さくら第一小学校の校門前。妖怪エレベーターを降り、ようやく人間界へと帰還した一行を待っていたのは、静かに佇むマオだった。
マオ「おかえり。……あはは、なんだか大変だったみたいだね」
マオは、いまだに脇腹を押さえて顔を歪めている景太と、その隣で般若のような形相をして沈黙を貫く文花の姿を見て、引きつった苦笑いを浮かべる。妖魔界の支配者を退けてきた英雄の凱旋にしては、あまりにも締まらない光景だった。
そこへ、金色の扇を優雅に揺らしながらキュウビが姿を現した。
キュ「なるほどね。少年の人徳というべきか、あるいは……」
文「……どうしたの、キュウビ?」
キュ「どうやら、僕たちが留守にしている間も、この町が蹂躙されることはなかったようだ。少年の
景「えっ、俺の友達が?」
景太が不思議そうに首を傾げたその時、空間が水面のように揺らぎ、鬼女マーメイドが現れた。
景「マーメイド!」
マーメ「……ケータ。無事だったのね。最近の人間界、なんだか様子がちょっとおかしくて。……ここ、私にとっても『大事な場所』だから。勝手に荒らされるのは、我慢ならなかったの」
マーメイドは視線を逸らしながら、そう言う彼女。景太たちが妖魔界でイカカモネと死闘を繰り広げている間、その隙を突いて人間界の結界を破壊しようと現れたイカカモネの手下たちを、彼女や他の悪魔たちが密かに退けていたのだ。
それを聞いた景太の顔に、パッと明るい喜びが広がる。
景「そうだったんだ……。俺たちがいない間、ずっと守ってくれてたんだね。ありがとう、マーメイド!」
景太は心の底から感謝を込めて、満面の笑みを向けた。
自分を肯定し、孤独から救ってくれた「大切な人」からの真っ直ぐな言葉。マーメイドの白い頬は瞬時に朱に染まり、彼女はもじもじと指先を弄び始めた。
マーメ「ほ、他の皆も頑張ってるわよ。……私は、持ち場を離れるわけにいかないから、そろそろ戻るね……っ///」
照れ隠しに背を向け、水の中へ潜るように消え去ろうとするマーメイド。そんな彼女の背中に向かって、景太はさらなる追い打ちをかけた。
景「本当に……」
マーメ「?」
景「本当にありがとう」
悪気のない、太陽のように輝く笑顔。
マーメイドがふと振り返った瞬間、彼女の視界には、神々しいまでの光を背負って笑う景太の姿が映った。あまりの眩しさと愛しさに、彼女の心臓は跳ね上がる。
マーメ「っ!!? ~~~~~っ!! ////」ボフンッ!
まるで蒸気機関が暴走したかのような音を立てて、マーメイドの顔から猛烈な熱気が噴き出した。彼女は真っ赤になった顔を両手で覆い、パニック状態で空間の彼方へと消え去った。
「大事な場所」……彼女にとっては「ケータのいる町」という意味だったが、鈍感な景太はそれを「自分たちの友達が住む町」と解釈している。その絶望的なまでのすれ違いと、天然の「人たらし」ぶりに、周囲の空気は凍りついた。
いや、正確には景太の背後の空気が、絶対零度を超えていた。
ウィス「フ、フミちゃん! 落ち着くでうぃす! それ以上はダメでうぃす! 乙女がしていい顔ではござんせん!!」
ジバ「ヒィィッ! 子供たちが見たら、恐怖で視聴率がゼロどころか放送中止になる顔してるニャン!」
キュ「や、やめないか! せっかくの麗しき美貌が台無しだ! どうか元の可愛く美しい顔に戻ってくれたまえ!!」
文花は無言だった。だが、その背後にはドス黒いオーラが立ち昇り、瞳からはハイライトが完全に消え失せている。妖魔界の番人を倒した時よりも、遥かに恐ろしい殺気が校門前を支配していた。
マオは恐怖のあまり顔を青ざめ、ピクシーは「もう勝手にしなさいよ……」と言いたげに悟りを開いたような目で遠くを見つめている。
そしてアラスターだけは、腹を抱えて笑い転げていた。彼にとって、この「地獄のような修羅場」こそが、どんな独占放送よりも刺激的な娯楽だったのだ。
景「……? なんだか、また急に寒くなったような……」
一人だけ首を傾げる景太に、再び冷酷な死の影が忍び寄っていた。
ーーー
オロ「……ふぅ、ようやく片付いたか。さて、俺もあの後、イカカモネの手下を撃退するために参戦していたから席を外していたのだが……一体どういう状況だ、これは?」
