悪魔ウォッチ   作:龍座

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妖精ピクシー

突如として、ガチャから出てきた悪魔「アラスター」。

景太の腕にはアンティーク調の腕時計が付けられていた。

 

アラ「さて、いつまでも呆けている時間はありませんよ、ケータ君」

 

アラスターはマイクスタンドのような杖をコツコツと地面で鳴らし、ラジオのチューニングを合わせるような動作をした。

 

ザザッ……ピィーー……

 

不協和音と共に、アラスターの杖が森の木漏れ日を指し示すのは。

 

アラ「まずはチュートリアルと参りましょう。この素晴らしい『ウォッチ』を使いこなすには、実践あるのみです」

 

杖の先―神社の境内の入り口付近を、青い光を帯びた小さな影がフワフワと漂ってたのは…。

 

青いレオタードのような服、何より目を見張るのは透き通るような背中の羽。

 

それは日本の妖怪というよりは西洋のファンタジーに出てくる妖精のよう。

 

景「あれって…妖精…?」

アラ「アレは「妖精ピクシー」ですね。悪戯好きな妖精です。

 

早速、彼女を「仲魔」にしましょう」

景「ええ!? そんないきなり……! まだ心の準備が!」

 

ケータが慌てて後ずさりしようとすると、背中をアラスターの杖がグイッと強引に押す。

 

アラ「 準備など待っていたら日が暮れてしまいます! さあ行きなさい。問題ありません、私も後ろで優雅にサポートしますから」

景(絶対面白がってるだけだ……!)

 

ケータは冷や汗をかきながら、恐る恐るその小さな妖精へと近づいていった。

 

ーーー

 

「妖精ピクシー」は、鼻歌交じりに空を飛んでおり、人間の子供である景太のことなど眼中にない様子で素通りしようとしていると…。

 

景「あ、あの……!」 

 

景太が声をかけると、ピクシーが一瞬、ピタリと止まった。

 

ピク「ん? 何か聞こえたような……」

景「ま、待って! お願い、ちょっと話を聞いて!」

 

ピクシーがくるりと振り返り、景太に近づくと、宙に浮いたまま彼の顔を覗き込み始めた。その表情は少し驚いているようだった。

 

ピク「貴方、人間よね? もしかして私が見えるの……?」

景「え? う、うん……バッチリ見えてるよ」

ピク「ふーん……」

 

ピクシーは目を細め、ケータの左腕に巻かれた禍々しい真鍮の時計に視線を落とした。

 

ピク「なるほどね、ウォッチそれを持ってるからなのね。……でも、あたしが知ってる白いヤツとは随分デザインが違うみたいだけど。なんだかすごく嫌な魔力を感じるわ」

 

ピクシーは警戒したように少し距離を取ってしまった…。

 

後方では、アラスターが「フンフン」と楽しそうにその様子を眺めてる。どうしていいか分からず、ケータが困り果てて頭を掻いていると、突如、ピクシーの目が見開いた。

 

ピク「ってちょっと!何で「ラジオデーモン」がこんな所にいるのよ!!?」

 

え?ラジオ…デーモン…?

 

景「もしかして、アラスターの事を知ってるの?」

ピク「アンタ!…って人間だから知らないのも当然か…

ともかく、彼奴と共にいるんだとしたらこれ以上はお断りよ!」

景「そんな…」

 

理由もわからず戸惑う景太。

 

グゥ〜…。

 

すると、ピクシーのお腹から腹の虫の音が聞こえた……。

 

景「えっと…これ、食べる?」

 

景太はズボンのポケットから買っておいたオヤツを取り出す。

 

ピク「……なにそれ?」

景「『チョコボー』だよ」

ピク「甘い匂い……フン、貰っておくわ」

 

ピクシーは袋を開け、一口…。

 

ザク!

 

ピク「!!」

 

瞬間、ピクシーの目が輝いた!

 

小さな口でハムハムと幸せそうに頬張り始め、一本をあっという間に平らげ、満足そうに指についたチョコを舐めています。

 

ピク「ん〜♪ 美味しかった! 」

 

ピクシーがご満悦になったタイミングを見計らい、ケータは意を決して切り出した。

 

アラスターに言われた「仲間になれ」という言葉。でも、景太にとってそれは、もっと大切な意味を持つ言葉。

 

景「あの……よかったら、僕と友達になってくれませんか!?」

 

真っ直ぐな瞳で手を差し出す景太。

ピクシーはキョトンとして、小首を傾げた。

 

ピク「友達? ……ああ、『仲魔』になって欲しいってこと?」

景太「え? 仲間?友達と何か違うの?」

 

聞き慣れないアクセントに、景太は首を傾げた。

 

