轍の覇王は帰還に向けて旅をする~魔王を倒した後の、平和なはずの異世界にて~   作:岳鳥翁

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1話:最前線の街ラスダン

「何か身分を保証できるものはありますか?」

 

 街への流入を管理する門兵の男の言葉に、フードを被った三人はが「これを」と紐に括りつけられた木札を取り出した。

 

 あまり顔を見せようとはしないその姿に門兵は怪訝な様子を見せていたが、彼女たち三人が人類であること。そして彼女らが取り出した木札が、《傭兵ギルド》所属の証であることを確認して表情を明るく一変させた。

 

「所属確認、完了しました。あなたたちも魔族との戦いに?」

 

「は、はい……そんな感じです」

 

「それはありがたい。なにせこの街は魔王城の最前線。戦える人類は誰だって歓迎しています」

 

 魔族の襲撃なんて日常茶飯ですからね、と続ける門兵。

 そんな彼の言葉に、「む?」と三人組の中で最も背の高い女が首を傾げた。

 

「そのわりには、あまりそれを問題視していないようにも見えるな。最前線の街ともなれば、魔族からの襲撃もあるはずだが……ここから見える街の様子は、とても魔族の襲撃が起きている街とは思えないぞ?」

 

 チラと門の外から覗いた街並み。

 市場は店の呼び込みや交渉の声など、多くの人々の喧騒で活気に溢れ、子供たちがそんな大人たちの合間を縫うように走り回っている。

 どう見ても安全が約束された街でしか見られない……いや、もしかしたらそれ以上に平和な光景と言えるだろう。

 

 魔王城に最も近い街とは信じられない光景が、三人の前に広がっていた。

 

「ええ。この街を訪れた方には驚かれますね。まぁ同じ立場なら、私だって驚くでしょうけど。それもこれも、《女神の御使い》様のおかげですね」

 

「《女神の御使い》ぃー? なんだそりゃぁ」

 

 門兵が口に出したその言葉に、三人組の中で一番背の低いローブから少女の声が響く。

 声からしてまだ幼いのだろうと門兵は目を向けるのだが、そこで初めて彼女が背負う物に気付いた。

 

 おそらく、門兵の男とほぼ同じくらいの巨大な戦斧。

 きっと振り回すだけでも苦労するだろうその武器を、己よりもはるかに小柄な少女が簡単に背負う姿に門兵の男は思わず目を見開いた。

 

「なーあー。《女神の御使い》ってなんだぁー?」

 

「……あ、ああ。すみません。《女神の御使い》様についてでしたね。ここで説明したいのはやまやまなんですが……」

 

 申し訳なさそうに三人組の後ろを指差す門兵。

 そんな彼につられるように三人も振り返れば、まだ何人か街へ入門を待つ人々が列を成していた。

 心なしか、後ろで待つ彼らの視線が険しいように感じられる。

 

「す、すみません……! お時間をとらせてしまって!!」

 

「気にしないでください。ただ、そういうわけで《女神の御使い》様の話はできませんが……この街でも《女神の御使い》様は有名ですので、ご興味があれば街の人たちにも話を聞いてみてください」

 

「ありがとうございます!」

 

「それでは……ようこそ魔王城最前線の街、《ラスダン》へ! 歓迎します!」

 

 お通りください、と門兵に通される形で三人は門を抜ける。

 戦斧を背負う少女が「やっとかぁー」と気だるげに息を吐く中、背の高い女がもう一人の少女へ耳打ちする。 

 

「ネリーネ。この街のことは”視えて”いたか?」

 

「私が”視えた”モノは事前に話したので全部だよ、サフィナ」

 

 少女――ネリーネと呼ばれた少女が首を横に振る。

 その返答に、サフィナは「そうか……」と呟いてネリーネの腰に携えられた剣に……《星の聖剣》に視線を向けた。

 

「未来を見る聖剣……凄まじい力ではあるが、使いにくいものだな」

 

「あはは……遠い未来ほど精度は落ちちゃうからね。戦闘で相手の動きを”視る”のには使えるんだけど」

 

 苦笑するネリーネは、そう言って腰の聖剣に手を沿えた。

 その動作は彼女が未来を視る時に行う、一種のルーティーンだ。ラスダンの街へと入った彼女は、他二人に見守られながら静かに目を閉じ、そして己の未来に目を向ける。

 

 今後何が起きるか、自分たちはどう動けばいいか。

 数瞬の時間でそれらを視終えたネリーネは、やがて「ふぅ……」と息を吐いて目を開いた。

 

「どうだ、ネリーネ。変わっていたか?」

 

「いたかぁー?」

 

 二人が尋ねた、ネリーネが視た未来。

 それは彼女たちがラスダンへ赴く前……今回、人類側による魔王討伐作戦の立案に至った理由となる未来について。

 

「……変わらないね」

 