急遽、イカカモネの残党との戦闘から戻ってきていたオロチが困惑した声を漏らすのも無理はない。
景太は脇腹を押さえて青い顔で立ち尽くし、その隣の文花からは、かつて見たことがないほどドス黒く、鋭利な殺気が立ち昇っている。そしてその傍らでは、アラスターがようやく落ち着いた様子で、それでも時折「クスクス」と思い出し笑いを漏らしていた。
景「フ、フミちゃん……一体、どうしたの……? さっきからずっと怖いよ……」
景太が恐る恐る、震える声で尋ねる。しかし、文花は景太の方を一切見ようともせず、いかりの表情で顔を背けで言い放った。
文「全然!! 別に!!! 何も!!!!」
一文字ずつに重い圧力がこもっている。その否定は、肯定よりも雄弁に彼女の怒りの深さを物語っていた。
カオスを通り越して地獄のような静寂が流れる中、オロチはあえてその話題に踏み込むのをやめた。今、彼らが向き合うべきは、個人の感情よりも大きな「世界の危機」についてだ。
オロ「……事情は聞かないでおこう。だが、今はこれからの話をしなければならない。悪魔たちの介入のおかげで、この町の結界は辛うじて守られた。だが、イカカモネはまだ生きている。奴が再び人間界を狙い、戦力を送り込んでくる可能性は捨てきれん。何かしらの手を打っておかなければ、いつか守りは決壊するだろう」
景「……そうだね。あ、じゃあ、アラスターにさ、すっごく強固なバリアーを張ってもらうのはどうかな? アラスターならイカカモネの攻撃だって防げるでしょ?」
藁をも掴む思いで提案した景太だったが、オロチは即座に首を横に振った。
オロ「却下だ。奴にそんな頼みをしてみろ。張られたバリアーは、寄せ手を防ぐだけでなく、この町に流れる妖気や人々の想念すらも吸い尽くし、奴自身が新たに力を蓄えるための養分に変えてしまうに違いない」
アラ「おやおや、手厳しい。ですが……否定はしませんよ。私は効率主義者ですからねぇ」
アラスターが楽しげに指を鳴らす。やはり彼を頼るのは、毒を以て毒を制す以上のリスクが伴う。
重苦しい沈黙が場を包み込む。誰もが決定打に欠ける案しか浮かばない中、それまで黙って事態を静観していたウィスパーが、スッと表情を消した。
いつもはおちゃらけている執事妖怪が、真の知識の守護者としての顔を見せる。
ウィス「……一つだけ、方法があります」
その低いトーンに、全員の視線がウィスパーに集中した。彼はゆっくりと浮遊し、おおもり山の方角――あの御神木がある場所を見据えた。
ウィ「イカカモネの手下が二度とこの町を蹂躙できないようにし、妖魔界との物理的な繋がりを完全に断つ。そのためには……」
ウィスパーの瞳に、覚悟の光が宿る。
ウィス「それは……」
ウィス「妖怪エレベーターを閉じるんでぃす!」
ウィスパーの放った一言が、夕暮れの校門前に冷たい沈黙を連れてきた。その言葉の意味を最も早く、そして深く理解したのは、人間界を守り続けてきた高位の妖怪たちだった。
キュ「おやおや……思い切った決断だね。本当に良いのかい?」
キュウビが細められた瞳でウィスパーを射抜く。
オロ「そんなことをしたら、我々妖怪は皆、人間界にはいられなくなってしまうんだぞ」
オロチの声には、いつになく微かな揺らぎが含まれていた。
文「……どういうこと? エレベーターを閉じたら、何が起きるの?」
文花が不安げに問いかける。ウィスパーが言葉を濁そうとした瞬間、それよりも早くアラスターが、まるで見世物の結末を告げるナレーターのような、無慈悲に澄んだ声で答えた。
アラ「妖怪エレベーターは、二つの世界を繋ぐ唯一の『道』。それを閉じれば、世界を隔てる壁は完全なものとなります。
……もうお分かりでしょう? 今この人間界に留まっている妖怪たちも、道が消える前に妖魔界へ戻らねばならない。
……つまり、『永遠にさよなら!最高の思い出をありがとう!』という意味です」
「永遠のさよなら」という言葉が、文花の心に鋭い楔を打ち込んだ。
ジバニャン、ウィスパー、そして今日まで共に戦ってきた仲間たち。彼らとの思い出が走馬灯のように駆け巡り、文花の大きな瞳に涙が溜まっていく。
