悪魔ウォッチ   作:龍座

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イカカモネ議長

えっけん回廊の「白」がさらに色濃くなる第壱の門。その巨大な朱塗りの扉の前に、山のような体躯を持つ巨影が立ち塞がった。

 

赤鬼「オレはかつてエンマ大王様より、この妖魔界の管理を任された赤鬼。大王様が亡き後と言えど、その役目を放り出すわけにはいかん。……よってお前たちには、この赤鬼の審査を受けてもらおう! それはラジオデーモン、貴様のような異界の悪魔だろうと変わりはせん!」

 

赤鬼。子供たちの悪夢に現れ、怠慢や恐怖を糧とする鬼時間の番人。燃えるような赤い肌に、血管の浮き出た隆起した筋肉。手には、一振りで並の妖怪を消し飛ばすという巨大な金棒が握られている。

 

地響きのような声が回廊を震わせる。文花やジバニャンがその覇気に気圧される中、アラスターは一人、面白そうに口角を吊り上げた。

 

アラ「ほう……審査ですか。良いでしょう。ちょうどケータくんと『契約』したばかりで、少々試したいことがあったのですよ」

 

アラスターが悠然と前に出る。

彼はステッキを指先で回すと、それを地面に突き立てた。

 

アラ「私の『放送』は、受像機がなくても届くということを証明しましょう」

 

アラスターが赤鬼の目の前で足を止め、ゆっくりとその口を開いた。

 

次の瞬間、凄まじい「ノイズ」が空間を支配した。

それは声ではない。数千、数万のラジオが同時に混線し、断末魔の叫びと静電気の弾ける音が混ざり合ったような、破壊的な高周波。

 

赤鬼「……っ!? が、あ……あぁぁぁ!!?」

 

赤鬼が突如、自らの頭を抱えて激しく悶え始めた。

 

彼の巨体が、目に見えない振動に晒されてガタガタと震える。赤鬼は苦し紛れに金棒を振り上げ、アラスターを目掛けて叩きつけようとしたが、その腕には力が入らない。

 

赤鬼「脳が……魂が……かき回される……!!」

 

激しい耳鳴りと共鳴現象により、赤鬼の視界は歪み、平衡感覚は完全に破壊されていた。金棒が重い音を立てて石畳に落ち、赤鬼はその場に崩れ落ちる。

 

景「ア、アラスター!? 大丈夫なの、それ!?」

 

心配して駆け寄ろうとした景太を、アラスターは手首を軽く返して制した。彼の口からは依然として、この世のものとは思えない怪音が漏れ出している。

 

数秒後、アラスターが静かに口を閉じると、回廊に静寂が戻った。

 

だが、そこに立っていた誇り高き赤鬼の姿はなかった。

かつての威厳は消え失せ、瞳からは生気が抜け落ち、ただの抜け殻のようにダランと力なく座り込んでいる。

 

アラ「……跪きなさい」

 

アラスターの低く響く声。

 

すると、赤鬼は一言の反論もなく、操り人形のようにギチギチと体を動かし、アラスターの足元へ深く頭を下げ、忠誠を誓うように跪いた。

 

景「……何をしたんだよ、今。赤鬼が、あんなに簡単に……」

アラ「フフ……音波で脳を少々揺さぶったんですよ。彼の周波数を無理やり私の放送に『同調シンクロ』させ、思考能力を一時的に奪いました。文字通り、私の番組の熱狂的な視聴者にして差し上げたわけです」

景「おっそろしい技だなぁ……」

 

景太は頬を引きつらせ、契約したばかりのパートナーの底知れなさに震えた。

 

アラ「恐ろしい? 困りましたね、褒め言葉として受け取っておきましょう。他にも、内臓を破裂させたり、影から直接魂を飲み込ませることもできますが……見ますか?」

景「ま、またの機会にお願いします……」

 

景太は冷や汗を流しながら、丁重に断った。

 

だが、事態はそれで終わらなかった。

 

一番手の赤鬼が沈黙したことで、えっけん回廊の奥からさらなる地響きが迫ってきたのだ。

 

「赤鬼がやられただと!?」

「誰だ、妖魔界の秩序を乱す不届き者は!」

 

霧の向こうから現れたのは、一本角の「赤鬼」の群れ、そしてさらに冷徹な空気を纏った二本角の「青鬼」。

さらには、全身に禍々しい紋様を浮かべ、最強の格を誇る漆黒の鬼「黒鬼」までもが、その姿を現した。

 

ウィ「ヒ、ヒィィィッ!! 赤鬼に青鬼、さらに最強の黒鬼まで!! 鬼時間のオールスター感謝祭でうぃすよ!!」

文「これ、まともに戦って勝てる数じゃな……!」

 

キュウビやジバニャンが戦闘態勢に入る中、アラスターは逃げるどころか、その瞳をらんらんと赤く輝かせ、喜悦に満ちた表情で頬を吊り上げた。

 

アラ「素晴らしい! ゲストがこれほど一度に押し寄せるとは、私の番組も捨てたものではありませんね!」

 

