さくら中央シティ。高層ビルが立ち並ぶ都会的な景色のすぐそばに広がる海岸は、潮風の香りと波音に包まれていた。夕闇が迫り、水平線が橙色から紫へと溶け始めていく。
景太たちは砂に足を取られながらも浜辺を捜索していた。四神の三体目がこの付近にいるというアラスターの言葉を頼りに、悪魔ウォッチの反応を追い続ける。
突如、ウォッチの赤い針が振り切れた。
景「……っ、来る!」
景太が叫び、ウォッチのレンズを構えたその瞬間だった。波打ち際から数十メートル先の空間が激しく歪み、太陽の欠片を凝縮したかのような巨大な火の玉が爆発的に現れた。
海水を蒸発させ、猛烈な熱波を撒き散らしながらその火球が弾け飛ぶ。炎のヴェールの中から姿を現したのは、燃えるような紅蓮の羽を持ち、ダチョウのしなやかさと孔雀の優雅さを併せ持った、神々しくも巨大な鳥だった。
スザク「ワシは『霊鳥スザク』ぢゃ」
放たれたのは、女性を思わせるたおやかで、五色の響きを持つ美しい鈴の音のような声だった。その存在感に、景太は思わず息を呑む。
アラ「おやおや、素晴らしい! 南、夏、そして『火』を司る四神の一体ですねぇ。この夕暮れの海にこれほど映える悪魔もそうはいませんよ」
景「……綺麗……」
圧倒的な美しさに景太が呟くと、スザクはその長い首をゆっくりと傾け、慈しむような眼差しを向けた。
スザク「そなた等のことは耳にしておる。これまでの経緯も、その覚悟もな。良いぢゃろう。ワシもその未来を見る者として『友達』となりそなた等に付いていこう」
景「本当!? ありがとう、スザク!」
景太の顔にパッと明るい笑みが浮かぶ。ゲンブ、ビャッコとの戦いを経て、ようやく三体目との和解が成立した。そう安堵したのも束の間、スザクの瞳が鋭く細められた。
スザク「……しかし、その前にやらなければならないことが起きたようぢゃ。天からの『不速の客』ぞ」
その時ー!
ドーン!
景「うわぁぁぁッ!!」
上空から、二つの白い影が叩きつけられるように砂浜へ墜落した。景太はすぐさま駆け寄る。そこにいたのは、景太の友達である「天使エンジェル」と「天使アークエンジェル」だった。しかし、その白い翼は無残に折れ、全身がボロボロに傷ついている。
景「大丈夫!? 何があったんの!」
アクエン「済まない……止められなかった……! 奴らが、地上を浄化しに来る……!!」
アークエンジェルが震える手で空を指差す。その直後、夕闇の空を切り裂いて、圧倒的な数の「天使エンジェル」と数体の「天使アークエンジェル」が雲を割って出現した。それは救済の光ではなく、容赦のない処刑の光を帯びていた。
そして、その軍勢の中央に、一際禍々しい気迫を纏った存在が滞空していた。
紅い鎧を身に纏い、手には不気味なタコの紋章が入った盾と、血のように赤い長槍を握った天使。
パワー「私は『天使パワー』。悪魔を率いし邪悪なる者を、法の元に排除しに来た」
その冷徹な声が海岸に響き渡る。アラスターはそれを見上げ、口角を吊り上げながら不敵な笑みを浮かべた。
アラ「ニャハハハ! 『天使パワー』……。第六位、『能天使』に数えられる中級天使ですか。悪魔の侵入を防ぎ、秩序を保つ天の警備員といったところでしょうが……随分と物騒な獲物を持ち出しましたねぇ」
景「……天使が相手でも、引くわけにはいかない。友達を傷つけた奴らを放っておけな。いくぞアラスター!」
景太の瞳に決意の炎が宿る。それを見たアラスターは、自身のステッキを軽く回し、黒いノイズを周囲に撒き散らした。
アラ「話が早くて助かります! 今回は特別ですよケータくん。私も少々、その生意気な『光』をラジオの雑音でかき消したくなりました。助太刀しましょう!」
景「ピクシー、悪いけど傷ついた二人の治療を任せてもいいかな?」
ピク「合点承知! あんたたちは、あのお堅い天使の鼻を明かしてきなさい!」
ピクシーが回復魔法の準備に入るのと同時に、景太は悪魔ウォッチを力強く構えた。背後にはスザクの紅蓮の翼、隣にはラジオデーモンの禍々しい影。
さくら中央シティの海辺は、天軍と悪魔、そして一人の少年が交錯する激戦の舞台へと変貌した。
白銀の閃光が、夕闇を真っ白な絶望で塗りつぶしていく。槍の先から放たれた『白龍撃』は、大気を震わせ、海岸の砂をガラス状に焼きながら景太とスザクへと迫った。
その凄まじい神威を前に、スザクは己の羽を極限まで逆立たせる。
海岸は一瞬にして天界の戦場へと変貌した。