ピク「仲魔というのは貴方の契約悪魔として力を貸す。その代わり、コチラが要求するものを捧げる。そういう契約のことを仲魔って呼ぶの」

 

本当は嫌だけど、お菓子くれたし……。

 

景太「いや、そうじゃなくて! 契約とかじゃなくて……一緒に遊んだり、困った時に助け合ったりする、普通の『友達(・・)』になりたいって思ったんだ!」

ピクシー「……はあ?」

 

景太のその言葉にピクシーは呆気にとられた顔をした。

 

彼女の常識では、人間が自分たちに求めるのは「力」や「支配」だけ。

しかし、目の前の少年は、背後にあんなに恐ろしい「ラジオ・デーモン」を従えているにも関わらず、本気でただの「友達」になろうとしている。

 

ピク「ぷっ……あはははは! なによそれ、変な人間!」

 

絶対な脅威ピクシーはお腹を抱えて笑った。

 

ピク「『仲魔』じゃなくて『友達』ねぇ……。意味はよくわからないけど、そのチョコボーに免じて付き合ってあげるわ!」

 

彼女は空中でくるりと一回転すると、ケータの差し出した手に、小さな手をちょこんと乗せた。

 

ピク「アタシは「ピクシー」。「妖精ピクシー」よ。今後とも宜しく♪」

 

その瞬間、妖怪ウォッチの赤いレンズがカシャリと瞬き、何かのデータが登録された。

 

この瞬間、確かな絆が生まれた。

 

景「やった……! よろしくね、ピクシー!」

 

ケータが無邪気に喜ぶ後ろで、アラスターがゆっくりと近づいてきた。その顔には、変わらぬ満面の笑みが張り付いている。

 

アラ「Wonderful! 見事な交渉術ネゴシエーションです、ケータ君! まさかお菓子一つで契約を成立させるとは……。これはとんだ人たらしの才能があるかもしれませんねぇ」

 

アラスターのノイズ混じりの賞賛に、ピクシーはビクリと体を震わせてケータの背後に隠れた。

 

景(アラスターって一体…)

 

景太の中にアラスターに対する疑問が残った。

 

ーーー

 

日が沈み、ひぐらしの鳴き声が響くさくらニュータウンの住宅街。

 

景太は背後に浮遊する二つの「人ならざるもの」を引き連れて自宅の前まで戻ってきた。

 

アラ「ここが貴方の家ですか」

 

アラスターは何の変哲もない一軒家を見上げ、興味深そうに、しかしどこか値踏みするような目で見た。

 

アラ「こじんまりとしていて、実に……庶民的で愛らしい!」

景「そ、そうかな……普通の家だけど」

 

景太が苦笑いしていると、ピクシーが羽音を忍ばせて、ケータの耳元にそっと口を寄せた。 

 

ピク「ねえ、ちょっと。アンタ、本当にアレを知らないの?」

景太「え? もしかして有名人?」

 

ピクシーはため息をついた…。

 

ピク「 良い? 彼奴はね……ただの悪魔じゃないよ。あっちの世界じゃ『ラジオデーモン』って呼ばれてて、数々の上級悪魔を……」

 

ピクシーが警告しようとしたその時、アラスターの耳がピクリと動き、彼の首が180度回転して背後の二人に視線を向けた。

 

アラ「おやおや? 何か私の噂話ですか? 照れますねぇ」ザザ…

ピク「ひいっ!」

 

ピクシーは瞬時にケータの後ろに隠れた。

 

アラスターはニッコリと笑ったまま、ケータの家のドアノブに手を伸ばす。

 

アラ「それでは早速、中も拝見させてもらいましょう。契約者の生活環境を知るのも、サポートの一環ですからね!」

景「あ、ちょっと待って! 勝手に……!」

 

ケータの制止も聞かず、アラスターはまるで自分の家のようにドアを開け放つ。

 

アラ「お邪魔しますよ!」

 

玄関をくぐった瞬間、ケータは肌にまとわりつくような湿った違和感を感じました。

 

景「……?」

 

いつもなら、夕飯のいい匂いとテレビの音が聞こえてくる筈の時間。

 

しかし、家の中は薄暗く、どんよりとした重苦しい空気が漂っていた。まるで空気そのものが鉛になったかのような圧迫感。

 

景「なんだろう、この感じ……」

 

ケータが恐る恐るリビングのドアを開けると、そこには信じられない光景が。

 

「だ・か・ら! お前はいつもそうやって大事なことを忘れるんだ!」

「なんですって!? あなたこそ、先週のゴミ出しを忘れたくせに偉そうなこと言わないでよ!」

 

いつも穏やかな父と母が、顔を真っ赤にして怒鳴り合っていたのだ。

 

テーブルの上には手付かずの夕飯が冷めきっており、張り詰めた空気は一触即発。

 