文「そんな……そんなの、嫌だよ……」
景「アラスター、なんとかならないの!? 契約が必要なら、俺、また結ぶから! 何か別の方法を探してよ!」
景太が縋るように叫ぶが、アラスターはただ、赤い瞳を寂しげに細めて頬をつり上げ首を振った。
アラ「流石の私でも、世界の理を書き換えることはできません。これは、この世界の『ルール』の問題ですからねぇ」
アラスターの残酷なまでの正論に、景太は拳を握りしめたまま俯くことしかできなかった。
ウィス「フミちゃん。時間がありません。こうしている間にも、イカカモネの残党たちが次元の歪みから溢れ出しています。今はまだ人々は気づいていませんが、パニックになるのは時間の問題です」
ウィスパーの言葉は冷たく響いたが、それは紛れもない真実だった。文花は震える肩を抱き、唇を噛みしめる。数秒の、永遠のような静寂。やがて、彼女が顔を上げた時、その瞳からは涙が消え、凛とした覚悟の光が宿っていた。
文「……分かった。やるわ」
景「いいの? フミちゃん……本当に」
文「うん。これ以上、この世界を危機に晒したくない。それにね……私は、妖怪たちが人間に怖がられたり、悪く思われたりして欲しくないの。彼らは、私の大切な友達だから」
悲しみを乗り越えた文花の笑顔に、景太は胸を打たれた。彼は迷いを捨て、隣に並び立つ。
景「分かった。俺もとことん付き合うよ、フミちゃん!」
文「ありがとう、ケータくん!」
ウィ「それでこそ、私の選んだご主人様です! さあ、そうと決まれば一刻を争います。まずはこの町全体に、強力な守護の結界を張り直しましょう。元々あったものよりも遥かに強固な、妖怪を寄せ付けぬ聖域を作るのです!」
ウィスパーが意気揚々と宣言し、景太と文花の前に躍り出た。
ウィス「さくらニュータウンに、今一度、桜を咲かせるのでうぃす!」
景&文「「!!」」
あまりの案に景太と文花は目を見開いた。
景「桜!? でも、もう時期は過ぎちゃってるよ?」
文「一体、どうやって咲かせるの?」
ウィ「 こんなこともあろうかと、秘蔵の逸品を用意しておきました!」
ウィスパーが懐から取り出したのは、美しい桜の紋章が刺繍された、ずっしりと重い灰の袋だった。
ウィ「これぞ『妖怪花咲パウダー』! これを町の要所に撒けば、季節外れの枯れ木であっても一瞬にして満開の桜を咲かせ、町全体に浄化の結界を巡らせることができるのです!」
景「よし、分かった! 妖怪たちの足止めは俺たちが引き受けるよ!」
ピク「アンタ達は、その間にちゃっちゃと終わらせなさい。……いい、寄り道なんて許さないわよ」
アラ「フフ、雑魚相手に手こずる私ではありません。この町を、私の『放送』を邪魔する不届き者から守り抜くとしましょう」
アラスターがステッキを構え、影を大きく広げる。キュウビとオロチもそれぞれ頷いた。
マオ「二人とも……頑張ってね。信じてるよ」
景&文「「うん!」」
マオの静かな激励を背に、景太と文花は深く頷き合った。
人間界の平和と、避けられぬ別れ。その全てを懸けた「最終決戦」の幕が、今、静かに切って落とされた。
景太たちが最初に向かったのは、校舎のすぐ側にあるウサギの飼育小屋の前に植えられた桜の木だった。
かつては春になると見事な花を咲かせていたその木は、今は青々と葉が覆い茂っている。しかし、その根元には、明らかに異質な存在が仁王立ちして道を塞いでいた。
それは、かつて堅牢な城壁のような無理と言わせる妖怪「ムリカベ」から、頭部に禍々しい金の鯱を乗せた巨大なお城へと進化した妖怪「むりだ城」だった。
しかも、その体壁は不気味なほど真っ白に染まっており、瞳は血のように赤い。一目でイカカモネの手先だと分かった。
むりだ「フン、自分たちの世界が間もなく我ら妖怪のものになるとも知らず、暢気な人間どもだジョー! これからは、人間と悪魔がこの世界で幸せに暮らすなど……絶対に無理だジョー!!」
むりだ城がその巨体を震わせ、尊大に言い放った。だが、その言葉が完全に終わるよりも早く、空間を切り裂くような質量が彼の横面に叩きつけられた。
ドガァァァンッ!!
