今回は甘ブリからあの二人の登場になります。
お楽しみ下さい。
「うーん。どれにしようかな?ねえ、安斗は何が食べたい?」
かなめが安斗にビーチに面した道路に並ぶキッチンカーの前で昼食の希望を聞いてくる。今、相良一家は久しぶりに家族団欒で過ごしていた。
溝呂木と合流した後、千束とたきなは自分の機体を確認する為にコンテナが運び込まれている港に出かけて行った。クララも二人の訓練中のデーターを送ったり、開発に協力していたので確認の為一緒に着いて行ったの家族水入らずになったのだ。思えばリコリコで働き始めるようになってから千束とたきなとは、ほぼ一緒だった。
「それじゃあ、あのキューバサンドの店がいい」
安斗は黄色いマイクロバス程のワゴン車を指差す。
アメリカのビーチは日本に比べて海の家が少ない。なのでこうして移動でやってくるキッチンカーで食べ物を購入することにした。
「あなたも夏美もそれで良い?」
「問題ない」
「かまわないわ」
仏頂面で答えている宗介と夏美。家族の中でもこの二人は表情筋が死んでいると思うくらい二人は似ている。ちなみに荷物番はラストベルトにしてもらっている。リコリコ組の訓練の為に渡米する際についでだからと普段はD.O.M.Sの訓練場で鍛え直しているのだが、ひょんな事から海水浴になったので通常勤務に戻っている。
「えーと店員さん。とりあえずキューバサンド4つ! それとこのおすすめのココナッツジュースが一つね! みんなは?」
テキパキと注文をして家族の飲み物を聞いていく。
「僕はオレンジジュース」
「私は母さんと同じで良い」
「俺も同じだ」
「すいませんココナッツジュース2つ追加でオレンジジュース一つでお願いします!」
「かしこまりましたみー。マカロン! サンド4つだみー!」
「あいよ」
かなめの注文を聞くとキッチンカーの奥から店員と思われる二人の男が出てきた。喋っている英語が訛っているせいか変な語尾に聞こえると訝しんでいたが店員達の顔を見てかなめは驚愕した。
二人とも超イケメンだったのだ。
片方は二十代半ばくらいの長い金髪ブロンドのグリーンの瞳美男子。ほっそりとしたモデル体型でアロハシャツから覗く鎖骨がなんともいえない色気を醸し出して、そんな甘いマスクのイケメンが明るい笑顔をカウンター越しにこちらに向けている。
もう片方は三十代半ばくらいで苦労を経験して人生の苦味が顔に良い感じに出ているニヒルなハンサム。黒髪が前にハラリと垂れてちょっとワルっぽい感じなのだが、着けているエプロンのせいでちょっと家庭的な雰囲気も出ている。そんな影のある男が奥のキッチンで業務用のホットプレートで料理をしている姿がなんともいえない色気を出している。
こんな二人が店員をしているならもっと繁盛しててもよさそうなんだけど、と不思議にかなめは思った。
「ねえねえ、そこの美人なお姉さん達〜。もしLINE交換してくれたらもっとサービスするみー」
「えー、いや結構です。それに私は二児の母なので、もうそんな歳でもないですし」
「うっそ! そっちの娘と姉妹だと思ってたのにその見た目で母親なんて反則だみー! もう犯罪級の美貌なんだみー!」
「ま、またまたそんなー。お上手なんですからー、店員さん」
自分の容姿に自信のあるかなめでもここまで手放しに褒められると照れてしまう。しかし、旦那と息子の手前、あまり表情に出ないようにするかなめ。
「ボク親子丼は大好物だみー! 是非ともLINE交換を!」
「そこまでにしてもらおう。他人の妻を目の前で口説くとは良い度胸だな貴様」
流石に耐えかねたのか宗介が普段の10倍増しにした仏頂面で間に入る。
「あ、ありゃ旦那さんだったみー。てっきりお父さんかとー」
たらたらと脂汗をかき出す金髪。
「いやーボクも悪気はなかったんだみー。美人をみた条件反射というか。許してほいんだみー」
「・・・・・・」
宗介は目の前の何処ぞの馬の骨とも知らん優男の顔を見た。コイツの顔を見ると何だか腹の底がムカムカとする。
そう似ているのだ。若かりし頃のクルツに。目の色だけ違うが、そんな男が目の前でヘラヘラと愛する妻に言い寄っている。
どうしよう。
殺したくなってきた。
子供達の教育に良くないので殺しはしないようにしてきたのに今は我慢出来そうにない。ナイフを抜きたい衝動にかられるが奥から黒髪の男が出てきた。
「あー、お客さん。コイツの非礼は詫びるろん。申し訳ないろん」
そう言って黒髪の男が脇から入ってくる。カウンター越しに出来立てのホットサンドを包んだ紙を宗介に渡す。それと小さい4つの包み紙。
