フォースはいつでもエーテルと共に 作:光明面と暗黒面ってルビ無しで読めないよね
「お……おお……う……」
「………………」
人が、落ちている。落ちていると言うのは語弊があるか、正確には死にかけている。明らかに。ここ、ホロウの外だぞ。というか新エリー都の中だぞ。あまりのことに思考を放棄し掛けている俺だが目の前の人命は待ってはくれないので手に持っていたホットドッグを放り出して救命処置を始めた。
大丈夫ですか、という声掛けに目の前の倒れ伏す人は呻くばかり。意識混濁状態じゃねーかマジで何があった?とスマホを取り出して緊急通報をかけようとするとそのスマホがひょいっと取り上げられた。
「あれ?気づいてなかった?照ちゃんもしかして快挙?」
「気を張ってなかったですからねって救急車呼ぶんで返してもらえません?」
「必要ないよぉ。フィオニ―ちゃんは大丈夫だから。それよりも今ここで救急車呼ばれる方が照ちゃん困っちゃうな?」
「いやですから死んじゃいますって。心臓止まっちゃいますから」
「それでいいんだよぉ」
いや全くよくないが!?と要領を得ない濁した照さんの言い方にやきもきしつつ照さんが両手で上にあげたスマホを俺がさらに上から取り返そうとする構図になってしまった。流石に身長差がさぁ……つーかマジで死んじまうからやめてくれない?そう考えると本当に倒れている人の息が止まってしまった。俺も息が止まりそうになりながらスマホを取り返すのをあきらめて人工呼吸しようとした瞬間、その人が燃え上がった。
「……セルフ火葬とは気が早い人ですね」
「ぷっ……ふふっ……君そんなこと言う子だったのぉ?フィオニーちゃん?起きた?」
「ん、起きた。あれ?この人って確か……仲良くしたいって言ってた人じゃ……」
「そうそう!仲良しになりたいなーって人!ね、大丈夫だったでしょ?」
「大丈夫っていうより苦労してそうだなあって感想がきますね。エーテルが死なせてくれないわけですか」
「うわ、すごい。私のこれをみて何があったのか当てられる人見たのボスくらいなのに」
この人マジで一回死んでるぞ。心臓止まったときにエーテルが超活性して蘇生させてるんだ。いうなればこの人はエーテル版の俺だな。俺がフォースへの過剰な適性を持っているのだとするならばこの人はエーテルへの過剰な適性を持っている。俺は多分死んだらフォースと一体化するんだろうけどこの人はエーテルが死なせてくれないわけだ。で明らかにTOPSの所属、なんか猛烈に悪い予感がしてきたぞ。
「今回は何があったのフィオニーちゃん?」
「え、っと……たぶんバイクに跳ねられた。どっかいっちゃったけど」
「ひき逃げかよ……君大丈夫なのか?生きてるのは分かるけど痛いもんは痛いだろ」
「平気、もう慣れた」
「慣れちゃダメだんなもん」
俺はマジで心からの言葉をぼんやりしているおそらくタメかちょっと年上であろうフィオニーと呼ばれた少女にかけた。死んでも生き返るってのはセーフティーにするならそりゃあ祝福にも見えるいいもんかもしれないが、常用し始めるなら話が変わる。そりゃ只の拷問だろう?ぼんやりとした垂れ目をぱちくりとしたフィオニーさんはぴっと俺を指さすとポツリとつぶやいた。
「……いい人」
「良い人だよぉ。ちょ~~~っと照ちゃん的には偏ってるけどネ」
「いやこれでいい人扱いしたらダメでしょうよ。まぁとにかく無事なのはわかりましたってあぶなっ!?」
「……ぐへぇっ……やっぱりいい人」
「何で持ち上げただけで吐血してんの!?うわあああ肋骨が肺に突き刺さってる!?」
「だい、じょうぶ……さっきのにぃ……当たってたら、全身粉砕されてたから……」
プァーーーーッ!!!とけたたましいクラクションを鳴らしたトラックが俺たちがいる歩道に突っ込んできた。照さんは100避けられると確信した俺だけど目の前のフィオニーさんのあまりの虚弱さに咄嗟に横抱きに抱き上げてトラックを避けた……はいいんだけどなぜかフィオニーさんは吐血した。
