夜のそよ風ヒルズは、普段であれば静寂に包まれた高級住宅街だ。しかし、景太たちがひょうたん池に近づくにつれて、大気を震わせるような轟音と、水面が激しく波打つ音が響いてきた。
生暖かい突風が吹き荒れ、木々の葉が千切れて飛んでいく。池の畔に辿り着いた景太が上空を見上げると、夜の闇を切り裂くように激しい閃光が瞬いていた。
景「龍が誰かと戦っている!!」
景太が指差した先、ひょうたん池の遥か上空で、三つの影が凄まじい速度で交錯しながら空中戦を繰り広げていた。
一つは、月明かりを反射して美しく輝く蒼い鱗を持った巨大な龍。そして、その龍を挟み撃ちにするように猛攻を加えているのは、紅蓮の炎を纏った九つの尾を持つ狐と、首に複数の龍のオーラを巻きつけた人型の存在だった。
アラスターが、その狂乱の夜空をステッキで指し示しながら、実況中継のように声を張り上げる。
アラ「おお! 素晴らしい! あれぞ四神の最後の一体、『龍神セイリュウ』! 方角の東、季節の春、五行思想の木を司る高位の悪魔です! しかし……そのセイリュウが戦っているのは……おやおや、あれは『キュウビ』と『オロチ』ですね!」
景「キュウビとオロチって同じ悪魔!?」
アラ「いいえ。キュウビとオロチは妖怪です。それも、この国において最高位に位置する、極めて強力な妖怪たちですよ」
空中の戦闘は激しさを増していた。
キュウビが九つの尾を扇状に広げると、そこから無数の狐火が弾け飛び、ホーミングミサイルのようにセイリュウへと殺到する。同時に、オロチが目にも留まらぬスピードで背後に回り込み、首に巻いた龍のオーラ(マフラー)を伸ばしてセイリュウの巨体を絡め取ろうと襲いかかった。
セイリュ「グルルォォォッ!!」
セイリュウが雄叫びを上げ、長い胴体をくねらせて回避行動をとる。さらに、口を大きく開いて強烈な衝撃魔法の嵐を吐き出した。真空の刃が無数に生み出され、狐火を切り裂き、オロチのオーラを弾き飛ばそうとする。ひょうたん池の水面が、上空から放たれる衝撃波によって大きくすり鉢状に凹み、周囲に激しい水しぶきを撒き散らした。
だが、相手は妖怪の頂点に立つ二体。キュウビは幻惑の動きで真空の刃をすり抜け、さらに巨大な火球を生成してセイリュウの死角から撃ち込む。オロチもまた、衝撃波を龍のオーラで相殺しながら、鋭い手刀と蹴りでセイリュウの鱗に次々とダメージを与えていく。
一対二の劣勢に加え、相手の連携が良すぎる。セイリュウの放つ風の結界は徐々に破られ、蒼い巨体が徐々に高度を落とし、ひょうたん池の方向へと押し込まれていった。
景「何で妖怪が悪魔と……?」
景太の頭の中に疑問が渦巻く。妖怪と悪魔は本来、干渉し合わない存在のはずだ。それがなぜ、こんな死闘を繰り広げているのか。しかし、空中で苦しげに身を捩るセイリュウの姿を見て、景太は強く頭を振った。
ー今は、理由を考えている暇なんてない!