潮風が止み、代わりに立ち込めたのは、あまりに清浄すぎて吐き気を催すような「神の威光」。
スザク「乗るがよい!振り落とされるでないぞ!」
景「有難う。行くよスザク!」
景太の声に応えスザクが巨大な紅蓮の翼を羽ばたかせた。熱波が砂浜を焦がし、景太を背に乗せたまま霊鳥が天高く舞い上がる。その隣を、燕尾服の裾を翻しながら、重力など存在しないかのようにアラスターが浮遊していた。
景「あれ、アラスターって、空も飛べたの!?」
アラ「サプライズですよ、ケータくん! 私の放送は電波……どこまでだって届くのですよ、ニャハハハ!」
アラスターが笑い声を上げると同時に、上空を埋め尽くした天使エンジェルたちが一斉にその錫杖を掲げた。
天エン「「「不浄なる者に、裁きの光を!!」」」
空を埋め尽くす無数の光の魔法――「ハマ」。
白銀の光柱が雨のように景太たちへ降り注ぐ。一撃でも掠めれば魂を浄化されかねない、致命的な光の奔流。しかし、アラスターは不敵に笑い、指をパチンと鳴らした。
アラ「雑音が混じっていますね。消去しましょう」
アラスターの背後の影から、ドロリとした漆黒の触手と、異形の使い魔たちが一斉に這い出した。それらは降り注ぐハマの光柱を空中で鷲掴みにし、まるでもろい硝子細工のように粉々に砕き散らしていく。暗黒の魔力が聖なる光を食らい、かき消したのだ。
景「すごい……。なら、こっちも攻勢に出るよ! みんな、お願い!!」
景太が悪魔ウォッチに次々とメダルをセットする。
召喚されたのは、妖鬼ダイモーンと、凶鳥オンモラキ。そして、アラスターが「彼女は役に立ちますよ」と指示した、美しき悪魔――夜魔サキュバスだ。
サキュ「あら、お呼びかしら? こんなにたくさんの堅物さんたちが相手なんて、腕が鳴るわね♥」
サキュバスが空中で艶かしく身を翻すと、その指先からピンク色の妖艶な霧が撒き散らされた。
サキュ「坊やたち、ちょっと休憩しましょう? 『セクシーダンス』!!」
空中で統制の取れた陣形を組んでいた天使エンジェルと天使アークエンジェルたちの動きが、ピタリと止まった。霧を吸い込んだ彼らの瞳がハート型に染まり、手にしていた槍や錫杖が力なく砂浜へと落下していく。
景「サキュバス、凄い!」
サキュ「うふふ、あたしも結構やるでしょ?♥ さあ、今のうちにやっちゃいなさい!」
魅了され、無防備になった天使の軍勢。そこへオンモラキの火炎とダイモーンの槍が容赦なく叩き込まれる。スザクの放つ紅蓮の旋風が、次々と天使たちの翼を焼き払い、空から白い羽が雪のように降り注いだ。
天使たちの回復魔法も追いつかない圧倒的な蹂躙。だが、その光景を背後で守られながら見ていた景太の友達たちが、苦しげに声を上げた。
天エン(友)「……っ、安心するにはまだ早いぞ、ケータ!」
アクエン(友)「そうだ……パワー様の力は、そんなものではない。中級天使の『力』は、下級の軍勢とは次元が違うんだ!」
その警告と同時に、最前線で優雅に指揮を執っていた紅い鎧の天使パワーが、静かにその紅い槍を持ち上げた。
パワー「……下俗な術に惑わされるとは。やはり地上の浄化は急務だな」
パワーが発した言葉はそれだけで物理的な圧力となって大気を震わせた。
魅了されていた天使たちが一瞬で正気を取り戻し、パワーの背後から噴き出した圧倒的な神威に、サキュバスさえも顔を引きつらせて後退した。
戦場は、一瞬にして冷え切った殺気に支配される。
スザクの背に乗り、上空から惨状を見下ろすケータは、これ以上の無意味な争いを止めるべく、紅い鎧の天使に向かって叫んだ。
景「これ以上は下手に部下を失うだけだ。おとなしく引いてくれ!」
だが、天使パワーは眉一つ動かさない。タコの紋章が刻まれた無骨な盾を構え、紅い槍の穂先を冷酷にケータへと向けた。
パワー「ラジオデーモン、ましてや下賤な悪魔の力に魅入られし者の言葉など、聞く道理も無い」
その声には、一切の慈悲も、対話の余地もなかった。
ケータは必死に食い下がる。なんとか彼らの「人間らしさ」に訴えかけようと、咄嗟に口をついて出たのは、この緊迫した戦場にはあまりに不釣り合いな言葉だった。
景「お前だって……同じような存在だろ!? コンビニの新作スイーツが食べたいとか、そういうこと思わないのかよ!?」
沈黙が流れる。
パワーは、背後で傷つき、ピクシーに介抱されている天使エンジェル(友)と天使アークエンジェル(友)を、ゴミを見るような冷徹な眼差しで見下ろした。