なんで!?とフォースを使って彼女を見ると彼女の肋骨がぽっきり折れてしかもそれが肺に突き刺さっていた。もう四の五の言ってられないのでフォース・ヒーリングを使って肋骨を繋ぎ肺の穴をふさぐ。再生力が異常にあるからかあっという間に治ってしまった。ああ、TOPSの前では見せるつもりなかったのにな。というか、触られて骨が折れるとかどうなってんだ、歩いても骨折れるだろこの様子なら……。
「……あれ?苦しくない。治っちゃった?」
「治しました。絶対死ぬの前提で動いてるだろアンタ。やめろよマジで、俺も人のこと言えないけど流石にそこまで行ってないからな」
「ん、ありがとう。とてもいいひと。お名前教えて。私はフィオニー・レファエラ」
「ザインでいい。仕事で会うならオーダーだ。できれば呼び分けてくれ」
「自己紹介は終わったぁ?ちょうどいいからいろいろ聞きたいんだけどあの後どうなったのぉ?」
「大枠は知ってるんでしょ?ブリンガーは死んで、事件は被疑者死亡で流れちゃいましたよ。ただ、サクリファイスのことは公になりましたけど」
まあほんとにあったのは偶然だろうからマジで雑談程度に聞くつもりなんだろうなあ。俺は多分普通に椅子に置いたら背骨を折りそうなのでフォースをも利用し考えられる最も優しい方法でフィオニーさんをベンチに降ろした。ぽむぽむと手で自分の隣を叩く照さんの隣に腰を下ろす。
ブリンガーの件は思ったよりもあっさり終わった。なにせ、星見さんがぶった斬ってしまったしブリンガー本人も死ぬのを前提でエーテリアス化したからな。だから、讃頌会の詳しい事情は分からず仕舞い、彼が俺に発した器という単語もわけがわからないままだ。
ブリンガーが成ったエーテリアス化。あれのことはサクリファイスと名付けられた。通常のエーテリアス化とは違うアプローチでのエーテリアス化とでも言えばいいのだろうか。要は人の肉体を持ったまま進化するとかそんなイメージだろう。
で、俺とかパエトーンとかが逮捕されるかどうかって話は立ち消えた。二人に関しての事情は知らないが俺の場合はヴィクトリア家政とお師匠様を通じて何と市長閣下が後ろ盾として入ってくれたからだ。いわゆる超法規的措置という奴だろう。だけどこれで一応立場的には中立だった俺は市政側へ組み込まれることになった。だからまあ……。
「照ちゃんからの依頼があったら受けにくくなるってことぉ?」
「別に受けるなとは言われませんがね。ただ、ご主人様からの仕事が俺の予定に組み込まれるってだけです」
「ふーん、まぁ仕方ないかぁ。でもいつでも照ちゃんたちは歓迎だよぉ。キミ、黒枝の適正高いからねえ」
「あ、なんか降ってふやぁっ!?」
照さんは俺をTOPS陣営に引き抜くことが大体の目標だろうから俺が市政側に傾いたのはどうやらおもしろくはないみたいだ。今のところこの人からの依頼はないけど出したいと思っているのは事実だろうし。
ぽや~~っと俺と照さんの会話を聞いていたらしいフィオニーさんであったが何かに気づいたようでぽそりと上を見上げて言った途端に上から植木鉢が降ってきた、中身入りの。ぴたっとぎゅっと目を閉じたフィオニーさんの眼前で俺がフォースでそれを浮かして止める。絶対誰か狙ってただろと照さんに文句を言おうとそれを捨てて向き直ると照さんは電話をとっていた。
「えー、だって今フィオニーちゃんと一緒で……うん、うん。できるとは思うよぉ?ただぁ、時間はかかっちゃうけどねぇ……はーい、了解。フィオニーちゃん、照ちゃん別のお仕事入っちゃった。この後の任務一人で大丈夫?」
「うん、大丈夫、だよ。この書類を届けるだけ、だもんね」
「……まさかとは思うけどこの状態でおいていくつもり?」
「そだよぉ、というかそれしかできないかなあ。大丈夫だよ、フィオニーちゃんの実力は黒枝のナンバーツーなんだから」
そうなのぉ!?と俺は明らかに虚弱体質&不幸体質であろうフィオニーさんを振り返った。彼女は俺の視線を受けるとふふんっと胸を張って誇らしげになった。わ、わからん……!俺が抱き上げただけで骨が折れるのに戦えるのかこの人?まさかとは思うけど死に戻りゾンビ戦法とかじゃないよな?なんだろう、俺が知らないタイプの強さなのかな。でもなぁ……!
