どうぞお楽しみ下さい。
「なんで、あのホットチョコパフェが出てるんですか!?」
カウンター奥キッチンまで来た私は、まさに怒髪天を突くがごとく猛り狂っていた。
「お。気に入ってくれた?」
眼鏡をかけたアラサーの女、中原ミズキはイタズラが成功した子供のようにニシシと笑う。
彼女は以前DAで働いていた情報担当の後方職員だったが、リコリスを使って合法的に殺人をさせる組織の仕事に嫌気がさして千束にくっ付いてこのリコリコに移動してきたそうだ。
「アレはメニューに金輪際出さないって決めましたよね?」
私はミズキさんに詰め寄る。
「でもな〜、たきな。エックス見てると再販の声が大きいんだよ」
そう言って店の奥からフード付きのダボダボのトレーナーのクルミが姿を現した。彼女はとある事情によりリコリコに居候している年齢不詳の少女だ。見た目は小学生くらいのにウェーブの掛かった金髪のロングヘアーの美少女なのだが、実はそこら辺のロリとは思えないような能力を持っている。
彼女はタブレットを操作しながら運用しているリコリコのSNSに付いたコメントを読み上げていく。
「『リコリコ行ったけどクソノワールなくてガックリ・・・』『目当てのまき・・・ホットチョコパフェ拝みたかったな』『アレを女の子が運んでくるのが見たかったんだけど』『なんか青の服の子最初は嬉しそうに運んでたけど途中から、顔いろ変わってたな・・・』『ち、気付いたか。君のような勘のいいガキは嫌いだよ』だってさ」
ついたコメントの数々を見てたきなは求められている需要を理解した。
「これパフェが目的じゃ、ないじゃないですか・・・・・・!!」
「まあまあ、たきな。そんなに怒らないでくれ。あのパフェだって地味に売り上げがいいんだよ」
店長であるミカさんが私を諌める。見た目は身長190センチはある屈強な黒人だが、色々と気配りの気くジェントルマンで千束曰く、幾多の男性客のハートを射止めてきたらしい(何故男性客なのか説明がなかったが)。昔はリコリスの訓練教官をしていたらしいが、過去の作戦で足を負傷したらしく今は松葉杖がないと歩けない。
「むぅー・・・・・」
私はふくれっツラになる。たしかに最近、店の売り上げが悪いからだ。赤字ではないが、利益は少ない。今度色々と見直しをしないと。
「それより店長!あのお客さん変なんです!!」
「変な客?」
「そうです。アソコです」
私はカウンターから店のお客さん達に失礼にならないよう、店長にだけ分かるように目線で教える。
「そうです。わたしが変なおじさんです!!」
「おまえ、それ分かるの40代だぞ」
後ろでミズキさんが昔流行った大物芸人のコントをしていたが、若いたきなには分からなかったのでスルーした。
「着いていけるか。アンタの居ない世界のスピードに・・・・・」
「まあ、元気出せおっさん」
ジェネレーションギャップでダメージを受けているミズキを横でクルミが慰めている。慰めているのか?
「・・・・・・」
店長もそんな2人を無視してテーブル席の例の家族客を黙って見つめた。すると先程の千束とは逆に目を見開き、驚きの表情になっていく。たきなには驚き以上に心なしか緊張しているようにも見える。
「・・・・・まさか」
「店長?」
私は店長に声をかける。少し心ここにあらずという感じだ。
「あ、ああ・・・・。たきな、彼らは注文をしただけで他に何かしたわけじゃないんだな?」
「?。は、はい。特に営業妨害や他のお客さんに迷惑をかけてませんけど・・・・・」
店長の質問に私は答える。私の自尊心にはものすごい迷惑をかけたが、それ以外は特に店に被害が出るような事はしていなかった。
「・・・・・なら、放っておきなさい」
「え、ええ?」
私は困惑の声を上げる。納得がいかず疑う根拠になった理由を説明する。
「店長。彼らは身元を偽っている様子でした。DAに敵対する組織かもしれません。もしかすると、この前の武器取引の犯人グループとも何か関係だってあるかも・・・・」
銃取引現場を取り押さえる際にエリカを助ける為、その場にいた犯人達を私が一掃した事件だ。グループの構成員はまだ逃亡していて捕まっていない。最近、リコリスが待ち伏せされ襲撃される事件も起きている。無関係とは思えないし、もし突破口の糸口が掴めるならほしい。
「それはない。たきなの勘違いだ」
店長はきっぱり言い切った。酷く確信めいた声色だったので私は黙り込んでしまった。
「とにかく、トラブルがないなら、ないで越したことはない。決定的な証拠もない。私としては店を満喫して帰ってくれればそれでいい。いいなたきな?」
「は、はい・・・・・」
店長の冷静な指摘と判断に私は頷いてしまう。確かにそうだ。あの家族は(すごく)怪しいが、別に悪さを働いているわけではない。私はどこか焦っていたのかもしれない。DAの事。自分の失敗の事。