むりだ「へイッ!?」
凄まじい衝撃音と共に、白い巨体が横倒しに吹き飛ぶ。
「ジョージョーうるせえ声で、偉そうに語ってんじゃねえよ……。俺たちの町を、その薄汚え土足で踏み荒らしてんじゃねえ!! イヒー!」
砂煙の中から現れたのは、巨大な一本足と逞しい腕を持つ悪魔「妖鬼イッポンダタラ」だった。彼は自慢の鉄槌をを握り締め、赤い目を怒らせている。
景「イッポンダタラ!」
イッポン「無事か、ケータ。心配すんな、今から此奴のその白い身体をへし折って、此奴自身の墓石を作ってやるからちょっと待ってろ!」
その容赦のない言葉に、吹き飛ばされたむりだ城がふらふらと、しかし執念深く立ち上がった。城のあちこちから瓦礫を零しながらも、赤い目をらんらんと輝かせる。
むりだ「しかし、無理無理無理! この私がここで諦めるなど、絶対に無理だジョー!」
頑なに拒絶の姿勢を崩さないむりだ城。だがその瞬間、上空から静かに、一つの影が落とされた。
カプッ。
むりだ「ジョ……?」
突如、むりだ城の頭部、鯱のすぐ横に、シルクハットのような形をした奇妙な帽子型の怪異が噛みついた。
文「わすれん帽!」
文花が叫んだその妖怪は、彼女の友達である「わすれん帽」だった。その名の通り、取り憑いた相手の記憶を綺麗さっぱり忘れさせる能力を持つ。
わすれん帽がぐっと力を込めて小刻みに揺れると、むりだ城の赤い瞳から、みるみるうちに鋭さが消えていった。
むりだ「ハッ……。こ、ここはいったい何処だジョー……? オレはいったい、ここで何をしてるんだジョー……?」
自分がイカカモネの命令でここに赴いたことも、世界を支配しようとしていたことも、すべてが頭から抜け落ちてしまったのだ。完全に無害化して困惑するむりだ城の頭から、わすれん帽はふわりと飛び離れ、文花の前で優雅に浮遊した。
わすれ「わすれん帽も、この町を守る」
ウィ「素晴らしい連携でうぃっす! さあフミちゃん、今のうちに桜を咲かせてしまいましょう!」
文「うん!」
文花はウィスパーから手渡された袋に手を突っ込み、桜の紋章が入った灰を一つかみすると、木の幹へと勢いよく振りかけた。
ーーー
一方で、その頃。
景太たちのクラスメイトであるクマとカンチの二人は、学園の玄関前の通路を歩いていた。用事を終え、体育館の前を横切ろうとした、その時だった。
突如として、体育館の前にある一本の立派な桜の木が、奇妙な変化を見せた。
何もない空間から、鮮やかなピンク色のモヤがふわりと立ち込め、木全体を包み込んだのだ。
カンチとクマが驚いて足を止めた刹那、モヤが晴れると同時に、そこには信じられない光景が広がっていた。さっきまで生い茂っていた桜がまるで春の全盛期を迎えたかのように、溢れんばかりの満開の桜の花を咲かせていた。
クマ「な、なんだぁ!? おいカンチ、見ろよ! 急に桜が咲いたぞ!」
カン「……異常気象、なんてレベルじゃないみたいだね。いったい何が起きているんだろう?」
スマートフォンの気象データを確認しようとするカンチ。だが、隣にいるクマは、そんな難しい理屈よりも目の前の美しさに圧倒されていた。
クマ「知らねーよ! でも、理屈はともかく……めちゃくちゃ綺麗だな~!」
カン「……ふふ、そうだね」
クマが豪快に笑い飛ばすと、カンチも肩の力を抜き、今はただ、目の前の幻想的な桜の景色を楽しむことにした。
ーーー
