悪魔ウォッチ   作:龍座

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特別編②

夏の陽光がキラキラと水面に反射し、波打ち際ではしゃぐ二人の影を鮮やかに映し出していた。

 

海水浴場から少し離れた、人目のつかない入り江。そこで景太とマーメイドは、弾けるような笑顔で追いかけっこに興じていた。

 

景「待って待って、速すぎるよマーメイド!」

マーメ「うふふ、捕まえた♪」

 

水面を滑るように泳いでいたマーメイドが、イルカのような鮮やかなジャンプを見せ、景太の背後からその肩を優しく叩く。彼女が動くたびに、鱗のように輝く雫が宝石のように宙を舞った。

 

景太は腰まで水に浸かり、必死に水を掻いて逃げようとするが、水の中では彼女の独壇場だ。マーメイドは時折、水面に潜っては景太の足元からひょっこりと顔を出し、いたずらっぽく笑う。

 

景「あはは! やっぱりマーメイドには敵わないや」

マーメ「約束、守ってくれたから……私、すごく嬉しいの。ケータくん、大好き!」

 

景太は照れくさそうに頭を掻きながら、彼女と一緒に大きな水飛沫を上げた。かつて「人を溺れさせる恐ろしい鬼女」と恐れられた彼女が、今はただの少女のように無邪気に笑っている。二人の上げる歓声は、夏の終わりの穏やかな潮騒に溶け込んでいった。

 

そんな睦まじい光景を、砂浜に立てられた巨大なパラソルの下から眺めている二つの影があった。

 

一人は、キンキンに冷えたジュースをストローで啜るピクシー。もう一人は、ビーチチェアに深く腰掛け、この暑さの中でも完璧なスーツを纏い、鹿の角を誇示する悪魔態のアラスターだ。

 

ピク「しっかし……あいつ、夏休みをこれでもかってくらい満喫してるわね。見てるこっちが暑苦しいわよ」

アラ「ですね。ですが、ケータくんのあの底抜けの善意が、彼女のような孤独な魂には一番の特効薬なのでしょう」

 

アラスターは優雅にティーカップのブラックコーヒーを傾けながら、ふと虚空を見つめて言った。

 

アラ「ちなみに……このお話、「読者が『ケータがマーメイドとの約束を忘れてるんじゃないか』と思ってるんじゃ」と不安に思った作者が、急遽ねじ込んだものらしいですよ」

ピク「なるほどね……。ファンサービスっていうか、不安すぎるというか、そういう変な所あるわよね、この作者」

 

「ホントね。メタ発言はそこまでにしなさいな」

 

ピクシーとアラスターが声のした方へ視線を向けると、そこには緑色の滑らかな肌を持つ不思議な馬が立っていた。しかし、その後脚部分は蹄ではなく、複雑に絡み合った水草の束のようになっている。

 

ピク「なんだ。妖精ケルピーか。あんた、いつからそこにいたのよ」

ケルピ「邪魔するわよ。あたしもさ、あの子…マーメイドがあんなに心から笑ってるのを見るのは、初めてかもしれないと思ってね」

 

ケルピーは水辺で景太に水をかけられて嬉しそうに悲鳴を上げているマーメイドを、どこか感慨深げに見つめた。

 

ケルピ「あの子、昔から真面目すぎたのよ。人を溺死させちゃう自分の性質を、変に気にしてさ。あたしに言わせれば、そんなの誘惑に負けて勝手に沈んでいく方が馬鹿の自業自得だってのに」

アラ「同意見です。死に様を選ぶ権利はあれど、結果に責任を持つのは本人ですからねぇ」

 

ケルピーは鼻を鳴らすと、口に咥えていた金属製の円盤、「悪魔メダル」を、アラスターの隣のテーブルにコトンと置いた。

 

ケルピ「あんたたちの噂は聞いてるよ。得体の知れないラジオの悪魔と、それに懐く奇妙なガキ。……あんたたちの庇護下に入れば、あたしにも何かとメリットがありそうだからね。それにまた「溺死シスターズ」やれそうだし。これ、契約料だよ」

 

「そんじゃ」とだけ残し、ケルピーは景太とマーメイドに気づかれないよう、音もなく波打ち際へと戻り、そのまま海の中へと消えていった。

 

ピク「はぁ……。こんな特別編くらい、増やさなくていいじゃないのよバカ作者。ってか二つやるんなら一つにまとめなさいよ」

 

ピクシーは面倒くさそうに溜息をつく。だが、アラスターは目を細め、楽しげに笑っていた。

 

アラ「いいじゃないですか。混沌の合間の、束の間の休息……これもまた、素晴らしい余興ですよ」

 

そんな大人(?)たちの冷めた会話など、波の音にかき消されて届かない。

 

景太とマーメイドの二人は、ただひたすらに、宝石のような夏の時間を分かち合っていた。




きょうの悪魔大事典

アラ「ケータくん。今日の悪魔は?」

景「「妖精ケルピー」!」

ケルピ「あたし達「溺死シスターズ」!!」

ケルピーはマーメイドの隣に立ちそういった。

アラ「スコットランドの民話に語られる水辺の妖精。馬に似た姿をしており、誘いに乗った者を溺死させる恐ろしい面を持つ一方で、もし従わせることができれば最高の駿馬として忠実に働くそうです」

景「ちゃんと気にかけてくれる友達がいてよかったね」
マーメ「うん。でも、「溺死シスターズ」はちょっと…」
ケルピ「良いじゃない。そのままてっぺん取りましょうよ!」

ピク「お笑い目指してるような言い方ね」
アラ「案外いけるかもしれませんよ」
マーメ「そんな他人事みたいに言わないでよ!」

景「ハハハ…」

この光景に景太は苦笑いするしかなかった…。
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