デカルトの件から数日後、キヴォトスは広域にかけて大雨が降っていた
シャーレのオフィスの窓から外を見ても、数メートル先が見えないレベル。バケツの水をひっくり返したような雨、と言っても過言では無い
仕事があれば多少は暇にならずに済んで良かったのだが、生憎今日に限っていつもより少なくすぐ終わってしまい、完全に暇を持て余していた
昔から雨の日は嫌いだ。濡れるし、暗いし、外に出るためにカッパを着たら着たで中が蒸れて熱いし……これが長期間続く梅雨があるから夏も嫌いなんだ
しかもこの鹿紫雲一の体、呪力の影響か湿気が多いと体がちょっとだけ光る
風呂に入ってたら体が若干光ったからその時にこの事に気づいたけど、二年の頃に今と同じくらいの大雨の日があって、そこでヒナから言われて気づいた。ちょっと笑われたし
常に周りに電気が漏れ出ている状態だから、機械製品に触ろうものなら一瞬で全てをぶち壊す悲しきモンスターになってしまう
黒閃を二度経験しても電気が漏れ出てきているから、この性質に関しては恐らく直すことは不可能なのだろう
ちなみにそれから少しの間、少数の先輩から『非常灯』って呼ばれた。解せぬ
「……そういや、アイツら大丈夫かな」
ソファでグダグダと過ごしていたが、ふとあの4人が思い浮かぶ
天井なんて物は無い公園暮らしの4人だ。ずっと雨に打たれている状態なら、テントとかが流されたり壊れているかもしれない
一応シャーレの方から防水シート等を買って小隊達に寄付しているが、そもそも使ってくれているかが問題だ。流石にこの雨だと命に関わりそうだから使ってはいるのだろう……そうであって欲しい
“ハジメも気になる?RABBIT小隊の子達のこと”
「そりゃ気になりますよ。この雨だと、公園暮らしのアイツらが無事でいる方がおかしいレベルなんですし」
“だよね……よし、決めた。今から行ってくる”
「はーい……って、待て待てアホンダラ!!」
“へぶっ!?”
シッテムの箱を懐に入れ、
“いったぁ……な、何、どうしたの急に……”
「どうしたもこうしたも、この雨の中合羽も着ずに行くつもりか!?先生は貧弱なんだから死ぬぞ!冗談抜きで!」
“き、緊急事態だろうし……す、すぐに行かなきゃって……痛い……”
「アンタが流されたら元も子もねェんだよ!ただでさえ貧弱なのによぉ……はい合羽と長靴!」
“あ、ありがとう……というかいつの間に……?”
「もうお母さんアンタのことが心配だからついて行くよ!途中でズッコケたりしそうだし!」
“ハジメ!?落ち着いてハジメ!ハジメは私のお母さんじゃないし、別に無理してついてこなくてもいいから……!”
「アンタが雨の中外出てんのに、俺だけシャーレで休んでたらただでさえ悪い気分がさらに悪くなるんだよ!いいから行かせろ!」
“えぇ……?じゃ、じゃあ……着いてきてね”
「はーい」
“切り替え早っ”
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「着いてこなきゃ良かった……」
“まだ歩いて5分なんだけど……それならハジメだけでも帰る?”
「それはそれで嫌です」
目元以外全部を隠すタイプの合羽に身を包み、先生と共に子ウサギ公園へと歩いていた。が、やはり外は最悪だった
雨は止まるどころかさっきよりも強くなってる気がするし、一歩歩く度に水が跳ねて長靴の中に入って靴下がめちゃくちゃ濡れて不愉快極まりない
出来ることなら雲を消し飛ばしたい。いや、出来そうではあるが、雨の中だと出力がブレそうで若干怖い。それと周りの被害も考えると絶対に無理だ
というか先生居るし、どっちにしろ無理
「これだから雨は……湿気は嫌いなんだよ……」
あーしんどい。誰かに八つ当たりしたいぐらいにはイライラするよマジで
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子ウサギ公園の状況は最悪だった
中心に近づいていく程に、地面の溜まった水位が上がっていっているように感じる
向こう側から、布の残骸や何かがゆっくりとこちら側に流れてきていた
「……めちゃくちゃ水浸しっすね。排水が追いついていないのか……」
“それか、土砂が詰まってるとか……”
「こんな状況じゃ、アイツらもまともに──」
「諦め、られないっ……!」
そう遠くない所から聞こえた声の先には、シャベルを持ったミヤコが必死に排水路から土砂を掻き出していた
「……アイツ、こんな状況で……」
“ハジメ……”
「分かってるっすよ。行きましょう、直ぐに」
先生は生徒の事を見捨てない──それどころか、困っている生徒がいると絶対に助けるタイプだ
それなら俺も、死ぬまでそのお人好しについて行くと決めていた。シャーレの生徒として、キヴォトスの一生徒として
「……ハジメさん……それに、先生?」
「……今日は何の用ですか?見てわかると思いますが、冗談を言っていられる状況ではありません。今すぐ対処できないと、周囲が全部……」
「こっちのセリフだ馬鹿野郎。何一人で全部抱え込もうとしてんだ」
先生と一緒に近くに置かれていたシャベルを持って排水路へと向かう
「先生……?どうして……」
“ここの土を片付ければ良いんだよね?”