景「お父さん!? お母さん!?」

 

ケータの声など届いていないかのように、二人の罵り合いはヒートアップしていく。

 

景母「もう知らない! 出て行ってやる!!」

景父「ああ、出て行けばいいだろ!!」

 

景太は呆然と立ち尽くていた。

その惨状を見たピクシーが同情たっぷりに溜息をついた。

 

ピク「うわぁ……これはキツいわね。人間界の夫婦喧嘩ってやつ? どこの家庭もドロドロしてるのねぇ……」

 

ピクシーは小さな手でケータの肩をポンポンと叩き、気の毒そうな表情で慰めた。

 

ピク「ドンマイ。まあ、男と女なんてこんなもんよ」

 

その言葉に、ケータはハッと我に返り、必死に首を横に振る。

 

景「ち、違うよ! いつもこんなじゃないから!!」

 

ケータはピクシーとアラスターに向かって声を張り上げた。

 

景「いつもはお父さんとお母さんはラブラブなんだよ! 週末は一緒に買い物に行くし、昨日の夜だって二人でドラマ見て笑ってたんだから! こんなの絶対におかしいよ!」

 

その必死な様子を見て、アラスターは愉快そうに目を細めました。杖を弄びながら、芝居がかった口調で告げる。

 

アラ「 なんと涙ぐましい家族愛! ですがケータ君、貴方はもう知っているはずです。この世の『おかしいこと』には、必ず原因タネがあるということを」

 

アラスターの赤い瞳が、部屋の淀んだ空間を見据えました。

 

アラ「今こそコレの出番ですよ。」

景「え……ウォッチこれの?」

アラ「さあ、レンズを覗いてみなさい。この不快な不協和音を奏でている指揮者が誰なのか、暴いてやるのです」

 

景太はゴクリと唾を飲み込みました。腕の不気味な時計を構え、両親の間にある「重たい空気」に向けてサーチライトを照射した。

 

ウィィィン……カシャッ!

 

赤い光が部屋を照らし出す。一体何が…。

 

アラ「まあ、さきほど私が玄関をくぐった瞬間に、ネズミのように一目散に逃げ出していくのが見えましたがねぇ」

 

景「……は?」

 

アラ「私の発するオーラが強すぎたのでしょう。格下は、私の気配を感じるだけで消滅するか逃走してしまうのです。いやはや、人気者は辛い!ニャハハハハ!」

景太「なんじゃそりゃ!!」

 

ケータのツッコミが響き渡った、その瞬間、部屋に充満していた重い空気が、嘘のようにスッと霧散し、憑き物が落ちたように、父さんと母さんがキョトンとした顔で互いを見合う。

 

景父「……あれ? 俺、なんで怒鳴ってたんだっけ?」

景母「あらやだ、私ったら……ごめんなさいあなた。なんだか急にイライラしちゃって」

景父「いや、俺こそ悪かったよ。ママの料理が一番なのに」

景母「もう、お父さんったら♡」

 

二人は数秒前の罵り合いが嘘だったかのように、いつものラブラブな夫婦に戻って笑い合っていた。

 

景父「ケータ? どうしたんだ、そんな入り口で突っ立って」

景母「ご飯冷めちゃうわよ〜」

景「え、あ、うん……」

 

あまりの急展開に追いつけないケータ。

ピクシーは呆れたように羽をパタパタさせ、アラスターは「一件落着!」と言わんばかりに満足げに頷いたのだった。

 

ーーー

 

平和が戻った天野家のリビングを見届けた景太等は自室へと戻っていた。

夕焼けが街をオレンジ色に染める中、ピクシーがふわりとケータの目の前に浮かび上がった。

 

ピク「さて、と。あの赤いのが睨みをきかせてる家に長居するのは御免だから、アタシはそろそろ帰るわね」

 

ピクシーはそう言うと、空中で何かを取り出したものを受け取った景太。

それは、ずっしりと重厚な金属製で中央にはピクシーの姿が精巧なレリーフとして彫り込まれたメダル。微かだご青白い魔力を帯びていた。

 

ピク「これをあげるわ。アタシとの『契約の証』よ」

 

景「ありがとう、ピクシー! 大切にするよ」

 

ケータが満面の笑みでお礼を言うと、ピクシーは少し照れくさそうに視線を逸らし、プイッとそっぽを向いてしまった。

 

ピク「……べ、別に礼なんていいわよ。契約なんだから当然でしょ。困ったことがあったら呼んで」

 

そして、飛び去り際に振り返り、ニヤリと悪戯っぽく笑うと…。

 

ピク「それと、チョコボーも忘れないでよね? 次は『プレミアムチョコボー』を期待してるわ!」

 

景「ええっ!? それって高いやつじゃん!」

ピク「あはは! じゃあね、変な契約者さん!」

 

ピクシーは青い光の粒子を撒き散らしながら、夕焼けの空へと高く飛び去っていった。

 

ーーー

 

上空を飛びながら、ピクシーは大きく息を吐いた。

 

ピク(はぁ……心臓が止まるかと思っ…わ)

 

彼女の脳裏に焼き付いているのは、あの赤いスーツの男―アラスターの笑顔。

 

ピク(まさか、こんな極東の島国であの『ラジオデーモン』に出くわすなんて……。地獄じゃ誰もが恐れるオーバーロードの一人よ。あんなのが憑いてるなんて、あの子、一体何者なの?)