パワー「……そのような甘ったるい物に誘惑される、軟弱な裏切り者と私を比べるな。天の法を執行する者に、私情や欲などという不純物は存在せぬ」
その拒絶の言葉を聞いた瞬間、隣で宙に浮いていたアラスターが、何かに気づいたように「おや……?」と呟いた。そのVUメーターの瞳が不規則に明滅し、スタティック・ノイズが激しく周囲に撒き散らされる。
アラ「……失礼ケータくん。私はこの場で引き下がらせてもらいますよ」
突然の宣言に、ケータが振り返る間もなかった。アラスターは優雅にハットの縁に手を触れ、放送終了を告げるアナウンサーのような軽やかさで告げた。
アラ「今回の放送は、一先ず中断です。」
アラスターをどろりとした黒い影が急激にせり上がり、一瞬にして彼の全身を包み込み、ラジオの混信音を最後に、その存在を空間から完全に消し去ってしまった。
砂浜に残されたのは、困惑を置き去りにした静寂。
それを見届けていたパワーが、嘲笑うように鼻を鳴らした。
パワー「悪魔に魅入られし者よ。あれがラジオデーモン。結局のところ、貴様などただの捨て駒に過ぎぬということだ。……幕を引いてやろう」
パワーが紅い槍を天に掲げる。
その穂先に、この世の物とは思えないほど純白で、刺すような鋭い輝きが凝縮されていく。
パワー「『白竜撃(ハクリュウゲキ)』」
槍から放たれたのは、一筋の閃光ではなかった。
それは意思を持つかのようにうねる、巨大な光の龍。
大気を焼き、砂浜をガラス状に変えながら、その光龍はスザクの背に跨るケータを飲み込もうと、天を翔け抜けた。
白い咆哮が、海岸の全てを塗りつぶしていく。
スザク「……童よ、こればかりは防げぬ! ワシの命を削り、劫火を以て相殺してくれよう!」
スザクの全身から、命の灯火そのもののような、あまりに鮮烈な紅い炎が噴き出し始めた。だが、その瞬間。景太はスザクの背を強く叩き、まっすぐ前を見据えて叫んだ。
景「だめだ、スザク! 命を削るなんて絶対にさせない!」
景太の瞳には、絶望の色など微塵もなかった。
次の瞬間、怒号のような光の龍が二人を完全に飲み込んだ。轟音が響き渡り、視界の全てが白一色に染まる。
パワー「地上の塵に還るがいい」
パワーが冷酷に呟き、光がゆっくりと霧散していく。しかし、そこにあったのは、消滅どころか傷一つ負っていない景太とスザクの姿だった。
二人の前には、両手を広げて盾となった天エン(友)とアクエン(友)が立っていた。
パワー「……何だと? 裏切り者めが、我が法を遮ったというのか」
アクエン(友)「無駄ですよ、パワー様。我ら天使は光の源流に連なる者。どれほど強力な光魔法であろうと、同質の力では我らの翼を折ることは叶わない……!」
天エン(友)「ケータを傷つけさせはしない。例え、貴方であってもだ!」
景「エンジェル、アークエンジェル……ありがとう!」
景太は二人の背に感謝を告げると、毅然とした態度でパワーを見据えた。
景「パワー、お前はさっき彼らを裏切り者って言ったけど、それは違う。二人は、自分の信じるものを守ろうとしているだけだ。……それに、アラスターはこんな所で逃げるような奴じゃない!」
パワー「何故そう言い切れる。あの悪魔は、危機を感じて真っ先に姿を消したではないか」
景「……信じてるから。あいつは最悪な悪魔だけど、それ以上に『面白い展開』を逃すような奴じゃないんだ!」
景太のその真っ直ぐな瞳の輝きに、パワーと、周囲を取り囲んでいた天使たちの動きが、一瞬だけ止まった。論理も法も超えた、純粋すぎる「信頼」という熱に、冷徹な天使たちの心が気圧されたのだ。
その時、静寂を切り裂いて、軽快なジャズの音色とスタティック・ノイズが響き渡った。
アラ「――お待たせしましたぁ!! 臨時ニュースの時間ですよ!」
影の中から颯爽と現れたアラスターは、相変わらずの不敵な笑みを浮かべていた。だが、その右腕には、何やら奇妙な、腕の長い小さなお婆さんを掴んでいた。
景「アラスター! 待ってたよ!」
アラ「ニャハハ! 準備に少し手間取りましたが、最高のゲストを連れてきました。……さあ、行ってください、スザク!」
景「よし、みんな! 邪魔をさせないように天使たちの軍勢を引き止めるんだ!」
景太の指示で、スザク、サキュバス、ダイモーン、オンモラキ、そして天使(友)たちがパワーの周囲の軍勢を一斉に足止めする。
乱戦の中、アラスターは不敵に笑い、小脇の老婆―
妖怪『バクロ婆』をパワーめがけて勢いよく投げ飛ばした!