「……はい、お願いします」
そうしてミヤコと先生と共に排水路の土を退けていた、が──
「……先生?バテるの早すぎません?」
“はぁっ……ご、ごめん……ちょ、ちょっと、体力が……”
「……はぁ。シャベルの使い方が下手か、貸せ」
「……ほんと、何やってんだか」
「……手伝います」
テントの方からやってきたサキがそう言うと、先生からシャベルを奪うように受け取ると手伝ってきた
サキの後ろからモエとミユもやって来ると、同じようにシャベルを持って手伝い始める
「……皆さん」
「勘違いするな。これは、その……これ以上被害を広げないようにする為だ。別に、ミヤコの事が心配だったからとか、そういう訳じゃ無いからな」
「それもう全部言ってない?ま、私もミヤコが一人でやってるのに、私たちが何もしなかったら最悪な気分になりそうだからね」
「……ありがとう、ございます」
「……こりゃあ、青春だねぇ」
暫くサキ達を見つめていたミヤコが、雨を拭うように袖で目元を拭くと、またいつもの表情へと戻っていた
「では、早くこれを掻き出しましょう。私たち、SRTのRABBIT小隊として」
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深夜。星々がよく見える時間帯になった所で、ようやく雨は止んだ
「……雨、ようやく止みましたね」
“みんな、お疲れ様”
「あ、最序盤に体力切れで撤退した情けない人だ」
“それは本当にごめん……”
「……どうして、私たちを助けるんですか?何度も、何度も言ったはずです。何も変わらないと。先生が私たちに何を望んでいるのか、私には全く分かりません」
“何かを望んでるわけじゃないよ。私は、先生だから”
「……そうですか。装備は殆どダメになってしまいましたが……どうにか、公園そのものは完全に浸水せずに済みました」
「全く、ミヤコにも色々と言いたいことはあるけど……先生は、この公園での生活をやめてほしいんじゃなかったのか?何の得にもならないのに、こんな……筋金入りのバカだな」
「ま、バカなのは最初から知ってたけどね。くひひ……」
「も、モエちゃん……せっかく助けてくれたのに……」
「まあ事実だし、こっちから否定する所が何一つないな」
「助けは要らないと言い続けてきましたが……助けられてしまったのは事実ですね……ありがとうございます、先生」
「それと、ハジメさんも。正直、貴方が居なかったらこれ程早く終わっていませんでした。ありがとうございます」
「先生について行くって決めてんだから、これくらい当然だわ。合羽着てんのに中まで濡れてクッソイラつくけど」
土をシャベルて掻き出す度に、かなり多めの水が跳ねるから時々中に入ってくるのだけは許せない
服もビチャビチャ、靴下もビチャビチャ。なのに気分はあまり悪くないのは変だろうか
と、その時、さっきから言い渋っていた様子のサキが口を開いた
「……なぁ、さっきから思ってたんだが、なんか光ってないか?大丈夫なのか、それ」
“……あ、ほんとだ、光ってる”
「あ、やっぱり?掻き出してる途中にも光ってたんだけど何も言われないし、私の気のせいかと思ってたけどやっぱ光ってんね」
「偉大な風紀委員というものは光って見えるものだヨ」
「光ってる理由の方は訊いてないんだが?というかいつもは光ってないだろ」
「光って見えるって言われても、光量も少ないし……うーん、光るパジャマかな?」
「非常灯としては使えそうですね」
「お前ら酷くない?俺先輩ゾ」
少しの間だけ小隊とお喋りをし、そろそろシャーレに帰ろうかという時
「あ、それとだが」
「はい?まだ何か用が……」
「そうやって前から助けは要らねぇとか言ってたけどよ、こういう時は意地張ってないで遠慮なく言えよ。見捨てないで、絶対に助けてやっから」
「……こっちも筋金入りのバカだったか」
「もうツッコまねぇからな」
“私も。なにか困った事があったら遠慮なく、私たちシャーレを頼ってね”
「言いたいことはそれだけ。んじゃ、またな」
もう意味を成さなくなり脱いだ合羽を片手に、濡れた体でシャーレへと帰った
それとモエ、さらっと光るパジャマとか言いやがったな。覚えとけ
やあみんな、俺だ
いつも19時か19時半に出すとか言ってたけど20時に出してごめんちゃい♡とにかく今日中に出したかったけど間に合わなかったんだ許せ
それと感想と評価、ここ好きもできればお願いしゃす