うぅ、誤字脱字がないか心配。
東京都目黒区の喫茶店「リコリコ」2−1
「さあ、ソースケさん笑顔を作って。『いらっしゃいませ!』リピート、アフタ、ミー?」
「い、いらっしゃいませ!」
「あー、もう表情が固い!もう一度!リピート、アフタ、ミー?」
「いらっしゃいませ!サー!」
「ここは海兵隊の訓練キャンプじゃありませんよー?」
千束のセーフハウスに相良一家が引越しをしてきて数日が経つ。
細々としたやり取りやあれやこれやを終えた宗介は立派な喫茶店の店員になる為、千束から研修を受けていた。
店長の色違いの着物を借り、灰色がかった白の着物に黒の羽織と帯で身を包んだ彼は、喫茶リコリコの店員として違和感はなかったが。
しかし、いかんせん表情や態度がぎこちない。前の経験からもっと愛想よくしようと気持ち多めで笑顔作ってみる。だが口の端が引きつって路地裏で薬を売ってくる売人さながらのような怪しい雰囲気になってしまっていた。
流石の千束も苦笑気味だ。
かたや他の家族はというと、
「注文はカレーライスとコーヒー。コーヒーは食後でよろしいですか?」
「ああ、お願い」
ピンクの着物とエプロンに身を包んだ夏美がクールに注文を復唱する。
冷たい印象を与えかねない態度だが、今までリコリコにいなかったタイプの女の子として見た目の良さも相待って客受けは悪くなかった。
「うーん。煎茶もいいけど、さっき新しく豆炒ったばかりだから、コーヒーの方がお勧めだよ?」
水色の着物姿の安斗が女性客にアドバイスする。
「そうなの?じゃあ、お姉さん可愛い君の言う通りにしようかな?」
「・・・・・男に可愛いっていうの、どうかと思うよ?」
「キャーッ!カワイイー!!むしろ君を注文したい!!!」
安斗は特に女性客に受けが良かった。的確な接客だけど少し生意気な態度が年上の女性の琴線に触れるようだ。というか、客の様子がおかしくて父としては気が気でない。
ちなみに妻のかなめは厨房でカレーを作っている。初日に従業員用の賄いで作っていたカレーが客に見つかってしまい、どうしても売ってくれと頼み込まれてお出しした所、他の客も自分もとあれよあれよの内に売り切れてしまったのだ。それから試験的にこの数日メニューに加えているのだが、こちらも売れ行きは悪くなかった。
という感じで他の家族達は店の売上に貢献しているのだが、自分だけ活躍していない有様に宗介は心を痛めていた。
(このままでは家長の威厳が・・・・・)
ここまで彼我の戦力差を見せつけられる事になるとは。
本職の千束やたきなならともかく、家族全員が実力を発揮している所がこたえた。夏美も、無表情な方だと思っていたがあれで男性客受けがいい。たまに色目を使おうとする輩を反射的に銃で撃ち抜かないよう我慢するのには苦労する。
「それじゃあもう一度、笑顔で。『いらっしゃいませお客様!』リピート、アフタ、ミー?」
「い、いらっしゃいませお客様!」
宗介の訓練は続く。
平日の店内は比較的お客さんの数はまばらで空いていた。
午前中はたきたな、夏美、安斗がフロアをして、千束と宗介は研修。
そして、時たまやってくる常連さんを相手に接客の練習をさせて貰っていた。ぎこちない宗介を相手に常連さん達は、まあ気長に頑張なさいという感じで優しく声をかけてくれたが、本人には先ゆきが長いような気がして滅入った。
「・・・・・すいません店員さん。コーヒーをもう一杯」
そんな宗介に追い討ちを掛けるように、窓際のテーブル席に座った青年が暗い表情でコーヒーのお代わりをしてきた。そのお客はかれこれ1時間程ため息をついたり窓の外を見て黄昏たりしている。
「店長。コーヒーを1つ」
「分かった」
ミカがコーヒー豆をミルで引きお湯を沸かし始める。相良家は店内ではミカの事は店長と呼ぶようにしていた。昔のよしみと言っても、今は雇われている身だ。仕事とプライベートはきっちりと区別していた。
「ソースケさん、ちょっと」
「?」
千束がカウンターの奥で手招きをする。
「あのお客さん。さっきからずっと暗そうですね」
「そうだな」
「何か声掛けてあげました?」
「いや、なにも」
「もぉ!ダメじゃないですか!?」
腰に手を当てプリプリし始めてる千束。
「悩んでるお客さんがいればそれとなく話を聞いて、相談の一つや二つ乗ってあげなきゃ!」
「喫茶店とは、そういうモノなのか?」
宗介は疑問符を浮かべる。
「うちの喫茶店はそういうモノなんです!来てくれたお客さんに笑顔で帰って貰うのをモットーにしてまーす!」
なるほど。前に勤めていたファミレスとはまた違った業態のようだ。
「ほら、コーヒーが入ったぞ。まあ、ソースケ。千束の言うことはそんなに気にしなくて良いから。とりあえず粗相のないようにな」
「ブーっ!笑顔になってくれた方が良いじゃん先生?」
頬っぺたを膨らませてミカに抗議する。
「分かった。では行ってくる」
コーヒーをお盆に乗せると宗介はテーブル席まで近づいていった。
「お待たせしました。注文のコーヒーです」
「・・・・・ああ、ありがとうございます」
宗介の無愛想な接客を気にした様子もなくコーヒーを受けとる青年。飲む仕草もズズッと啜るようでしみったれた雰囲気を醸し出している。
「その、なにかお困り事がおありですか?」
「え?」
とりあえず、千束の言った事を実行してみる。自分に完璧に出来るか自信はないが、とにかく経験だ。戦闘も仕事も場数を踏んだ多さがモノを言う。多分。
「先ほどから溜め息ばかりついていた、いや、いましたので」
早速ボロが出始めた。
「そんなに溜め息多かったですか?」
「かなり」
「・・・・・・・・・・・・・」
2人の間に沈黙が流れる。
青年を俯いたり、窓の外を見たり視線をキョロキョロとさせている。何か言いあぐねて、どこから喋ったら良いのか迷っているようだ。しばらくすると俯いて動かなくなった。
重たい空気に痺れを切らした宗介は、諦めて踵を返しかけて帰ろうとする。
すると、
「彼女が妊娠してしまったんです」
突然、青年が喋り始めた。
「え?」
「彼女が妊娠してしまったんです」
宗介が思わず聞き返すと青年はもう一度喋った。
「それは、なんというか、めでたい事だ。いや、です」
なんとか言葉を捻り出す。突然の重い告白に渋面を浮かべる宗介。
「でも、僕には身に覚えがないんです・・・・・・」
(ムッ・・・・・・!)
