今日はちょっと会話以外の文章が多めです。
読者がすでにフルメタとリコリスリコイルの内容を理解していると思って説明を省いて書いているような気がしたので少し今までのおさらいの情報を多めにしてみました。
それではお楽しみ下さい。
リコリコの奥の居間。その押入れに設置されたパソコンブースでクルミがDAからダウンロードしたテロリスト達に関する調査データーを分析していた。
「それでぇ、どうしてリコリスが襲われるのかな?」
千束がクルミに質問した。彼女はこれからご贔屓にしてもらっている組事務所にコーヒー豆の配達にいくのだが、最近のリコリスだけがピンポイントで襲撃される理由について相談にきたのだ。
「地下鉄銃撃犯とリコリス襲撃犯は例の銃を使っているみたいだな」
「例の?」
パソコンの液晶パネルに次々と画像データや文章データが表示されていく。横で見ていた千束が液晶を覗き込んだ。
そこには以前護衛した女性、篠原沙保里の彼氏とのツーショット写真が表示されいた。良く見ると後ろにはテロリストが銃取引をしている現場が写り込んでいる。
このテロリスト達はこの銃を使って地下鉄を襲撃しようとしたがリコリスによって防がれている。今度はその腹いせのようにリコリスが襲撃される事態になり、警戒の為たきなは千束のセーフハウスに泊まり込む事になった。
だが、それもここ最近、相良一家が引越してきたのであまり意味をなさくなっている。訳ありなので詳しく事情は聞いていないが、今まで相良一家はテロリストや軍事会社から狙われそれを返り討ちにする日々を送ってきたらしい。
返り討ちにされた者達は拷問の掛けられ恥ずかしい個人情報を引き出された後、《今週の負け犬》というかなめ所有の警備会社の裏サイトに掲載される事になる。これにより社会的に抹殺され業界での信用を無くすことになり、二度と仕事を出来なくなるという訳だ。
ちなみに、拷問の際には宗介がその昔亡き上官から食べさせられたボルシチを使っていると、千束は聞かされた事があった。薬や暴力を使うと子供達の教育に悪いとの事で今の形になったらしい。
しかしその威力はというと、口をこじ開け無理やり流し込んでやればどれだけ鍛えげられた屈強な海兵隊員や、口の硬い諜報員でも根を上げる代物だそうだ。
警備会社のSPのバルダークさんは元々相良一家を狙って返り討ちあった雇われ傭兵で、実際に食べた事があるらしく千束が感想を聞いてみると、
(酷い味だったわ。まるで地獄の釜で湯煎されたドクターペッパーのような・・・・・。これを考えついた奴は相当残忍な性格をしてるんでしょうね)
との事だった。
味噌ペーストとココアパウダーを使用すればどのご家庭でも再現出来るらしく、たきなが今度教えて欲しいと宗介に頼んでいた。もしかするとテロリスト達を捕まえたら今回の銃の取引相手や販売ルートを聞き出す為に使用するつもりかもしれない。
「あぁ。じゃあ、あの時のDAのハッキングしたのもコイツら?」
この取引現場をDAが襲撃する際、ラジアータがハッキングされ通信障害が起こっていた。タイミング的に見て全く無関係ではないと千束は思っていた。
「ウッ!それはどうかなぁ?」
「?」
クルミはギクリと肩を震わせると視線を彷徨わせた。彼女は彼女でまだリコリコメンバーに話していない事情があり、出来れば今後も表沙汰になってほしくないと思っていた。
「いやぁ、もうちょっと調べてみる」
クルミは話を逸らす為、画面に向き直るとキーボードをカタカタと操作し始めた。画面が切り替わり別のデーターが表示される。
「それにしてもどうやってリコリスを識別しているのかなぁ?」
千束は一連のリコリス襲撃の件で思った疑問を口にする。
「さあな。まだ分からんけど・・・・・」
クルミは千束を一瞥した。
「その制服がバレてるんじゃないのか?」
「おぉ、なるほど」
千束は手のひらをポンと打つ。たしかにリコリスは基本的に色の違いはあれど同じデザインの都市迷彩服を着用している。一連の事件の際にテロリストがこちらを視認していればおかしい話ではない。
「よっし。じゃあ!」
アイディアが閃いたのか千束は押入れの中を漁り始めた。
「めっけ!」
目当ての物が見つかったのでクルミの前で着て披露してみる。
「おお。それなら一見分からないかもな」
「でしょ〜」
得心した様子で千束はホールに走っていた。