「ちょっと、ちょっと皆さん!今忙しいんだから、そんなとこでくっちゃべってないで散った!散った!」
ひょこっと千束が顔を出す。手には忌まわしいホットチョコパフェを持っていた。
「分かりました千束」
「悪かった。すぐに調理に戻る」
私と店長は自分の持ち場に戻る。
「じゃあ、ボクは奥に引っ込んでるかなー」
「じゃかましい!こちとら忙しんだからお前も手伝わんかい!!」
「ぬぎゃー!」
そう言ってクルミはミズキさんに連行されていった。次に来た時は黄色の制服を着ていて、4人でなんとかホールを切り盛りして回した。
「ご馳走様!あー美味しかった!!」
あの家族連れが食べ終わってレジで会計をする。私はお金を受け取るとお釣りを渡した。
「ごめんね息子が。女の子の前であんなお下品なこと言って」
「あ、いえ。大丈夫です。気にしてませんから・・・・・」
母親が申し訳なさそうに謝ってきた。それに対してまだ不信感が拭えない私はぎこちなく返事をした。店長のようにまだこの家族を信用したわけじゃない。
「ここ気に入っちゃった!お団子も美味しいし、雰囲気もオシャレだし店員さんもかわいいし。素敵なお店ね!!」
笑顔でお店の事を褒めてくれた。裏のない朗らかな表情だった。
「・・・・・ありがとうございます」
私は胸の中がじんわりと暖かくなるのを感じた。そして目の前の女性を太陽みたいな人だなと思った。いつも固く考えてしまう自分には、こんな風に真っ直ぐ何かを褒める事なんて出来ない。誰かさんと違って・・・・・・。
かわいい店員さんというのも千束の事だろう。私がいつも無表情で冷たいのは自分でも知ってる。だから、エリカを人質に取られても発砲出来てしまう。それを自覚し始めると私は気分が沈んで俯いてしまった。
「あなたの事よ。かわいい店員さん」
女性の言葉に私は顔を上げる。
「・・・・・」
しばらく私は目の前の女性の顔をみながら、頭の中で言われた言葉が教会の鐘のように何度も繰り返された。
どうして、こんな人を疑っていたんだろう・・・・。
私は自己嫌悪に陥りそうな心を奮い立たせ、目の前のお客様に頭を下げる。今度は後ろ向きじゃない。心からの感謝だ。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」
彼女は扉を開けると手をヒラヒラと振りながら出ていった。なんだか不思議な家族だった。最初は怪しかったけど、決して悪い人たちではなかった。
「たきな、テーブル席あいたよ」
「はい千束。て、どうしたんですかニヤニヤして?」
にんまりした表情でこちらを見てくる千束。なんだかイラッとする。
「いや、笑ってるなと思って」
「え?」
私は自分の頬に触れる。任務上、敵に手の内を悟られないように表情には出さなよう努めている。そんな私が笑ってる?
「ほら次のお客さん案内して」
そう言って千束はホールに戻っていった。
私は不思議と嫌な気持ちにはならなかった。何故だか分からないが。
「風間の名前でお待ちのお客様!」
次のお客を呼び込む。心なしか、最初より声がはずんでいるような気がした。
「ところが問屋は下ろさないんだなー」
店の営業が終わるとクルミが押し入れのパソコンを起動して何か作業をし始めた。
「おや、くるみ先生。ウォールナットの出番ですか〜?」
千束がクルミの隣で茶化す。
クルミはウォールナットと呼ばれる特A級のハッカーだ。以前受けた仕事で深入りしすぎたせいで前の依頼主から命を狙われている。今は喫茶リコリコに潜伏して事態が鎮静化するのを待っている身だ。
「ふふ、火のない所に煙をたたない。そういった火元を突きたくなるのがハッカーのサガってヤツなのさ」
意地の悪い笑みを浮かべてクルミはキーボードを叩き始めた。どうやらあの家族の事について調べるようだ。
「あの、やめましょうよ」
私はくるみを止めた。なんとなくあの女の人を疑うことに後ろめたさを感じるからだ。
「だけどたきなはあの家族が怪しいんだろ?」
「確かに言いましたけど、悪いこともしていない他人の素性をを勝手に調べるのは気が引けて・・・・・」
私は思っていることを素直に言う。
「ん〜。でもアタシはちょっち気になるかな〜。女の子の方はナイフ持ってたし」
そう言えば千束はそう言っていた。
「もしかするとそれだって千束の・・・・・」
「どういうことだ。これは?」
私が反論しかけるとクルミが唖然とした表情でつぶやいた。
「どったの?」
千束がクルミの液晶モニターを覗き込む。
「・・・・・店の近くの街頭カメラにアクセスしたんだが、あの家族が通った映像がないいんだ」
「え?」
どういうこと?