アラスターはステッキを優雅に構え直し、迫り来る鬼の軍勢を指差した。

 

アラ「丁度いいです。ケータくんとの契約で得た余剰魔力を、完璧にマスターするための実験材料になってもらいましょう! 皆さん、チャンネルはそのままで。……ここからは、さらに刺激的な『生放送』の時間ですよ!」

 

アラスターの背後から巨大な影が立ち上がり、えっけん回廊に再び破壊的なノイズが渦巻き始めた。景太は、アラスターの狂気に満ちた背中を見守りながら、覚悟を決めて悪魔ウォッチを握りしめるのだった。

 

ーえっけん回廊の最奥・大王の間ー。

 

蒼いレンガ状の床が幾何学的な模様を描き、その中央奥には、かつてエンマ大王が座していたであろう高貴な玉座が鎮座している。

 

だが、今そこに座っているのは、正当なる王ではない。

白く、ぬらりとした巨大な体躯を持つ男。

 

妖魔界議長「イカカモネ・ソウカモネ」。

 

彼の背後からは、大王の間の壁を突き破るように六本の巨大な白い触手が蠢き、部屋全体に粘りつくようなプレッシャーを撒き散らしていた。

 

イカ「イカーッカッカッカ!! 汚らわしいねずみが迷い込んでるではなイカ! 妖魔界最高位の座を脅かす不届き者は、真っ先に潰さないとイカん!!」

 

イカカモネの声が広間に響き渡る。その瞳には、野心と狂気が宿っていた。

 

イカ「この世の中は人間よりも優れた我ら妖怪が手にするべきなのだ。いや、そうでなくてはイカん!! あのガキ共と悪魔を足掛かりに人間界に加え、地獄、そして天国を支配しようじゃなイカ!!」

 

傲慢な言葉が頂点に達した、その瞬間だった。

 

ズドォォォォンッ!!

 

爆鳴と共に、重厚な大王の門の扉が内側へと吹き飛んだ。

 

爆風と土煙が舞い上がり、瓦礫が玉座の階段下まで転がってくる。

 

イカ「!? なんだ!? 何事が起きたのだ!?」

 

狼狽するイカカモネの視線の先、立ち込める土煙の中から、二つの紅い光が鋭く輝いた。

 

ゆっくりと煙を切り裂いて現れたのは、真っ赤な燕尾服に身を包み、不敵な笑みを浮かべたアラスターだった。

その足元からは、ドロリとした黒い影が広間全体を侵食するように広がっていく。

 

アラ「おやおや、魔界議長イカカモネ・ソウカモネ。お会いしたかったですよ。……ですが、あまりに趣味の悪い装飾だ。お会いして早々ですが、すぐにサヨナラすることになるのが本当に残念でなりません」

 

アラスターの指先がステッキを弄び、ラジオの静電気のようなノイズが空間をチリチリと焼き焦がす。

 

イカ「……ラジオデーモン。魔界の厄介者が、なぜここに……。まさか直接この目で見ることになるとは思わなかったぞ!」

アラ「それは光栄ですね。冥土の土産には実に相応しい光景でしょう?」

イカ「フン、抜かせ! いくら貴様が魔界で名を馳せていようとも、ここは妖魔界。この私には勝てん!! 貴様も、後ろに隠れているガキ共も、まとめて排除してやろうじゃなイカ!!」

 

イカカモネが激昂し、背後の触手を大きく振り上げる。その巨体が玉座から立ち上がり、部屋の温度が急激に下がった。

 

アラ「……ほう。それは大いに結構」

 

アラスターが低く笑うと、彼の背後に巨大なシルエットが次々と実体化し始めた。

 

現れたのは、先ほどまで「えっけん回廊」で彼らの行く手を阻んでいたはずの赤鬼、青鬼、そして最強の黒鬼たちの軍勢だった。

 

だが、その瞳に意思の光はない。全ての鬼たちの瞳は、アラスターと同じ禍々しい紅に染まり、その身体中をアラスターの魔力の象徴である「ブードゥーの紋章」が這い回っている。

 

アラ「少々、賑やかな軍勢を引き連れて参りました。一人で舞台に立つのは寂しいですからね」

ピク「大所帯になったわねぇ。本当に」

景「あんなに大量の鬼を、一瞬で……。アラスター、本当に成長してるんだな……」 

 

景太は、自分の魂と繋がったことでアラスターの魔力が以前よりも深く、鋭くなっていることを肌で感じていた。かつては個の暴力だった彼の力が、今は「軍勢」を統べる王の風格を帯び始めている。

 

イカ「貴様……! 私の配下である鬼たちを、そんな……得体の知れない術で辱めるとは……!!」

 

顔を怒りで真っ白に染めたイカカモネに対し、アラスターは優雅に会釈し、マイク型のステッキを口元に寄せた。

 

アラ「さあ、本日のメインイベントです! 観客リスナーは準備万端ですよ、議長。……あなたの悲鳴を、最高級の音質で妖魔界中に響かせてください!!」

 