アラ「私が用意したのは、妖怪『バクロ婆』。彼女に取り憑かれたら最後、どんなに話したくない秘密でも、心の中の真実をすべて暴露してしまう。今の貴方にはピッタリの舞台装置でしょう? パワー!」
パワー「な、何だ、この下俗な生き物は……!? 離れろッ、私の首に巻き付く……なッ!?」
空中を舞ったバクロ婆が、パワーの首にその長い腕をガッシリと絡みつかせた。パワーの顔が苦痛ではなく、別の何かを必死に堪えるように歪み始める。
景太はチャンスを逃さず、波打ち際まで身を乗り出して叫んだ!
景「パワー! お前が本当は食べたいものは何だ!? お前の中の『人間らしさ』を吐き出せ!!」
パワー「くっ……バカな……! 私の中にそのような……私は天の法を……コンビニスイーツなどという軟弱な……あああっ、口が、口が勝手に!!」
パワーの額に青筋が浮かび、神聖な魔力とバクロ婆の妖気が激しく火花を散らす。だが、バクロ婆の暴露の力は、天使のプライドさえも容易に打ち砕いた。
パワー「私は……コンビニスイーツよりも……!!」
一瞬の静寂の後、海岸全体に、これまでのどんな咆哮よりも凄まじい叫びが木霊した。
パワー「駄菓子派だぁぁぁーーー!!!!!」
……その瞬間、戦場にいた全ての者がフリーズした。
パワー「……っ!?」
パワー自身が、一番驚いたような顔で自分の口を押さえている。だが、一度溢れ出した言葉は止まらない。
パワー「コンビニの気取ったムースなどよりも、あのカリカリとした梅や、粉末を水で溶かす怪しいソーダ、そして当たり付きのチョコ……! あれこそが至高! 私はあの安っぽい箱庭のような幸福を愛しているのだぁぁぁ!!」
赤黒い夕空の下、能天使パワーの赤裸々な「駄菓子愛」が、空虚に響き渡っていた。
自身の「駄菓子愛」を全校放送並みの声量で暴露してしまった天使パワーは、顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め、紅い槍を震わせている。
パワー「……っ、ハァ、ハァ……! だが、そんなもの、この戦いに何の役に立つというのだ!! 恥をかかせたところで、私の法の裁きは変わらぬぞ!!」
逆ギレに近い咆哮を上げるパワーに対し、景太はスザクの背からパワーにこう言った。その瞳に迷いはない。
景「天使パワー! これ以上戦えばお前の部下は減るだけだ! 傷つくのは、オレの友達も、お前の部下も同じだろ。
だから……俺たちと『我慢対決』で勝負だ!」
パワー「……我慢対決だと?」
景太は腰に手を当て、不敵に言い放った。
景「勝負の内容は簡単。今からオレたちが、ここで大量の駄菓子を食べる。パワー、お前はそれを見て、最後まで食べずに我慢できればお前の勝ちだ。もし我慢できずに一口でも食べてしまったら、オレたちの勝ち。どうだ?」
パワー「ふん、馬鹿馬鹿しい。そのような茶番に、私が付き合うとでも――」
景「もしオレが負けたら……オレはこの『悪魔ウォッチ』を、潔く手放してやる!」
その言葉に、背後で控えていた仲間たちが一斉にどよめいた。
サキュ「ちょっと、景太! 本気なの!? そんな大事なものを賭けるなんて!」
ダイモーン「景太……正気だべか!?そのウォッチがなければもうオラたちを……!」
だが、景太のまっすぐな背中を見た天使エンジェル(友)と天使アークエンジェル(友)は、静かに頷いた。
アクエン「……いや、景太の瞳を見ろ。彼は本気だ。我らも、彼の覚悟を信じよう」
ピク「とことん乗ってやりますよ」
景「……アラスター、ピクシー、オンモラキ、ダイモーン、サキュバス、それからエンジェル、アークエンジェル。みんな、オレを信じて。
……さあ、どうするパワー!天使は試練を乗り越えて成長するんだろ? それとも、ただの食欲に負けるのが怖いのか?」
「負けるのが怖いのか」という挑発は、プライドの高いパワーにとって、槍で突かれるよりも鋭い一撃だった。パワーの背後に控える天使エンジェルたちは、「行けませんパワー様!」「奴の策です!」と必死に制止するが、一度火がついた能天使の自尊心は止まらない。
パワー「……よかろう! その勝負、受けて立つ! 天の法を執行するこの私が、駄菓子ごときの誘惑に屈するなど、万に一つもありえぬわ!!」
アラ「ニャハハハ! 決定ですね! では、最高のステージを用意しましょう!」
アラスターがステッキを振ると、砂浜に豪華な……といっても、どこかチープで懐かしい雰囲気の木製テーブルが出現した。そしてその上には、アラスターがどこからか調達してきた(あるいは魔力で複製した)大量の駄菓子が山積みにされた。