「サービスでスライダー(小さいハンバーガー)をつけといたろん。コイツは女の前なら心の下半身丸出しのバカだろん。後で去勢でもパイプカットしておくから許してほしいろん」
そういって頭を下げる男。そんな横で陽気に頭を掻きながらテヘペロしている金髪男。
「いやーホントゴメンだみー」
「テメーはさっさとドリンク作ってこいろん!」
「みー!」
殴り飛ばされた金髪男はドリンクバーでココナッツジュースを入れ始めた。
「アンタも苦労してそうだな」
「腐れ縁て奴だろん」
かなめは何となくこのお店が流行っていない理由が分かった。誰かれ構わず女性に声を掛けるせいで男が遠ざけるのだ。私は夫の事を愛しているのでそんな気はないが、若いカップルや倦怠期の夫婦にはあの金髪男は毒だろう。それとなくフォローしているこのニヒルな黒髪男も需要がありそうだし。
「お、お待たせしましたみー」
デカいタンコブを作った茶髪男がココナッツジュースの入ったカップにストローを刺して持ってきた。代金を払うと宗介の意向でそそくさと退散した。
途中、安斗がお腹の限界を訴えたので行儀が悪いと思いながらもサービスのスライダーを食べ歩きの許可を出す。ガブリと噛み付くと安斗の目の色が変わった。
「何これ! こんなの食べた事ないよ!」
良く見ると使っているのがひき肉のパテでなくローストビーフでとても美味しくすぐになくなった。安斗があまりにも大はしゃぎするのでみんなも食べてみると、確かに味は絶品だった。そうなるとキューバサンドの方も気になるのが人情で一口つまんでみる。やはりこちらも絶品であれよあれよという間に砂浜に立てたパラソルに帰るまでになくなってしまった。
そこでかなめは思った。
あの美貌と性格が悪さをしていなければもっと流行るのに。惜しい店だ。
ちなみにラストベルトの分を買い忘れて彼は一人悲しみにくれるのだった。
「まったく、ターゲットの関係者にナンパするとかティラミーはどうかしてるろん」
「いやーホントごめんだみー。滅多にお目にかかれないような美女だったから自分を抑えられなかったみー」
相良一家が去った後のキッチンカーで二人の男、黒髪の男マカロンが金髪の男ティラミーに文句を言っていた。二人はとある任務の為にキッチンカーに偽装して監視をしていた。
本来はターゲットの博士が持つASの開発データーを強奪するのが目的だったが、二手に別れてしまったので彼らのリーダーである人物が博士と関係者の娘と日本からやってきたDAのエージェントを追い、自分たちは万が一の足止めの為にビーチに残った。リーダーの男なら小娘三人に遅れをとる事はないだろうが、こちらは相手があの伝説の傭兵になってくるので二人体制で対応する事になった。
しかし、偶然といえまさか向こうの方からこちら接触してくるとは。
「あ、失敗したみー。せっかくだからドリンクに毒でもいれおけば良かったみー」
「そんな事して援軍でも呼ばれたらかえって面倒だろん」
「むふふ、大丈夫だみー。ムラムラするだけのエロ漫画媚薬だから毒だなんて思わないみー。そうなればあの美魔女と娘さんで親子丼がワンチャン狙えるみー」
ティラミーがおそらくそのエロ漫画媚薬とやらが入っている小瓶を手にゲスな笑い声を上げている。
(あー、だるいろん)
任務中でなかればコイツのノリも嫌いどころか結構ウマが合うのだが、マカロンはこれでも元は叩き上げの下士官のなので任務に対しては真面目だった。 ティラミーは元金庫破りをしていた前科持ちなのでそこら辺の職業意識がないのがネックなのだが、爆発物や薬品の知識が豊富なのでこれはこれで腕が立つのだ。
「あー、ビールが飲みてーろん」
そう言いながら酒の代わりにタバコを燻らせる。肺にヤニを吸い込みながら怪しまれないようキッチンカーに偽装した装甲車から相良一家の監視を続けた。
マカロンとティラミーの外見については原作小説の方で「魔法のカメラアプリ」というエピソードがあるので、そこから拝借させ貰いました。挿絵のイラストがもろクルツっぽいなと思って笑ってしまいました。
実はあの3バカの中でティラミーだけがメイプル軍の出身じゃなくて前科持ちの犯罪者という設定でした。アニメだけ見ていると、てっきり化学技能職の兵士だと思っていたので危なかったです。
ちなみに最初は旅芸人にしてパフォーマンスをさせようかと思ったのですが、それだと目立ちすぎて不自然だと思ったのでキッチンカーという設定にしました。その内、3バカの芸がどこかで描けたら良いなと思います。