アラスターが指を鳴らした瞬間、操られた鬼たちが咆哮を上げ、イカカモネへと一斉に躍りかかった。

 

 

妖魔界の支配権を巡る、地獄のような大乱戦の幕が切って落とされた。

 

アラスターが杖をイカカモネに指し示すと鬼たちが、地響きと共に一斉に地を蹴った。

 

アラスターの号令を受け、先陣を切ったのは数体の赤鬼だった。彼らは自らの体重を乗せた巨大な金棒を、イカカモネの玉座へと叩きつける。石造りの床が爆砕し、瓦礫が飛散する。

イカカモネは触手を使って間一髪で後方へ飛び退くが、そこには既に回り込んでいた青鬼が待ち構えていた。青鬼は氷のように冷徹な動きで金棒を突き出し、イカカモネの脇腹を抉る。

さらに、最強の格を持つ黒鬼が、唸りを上げる「悪夢の金棒」を真上から振り下ろした。

 

イカ「おのれぇ……図に乗るなよ!!」

 

イカカモネは背中の白い触手二本を瞬時に硬化させ、黒鬼の金棒を真正面から受け止める。凄まじい衝撃波が広間を駆け抜け、傍で見ていたウィスパーが叫び声を上げて吹き飛ばされた。

 

イカカモネの全身から、不気味な妖気が噴き上がる。彼は鬼たちの猛攻に膝をつくどころか、その瞳を怒りで血走らせ、玉座の階段を一段踏み締めた。

 

イカ「小癪な真似を……まとめて踊らせてやる!」

 

イカカモネは顔の横から生えた二本の触手を鞭のようにしならせた。それは目にも止まらぬ速さで空を切り、突進してきた赤鬼の胸元を二度、正確に打ち抜く。鋼のような筋肉を持つ赤鬼が、その一撃だけで後方の柱まで吹き飛ばされ、沈黙した。

 

イカ「逃がさん!」

 

奴の髪が巨大な吸盤付きの触手となり一斉に降り注いだ。

 

イカ「イカ足スタンプ!」

 

広間全体を押し潰さんとするその圧殺攻撃に、逃げ場を失った青鬼たちが次々と床に叩き伏せられる。衝撃で床の蒼いレンガが粉々に砕け散り、砂塵が視界を遮った。

 

さらにイカカモネは、手に非対称の色の魔力を収束させた。

 

イカ「燃えろ、凍れ、弾け飛べ!!」

 

放たれたのは、炎、氷、雷の属性を帯びた魔弾の雨!

 

イカ「属性ダマ!!」

 

それは正確に鬼たちの急所を穿ち、回廊は炎上と凍結、そして激しい放電が入り混じる地獄絵図へと変貌した。

 

景太は、あまりの戦闘の激しさに息を呑む。

アラスターが操る鬼たちは確かに強い。だが、イカカモネという存在は、妖魔界の頂点を力で奪い取っただけのことはある。

 

イカ「貴様等悪魔の栄光もここまでだ!!」

 

その圧倒的な手数は、軍勢の数をもってしても容易には突破できない。

 

イカカモネが大きく口を開くと、そこから真っ黒な液体が噴射された。「イカスミ」だ。

それは単なる汚れではない。部屋全体に立ち込めた黒い霧に触れた瞬間、景太たちの体感速度が極端に鈍り始める。まるで深い泥の中を歩いているような、耐え難い重圧。

 

イカ「ハァ……ハァ……。さあ、次は貴様らの番だ!」

アラ「おやおや、視界が少々ノイジーになってきましたねぇ」

 

アラスターが鼻を鳴らす。しかし、イカカモネの追撃は止まらない。

 

イカ「私の糧となるがいい!!」

 

イカカモネの両手を掲げ、手に付いた口を向ける。

 

左手は冷酷に鬼たちの生命力を吸い取り、その負のエネルギーをイカカモネの傷へと注ぎ込む。対する右手は、大気中の妖力を無理やりかき集め、鬼たちの動きを物理的に縛り付けた。

 

景「アラスター、まずいよ! 鬼たちがどんどん動けなくなってる!」

 

景太が叫ぶ中、イカカモネの右手はさらに深く妖力を吸い込み、不気味な輝きを増していく。その膨大なエネルギーは、さらなる「何か」の予兆であるかのように。

 

アラ「ふむ。確かに、ただのイカにしては少々骨がありますね。……ですが、ケータくん。忘れないでください」

 

アラスターはノイズ混じりの笑みを深め、ステッキの先で床を叩いた。

 

アラ「これは私の『独占生放送』です。ゲストが勝手に番組を終わらせるなど、プロとして許されるはずがないでしょう?」

イカ「自惚れるなよ醜い悪魔め!」

 

イカカモネは鬼の軍勢の向こう側にいるアラスターたちを仇を見る様に睨みつけた。

 

イカ「この世の中で最も優れてるのは人間なんかではない!悪魔でもない!我々妖怪だ!」

 

奴の怒りの込められた熱弁が放たれる!