ソースの香ばしい匂いが漂うキャベツ太郎、甘い香りのチョコバット、そしてパチパチと弾けるキャンディ……。
景「よし……みんな、準備はいい? 『我慢対決』開始だ!」
景太は山盛りのうまい棒を一本手に取り、わざとらしくパワーの目の前で袋を「パンッ!」と景気よく鳴らして破った。
パワー「……っ!?」
パワーの喉が、微かに、だが確実に動いた。
さくら中央シティの海辺で、世界の命運(と悪魔ウォッチ)を賭けた、史上最もシュールで過酷な「聖戦」の幕が上がった。
ーーー
砂浜には、世界を滅ぼす最終決戦とは思えない、どこか間の抜けた、けれど温かい空気が漂っていた。アラスターが用意したテーブルを囲み、景太たちは袋菓子を次々と開けていく。
サキュ「最初は驚いたけど……今思えば、こういう無茶苦茶なやり方が貴方なのね」
ダイ「オラも肝が冷えたッペよ……。ウォッチを捨てるなんて、もし負けたらどうするつもりだったんだっぺ?」
景「ゴメン……二人も、みんなも付き合わせちゃって。でも、他に方法が思いつかなくてさ」
サキュバス「別に良いわよ。これ以上、誰も傷つかないで済むなら、安い賭けだわ。……でも、本当にそれだけ?」
景太は、うまい棒の袋を手に取ったまま、少しだけ真剣な表情になって仲間たちを見渡した。
景「……それだけじゃないよ。
俺がウォッチを賭けたのは、ここにいるみんながオレの自慢の友達だって、誰よりも信じてるから。友達を信じぬく覚悟もないのに、あいつらの命を背負うなんてできないだろ? それに……俺は、どんなに強情な相手だって、一緒に笑って何かを食べれば、切っ掛けになると思ってるんだ」
その言葉に、サキュバスもダイモーンも、そして傍らで聞いていた天使エンジェル(友)たちも、もう何も言わなかった。景太の瞳に宿る、純粋で、けれど何よりも強固な「信頼」の光。それが自分たちに向けられていることが、胸が熱くなるほど嬉しかったからだ。
アラスターはその様子を、影の中から無機質な笑みを浮かべて見守っていた。
景太たちは、ピクシーが手当てをした天使(友)たちも交えて、楽しそうに駄菓子パーティーを始めた。潮風に乗ってソースやチョコレートの香りが広がる。
一方、能天使パワーは槍を握りしめ、眉一つ動かさずにその光景を凝視していた。配下の天使軍勢も、主人の忍耐強さに固唾を飲んでいる。
パワー(……ふん、下俗な。あのような安っぽい菓子に、この私が屈するとでも。我ら能天使は、数千年の瞑想にも耐えうる精神の持ち主。あのような茶番、風が吹くのと同じよ……!)
だが、静寂の中に小さな「転機」が訪れる。
景「よし、次はこれだ! うまい棒の『格好良い開け方』、挑戦してみるよ!」
景太はうまい棒を右手に持ち、気合を入れて自分の太ももに勢いよく打ち付けた。成功すれば、空気圧で袋がきれいに弾け、中身が飛び出すはずの裏技。
―グシャッ。
景「あ、失敗した。中で粉々になっちゃった」
パワー「…………」ピクッ
パワーの眉が、わずかにピクリと跳ねた。
ダイモーン「次はオラがやるっぺ! せいっ!!」
―バキッ。
ダイモーン「あ、袋が破けないで、中身だけ三等分になったっぺ……」
その後も景太や悪魔たちが次々と挑戦するが、ことごとく失敗が続く。袋は無惨にひしゃげ、中身はボロボロ。それを見た悪魔たちは「まあ、食べやすくなるからいいか!」と、砕けたうまい棒をポロポロと口に運び始めた。
パワー(……違う。……そんな……そんな開け方があるかッ! 空気の溜め方が甘い! 角度が鈍い! 打ち付ける瞬間のスナップが全く効いていないではないか!!)
パワーの脳裏に、かつて人知れず地上を視察した際、駄菓子屋の裏で子供たちが編み出した「至高の開け方」を完コピするために費やした、血の滲むような特訓の記憶が蘇る。
景「うーん、やっぱり難しいなぁ。誰か上手な人いないかな?」
その無垢な一言が、完璧主義者であるパワーの精神を、最後の一線でぶち切った。
パワー「バカ者ッ!! お前たちは何もなっちゃいない!! 退け、素人どもが!!」
激昂したパワーは、雷鳴のような速さで景太の手から新しい「めんたい味」のうまい棒をひったくった。
天使軍勢「「「パ、パワー様ぁーーー!?!?!?」」」
パワーは流麗なフォームで足を振り上げると、計算され尽くした角度と速度で、うまい棒を太ももに一閃!
―パァンッ!!