「近くの他のカメラも同様だ。あの家族が映り込んでいる映像がどこに見当たらない」
「え〜!そんなことありえるの?」
千束が驚愕の声をあげる。
「ない」
クルミはきっぱりと言う。街頭カメラは街中に沢山設置されている。その全てに映り込むことなく都内を移動するなんて不可能だ。透明人間でもないかぎり。
「・・・・・おもしろくなってきたじゃないか」
指をポキポキと鳴らしてクルミは不敵な笑みを浮かべた。
「これはボクに対する挑戦状だな」
そういうと彼女はVRゴーグルを装着した。本気であの家族のことを調べるつもりのようだ。
「じゃあ、アタシはもう片付けて帰るね。なんか分かったら連絡して。行こたきな」
千束が手を引く。私は自分がどう思っているのか分からなくなった。
千束と公園の歩道を歩く。最近、リコリスが襲撃される事件が発生しているので私と千束は共同生活をしていた。
「ふんふ〜ん。今夜もたきなの手作り料理〜」
千束は鼻歌まじりで上機嫌だ。家事を分担する際にジャンケンで決めたのだが何故か一回も勝てず、全て私が担当する事になったのだ。明らかに何か仕掛けがあるのだろうが、千束は種を教えないまま今日も無銭飲食をするかの如くたきなの料理をたいらげるつもりのようだ。本当に良い性格をしていると思う。
「次は負けません」
「いいよいいよ。いつでもかかって来なさい!」
私の手には今晩の献立の材料が入ったレジ袋が握られていた。少し重くて彼女の後ろを歩く形になっている。
「・・・・・・」
何とか彼女を出し抜く手段はないか。色々思案して手に力が入る。
「およ?」
「いた!」
千束が急に立ち止まった。私の顔が背中の鞄にぶつかる。
「急に立ち止まらないでください千束」
「あれ」
抗議の声を上げようとする千束は前方を指さした。遠くにあの夫婦がいた。キョロキョロとあたりを目線をさまよわせている。
「・・・・・」
私は悲しいような、困ったような、一言で表現しにくい気持ちになった。街頭カメラに一つも映らないなんて怪しさを通り越しておかしい。不安の種はここでつんでおくべきだ。リコリスとしての私はそう言っている。だけど・・・・・
「どうするたきな。このまま帰ろっか・・・・・?」
表情に出ていたのだろう。心配そうな顔で千束が語りかける。
「・・・・・本当はこんなことしたくありません」
私はポツリと言った。持っていたビニール袋を地面に置く。
「あの女の人はお店のことを褒めてくれました」
「たきなは嬉しかったの・・・・・?」
千束が問いかける。
「・・・・・よく分かりません。それに・・・・」
私の事も褒めてくれた。太陽みたいな笑顔で。なんとなくそれが千束とダブる。
私は今までDAで上り詰める事が全てだと思っていた。同期はライバルで任務対象は速やかに排除しなくてはならない。
でも最近、そう考えない自分がいる。千束といる時。今日みたいにお客さんに笑顔を向けられたとき。これをどう表現したら良いのか分からない。だけど・・・・・
「人を疑うのがしんだいと思ったのは初めてです」
「たきな・・・・・」
「私はあの人の事を信じたい。だから・・・・・!」
私は千束に目を合わせる。彼女はフニャと表情を緩めると、
「もう、仕方ないな〜。よし!この千束さんが満足いくまで付き合ってあげましょう!!」
ふんぞり返って胸を叩く。
「なんですか。それ・・・・・」
私は苦笑まじりで返した。
私達は気付かれないように、夫婦から一定の距離を保って尾行した。いつもよりかなり距離をとっている。ギリギリ見失わないかどうかの瀬戸際だ。
「ちょっと警戒しすぎじゃないですか?」
「いんや、これでも怪しいもんよ」
千束がいうには男の人はかなりの手練れらしい。見ただけで分かるものなのかと思ったが彼女の目は特別だ。ここは信用することにする。
「・・・・・よし。こっちには気付いてないっぽい」
もしかすると、こういう強者を嗅ぎ分ける嗅覚がファーストとセカンドの違いなのかもしれない。そういう考えが頭の片隅で浮かんだ。
「お、動きがあった!」
夫婦は公園のトイレの前に来ると辺りをキョロキョロと警戒する。脅威がないと悟ったのか多目的トイレの扉を開けてに入っていった。