 

イカ「妖怪こそ至高!だが、憎たらしい事に人間界に悪魔が襲来し跋扈し始めた。これほどイカんな事は無い!」

 

イカ「人間はクソだ!戦争、差別、醜いいじめに変わろうとせず今の現状に胡座をかく!他にもどんどん出てくる!!」

 

イカ「悪魔と天使もクソだ!天国でのエクスターミネーション!地獄での醜い欲まみれの権力争い!挙句の果てには地獄の住民を更生させようとする愚か者まで現れた!そんな奴らの存在など実にイカんだ!」

 

イカ「だから私は、私が妖怪の新時代を興すのだ!!

妖怪を悪魔よりも、天使よりも、そして神よりも更に上につかせる為に!」

 

イカ「だが、今の妖怪は人間に現を抜かし、友達という言葉に誑かされ、ふざけた行動を起こす始末……このまま何もしなかったら妖怪はさびていく…だからこそー!!」

 

イカ「妖怪と人間、ましてら悪魔との共存などあってはイカんのだ!」

 

イカ「私こそが!妖怪を導く先導者なのだ!!!」

 

イカカモネの熱弁の叫びが響く。

 

景「ふざけんな!!」

 

その時、今度は景太の怒号が響いた!

 

景「妖怪をよく言ってるようだけど、お前だって俺達人間と同じく差別・・をしてるだろ!!」

 

景「妖怪も悪魔も人間も姿形は違えど心は皆同じだ!お前の物差しでわかった気になるな!!」

 

イカ「長く生きてないガキに何がわかる」

 

文「確かに私たちは子供よ!でも、これを放っといたら絶対に駄目なことはわかる!

折角出会えたこの軌跡を壊させるわけには行かない!」

 

アラ「この者達はそれなりの経験をしてきたんです」

ピク「それもアンタなんて比べるまでもないそれ以上にね」

 

その瞬間、アラスターが紅いオーラとブードゥー教の紋章を放ちながら凍てつくオーラを放つ。

 

アラ「さて、ここからが本番です。遺言は今のうちに考えてくださいね」

 

大王の間に渦巻く暗雲、その中心でアラスターの真っ赤な瞳が不気味に発光した。彼は指先をイカカモネの右腕ー妖力を貪り続ける「アクマの右手」へと向ける。

 

アラ「ケータくん見てください。あの不躾な『手』が我々の舞台から妖力を盗んでいますよ。主役の座を守るためにも、まずはあの邪魔者を楽屋へ叩き込んでやりましょう!」

 

景太はアラスターの声に弾かれたように頷いた。魂の契約を通じて流れてくる高揚感が、恐怖を上書きしていく。

 

景「みんな、狙いはあの右手だ! 集中攻撃して!」

イカ「そうはイカん! 私の計画を邪魔するなど、万死に値する!!」

 

イカカモネは焦燥に駆られたように叫び、背後の巨大な六本の触手を編み合わせ、自身の前方に肉の壁を築き上げた。その強固な守りは、並の攻撃では掠り傷一つ付けられないほどの厚みを誇っている。

 

文「守らせない! キュウビくん、ゴルニャン、影オロチ、お願い!」

 

文花が三枚のメダルを同時にセットし、一気に勝負に出る。

 

キュウビが放つ「紅蓮地獄」の猛火が触手の壁を焼き、ゴルニャンのロケットパンチが鋼鉄のような打撃音を響かせて肉壁を震わせる。

さらに、影から音もなく現れた影オロチが、龍の首を模したマフラーを操り、触手の隙間に鋭い刺突を叩き込んだ。

だが、イカカモネの再生能力は凄まじい。焼かれ、穿たれた触手は瞬時に癒着し、再び右手を隠してしまう。

 

イカ「無駄だ! この鉄壁の守り、貴様らごときに突破できるわけがない!!」

 

景(……くっ、これじゃ右手に届かない! アラスターの力を借りて、もっと強力な……!)

 

景太は悪魔ウォッチに手をかけるが、脳裏にノイズが走る。召喚しようとした一部の悪魔たちは、妖魔界の歪んだ磁場の影響か、あるいは別の戦地で手一杯なのか、呼び出しに応じない。

 

景(他に誰か……今の状況を打破できるやつは……。いた!!)