乾いた快音と共に袋が見事に弾け、中身が一本、傷一つなく王者の如く姿を現した。完璧な、あまりに完璧な職人技。景太たちは思わず立ち上がり、惜しみない拍手を送る。
景「凄い!! パワー、天才だよ!!」
パワー「ふん……当然だ。これでも……これでも天界の書庫で、何百回もイメージトレーニングと実戦練習を重ねてきたのだからな……っ!」
極限の集中力から解き放たれた開放感。そして、目の前にあるのは、自分の手で完璧に「調理」した、最高の状態の駄菓子。
パワーは、無意識のうちにそれを、ガブリと一口頬張った。
サクッ……。
めんたい味の濃厚なパウダーが、能天使の舌の上で爆発する。
景「あ、食べた」
パワー「………………ッ!?!?!? しまったぁぁぁぁーーーー!!!!」
その場に膝をつく紅い鎧の天使。背後では、配下の天使たちが「パワー様が負けた……」「駄菓子に……堕ちた……」と絶望の声を上げている。
景「俺たちの勝ちだね、パワー!」
景太はニカッと笑い、負けて項垂れるパワーに、新しい袋菓子を差し出した。
景「約束通り、もう戦いは無しだよ。……ほら、それ。当たり付きのチョコ。一緒に食べよう!」
夕暮れの海辺に、能天使の敗北の叫びと、勝利した子供たちの笑い声が、波音に混じってどこまでも響いていった。
ーーー
夕闇が完全に夜の帳へと溶け込み、波打ち際には無数の焚き火のような光が点在していた。それは激闘を終えた天使と悪魔たちが、敵味方の垣根を越えて車座になり、山積みの駄菓子を分け合う奇妙な宴の明かりだった。
パワー「……すまんな。部下の分まで用意させてしまって。……む、この梅ジャムの酸味、疲れた体に染み渡る。美味い」
紅い鎧を脱ぎ捨て、白いアンダーウェア姿になったパワーは、先ほどまでの冷徹さが嘘のように、丁寧な手つきで当たり付きのチョコを剥いていた。その周囲では、景太の仲間である天使エンジェル(友)たちが、かつての同僚たちに「こっちの揚げせんべいもイケるぞ」と勧める、平和すぎる光景が広がっている。
景太は砂浜に座り込み、うまい棒を齧りながら、ずっと胸に溜まっていた疑問を口にした。
景「……ねえ、パワー。アークエンジェルとエンジェルの時もそうだったけど、なんでそんなに必死になって、オレたちを狙っの? オレ、そんなに悪いことしたつもりはないんだけど」
景太の素朴な問いに、パワーは手にしていた駄菓子を止め、遠く水平線を見つめて重々しく口を開いた。
パワー「……その世界に、悪魔が増えすぎたからだ」
景「悪魔が……増えた?」
パワー「本来、我ら天使と対成す悪魔という存在は、魔界という異相に住み着くべき者たち。だがしかし、今この瞬間にも、この人間界に現れる悪魔の数は増え続けている。……通常、悪魔が現世に留まるには『マグネタイト』と呼ばれる生体エネルギーが必要不可欠なのだ」
パワーは、隣で優雅にブラックコーヒーを啜っているアラスターを、鋭い眼差しで射抜いた。
パワー「ピクシーやケットシーといった下級悪魔ならば、少量のマグネタイトで済む。だが、高位の悪魔が現世に留まるには、この世界の空気が『薄すぎる』のだ。本来ならすぐに霧散するか、魔界へ強制送還されるはず。……だが、今、このさくらニュータウンのマグネタイトの瘴気は、異常なほどに濃くなっている。……それも、人為的にな」
景「え……? 人為的って、誰がそんなこと……」
パワーは居住まいを正し、景太に指を突きつけた。
パワー「そこのラジオデーモンとそなただ」
景「お、俺?」
パワー「そなたが、おおもり山の神社の奥にある、あの古びた神木にやって来た時のことだ。……あの日、そなたがガシャを回し、出てきたカプセルを開けてアラスターが出てきた瞬間……濃いマグネタイトにも等しい強大な魔力が、爆風のようにさくらニュータウン全域にまで広がったのだ」
景「アラスターが出てきた時に……?」
景太は、あの夏の日の出会いを思い出した。確かにあの日から、自分の周りの「日常」は一変した。
パワー「アラスター……このラジオデーモン一人の存在だけで、この街の霊的な地磁気が書き換えられてしまった。それだけ、此奴が凄まじい存在であるという証拠だ。
さらに追い打ちをかけるように、魔王キングフロストといった連中が雪を降らせて遊びに来ただろう? あの時に撒き散らされたマグネタイトを含む雪によって、瘴気はさらに濃く、広く固定され……悪魔が住み着くための『地盤』が出来上がってしまったのだ」
パワーの声には、単なる敵意ではない、世界のバランスを管理する者としての悲痛な覚悟が混じっていた。
パワー「本来、交わるはずのない二つの世界が、此奴という杭によって繋ぎ止められてしまった。だからこそ、我ら天の軍勢は、世界の秩序を保つために元凶であるそなた等に近づき、排除しようとしたのだ。……悪魔の街へと変貌しつつあるこの場所を、手遅れになる前に『浄化』するために」