その日の営業が終わりミカとミズキと相良一家達が片付けをしている。その中たきなは考え事でもあるのか、腕を組んで唸っていた。
「どったのアンタ?」
気になったミズキが声を掛けた。
「勝てないんですよ」
「へぇ?」
「家事の分担をジャンケンで決めていたんですが、一回も千束に勝てませんね」
ミカとミズキは顔を見合わせる。2人は手品の仕掛けを分かっているので、詐欺師に騙された哀れな子羊に種明かしをしてやる。
「最初はグーでやってるでしょ?」
「それじゃあ千束に勝てない」
「え?」
千束は相手の服や筋肉の動きで動きを予測している。だから最初はグーでやると、その時点で次の手を予想されてしまう。同じグーを出すと予想されるパーで返され負けてしまう。グーから変えると予想されれば、チョキをで対応されパーでは負け、チョキではあいこ。つまりこの時点で確率は3分の2負け、1アイコ。確定で勝率0というわけだ。まさに無理ゲーである。
「つまり千束に勝つには最初はグーをやめて、最初の勝負で勝つしかない。あいこになったら勝てないし、ましてやあいこから始めたら一生かてないよぉ」
妙に楽しそうに話すミズキとは裏腹にたきな表情は、初任給を先輩からイカサマ麻雀でスラれて今月の家賃も払えなくなった新入社員のように青ざめていった。
「なるほど。壁に貼ってあった貼り紙はそういう事だったのか」
宗介は引っ越してきた時に見かけた異常な分担表を思い出した。てっきり新兵がよくやらされる雑用だと思っていたのだが、実態は酒場での賭けの対象にもならないような八百長だったようだ。
「組長さんの所に配達いくわぁ」
そんな店内の空気もよそに千束が呑気に扉を開けて入ってきた。一同は半眼になり冷めた視線を送る。
「なによぉ?」
そんな様子に千束は眉根を寄せる。
「いいえ、別に」
たきなが冷たく返す。自分がペテンに掛けられたと分かってご機嫌斜めのようだ。
「えぇ、何々?」
「いいから早く配達行って来な」
話がややこしくならないようミズキはさっさと組事務所に行くよう促した。
「千束。あんまりたきなをからかわないように。友達無くすわよ?」
「ちょっとナミまでどうしたのよぉ?」
「すぐに支度をします」
珍しく夏美にまで忠告された千束は話を聞き出そうとしたが、たきなが配達の準備の為立ち上がり髪留めを外し始める。
「ああ、大丈夫。多分制服がバレてるんだろうってクルミが」
千束の静止にたきなが手を止める。
「リコリス制服がですか?」
「そうそう。これならぁ、ぜったあぃ、分かんなあぃ〜」
そう言って千束はさっき押入れから引っ張り出してきた黄色いポンチョを皆んなに広げて見せた。
「私服じゃ銃は使えないんだぞ」
「警察に捕まっちまえ」
「そんな事分かってるって。下に来てますぅ。ほらぁ」
ミカの注意とミズキのぼやきに千束は着ていたポンチョの裾を持ち上げて赤いリコリス制服を見せる。
リコリスは非公開といえど犯罪を未然に防ぐ為の国の組織なので制服着用時は銃の発砲を許可されている。
「ああ、だからポンチョの下は制服なのね」
たしか日本の法律上では警察以外の人間が銃を撃てば発射罪が適用される筈だ。そこの所の法律の立て付けはどうなっているんだ?
かなめはそう思ったが自分の夫を見て考えるのをやめた。
ミスリル時代の宗介は発射罪どころか武器集合罪、銃刀法違反、爆発物取締罰則違反と犯罪行為のオンパレードだったからだ。
現在も身の安全を守る為とはいえ似たり寄ったりな事をしているし、ASまで持ち込んでいるので国の機関に所属していない自分達の方が法律で確実にしょっ引かれて刑務所に放り込まれる。
「じゃあ、私もそれで」
「あぁ、大丈夫。それよりたきな、今夜も夕飯楽しみにしてるぅ♩」
「・・・・・・」
今日の食事当番はたきなだった。イカサマの種をもう知ってしまった彼女は、ご機嫌な目の前の詐欺師を冷めた目で見つめる。
「行ってきまーす!」
そんな事は露知らず、千束はカランカランと小気味の良いドア・ベルの音を鳴らしながら去って行った。
「味噌とココアってあったかな・・・・・」
たきなは邪悪な笑みを浮かべると冷蔵庫の中身を確認しにいった。テロリスリストに使用する前に実証実験をしてみるのも良いかもしれない。
「・・・・・千束さんて後先考えない事多いよね」
安斗は先々日のセーフハウスでの朝の一件を思い出しながらポツリと呟く。その言葉にミカとミズキは深く頷いたのだった。
カリーニンは草葉の影で泣いて良い。