 

景太は迷わず、ポケットから三枚の「悪魔メダル」を取り出した。それは雪の結晶のような冷気を纏い、手の中で微かに震えている。

 

景「オレの友達……出てこい!!」

 

メダルがスロットに叩き込まれ、悪魔ウォッチの文字盤が禍々しく、かつ美しく輝いた。

 

景「ジャックフロスト! ジャアクフロスト! キングフロスト!!」

 

その瞬間、大王の間の床がパキパキと凍りつき、真っ白い霧の中から三つの影が降り立った。

 

ジャ「呼んだかホー? 辺りがイカ臭いホー!」

ジャアク「ヒッヒッヒ……最高に冷え切った死をプレゼントしてやるホー」

キング「オイラが来たからには安心するがよい。……その無様な触手、冷凍イカにしてやるホー!!」

 

景「みんな、あの触手の壁を凍らせて!」

ジャック「任せるホー! 『ジャックブフーラ』!!」

ジャックフロストは絶対零度の冷気が奔流となって放ち、フロスト型の氷像を作り出す。触手の表面がみるみるうちに白く凍てつき、イカカモネの動きを鈍らせる。

 

ジャアク「闇に飲まれろホー! 『黒龍撃』!!」

 

ジャアクフロストは呪怨の魔力を用い、凍りついた触手の深部まで氷の楔を打ち込んでいく。呪いによる内部破壊。触手の壁からはメキメキと、悲鳴のような氷の割れる音が響き渡る。

 

イカ「な、なんだこの寒さは……! 私の誇る触手が、動かなくなっていくイカ……!?」

キング「仕上げだホー! 『キングブフーラ』!!」

 

キングフロストが巨体を揺らし、地面を力強く踏み抜いた。大王の間の全域が凍てつく波動に包まれ、イカカモネを護っていた巨大な触手たちは、瞬時に巨大な氷像へと変貌した。

 

景「今だ! アラスター!!」

アラ「フフ……実に素晴らしいショーです、ケータくん。凍りついた氷は、叩けば脆く砕け散るものですよ」

 

アラスターがステッキを軽く振り下ろすと、その振動だけで凍りついた触手の壁が粉々に砕け散った。

剥き出しになったのは、妖力を吸収しすぎてどす黒く変色したイカカモネの「右手」。

 

イカ「バ、バカな……! 私の守りが、こうも簡単に……!!」

景「これで終わりだ! みんな、右手を叩け!!」

 

凍てつく霧の中、景太の指示と共に、妖怪と悪魔たちの総攻撃が、無防備となった議長の「魔の手」へと殺到した。

 

その時、天井のステンドグラスを突き破り、一筋の蒼い閃光が舞い降りた。

 

オロ「遅くなったな。……マオの送り届けは完了した」

キュ「全く遅いんだよ!」

 

キュウビは頬を上げそう言い放つ。オロチは彼は一瞬で戦況を把握すると、鋭い眼光をイカカモネの右手に定めた。

 

オロ「その醜悪な手……俺が断ち切る! 『やまたのおろち』!!」

 

オロチの影から無数の龍が飛び出し、凍りついて脆くなった「右手」へと食らいつく。キングフロストたちの極寒にさらされていた右腕は、龍の牙に耐えきれず、耳を突き刺すような不快な音を立てて粉々に砕け散った。

 

イカ「ギ、ギガァァァッ!? 私の、私の右手がぁぁぁ!!」 

 

右手の破壊により、妖力の吸収が止まる。拘束を解かれた鬼たちの咆哮が、アラスターの奏でるノイズのリズムに合わせて一段と高まった。

 

アラ「さあ、次は欲深いその『左手』です。皆さんの悲鳴を聞かせてくれる対価として、少々強引に頂戴しましょうか!」

 

アラスターがステッキを指揮棒のように振ると、洗脳された赤鬼、青鬼、そして黒鬼たちが一斉にイカカモネの左手へと群がった。

 

生命力を吸い取ろうとする左手に対し、黒鬼の「悪夢の金棒」が凄まじい風切り音を立てて振り下ろされる。

さらに、アラスターが影から呼び出した無数の漆黒の触手が左手をがんじがらめに縛り付け、その自由を奪った。

 

景「今だ! みんな、一気にいこう!!」

 

ジャックフロストとジャアクフロストが左右から氷と闇の魔弾を叩き込み、そこへオロチの影龍がトドメを刺した!

 

バキィィィン!!

 

凄まじい衝撃と共に、生命力を吸い取り続けていた「カミの左手」もまた、光の塵となって霧散した。

 

両腕という最大の武器を失ったイカカモネだったが、その顔には絶望ではなく、どす黒い悦びが浮かんでいた。

 

イカ「……イカッ、イカカカッ!! まぁ良い……これだけ吸い上げれば、十分だ!!」

 

イカカモネの両手の断面から、禍々しい青白い光が溢れ出す。それは、先ほどまで彼が鬼や空気中から強引に奪い取った膨大なエネルギーの残滓だった。

 

その光はみるみるうちに凝縮され、巨大な波動の球体へと膨れ上がっていく。

 

ウィス「やばイカモネ!?」

 

ウィスパーの絶叫が響く。部屋の四隅から、生き残っていた巨大な白い触手たちが再びイカカモネの前に集まり、編み込まれて鉄壁の「肉の盾」を形成した。

 

アラ「……フム、いよいよ終盤(フィナーレ)ですね。お喋りなゲストに相応しい、派手な舞台を用意してくれたようです」

 

アラスターの背後で影が巨大な角を広げ、ノイズが狂ったように空間を震わせる。

 

景「ジャックフロスト! ジャアクフロスト! キングフロスト! 行くよ!!」

 