景「一先ず、考えるのは後だ! セイリュウを助けるぞ!!」
景太は悪魔ウォッチを構え、水しぶきが降り注ぐひょうたん池の畔を蹴り、激戦が繰り広げられている中心地へと向かって全力で走り出した。
激しく波立つひょうたん池の畔。蒼い鱗を散らしながら高度を落とすセイリュウとそれを追撃する二体の影の間に、景太は無我夢中で割って入った。
景「そこまでだ! やめろ!」
景太の叫びと共に、空気を引き裂くような衝撃波がピタリと止む。
マフラーのような龍のオーラを翻し、鋭い眼光を放つ人型の妖怪――オロチが、滞空したまま地上の景太を射抜くように睨みつけた。その瞳は冷徹で、獲物を逃さぬ蛇の如き鋭さがある。
オロ「……人間か。なぜ、貴様のような幼き者が悪魔に味方する?」
オロチの声は低く、地を這うような威圧感を伴っていた。隣に並び立つ九尾の狐、キュウビもまた、優雅に尾を揺らしながら不審げに眉をひそめる。
だが、二体の視線が景太の背後に遅れて降り立ったアラスターに固定された瞬間、その表情は一変した。驚き、そして深い警戒。
キュ「成る程ね……。単なる迷い子かと思ったけれど、どうやら彼は『ラジオデーモン』に唆(そそのか)された哀れな犠牲者のようだ」
オロ「何だと? ……あの悪名高い悪魔か」
オロチはさらに一段と険しい表情になり、景太に向かって手を差し伸べた。それは救済というよりは、保護という名の強制に近い。
オロ「少年。悪魔の側にいたら危険だ。そいつは魂を弄ぶ外道だということを知らぬのか? 今すぐこっちに来るんだ!」
景「……唆されてなんていない! アラスターは確かに変な奴だけど、オレの友達だ!」
景太は悪魔ウォッチを握りしめ、一歩も引かずに言い返した。自分の後ろで動けなくなっているセイリュウを守るように、小さな体を精一杯広げる。
景「それに、オレは決めたんだ。悪魔のことをよく知りもしないで悪く言う奴は、誰であっても許さない!」
その言葉を聞いたキュウビは、溜息混じりにふっと鼻で笑った。まるで理解の及ばない子供のわがままを聞くかのような、慈悲深い無関心。
キュ「くすっ。どうやら、想像以上に相当強い催眠にかけられているようだね。可哀想に。自分の意思だと思い込まされていることこそ、悪魔の術中に嵌っている証拠だよ」
アラ「おやおや、心外ですねぇ。私は催眠なんて面倒なことはかけませんよ。彼が勝手に私を気に入って、勝手に『友達』なんて呼ぶものですから。……実に愉快な誤解だとは思いませんか?」
アラスターがVUメーターの瞳を明滅させ、ノイズ混じりの笑い声を響かせる。その不敵な態度が、オロチの逆鱗に触れた。
オロ「貴様の話など誰が信用するか! 邪悪な波動を撒き散らす悪魔め。……少年を解放せぬというのなら、容赦はせん。此処で、まとめて悪魔を討つ!」
オロチの肩から伸びる二つの龍のオーラが、凶悪に顎を開き、紫色のエネルギーを収束させ始めた。キュウビの周囲にも、夜の闇を焼き払うほどの巨大な狐火が浮かび上がる。
セイリュウ「おのれ……小癪な、妖怪共め……ッ!」
傷ついたセイリュウが立ち上がろうとするが、ダメージが深く膝を突く。
景太は再びウォッチを構えた。目の前にいるのは、かつてこの街で伝説と呼ばれた最強クラスの妖怪たち。だが、逃げる選択肢はない。
景「やるしかないんだね……。みんな、力を貸して!!」
夜のひょうたん池は、最強の妖怪コンビと、少年が率いる悪魔軍団が激突する、かつてない混沌の戦場へと塗り替えられようとしていた。
ひょうたん池の静寂を切り裂き、景太の声が響き渡った。
景「オレの友達たち! 出てこい!!」
景太が悪魔ウォッチにメダルをセットした瞬間、赤い閃光が池の畔を真っ赤に染め上げた。
召喚の光の中から現れたのは、鬼女リャナンシー、霊鳥スザク。
本来なら天使たちも呼びたいところだったが、天界での用事があるのか、メダルからの反応はない。アイトワラスも出し過ぎた為、今お休み中だ。だが、今はこれだけの戦力が揃えば十分だ。
オロ「何だと……!? 悪魔を呼び出したというのか!」
オロチの顔に険しい色が浮かぶ。彼の背後でうごめく龍のオーラが、怒りに応えるように激しく牙を剥いた。
キュ「ふん、やはりね。ラジオデーモンの手引きで、この街を悪魔の巣窟に変えるつもりだろう? 少年、君の罪は重いよ」
キュウビが冷笑を浮かべ、九つの尾に巨大な霊力を溜め込む。
その間、リャナンシーとピクシーは素早く負傷したセイリュウの元へと飛び、淡い緑色の癒しの光を注ぎ込んだ。
リャナ「セイリュウ、今治してあげるからね!」
ピク「アンタ、四神のくせに情けないわよ! シャキッとしなさい!」