 遠い未来ほど精度が落ちるという《星の聖剣》の未来視が、魔王討伐に至るための未来をネリーネに提示したのだ。

 そしてその未来は……その未来だけは、この街までの道中も、魔王城を目前とした今でも変わりがない。

 

「なら、いい。今日一日はこの街で休み、出発は明日。未来視ではそれでよかったな?」

 

「うん、大丈夫」

 

「うぃ~、はやくベッドにねっころびたい」

 

「カエラ。戦士ならもう少しシャキッとしろ。だらしないぞ」

 

 戦斧を背負うカエラと呼ばれた見た目ロリっ子は、サフィナの注意を右耳から左耳へと聞き流しながら宿探しを始めた。

 

 きっといつも通り、寝心地の良いベッドのある宿を探してくるのだろうとサフィナはため息を吐く。

 宿探しはカエラに任せるのがこの三人の鉄則だった。

 

「サフィナはどうする? 私はカエラについて行くついでに、おいしそうなお店を探すつもりだけど」

 

「それはいいな。傭兵を装っての旅だったが、保存食にはもう飽きてたんだ」

 

 サフィナの言葉に、「そうだねぇ……」とここまでの旅を振り返るネリーネ。

 

 思い出すのは、固いパンと固い肉を苦労して食す野営の日々。食べられるだけでもありがたいことはたしかだが、それはそれとして街に着いたのならおいしいものを口にしたい。

 

 おいしそうなに匂いが街のあちこちから漂っているため、選ぶのが大変そうだとネリーネは唸った。

 

「我は……そうだな。ネリーネたちが宿と店を探している間、《女神の御使い》について調べてみようか。どうせ、明日までは時間があるからな」

 

「わかった、ならそっちはサフィナに任せるよ。私もその話は気になってたからさ」

 

「……確認だが、ネリーネ。お前の未来視には、《女神の御使い》については何も視えていなかったんだな?」

 

「そうだよ。私が視えたのは、身分を隠したままこの街に来ること。魔王城まで馬車で向かうこと。そして……それが成されれば、魔王を倒せることの三つだった」

 

 話を聞いた際には、サフィナもカエラも……それどころか、今回の魔王討伐に参加した残り二人の勇者や国王などの偉い人々まで、皆が揃いも揃って「は?」と首を傾げたものだった。

 

 それはそうだろう。なにせ《星の聖剣》が彼女に見せた未来には、あまりにも過程というものが抜け落ちすぎている。

 何がどうして、馬車で魔王城へ向かえば魔王が討伐できるのかと。

 

 それでも、長きにわたる魔族と人類の戦いに終止符を打てるのならばと。

 長く担い手が現れなかった《星の聖剣》による未来視が視せた未来ならばと、多くの者がこれを信じ、彼女らに賭けたのだ。

 

「なら、それを信じるしかないな。予定通り、馬車を探しての出発は明日だ。安全に休息が取れるのは、この街で最後だろう」

 

「そうだね。なら、今日はめいいっぱいおいしいものを食べて、たくさん寝ないとだ!」

 

 それじゃあ行ってくるね! とネリーネが大きく手を振ってカエラの後を追おうとするが、そんな彼女に「あまり目立つなよ」とだけサフィナが告げた。

 フードの中で「そうだった!」と表情を変えたネリーネの手が小さく振られ、そのまま人混みの中に消えていく。

 

「……さて、それじゃあ我も行くか。情報を集めるなら……まずは酒場がいいだろう」

 

 一人残されたサフィナも、まずは手堅くいくかと酒場を目指す。

 古今東西、情報収集は酒場でというのが人類共通のお約束であった。

 

「それにしても、馬車か。妙な予知だが、聖剣によるものだし……まさか《女神の御使い》とやらに関係が……?」

 

 うんうん、と頭を悩ませながら街を行く。

 

 

 エルフの魔法使い、サフィナ・アーヴェント

 ドワーフの戦士、カエラ・リスファルド

 

 そして《星の聖剣》の担い手となったヒューマンの勇者、ネリーネ・セレニス

 

 これは、この三人が勇者一行として魔王を打倒す物語……ではない。

 

「ブフンッ!!」

 

 鼻を鳴らした八本足の巨馬の蹄が、大地を揺らして駆け抜ける。

 そしてその巨馬が牽く、これまた巨大な戦車(チャリオット)に乗り込んだ男が叫んだ。

 

「さぁて、ブー! 今日も元気に、魔族どもを蹂躙だぁ!!」

 

「ヒヒィイイイインッ!!!」

 

 ラスダンの街の外。

 人知れず襲撃にやってきた魔族たち、その悉くが巨馬と戦車(チャリオット)によって踏み潰され、そして轢き潰されていく。

 

「カハハハハハハ!! 突撃ィイイ!!」

 

 これは、そんな男の……《女神の御使い》と噂されている男の物語である。

 

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