ジャック&ジャアク&キング「「「ヒーホー!!!」」」

 

フロスト三兄弟が冷気のオーラを最大まで高め、景太の隣で戦闘態勢を整える。

 

文「キュウビくん、オロチ、ゴルニャン、影オロチ! 私たちも負けてられないわ、みんなお願い!」

ジバニ「もちろんニャ! 最後に美味いチョコボーを食べるためにも、あんなイカ野郎、ブチのめしてやるニャン!!」

 

キュウビは紅蓮の炎を、オロチは龍の闘気を、ゴルニャンは全身の黄金の装甲を輝かせ、影オロチは闇の中に深く身を沈める。

 

大王の間を埋め尽くす光と影。

妖魔界の、そして人間界の運命を懸けた最後の一撃が、今まさに放たれようとしていた。

 

王の間に、耳を刺すような高周波の警告音が鳴り響く。イカカモネの全身が青白く発光し、その両手の穴から溢れ出す妖気は、もはや制御不能なまでの質量となっていた。

イカ「これで見納めだイカ! 人間も妖怪も、この私の前に跪くがいい!!」

イカカモネが叫ぶと同時に、圧縮された膨大なエネルギーが一気に解き放たれた。

 

イカ「イカリMAX砲!!!」

 

放たれたのは、視界の全てを白く塗り潰さんばかりの巨大な波動砲。それは通り道の石畳を一瞬で蒸発させ、大気を震わせながら景太たちへと迫る。

 

景「みんな、下がって! 鬼たちも退避させて!!」

 

景太が叫び、操っていた鬼の軍勢を安全圏へと下がらせる。絶望的な光景を前にしても、景太の瞳には確かな闘志が宿っていた。彼は横に立つアラスター、そして背後の仲間たちと視線を交わし、力強く右手を突き出した。

 

景「やるよ、みんな! 最大火力で迎え撃て!!」

 

真っ先に動いたのは、フロスト三兄弟だった。ジャックフロストとジャアクフロストがキングフロストの周囲を滑り、それがのキングフロストに魔力を一点に集中させる。

 

ジャック&ジャアク&キング「「「合体マガツヒ! 『フロストストリーム』!!」」」

 

三体の合体技が三色の氷の奔流が一本の巨大な光軸となり、迫り来る波動砲へと突き進む。

 

その隣では、アラスターが異形の笑みを深めていた。

 

アラ「お喋りな議長に、最高のサウンドをプレゼントしましょう……!!」

 

彼の喉元に鋭い電流が走り、口が裂けんばかりに大きく開かれる。

 

アラ「『Scream noise』!!」

 

アラスターの口から放たれたのは、数千人の悲鳴を電気信号に変えて凝縮したような、赤黒い雷光を纏う音波の光線。それは空間を物理的に削り取りながら、イカリMAX砲の側面を激しく削り始めた。

 

さらに、妖怪たちも持てる全ての力を解き放つ。

 

文「負けてられない! 全力でいくよ!!」

キュ「まかせろ!『紅蓮地獄』!!」

オロ「大王への忠義、その身に刻め。 『やまたのおろち』!!」

ジバニ「チョコボーの恨み、思い知るニャ! 『ひゃくれつ肉球』!!」

 

炎、龍のオーラ、黄金の拳、そして影の刃。数多の必殺技が一つに溶け合い、アラスターとフロスト兄弟の攻撃を後押しするように、巨大な虹色の光の柱となってイカカモネへと肉薄した。

 

ドォォォォォォン!!!

 

大王の間の中央で、イカリMAX砲と景太たちの合体攻撃が激突した。

 

凄まじい衝撃波が円形に広がり、柱が折れ、天井の装飾が次々と降り注ぐ。光の衝突点では空間が歪み、パチパチと次元が軋むような音が響き渡る。

 

当初、互いの威力は拮抗しているかに見えた。しかし、景太と魂を繋ぎ、契約によって魔力を底上げされたアラスターのノイズが、イカカモネの妖気の波形を無理やり乱していく。

 

イカ「馬鹿な……!? 妖魔界最高位の私の力が……押され始めてるというのか!?」

 

景&文「「イッケーー!!!」」

 

二人の少年の叫びが重なった瞬間、仲間たちの放つ光の奔流が一段と輝きを増した。合体攻撃はイカリMAX砲を真っ向から撃ち抜き、青白い光の球体を貫通。

 

その一撃は、逃げ場を失ったイカカモネの胸元へと、一直線に突き刺さった。

 

ドドォォォォォォンッ!!!