 

ピクシーはブルっと身震いした。本来なら関わりたくない相手。そうなるのも無理はない。

 

しかし、思い出すのは景太が差し出したチョコボーと、真っ直ぐな瞳だった。

 

ピク(でも……ケータって子、良いやつだったな。悪魔相手に『友達になりたい』なんて本気で言う人間、初めて見たわ)

 

ピクシーがそんなことを考えながら、さくらニュータウンの住宅街を見下ろして飛んでいた、その時…。

 

ピク「……ん?」

 

眼下の通りを歩く、一人のポニーテールの少女の姿が目に留まった。

そして、何よりピクシーの目を引いたのは、少女の首から下げられた懐中時計型のコンパクトのような機械。

 

そこから、ケータが持っていた腕時計とは違う、しかし確かに似通った「召喚」の波動を感じ取った。

 

ピク(へー……。まさか妖怪ウォッチ(・・・・・・)を持ってる人がいたんだ……)

 

ピクシーは興味深そうに少しだけ高度を下げて観察した後…。

 

ピク(案外、この町は退屈はしなさそうね)

 

ピクシーは速度を上げ、今度こそ彼方へと飛び去っていったのだった。

 

ーーー

 

ピクシーが見下ろしていた少女ー「木霊文花」は買い物袋を提げて家路についていた。

ふと、彼女の隣をフワフワと浮遊していた白い物体が、キョロキョロと空を見上げた。

 

文「? どうしたの、ウィスパー?」

 

フミちゃんが不思議そうに尋ねます。

 

彼女の首から下がっているのは、可愛らしい懐中時計型の「妖怪ウォッチ 」。

 

そして彼女の隣にいるのは妖怪執事「ウィスパー」。

 

ウィスパ「いえ……今しがた、上空から何かがこちらを見ていた様な気配が致しまして……。それも、普通の妖怪とは少し違う、ピリッとした魔力を感じたような……?」

 

ウィスパーがしきりに空を気にしていると、文花の足元を気だるげに歩いていた赤い猫の妖怪が、大きなあくびをした。

 

「フワァ〜……。また始まったニャ。ウィスパーの『気のせい』は何時ものことニャ」

 

腹巻きをした地縛霊「ジバニャン」。

 

ジバ「こいつの言う事は何かと胡散臭いニャン。どうせまた、お腹が減って幻覚でも見たんじゃないのかニャ?」

ウィスパ「んだとジバ野郎!! 失礼な! 私の妖怪執事としての勘は、百発百中なんでウィスよ!!」

ジバ「はいはい、百発百中外れるの間違いニャ」

ウィスパ「ムキーッ!! フミちゃん聞いてくださいよ。この生意気な猫!」

 

ギャーギャーと言い争いを始める二匹を見て、フミちゃんはクスッと笑った。

 

文「ふふっ、二人とも仲がいいね。ほら、早く帰らないと夕飯の支度に遅れちゃうよ?」

ウィス「むぅ……フミちゃん様がそう仰るなら」

ジバ「今日の晩御飯はハンバーグがいいニャ〜」

 

穏やかな夕暮れ。

 

いつも通りの賑やかで平和な帰り道。

 

しかし彼女たちはまだ知らない。

 

同じ街のどこかで、「もう一人の所有者」が、とんでもない悪魔と契約し、全く異なる運命の歯車を回し始めた事を。

 

本来の主人公であるはずだった少年と、本来のヒロインであるはずだった少女。

 

二つの異なる「ウォッチ」の物語が、この街で静かに交錯しようとしていた。

 




きょうの悪魔大辞典

アラ「ケータくん。今日の悪魔は?」

景「『妖精ピクシー』」

アラ「ピクシーはイギリス西南部に棲む妖精で、陽気で悪戯好きな部分もあれば、農作業を手伝う面もあります」

ピクシーは美味しそうにチョコボーを食べていた。

景「でも、その小さい体でチョコボー入るよね。ふt」

ビュゴッ!

景「ブフッ!?」

ピク「乙女(レディ)に体重は禁句よ」
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