リャナンシーの献身的な魔力とピクシーの荒っぽい激励が混ざり合い、セイリュウの傷ついた蒼い鱗が瞬く間に輝きを取り戻していく。動けなかった巨体がゆっくりと浮上し、再び天を衝くような威容を取り戻した。
スザク「……まだいけるか? セイリュウ」
傍らに並んだスザクが、優雅な美声で問いかける。セイリュウはその長い髭を揺らし、鋭い眼光を正面の妖怪たちに向けた。
セイリュウ「無論だ。して、アレが……そなた等が認めた『契約者』か?」
スザク「はい。彼こそが、我等が認めた希望。信じるに値する童です」
セイリュウ「ならば益々、ここで打ち倒される訳には行かんな。此の小僧……捨て置くには惜しい!」
セイリュウの咆哮が夜空を震わせた。それを合図に、三体の高位悪魔と二体の最強妖怪による、未曾有の大空中戦が幕を開けた。
オロ「行くぞッ!!」
オロチが爆音と共に空気を蹴り、神速の突進を仕掛ける。狙いはセイリュウの首元。しかし、その進路を遮るようにスザクが舞い降り、その翼から極太の火炎放射を解き放った。
スザク「我が炎、容易く突破出来ると思うな!」
オロ「小癪なッ!」
オロチは空中で身を捩り、炎を回避。同時に首のマフラーから二頭の龍を伸ばし、スザクの足を絡め取ろうとするがセイリュウの攻撃で龍のオーラを吹き飛ばす。
一方、キュウビは優雅に空中を浮遊しながら、九つの尾の先に巨大な狐火を生成していた。
キュ「まとめて焼き払ってあげよう。……『九尾の火』!!」
放たれた九つの火球が、意志を持っているかのように軌道を変えながらセイリュウへ殺到する。しかし、セイリュウは逃げなかった。
セイリュウ「ウインドブレス!!」
セイリュウが大きく口を開き、真空の衝撃を全方位へと放出した。迫り来る狐火を空中で爆散させ、その余波で地上の木々をなぎ倒す。爆風がひょうたん池の水を巻き上げ、激しい霧が辺りを包み込む。
オロ「この程度で……我ら影の執行者が止まると思うな!」
霧の中から、影を纏ったオロチが飛び出した。彼は自身の龍のオーラを拳に集中させ、セイリュウの腹部に強烈な一撃を叩き込む。蒼い鱗が火花を散らし、セイリュウが苦悶の声を上げた。
セイリュウ「グッ……中々の剛力! だが、此れはどうだ!」
セイリュウがその長い胴体でオロチを締め上げようと螺旋を描く。同時にスザクが上空から光の雨を降らせ、キュウビの退路を断ち、セイリュウは目まぐるしく周囲を旋回し、相手の感覚を狂わせていく。
景「みんな、すごい……! でも、キュウビとオロチも全然引かない!」
景太は地上から手に汗を握り、戦況を見守っていた。
夜空では紅い炎と蒼い電光、そして紫色の妖気が激しく衝突し、そのたびに夜の闇が白昼のように照らし出される。悪魔たちの連携は完璧だったが、妖怪界の頂点に立つ二体の底力は計り知れない。
キュウビの扇状に広がる尾から放たれる幻惑の光が、スザクの視界を奪おうとし、オロチの龍のマフラーがセイリュウの動きを封じようと迫る。
景「危ない!」
スザクとセイリュウは辛うじて回避に成功。反撃を開始。スザクの紅蓮の炎と、セイリュウの放つ真空の刃が、最強の妖怪コンビであるキュウビとオロチを確実に追い詰めていく。
焦燥の色を見せるオロチと、眉をひそめるキュウビ。その隙を見逃さず、アラスターが景太の耳元で、悪魔的な愉悦を孕んだ声で囁いた。
アラ「ケータくん。スザクとセイリュウが揃っている今こそ、最高の『番組』を完成させる時ですよ。さあ、残りの二人、龍神ゲンブと聖獣ビャッコを呼び出すのです!」
景「……っ、そうだね! 二人とも、力を貸してくれ!!」
景太が二つのメダルを同時に悪魔ウォッチへ装填する。
池の畔に巨大な地響きが轟き、ゲンブとビャッコがそれぞれ凄まじいプレッシャーを纏って現れた。
これにより、東のセイリュウ、南のスザク、西のビャッコ、北のゲンブ…「四神」のすべてがこの地に集結した。
アラ「準備は良いですか、セイリュウ? 四神が揃った今、この場の『マガツヒ』は最高潮ですよ!」
セイリュウ「ラジオデーモンか……。癪だが、この流れに乗らぬ手はないな! 貴殿ら、行くぞッ!!」
四神たちが互いの霊力を共鳴させ、円陣を組むように宙へ舞い上がる。その中心に渦巻くのは、禍々しくも神々しい漆黒と黄金の混ざり合ったエネルギーだ。
四神「「「「合体マガツヒ――『
アラスターの宣言と共に、四神から放たれた波動が戦場全体を塗りつぶした。空気がピリピリと震え、景太の視界には、キュウビとオロチの身体に赤く光る「弱点」の紋章が浮かび上がって見えた。
アラ「『禍時:急所』! 相手の弱点を突いた時のダメージを、爆発的に引き上げる力……!