「もしかして、あそこで何かの取り引きでもするんでしょうか?」
私はギュッと手を握りしめる。見たくなかった光景だ。
「近づくよたきな。気配を殺して」
私たちは音を立てないよう、夜の闇に紛れる。トイレの壁のそばまでくると、ソッと聞き耳をたてた。
『・・・・・ここなら大丈夫だ。誰にも見られる心配はない』
ああ、聞きたくなかった会話が聞こえる。
『ラストベルト達の目をまくのには苦労した』
千束が言う通り、彼らは夜逃げ家族だった。ラストベルト。おそらく闇金業者の名前か何かだろう。人名には聞こえない。
『早くすませちゃいましょ。彼らがきちゃう』
『今から出す。少し待ってくれ』
ゴソゴソと音がする。男の人が何かを取り出しているようだ。きっと日々の生活に困って違法な物の売買に手を出したのだろう。彼らとは取り引き相手のことか。
『家の中でこんな所見せられないわね・・・・・』
女の人の声だ。どこか後ろめたいニュアンスがこもっている。
当然だろう。子供達に悪事を働いている所なんて見せられるわけがない。ましてや、その金で自分達の生活がまかなわれているなんて・・・・・。
私は目の前の景色が歪んできた。焦点が合わない。自分の価値観や良識が音を立てて崩れていくようだ。クラクラする。
『もう、いきなり顔近づけないで。汗が』
『かまわない。むしろ汗がある方が好みだ』
アセ。取り引きする物の隠語だろう。アセトン系の前駆体を使った薬物の何かだろうか。
男の人の声が不自然に興奮している。もしかすると自分でも使用していて薬物中毒の症状が出ているのかもしれない。妻がいながらなんと無責任な男だろうか!
「オウ、パッフ。これはお邪魔だったかな・・・・・」
横で千束が何かを悟ったのか困惑した表情をしている。そしてなぜか顔が赤い。彼女も世の中のやるせなさに憤りを感じているのかもしれない。
「千束の言ってた事が正しかった。あの家族は夜逃げしてきたんです」
「たきな?」
千束が眉根を寄せる
「それで生活に困って違法薬物の取り引きを・・・・・」
「おーい?」
千束が目の前でヒラヒラと手を振る。
『アナタ、来て・・・・・』
女の人の艶っぽい声が聞こえる。もしかすると夫が取り出した薬物を求めているのかもしれない。いけない、そんなこと。
「はやまらないで・・・・・!!」
私は無我夢中で多目的トイレの扉を開けた。
「え?」
「ん?」
そこには女の人のスカートの中に手を入れた男の人がいた。2人は密着していて私を見て固まっている。不意にスカートの中がゴソゴソと動いた。男の人が反射的に何かの動きを取ろうしたのだろう。しかし、
「アンッ・・・・・!」
たきなが人生で聞いたことのないような声を女の人が上げる。まるで千束が見ていた安っぽいハリウッド映画の濡れ場シーンでヒロインが出すような声だった。
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
私の思考回路が一瞬でショートする。何をしているのか。この人達は。そうこれはまるで・・・・・
「ヘンタイ!ヘンタイです!!」
顔を真っ赤にした私は反射的に鞄からハンドガンM&P9を取り出して構えた。こんな所で何をしているんだこの人達は!?
「ちょ!ちょ!ちょ!ちょ!たきなストップストップ!!」
そこに千束が割り込んできて、私の銃を取り押さえた。
「離して下さい千束!!目の前にヘンタイがいます!!!!」
「あーもう!落ち着きなって!!すいませんウチのたきなが。まだチェリーなもんで・・・・・・」
固まった夫婦に頭を下げる。
「だれがチェリーですか!?」
声を荒げる。私がさくらんぼ?意味が分からない!赤いのはそっちだろ!!
「えっと、あなた達は昼間の・・・・・?」
「はい!喫茶リコリコの看板娘でーす!!」
千束は何とか誤魔化そうと愛想笑いをしている。
「えっと、どうしてその看板娘さんがこんな所に・・・・・」
「えーと、それにつきましては深い事情がー」
千束がどう言い訳したものか困っていると。
『見つけたぞ。カナメチドリ!!』
公園の茂みから覆面を被った男が現れた。
突貫工事で書き上げた物なので。誤字が酷いかもしれません。
また、後で直そうかと思います。
感想、お待ちしてます。