アラスターは、その説明を肯定も否定もせず、ただVUメーターの瞳を細めて「ニャハハ……」と不敵に笑うだけだった。
景「……アラスター一人だけで、街全体のバランスが変わっちゃうなんて……」
景太は改めて、自分の左腕にある悪魔ウォッチと、隣にいる「最悪の友人」の存在の重さを思い知らされた。彼らが戦っていたのは、単なる悪意ではなく、世界そのものが壊れようとしている「歪み」だったのだ。
すると、景太が手に持った食べかけのチョコ棒を見つめながら、ずっと心の奥底に引っかかっていた根本的な疑問を口にした。
景「……ねえ、アラスター。今さらなんだけどさ、そもそも何でアラスターみたいな凄い悪魔が、おおもり山の神社のガシャの中にいたの?」
その問いが発せられた瞬間、辺りの空気が凍りついた。
今まで軽快に影の紅茶を啜っていたアラスターの手が止まる。ジジッ……と、彼の周囲の空間に混じり始めたのは、不吉な静電気のノイズだ。
アラ「――私が、あの狭苦しい『檻』にいた理由を知りたいと……?」
アラスターがゆっくりと顔を上げた。
その瞳は既にいつもの陽気なものではなかった。赤く発光するVUメーターへと変貌し、針が振り切れたまま狂ったように刻み続けている。背後の影が意思を持つ獣のように長く、禍々しく伸び上がり、砂浜に描かれた魔法陣のように複雑な紋様を形作っていく。
パワーが咄嗟に槍を握り直し、スザクは翼を広げて景太を庇う体勢をとった。天使エンジェル(友)や天使アークエンジェル(友)も、その圧倒的な負のエネルギーに息を呑む。
アラスターの口から漏れる声は、複数のラジオ局が混信したような、地獄の底から響く不協和音へと変わっていた。
アラ「……ソレハ……」
景太の頬を冷や汗が伝う。
ついに、このラジオデーモンの真の目的や、過去の因縁が語られるのか。この世界の地盤を書き換えてしまうほどの魔王が、なぜあの古びた神社の神木の下で眠っていたのか。
誰もが固唾を呑み、次の言葉を待った。
アラスターが口を大きく裂き、三日月のような不敵な笑みを深めたその時。
アラ「――わかりません!!」
アラスターが、いつもの軽やかな、一点の曇りもない明るい声で叫んだ。
ドテッ!! と、その場にいた景太、パワー、天使エンジェル(友)、さらにはスザクやダイモーンまでもが、見事なまでの「ずっこけ」を披露した。
景「……えええぇぇぇっ!? わからないの!?」
景太は砂まみれになりながら、勢いよく起き上がってツッコミを入れた。先ほどまでの禍々しいオーラはどこへやら、アラスターはいつもの燕尾服をパパッと払い、何食わぬ顔で首を傾げている。
アラ「ええ、全く! ニャハハハ! 気づいたらあのカプセルの中に閉じ込められて、暗闇の中で放送待機状態でしたからね! 私にもさっぱりですよ。地獄の私のスタジオでくつろいでいたはずが、次に目を開けたら、ケータくんにカプセルをパカッと開けられていた……というわけです」
景「そんなのアリ!? じゃあ、誰がアラスターをカプセルに入れたのかも知らないってこと?」
アラ「ええ。ですが、あのような奇妙な術を使える者がこの世界にいるのだとしたら、それは実に……実にエキサイティングだとは思いませんか?」
アラスターはVUメーターの瞳を元の形に戻し、愉快そうに杖をクルクルと回した。
その無邪気さの裏に、どれほどの謎が隠されているのかは分からない。だが、アラスター自身も「被害者(?)」であるという事実に、パワーは毒気を抜かれたように大きな溜息をついた。
パワー「……この世の理を狂わせる元凶が、自身の来歴すら把握していないとは。天の法が泣くぞ、全く」
景「あはは……。まあ、アラスターらしいっちゃらしいのかな……」
景太は力なく笑い、再び駄菓子の山に手を伸ばした。
アラスターをガシャに閉じ込めた「誰か」。その正体は依然として闇の中だが、今は隣にいるこの破天荒な悪魔と、ようやく腹を割って(?)駄菓子を食べられるこの時間を大切にしようと、景太は思ったのだ。
ーーー
夜の静寂がさくら中央シティの海岸を優しく包み込んでいた。焚き火の火がパチパチとはぜる音と、穏やかなさざ波の音だけが響く。
能天使パワーは、手元の空になった駄菓子の袋を静かに畳み、夜の海を見つめていた。
パワー(……そう言えば、こんな風に穏やかな気持ちで海を眺めるのは、生まれて初めてかもしれぬな)
天界での厳しい規律と、地上の秩序を監視する任務に明け暮れていた彼にとって、この「無駄」とも思える時間は、何よりも奇妙で、そして温かいものだった。
やがて、ピクシー等による天使軍全員の治療が完了した。折れていた翼も光を取り戻し、傷ついた鎧も元通りに輝いている。ついに、彼らが天界へと帰還する時が来た。
パワー「……まさか、敵であったはずの貴殿から、これほど多くの土産をもらってしまうとはな。感謝する。この『よっちゃんイカ』の酸味、忘れることはないだろう」