自分の行いを否認するとは男らしくないヤツだ。
宗介は説教の一つでもしてやろうかと口を開く。
「だが、付き合っているんだろう。もしかしたら酒を飲んだ一夜の間違いで、ということも・・・・・」
「僕、童貞なんです」
「・・・・・・・」
wat?この青年は今何と言った?
「童貞なのに、彼女が妊娠したんです」
どういう事だ。言葉通りの意味だとしたら交際相手の女性は処女受胎でもした、という事になる。いやいや、どこぞの世界的宗教の預言者でもあるまいし、現代日本でそんな奇跡があってたまるか。
「やっぱり変ですよね?この歳で童貞で、しかも彼女が妊娠なんて・・・・・・」
「あ、ああ、そうだな。あ、いや、そんな事はないぞ!」
もう、自分が何を言っているのか分からなくなってくる。
宗介は急に結婚している自分に罪悪感をかんじ始めた。自分は愛する妻とやることやって子供までいて幸せの絶頂にいるのに、目の前の青年ときたら・・・・・。
「その、辛い事を言わせてしまった。なんというか、すまない」
「いえ、お話を聞いてくれたおかげで、心が軽くなったような気がします。こちらこそ、ありがとうございました」
逆にこちらが困ってしまう。どうしたものかと宗介が気を揉んでいると、青年が勝手に続きを喋り始めた。
「彼女とは大学のサークルで出会いが最初でした。それから気が合って付き合い始めたんですけど、お互い就職活動で忙しくなって最近は会う回数も減ってしまいました。僕は国家公務員試験の特別職で裁判官の内定は貰ったんですけど、東北での任官になりそうで。彼女は希望通り法務省に内定を貰って、これから遠距離恋愛になるか、別れるかという瀬戸際だったんです」
何やら随分と込み入った話になってきた。というか目の前の青年はかなり将来有望な若者だったようだ。今時、珍しく清いお付き合いのまま勉学に励んできたのだろう。
「彼女に『お腹の子はどうするの?別れるなら毎月、養育費を支払って貰う!』と言われて・・・・・」
「それは、また、お気の毒に」
「こんな事になるなんて、僕はどうしたら・・・・・」
青年は顔を手で覆いヨヨヨッと泣き始めてしまった。彼の話が本当なら彼女のお腹にいる子の親は、別の誰かという事になる。もしかしたら、本当に子供がいるのかさえ怪しい。
「その、今はDNA鑑定などもある。君には辛いだろうが、もし彼女が不貞を働いているなら、探偵を雇って浮気の証拠を集めて法的な処置をする事も可能だろう。だから気を落とすな」
「ありがとうございます!こんなに親身になって話を聞いてくれるなんて。あなたはなんて優しい人なんだ!!」
泣きながら宗介の手を握って感謝する。余程思い詰めたいのか青年は何度も握った手をブンブン振り頭を下げ続けた。
とりあえず宗介は青年を落ち着かせると、会計の為にレジの前まで移動した。
「その、最後に何か言葉を頂けませんか?」
「言葉とは?」
何の事か分からず聞き返す。
「何でも良いんです。励ましとか、アドバイスとか・・・・・」
ああ、そういう事か。激励とか、そういうの。
それなりの事を言わないと目の前の青年は納得しないかもしれない。宗介は昔世話になった退役軍人の事を思い出しながら言った。
「まあ、気を落とさず頑張れ。男はガッツだ。ファッ◯ンガッツだ。根性のある所をそのアバズレに見せつけてやれ!」
「はい、フ◯ッキンガッツですね!分かりました!!」
青年は先ほどの暗かった表情が嘘のように雨上がりの快晴のような明るい笑顔で退店していった。
後ろから千束がポンと宗介の肩を叩く。
「やったじゃんソースケさん!お客さんの悩みに寄り添い背中を押してあげる。接客業の何たるかを早くも掴めたようですね♩」
「・・・・・俺の思ってる接客業と違う気がするんだが」
というか、あの青年の話が本当なら浮気性か虚言癖のある女が国家機関に所属する事になるのか。世も末だなと思いながら宗介は仕事に戻っていった。
書いてて思いましたが、フルメタは結構下ネタ多めです。話の内容を考えるのは楽しいんですが、リコリス・リコイルの世界観とマッチするかな?