ウサギ小屋の前では、桜の花が見事に咲き誇ると同時に、暖かくも強力な光の波動が周囲へ広がっていった。
その光に触れた瞬間、イカカモネの手先であったむりだ城の身体が、まるで陽光を浴びた雪のようにサラサラと掻き消えていく。町に張り直された結界が、悪意を持つ妖怪を拒絶した証拠だった。
アラ「ニャハハ! いやはや見事! まさか、ただの粉切れがこれほど美しく学校中にまで広がるとは、この私でも思ってもみませんでしたよ!」
アラスターがステッキを叩き、ラジオの拍手音のようなノイズを響かせて笑う。
ウィ「これでここの結界は大丈夫でうぃっす! さあ、次の場所に急ぎましょう!」
文&景「「うん!」」
役目を終えたイッポンダタラも、次の戦地へ向かうために「イヒー!」と奇声を上げながら、巨大な一本足でドスンドスンと飛び跳ねながら去っていった。
その時だった。
「「うわあああ!!??」」
校舎の裏手、体育館の方角から、割れんばかりの絶叫が響き渡った。
景「いまの声って、クマとカンチだ!」
景太たちは顔を見合わせ、慌てて声のした体育館前へと駆け出した。
そこにいたのは、満開の桜の木の下で、顔を完全に青ざめさせ、腰を抜かして地面に尻もちをついているクマとカンチの二人だった。
文「どうしたの!? クマくん! カンチくん!」
文花が駆け寄ると、カンチはガタガタと震える指で、イッポンダタラが去っていった方角を指差した。
カン「あ……あ……フミちゃん……」
クマ「俺たち……見ちまったんだ……。嘘じゃねえ、本当に見ちまったんだよ……!」
クマは喉を詰まらせながら、恐怖に満ちた声で絞り出した。
クマ「一本足の、巨大な化け物を!!」
景&フミ「「!!?」」
二人の言葉に、景太と文花は息を呑んだ。「一本足の化け物」……それは間違いなく、先ほど自分たちを助けてくれたイッポンダタラのことだった。
だが、そんなはずはない。妖怪や悪魔は、妖怪ウォッチや特別な霊力を持たない普通の人間には、決して見えない存在であるはずだ。イッポンダタラ自身も、人間に見られないよう認識阻害の術を働かせて動いていたはずだった。
それなのに、なぜ普通の人間であるクマとカンチに、その姿がはっきりと見えてしまったのか。
結界の強化によって引き起こされた弊害なのか、それとも世界の境界線そのものが崩壊し始めている予兆なのか。
世界を救うための作戦の最中、自身は見えないようにしてるはずなのに何故……?
予期せぬ、そしてあまりにも不穏な新たな問題が浮上した。
きょうの悪魔大辞典
アラ「ケータくん。今日の悪魔は?」
景「妖鬼イッポンダタラ」
アラ「熊野の山奥に住んでると伝えられ、山に雪が積もるとそのなかに一本足でつけたと思われる30センチ程度の足跡を残すとされるイッポンダタラですが、過酷な労働で片目と片脚が萎えた「鍛冶師」の姿が発端という説が有名です」
ピク「ま、ケータの友達になったのは鍛冶の才は無く、石工職人を目指してんだけどね」
その本人はと言うと景太をモデルに彫刻を作っていた。
景「ねぇまだ?この体勢きつすぎるんだけど…」
イッポン「モウ少しだ!イヒー!」
そして。
イッポン「完成ダ!」
出来あった作品は…はっきり言って景太の原型をとどめていなかった。
アラ「これはこれは芸術的ですねえ!」
ピク「あぁやっぱり、普通のケータじゃインパクトは皆無だったか」
景「普通って言うなーー!!」