景「あはは、喜んでもらえてよかったよ。もう夜になってたけど、駅前のデパートがまだ開いてて助かったな…」
景太は力なく笑いながら、ぺしゃんこになった自分の財布を思い出した。お小遣いのほとんどが天使たちの「お土産代」へと消えてしまったが、この平和な光景を見れば後悔はなかった。
パワー「一応、報告しておく。我らが上の存在……主神たちは既に今回の件を把握しているはずだ。秩序を乱す異端として、またそなたらを滅する為に新たな軍勢を差し向けるだろう。……覚悟しておくことだ」
景「その時は、また全力でぶつかるだけだよ。でも……次は、今日みたいに話し合いで済ませられるように頑張るつもりだけどね」
アラ「ニャハハハ! そのための交渉術(あるいは煽り方)は、私がみっちりと教え込みますのでご安心を!」
パワーは溜息をつきながらも、その手元から一枚の青白い光を放つメダルを取り出した。
パワー「……警戒を解いたわけではない。だが、今回の出来事は悪くはなかった。景太、このメダルを預けておく」
景「え、これって……」
パワー「もし貴様が道を踏み外す時が来たら、この私が直接止めに行き……最悪の場合、排除する。それを心に刻んでおけ」
景「……うん。分かった」
景太はパワーの鋭い視線から目を逸らさず、覚悟を込めた笑みを浮かべて頷いた。
その時、天界からの召喚の光が降り注ぐ。景太と友達になった天使エンジェル(友)と天使アークエンジェル(友)も、パワーと共に天界へ戻り、事の次第を報告することになった。
アクエン(友)「ケータ、また会おう。君の『信頼』という力、天界でも語り継がせておくれ」
そうして、天使軍の軍勢は清浄な光の粒子となって、夜空へと消えていった。
景「えっと……アラスターがいきなり連れてきちゃって、本当にごめん。……それと、協力してくれて有難う、バクロ婆!」
景太が感謝を伝えると、バクロ婆は少し照れくさそうに、シワシワの顔をさらにクシャクシャにして「ばば〜ん……」と呟きながら、夜風の中に消えていった。
スザク「……見事な幕引きぢゃ。まさか、この様な形で解決してしまうとは。やはりワシの判断は間違っていなかったようぢゃな」
それまで静かに見守っていた霊鳥スザクが、五色の羽を優雅に羽ばたかせた。
スザク「改めて名乗ろう。ワシは『霊鳥スザク』ぢゃ。悪魔を信じ、天使をさえ動かしたそなたの魂の輝き……これからの旅路に光を添えよう。今後とも、宜しく頼むぞ」
スザクが差し出した深紅の悪魔メダルを景太が受け取ると、彼女もまた夜の帳へと溶け込むように消えていった。
続いてサキュバスやダイモーンたちも、景太に満足げな笑みを向けた。
サキュ「あんなにカッコいい景太を見せられちゃったら、また呼ばれたくなっちゃうわね♥」
ダイモーン「またいつでも呼ぶっぺ! 次はもっと上手くうまい棒を割ってやるっぺよ!」
ピクシーを除いた悪魔たちがそれぞれの住処へと去っていき、海岸には再び静寂が訪れる。
景「…………あっ!!」
ピク「何よ景太!? いきなり大きな声出して!」
景「大変だ、もうこんな時間じゃん! 早く帰らなきゃ、お母さんにめちゃくちゃ怒られる……! 門限、とっくに過ぎてるよ!!」
景太が真っ青になって叫ぶと、アラスターは優雅にステッキを回し、少しだけ意地悪く笑った。
アラ「おやおや、ご安心を! ケータくんの不在は、既に私の使い魔たちが『変装』して補っています。お母様との会話シミュレーションも練習バッチシ! 今頃、居間でテレビでも見ているはずですよ」
景「え、本当に!? ……あー、よかったぁ……」
アラスターの周到さ(あるいは不気味なほどの用意周到さ)に、景太は崩れ落ちるように安堵した。これなら今夜くらいは、少しばかりの冒険の続きを楽しんでもバチは当たらないだろう。
アラ「さて、ケータくん。ゲンブ、ビャッコ、そして今しがたスザクの悪魔メダルを手に入れました。残る四神は、いよいよあそこだけですね」
景「……うん。行こう!」
景太は悪魔ウォッチにスザクのメダルをセットし、夜の静かな街へと駆け出した。
目指すは、そよ風ヒルズのひょうたん池。
そこに眠る、最後の青き伝説を求めて――。
きょうの悪魔大辞典
アラ「ケータくん。今日の悪魔は?」
景「『天使パワー』、『霊鳥スザク』」
アラ「スザク五色の美声てさえずるとされています、
実にラジオ向きではありませんか」
景「ねぇ、何か良い匂いしない?」
ピク「確かに美味そうな匂い…」
スザク「焼けたぞ」
スザクが自身の炎で焼き鳥焼いていた。
景「え!?」
スザク「人間の事を知るには自分が出来る事を考え、行動する。そう思ってな」
アラ「殊勝な心掛けですね。どれ、一つ…」
ピクシーも加わり、焼き鳥を食べ出す。
アラ「食べないんですか?」
ピク「全部食べちゃうわよ」ハグハグ
スザク「美味いぞ」モグモグ
景(スザク…共食いになるけど…良いの……?)