直通秘匿回線の番号と情報をもってビデオ屋に走ってもらっていますから、とりあえずは場の収束を」
「了解。敵味方の判断は?」
「決まっています。撃ってきたら敵です」
「わかりやすい!」
ブリンガー側とそうじゃない側が入り混じっている戦場を見てそういう月城さん。こういうタイプの人だとは思わなかったって言うか身内としても意外みたいで悠真さんなんかあんぐり口空けてるよ。そう言いつつ俺は向かってくる職員に次々マインドトリックを繰り出して気絶まで持っていく。
朱鳶さんが別ルートで抜けて医療施設に向かっていることを気絶した治安官の無線で確認した俺はスマホを取り出して連絡をかけた。さて、コネと人脈は使いようだ。と言っても俺のコネと人脈は偏ってることは否めないけど。
『ザインさん、ごきげんようですわ。連絡が来るのをお待ちしていました。さて、私たちはなにをすればいいのでしょう』
「さすが、情報が早いね。とある人を届けてほしいんだ。ただ、まだ届け先がわからなくてね。予約入れれる?」
『貴方の依頼でしたら最優先事項でしてよ。では……スロノス区の医療施設から虚狩りを一人、運んでいけばよろしいのですね?』
「よろしく、よくわかったね?」
『貴方が無事でしたもの。やられたのは虚狩りの方だとサラダ頭でもわかりますわ。シーザー!行きますわよ!』
電話口にワンコールもせずに出てくれたルーシーさんは事態の詳細を既にほとんど掴んでいるようだった。まぁ、こんなことがあればニュースの一つにでもなるか。ついにオーダーもメディアデビューだよ。あれ?なんかめちゃくちゃ覚えがあって馴染みのあるフォースが近づいてくるんですけど?思わずコールしようとした手を止めたら、数人の治安官が吹っ飛んで気絶した。あれ?何でここにいるんですか!?
「天が呼ぶ、地が呼ぶ!人が呼ぶ!可愛い弟弟子のあるところに姉弟子あり!助けに来ましたよ!」
「福姐さん!?適当観からだいぶ遠いのに!?たまたま!?」
「たまたまなワケないじゃないですか!最近のザインは無茶が過ぎるので何かやってないか定期的にお師匠様が占っているんですよ!それで!ここら辺に凶兆があると出たわけです!」
「お師匠様すっげ……でも福姐さんがいるなら100人力だね」
「それよりも!また無茶しましたね!?あれほど命は大切にしなさいといったのに!独りで虚狩りにまた挑むなんて私のお説教は届いていないんですかぁ!?」
なんじゃその占いは、フォースの未来予知もびっくりな精度だぞお師匠様。流星錘と化した虎威が炎を吐いて軌跡を描けば洗練されたその武威にブリンガー側の治安官は委縮して後ろにじりじりと下がっていく。バッ、ババッと残身をとって猛虎のごとく構えを見せているのは、雲嶽山のナンバーツーである俺の姉弟子だった。
ガルルルル、と普段聞けば可愛らしい福姐さんの威嚇の声もこの場で耳にすれば頼もしいことこの上ない。雲嶽山は一般の知名度は低いものの事治安関係、並びにホロウ関係者にとっては話は変わる、そこに関しては雲嶽山を知らない者はいない。たとえそれが地区が離れていようとだ。
怯んだ隙を見てこちら側の人員が完全になだれ込んで場を制圧してしまう。場の流れを変えたのは俺でも対ホロウ六課でもなく、福姐さんだ。いつもは可愛いと茶化されてしまう彼女もこと鉄火場においては雲嶽山トップの実力を持つ修験者。エーテリアスでもない人間を威圧することなんぞお茶の子さいさいってか。
「助かりました。貴方は、雲嶽山の?」
「はいっ!無茶する弟弟子の監視をするために降りてきました!成り行きですがお手伝いしますよ!」
「零号ホロウでもそうだったけど雲嶽山の実力は今でも僕ら関係者の中じゃ有名だよ。戦力はいくらあっても足りないし、月城さん。いいよね?」
「ええ、現場判断になりますが今は人手が欲しいです……連絡が来ました。はい、はい……埠頭?ポート・エルビスですか?わかりました」
漏れ聞こえてくる通話の声を聴くにどうやらブリンガーはポート・エルビス……港のホロウを経由して逃げるつもりらしい。だけど、聞いたことがある。ポート・エルビスのホロウは特殊でキャロットがあっても迷うことがあると。俺が居れば何とかなるかもしれんが万全を期すならパエトーンの協力がどうしても欲しい。
「どいたどいた~~。お届け物だぜぇ~~」
「パイパーさん!?早くない!?」
「そりゃぁよぅ~。いつだってお前からの依頼を最速でこなせるようにこいつも含めて準備してるってもんよぉ。さ、預かってたモンかえすぜぃ」
巨大トラック、アイアンタスクが渋滞中の車を威嚇しつつ俺たちの前でドリフトして止まる。荷台が開くとそこに入っていたカリュドーンの子のメンバー、シーザーさん、ライトさん、バーニスさんが飛び出して雅さんが運ばれていった医療施設にバイクを走らせていく。残ったルーシーさんが自分のバイクを吹かしながら俺のバイクを顎で指した。
「ちんたらお話合いしている時間はありませんわ!対ホロウ六課の皆様!お乗りなさいな!作戦会議なんて移動中に終わらせるんですわよ!」
「……協力感謝します!対ホロウ六課全員、ポート・エルビスにて協力者の到着を待ちます!急いで乗り込んでください!」
月城さんの号令で対ホロウ六課の面々はアイアンタスクの後部座席に乗り込んでいく。俺もカリュドーンの子が運んできてくれた自分のバイクを荷台から降ろしてエンジンをかけた。ガソリン満タンじゃん、しかもピッカピカに磨いてあるわ。福姐さん俺の後ろを指させば彼女は了解して俺の後ろに飛び乗り、手を腰に回してついでに尻尾も俺の腰に巻いた。うわふっかふか、今度触らせてもらえないか頼んでみよ。
「行くよ福姐さん!しっかり掴まっといて!でも爪は立てないでね!」
「はいっ!ザイン、福福は嬉しいですよ!」
「え!?何こんな時に!」
アイアンタスクが急発進してポート・エルビスに向かう。携帯式の赤色灯を窓から身を乗り出して屋根に張り付けていた月城さんが落ちそうになり慌てて蒼角ちゃんが車内に引き戻していた。郊外仕込みのドラテクが一般車を押しのけて速度制限ガン無視で突進するのに俺もアクセルを吹かしてバイクを急発進させる中、福姐さんがおかしなことを言った。
「だってザイン、こんなにたくさんお友達を作ってたんですから!姉弟子としてこんなにうれしいことはありませんとも!」
「友達……そっか。そうだよ、福姐さん!俺最近滅茶苦茶友達作ったんだよ!だから!助けたいんだよ!」
俺は福姐さんの指摘に大声でそう返すのだった。