 

眩い閃光が大王の間を呑み込み、直後に鼓膜を揺らす大爆発が起こった。

 

凄まじい土煙と破片が舞い上がり、イカカモネが立っていた場所は完全に視界から消え去る。

 

静寂が戻り始めた空間に、パチパチと炎の爆ぜる音と、アラスターの微かな笑い声だけが響いていた。

 

爆鳴と閃光が収まり、えっけん回廊の最奥に静寂が戻る。立ち込める濃い土煙を前に、景太と文花は肩を寄せ合い、悪魔ウォッチと妖怪ウォッチを構えたまま一歩も動けずにいた。

 

景&文「「……っ!?」」

 

風が煙を押し流すと、そこには無惨な姿を晒したイカカモネ・ソウカモネがいた。

 

白かったローブは灰に汚れ、自慢の触手も力なく地面に横たわっている。膝を突き、激しく喘ぐその姿に、景太たちはとどめを刺そうと身構えたが―。

 

アラ「……もう、戦えませんよ」

 

アラスターがステッキを軽く回し、冷徹な声で告げる。その言葉通り、イカカモネの全身からは先ほどの覇気が完全に消え失せ、残っているのはわずかな執念の火種だけだった。

 

イカ「……イカん……としがたい、人間め……。この私の、気高くも美しき野望を……打ち砕くか……」

ウィ「当然です! 人間界は人間たちに任せるのでウィッス! 妖魔界だって、最初から誰のものでもありません。それが一方的に奪われてゆくのを、同じ妖怪として見過ごすわけにはいかないんです!」

 

ウィスパーがいつになく毅然とした態度で胸を張る。その熱い言葉に、景太と文花も静かに頷いた。

だが、その背後で…。

 

アラ「……我々悪魔には、一切関係のない話ですがね」

景「アラスター、空気読んで……!」

 

鼻で笑うアラスターに景太が小声で突っ込むとアラスターは「おや、失礼」とばかりに口元の笑みを深めた。そのやり取りを無視するように、イカカモネは震える声で笑い出した。

 

イカ「イカーカッカッカ……!! 敗北を認めたわけではなイカ。私はまた、必ず蘇る。そして再びこの妖魔界に君臨し、貴様らの住む人間界、そして魔界と地獄さえも我が物にしてやろうじゃなイカ……!!」

 

禍々しい笑い声が広間に反響する。

 

イカ「それまで震えて待っているがいい……さらばだ! イカーカッカッカ!!」

 

刹那、イカカモネの体が爆ぜるように真っ黒な墨の煙幕を放出した。

 

文「あっ、逃げる気!?」

 

視界が黒く染まり、一瞬ののち霧が晴れた時、そこにはもう白い議長の姿はなかった。

 

玉座の周囲には、激戦の傷跡だけが虚しく残されている。

 

アラ「逃げましたね。……しぶといイカだ」

文「……逃がしたけれど、私たちの目が黒いうちは、好き勝手にはさせないわ」

 

文花は固く握りしめた拳をゆっくりと解いた。張り詰めていた空気が緩み、仲間たちの間に安堵の溜息が広がる。

 

ピク「でも、ひとまずは人間界の平和は保たれたわね。……長い戦いだったような、そうでもなかったような……」

 

ピクシーは羽を伸ばし、清々しい顔で空を見上げた。

 

ピク「でも、これだけは言えるわ。……これでやっと、ゆっくりと人間界の美味しい食べ物を堪能できる日々に戻れるってことね!」

アラ「フフ、それは名案です。美食は平和の上にこそ成り立つものですから。……それでは、一先ず帰りましょうか。番組は一旦終了、帰路の途につくとしましょう」

 

景「うん、帰ろう!」

文「そうね。まずはマオくんのところへ行って、安心させてあげないと」

 

一行は、破壊された大王の門を背に歩き出した。

 

景太はふと、隣を歩くアラスターを見た。契約の印である手の甲の紋章は、今は静かに息を潜めている。悪魔との契約という危うい絆を結んだまま、少年の「日常」への帰還が始まった。

 

激闘の余韻が残る「大王の間」を後にした一行。本来なら、移動に便利な「うんがい鏡」を呼び出すところだったが、タイミング悪くいびきをかいて爆睡中であった。

 

仕方がなく、彼らは来た時と同じ「妖怪エレベーター」を使って人間界へ戻ることに決めたのだが―その決断が下された瞬間、文花の表情からスッと生気が消えたのを、景太以外の全員が見逃さなかった。

 

理由は、たった一つ。そのエレベーターの先に待っている「彼女」の存在だ。

 

ー妖魔界・入り口の前ー

 

そこには相変わらず妖艶な香りを漂わせたフゥミンが、壁に寄りかかって待ち構えていた。

 

フゥ「おかえりなさ〜い、坊や達♪」

 

彼女の扇情的な声が狭いエレベーターホールに響く。文花の眉間の皺が一段と深くなった。

 

フゥ「無事で何よりだわ。その様子だと、あの傲慢なイカカモネを倒したみたいね?」

 

ウィ「……わ、わかるんでぃすか?」

フゥ「ええ。妖魔界を覆っていたあのねっとりした嫌な空気が、一気に晴れたもの。あなた達、見かけによらず本当に強いのね」

ウィ「いやいや! あんなゲソ、あたくしの前では成す術もござんせんでしたよ! おーっほっほ!」

ジバ「ウィスパーは震えて見てただけだニャン」

ウィ「黙ってくださいジバニャン! 今は余韻に浸ってるんです!」

 