キュウビの弱点は『水』、オロチの弱点は『氷』! ですが、今のこの力の前では、ゲンブとセイリュウの強力な氷結魔法で十分代用可能です! さあ、トドメを!」
オロ「な、何だ、この重圧は……!? 体が動かん!」
キュ「九つの尾が凍りついたかのように重い……。まさか、四神すべての力を一点に束ねるとはね」
キュウビとオロチは即座に回避行動をとろうとしたが、それをスザクが逃さない。スザクは炎の壁で退路を断ち、逃げ場を完全に封じ込めた。
景「行くよ! ゲンブ、セイリュウ!!」
ゲンブ&セイリュウ「「ブフーラッ!!」」
二体の巨頭が同時に叫び、その口から絶対零度の冷気が螺旋を描いて放たれた。ただの氷結魔法ではない。『禍時』の力によって増幅されたその冷気は、触れた大気さえも凍らせ、空間そのものを白銀の彫刻へと変えていく。
オロ「グアァァッ!!」
キュ「……そんな、この僕が……っ!!」
逃げ場を失ったオロチとキュウビに、氷の奔流が正面から直撃した。
轟音と共に氷柱が爆発的に膨れ上がり、キュウビの優雅な九つの尾も、オロチの首に巻かれた龍のオーラも、すべてが分厚い氷の結晶の中に閉じ込められていく。
ひょうたん池の水面は一瞬にして硬い氷原へと変わり、周囲の熱気は完全に奪い去られた。霧が晴れた後には、月明かりを浴びて青白く輝く、二体の最強妖怪を模した巨大な「氷像」が屹立していた。
景「やった……直撃だ……!」
景太は荒い息をつきながら、自身の召喚した悪魔たちの圧倒的な力に、ただただ立ち尽くしていた
ーーー
暫くして、ひょうたん池を包み込んでいた絶対零度の静寂が、パキパキと音を立てて崩れ始めた。
四神の合体魔法によって生み出された巨大な氷塊が、夜の生暖かい風にさらされて溶け出していく。氷の中に閉じ込められていたキュウビとオロチは、辛うじて顔だけを外に出し、屈辱と憎悪の入り混じった眼差しで景太を射抜いた。
景太は、足元の氷を蹴り、満身創痍の二体へ歩み寄る。その瞳にあるのは勝利の優越感ではなく、純粋な困惑だった。
景「……なあ、何でそこまで悪魔を敵視するのさ? 話せば分かることだってあるはずだろ」
しかし、返ってきたのは氷よりも冷たい拒絶の声だった。
キュ「敵視……? 当然だろう。僕たちは君のように無知ではないからね」
オロ「貴様ら悪魔が『イカカモネ議長』と結託し、この人間界までも支配するために動き出しているのは明白だ! だからこそ、悪魔は見つけ次第、この手で葬り去る!」
景「ふざけるな……! 誰が結託なんて。それじゃあ、何、悪魔がこの世界にいるだけで罪だって言うのかよ!?」
キュ&オロ「「罪だ!!」」
二体の咆哮が重なり、夜の空気を震わせた。その迷いのない断言に、景太は一瞬、心臓を直接掴まれたようなショックを受けた。
キュ「本来、悪魔は魔界にのみ存在するべき異物だ! 奴らがこの人間界に根を下ろすだけで、平穏な霊的秩序は破壊され、取り返しのつかない危険が及ぶ。……そして、悪魔と契約を結び、あろうことか使役している君にも、その責任はあるんだよ」
オロ「少年、今すぐその悪魔を呼ぶ不気味な腕時計を捨てろ。そうすれば……慈悲として、命だけは見逃してやる」
二体の圧力に気圧されそうになりながらも、景太はぐっと拳を握りしめた。足元から込み上げてくる感情は、怒りというよりも、もっと切実な「叫び」だった。