「無事にたどり着ける未来がみえねぇんですが」
「まあ、それはそうかも」
「む、大丈夫だもん。ちゃんとナビに沿って移動すれば」
そうかもしれないけどさぁ……途中で事故に遭って死にそうなんだよなあ。生き返るからって雑に死んでいいかって言ったらそれはそれで違うじゃん?というか事故に遭うよ、今未来をフォースで覗いたんだけどどの行動してもこの人怪我してるか死んでるか遭難してるかだもん。あと偶になぜかホロウで爆発してる。あかん、保護が必要な生き物にしか思えない。
「照さん、俺ついていってもいいです?無事にお返ししますので」
「え!?いいのぉ!?大助かりだよぉ!!この書類、重要度はあんまりないし機密でもないんだけど、ないと困っちゃうの!」
「半分言い出すの待ってましたよね?」
「気のせいだよぉ?じゃあ、よろしくね~~~」
つったかたーと照さんはそそくさとスキップでいなくなってしまった。残されたのはバッキバキに画面が割れたスマホをナビのモードにしているフィオニーさんと、彼女がスマホに気をとられているうちに手から滑り落ちた書類が空に舞ったのをフォースですべて回収した俺である。
「ん、次はこっち」
「はいはい」
「ンナ~~~」
フィオニーさんがあっち、と指さしたほうからすっ飛んできたボンプをキャッチする。このままだと胸にジャスミートでめり込んでいただろう。フィオニーさんってもしかして不運を自分から吸い寄せてるんじゃないか?
道中はひどいもんだった。まず最初にフィオニーさんのスマホの電池が切れた、ナビが使用不能になってしまったので近くのコンビニにバッテリーを買いに行ったのだがフィオニーさんはどこかで財布を落としてしまったらしく結局俺が買う羽目になってしまった。まあそれはいいんだけど。
充電したらスマホが爆発してフィオニーさんの手がえらいことになって慌ててフォース・ヒーリングで治した段階で思い知った。この人に自発的に何かをさせたらだめだということに。住所を教えてもらって俺の携帯でナビを始めたんだが、それでもなおトラブルが頻発した。
車が突っ込んでくること6回、建物の上から何かが降ってくること11回、フィオニーさんに向かって何かが飛んでくること数えきれず。フィオニーさんが何かに躓いてこけること、コレも数え切れず。極めつけには風にさらわれそうになってしまったりした。なんだこの人不幸の星の元に生まれてきてるのか?
「……すごい……!」
「なにが?」
「時間を守って取引場所につけたのと一回も再起動しないでナビが終わったの初めて……!ザインくん、ありがとう!」
「お、おう……」
目に星を浮かべそうな勢いで俺にお礼を言いつつも俺の手を両手で握ってぶんぶんと上下に振るフィオニーさんに気圧されながらもよかった胸をなでおろした。撫でおろした瞬間パキッという音がしてフィオニーさんの肘が外れた。ちょっ!?油断も隙も無い!と大慌てで彼女の骨をハメなおしてやる。どうやって生きてきたんだこの人……!
「よし、お仕事完了!あとは、安全に気を付けて、帰るだけ!」
「送っていこうか?」
「……いいの?キミと一緒にいると痛くないからお願いしたいな」
「このままだと俺の心臓と胃がもたないんで……!」
痛くないからというあまりにも切実な言葉に思わず涙ぐみそうになってしまう。やってきたビルの受付で無事に書類を提出したフィオニーさんはむん、と腰に手を当て胸を張り誇らしげにあとは帰るだけ宣言をした。遠足は帰るまでが遠足というようにお仕事も帰るまでがお仕事だ、当然俺のそれを含めて。
帰り際も俺はフォースの未来予知を全開で貼りつつフィオニーさんのポカをフォローするのだった。前にやった護衛任務よりも気を張っているかもしれないな今の俺。一瞬でこの人死んでしまうからな。星見さんだったらこれも修行だとか言うのだろうか。
何とか帰りの待ち合わせ場所へ彼女を案内することに成功した。あとは照さんらしい迎えを待つのみ。これでバトンタッチすれば終了だ。
「……あ、ザインくん。手だして。んしょ、これでいいかな……はい。私のノックノックのアドレス。困ったら連絡してね……これでも強いから」
「どうも、後で連絡するわ。フィオニーさんも怪我に気を付けて……再起動しないようにね」
「ん、任せて」
メモ用紙に書きなぐった連絡先を受け取る。ぐっとドヤ顔でサムズアップを俺に見せるフィオニーさんになんか苦労とかどうでもよくなるなという気持ちが芽生えてしまうのだった。もしかしてこれ父性って奴だったりしないか?
フィオニーちゃん激カワユス(遺言