フゥミンは騒がしい執事妖怪をさらりと流し、潤んだ瞳で景太を見つめた。

 

フゥ「坊やも、大活躍だったんでしょうね♪」

景「いやいや、俺は何もしてないよ。すごいのは俺の悪魔(ともだち)のみんなと、フミちゃん達のおかげだよ」

 

景太のその答えには、一ミリの計算も、謙遜もなかった。彼は本気で、アラスターや仲間たちが自分を支えてくれたからこそ、ここまで来られたのだと信じて疑わなかった。

 

だが、その「天然の誠実さ」こそが、最も危うい毒であることを彼は知らない。

 

フゥ「フフ♪ ……その優しいところ、お姉さん、大好きよ♥」

 

次の瞬間、フゥミンがふわりと景太の懐に飛び込んだ。

 

チュ♥

 

投げキッスなどではない。柔らかな唇が、景太の頬に確かな感触を残した。

 

景「え……あ…………っ、か、からかわないでよもうっ!!///」

 

数秒遅れて脳が事態を理解した瞬間、景太の顔は真っ赤に熟したリンゴのように、火を噴かんばかりの赤に染まった。あまりの羞恥に、彼の頭からは「???」という記号すら飛び出しそうな勢いだ。

 

フゥ「あら、恥ずかしいの? 可愛い♥」

 

その光景を背後で見守っていた二人の異邦人は、実に冷静に分析していた。

 

アラ「……フム。これは、半分はからかいですが……」ヒソヒソ

ピク「……半分は、本気ね」ヒソヒソ

 

アラスターがノイズ混じりの声で囁くと、ピクシーもまた、フゥミンの瞳の奥にある「本職の獲物」を見るような色を敏感に察知して頷いた。

 

一方、ウィスパーとジバニャンは、口をあんぐりと開けて固まっている。

 

そして、そのさらに隣。

 

ドスッ!!!

 

景「ウッ!?!?」

 

突如、景太の脇腹に鈍い衝撃が走った。

あまりの痛みに景太は叫ぶ間もなく息を詰まらせ、その場に膝から崩れ落ち、蹲った。

 

景「な、なんだ……いまの……」

 

景太が脂汗を流しながら隣を見上げると…。

 

そこには顰めっ面に「光の全く入っていない冷たい目」をした文花が、死神のような威圧感を纏って立っていた。 

 

彼女の右肘は、今まさに景太の脇腹を抉った角度のまま、ピタリと止まっている。

 

文「…………フンッ!!」

文花は一言も発することなく鼻を鳴らすと、景太の横を素通りし、誰よりも早くエレベーターの中へと消えていった。

 

ウィ「……見事に、クリーンヒットしましたね……。骨の一本や二本、いってないことを祈るばかりでウィッス……」

ジバ「女の嫉妬ほど怖いものはないニャンね。あんなフミちゃん、初めて見たニャン」

 

冷や汗を垂らすウィスパー、ジバニャンはチョコボーを齧り、のほほんと事態を総括するジバニャンはエレベータ内へと。

 

景「……な、なんで……俺、何か悪いことした……?」

 

脇腹を押さえ、涙目でアラスターを見上げる景太。だが、アラスターはいつもの不敵な笑みを浮かべたまま、ステッキをクルリと回した。

 

アラ「さあ? 何故でしょうね。不思議なこともあるものです」

ピク「はぁ……。おこちゃまのあんたには、一生かかってもわからないわよ、この鈍感男!」

 

ピクシーは深く溜息をつき、完全に呆れ果てた様子で文花の後を追った。

 

残されたアラスターは、這いつくばる景太の襟首をひょいと掴むと、そのままずるずると引き摺りながらエレベーターへと乗り込んだ。

 

アラ「さあ、番組終了の時間です。……帰りましょう、ケータくん。あなたが人間界でさらなる『地獄』を見ることになる前にね」

 

アラスターの楽しげなラジオノイズが閉まる扉の奥で響き、一行を乗せたエレベーターは、混沌とした妖魔界から、静かな(そしてある意味で恐ろしい)日常へと上昇を始めた。




きょうの悪魔大辞典。

アラ「ケータくん。今日の悪魔は?」

景「『地霊ツチグモ』」

アラ「皆さんご存知のツチグモですが、記紀神話における日本の原住の民が貶められてなったとされていることが発祥です。
穴居人である彼等は手足がひょろ長く背が低かったのでその姿を蔑称してツチグモと呼ばれたそうです」

景「妖怪にもいるんだよね」
ウィス「当然でぃす!ツチグモパイセンは誰もが羨む古典妖怪の大御所ですからね!」

景「でも、聞いてみたら酷いよね。差別から産まれたなんて……」

アラ「その気持ちだけで十分ですよ」
ピク「そうよ。当の本人は別に気にしてないみたいだから大丈夫よ」

ツチグモをみるとウィスパーがツチグモに媚びへつらっていた。

景「うん」

景太はの心は少し軽くなった。
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