景「……お前たちは悪魔にばっかり敵意を向けてるけどさ。オレには、悪魔も妖怪も、みんな同じに見えるよ!」
キュ「……冗談はやめろ! 僕たち高貴な妖怪が、あの野蛮で秩序を乱すだけの悪魔共と同じだと?」
景「同じだよ! 別に容姿や力のことだけを言ってるんじゃない。
悪魔だって……人間と同じなんだ。笑ったり、泣いたり、何かに悩んだり、恐れたり、怒ったりする……。お前たちだって、そうだろう? 誰かを守りたかったり、プライドを傷つけられて腹が立ったりする。人間も悪魔も妖怪も、心があるならみんな同じなんだよ!!」
景太の真っ直ぐな、そしてあまりにも等身大な「真理」に、一瞬だけ場が静まり返った。
だが、それは理解による沈黙ではなかった。
キュ「……子供が一丁前に、分かったような口を……ッ!!」
バキンッ! と、凄まじい衝撃と共に二体を拘束していた氷が弾け飛んだ。
満身創痍のはずのキュウビとオロチが、プライドを汚されたことへの激昂を燃料に、文字通りの「殺意」を纏って景太へと肉薄する。
オロ「その妄執、此処で断ち切ってくれる!」
鋭い手刀と狐火の弾幕が景太を飲み込もうとしたその直前。
景太の影から、ドロリとした漆黒の触手が幾十にも這い出し、空中で二体の四肢をガッチリと捕らえた。
アラ「おやおや、独演会の邪魔をするのは野暮というものですよ?」
アラスターが愉しげに、影の拘束を強める。
「離せッ!」とオロチがもがいたその時!
「キュウビ! オロチ!」
ひょうたん池の反対側から、凛とした、けれどどこか震える女性の声が響いた。
その声を聞いた瞬間、景太の心臓が跳ねた。
聞き間違えるはずがない。毎日学校で聞き、心のどこかでずっと追いかけていた、あの透き通った声だ。
景「……フミ……ちゃん?」
景太が目を見開いて振り向いた先。
月光に照らされた遊歩道に立っていたのは…。
クラスメイトの木霊文花だった。
しかし、彼女の様子は景太の知っている「普通の女の子」とは決定的に違っていた。
彼女の腕には、景太の持つ『悪魔ウォッチ』とは対照的な、白く輝く時計――『妖怪ウォッチ』が握られていた。
そして彼女の傍らには、白い人魂のような姿をしたウィスパーと、腹巻を巻いた赤い猫の妖怪、ジバニャンが構えていたのだ。
文「ケータ……くん……? なんで、ここに……」
夜のひょうたん池。
お互いに隠していた「もう一つの顔」が、最悪の戦場で暴かれる。
悪魔を使役し、世界の理を書き換えようとする少年。
妖怪を束ね、平和な日常を守ろうとする少女。
二つの時計が交わる時、物語は未知の領域へと加速し始めた。
きょうの悪魔大辞典
アラ「ケータくん。今日の悪魔は?」
景「『龍神セイリュウ』」
景「正直、セイリュウって水を司ってると思った」
アラ「あるあるですね。セイリュウは木を司っており、「青(蒼)」は本来はブルーの事ではなく、青りんごの青と同様の意味合いで「緑」であるとされ、正確には体は緑色をしているとされているそうです」
景「へ〜…でもセイリュウって青いよね?」
アラ「ええ。ですがそれは…
子供でも分かりやすくするための大人の都合って事で処理しておきましょう」
景「了解」ビシッ
セイリ「我の解説、これでおしまい?」
ピク「慣れなさい。第三者の技量じゃ此処が限界だから」